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霜月、移ろいゆく秋を慈しみて 「現代衣歳時記」vol.10

霜月、移ろいゆく秋を慈しみて 「現代衣歳時記」vol.10

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京都祇園の禅寺に生まれ、東京でサロン「enso」を主宰する伊藤仁美さんが、禅語とともに素敵なスタイリングをご紹介してくださるこのコラム。今回は実り豊かな秋が移ろいゆく姿を映し出した、紅葉の着物と帯。その語源に隠された日本人ならではの繊細な色彩感覚を味ってください。

移ろいゆく季節を慈しむ日本人の色彩感覚

10月下旬からぐっと気温が下がり、今年は冬のような寒さがしばらく続きました。

少し残念そうに「今年の秋は短い」と皆が口々に語るように、気候が過ごしやすく実り豊かな秋をもうちょっと楽しみたかったと思っている方も多いのではないでしょうか。

春夏秋冬。どの季節も味わい尽くしたいと思うのは四季がはっきりとした日本に暮らす我々ならではの感性なのかもしれません。

私たちの先祖は季節感を大事にし、着物もその時期によって生地だけではなく、色や柄を変え、移ろいゆく季節を表現してきたのです。

私は柄がはっきりとした着物は普段あまり身につけないのですが、今年は「急いで秋を謳歌せねば」という思いもあり、秋真っ只中の季節が表現された着物と帯を手に取りました。

緑色から黄色、黄色から赤色へと変化していく紅葉の姿が描かれた一枚の着物。

いつもならここにシンプルな紫やグレーの帯を合わせるところを、今回は同じく紅葉が描かれたしっかりとした織りの袋帯をスタイリングし、実りの秋を表現しました。枝付き紅葉のため、葉が色づき始めの時期にぴったりな着物です。

一枚で秋の移ろいを表現した紅葉柄の着物。色づく紅葉と共に紫から白へとグラデーションになっている
一枚で秋の移ろいを表現した紅葉柄の着物。色づく紅葉と共に紫から白へとグラデーションになっている
photo by 水曜寫眞館
こちらも紅葉がが描かれた織りの袋帯
紅葉が描かれた織りの袋帯
photo by 水曜寫眞館

紅葉の語源は「揉みいず」で、色が揉みだされるという意味を持ちます。

葉が赤く色づくことを「紅葉」
黄色に色づくことを「黄葉」
褐色に色づくことを「褐葉」

赤色のストールを羽織って
赤色のストールを羽織って
photo by 水曜寫眞館

秋は、日本人の色に対する微細な感性を再確認する季節。

自然の移ろいが生んだ独自の色彩感覚を活かし、実り豊かな秋の景色を映し出した着物を纏うと、“時を超えて美しいものを紡いでいきたい”という気持ちが強くなります。

赤色のストールや肌襦袢など、思い切って明るい色を入れて着物の柄を活かす
思い切って明るい色を入れて着物の柄を活かす
photo by 水曜寫眞館
「緙室Sen」の鮫小紋バッグ
「緙室Sen」の鮫小紋バッグ
photo by 水曜寫眞館

今回のスタイリングに合わせたのは、京都のレザーブランド『緙室Sen』の鮫小紋バッグです。

緙室(かわむろ)とは、 皮革を調整し仕立て、大切に保管する場所のこと。

「秀麗な作品に緙ぐ〈仕立てる〉」をテーマに、熟練を極めた職人さんたちが作り出す作品が私たちの大切なものを“仕舞う”場所となるのです。

まさに時を越えても変わらず、美しいものではないでしょうか。

後ろ姿にも紅葉が舞う
photo by 水曜寫眞館
緑葉の中で
photo by 水曜寫眞館

松風伝古今(しょうふうここんにつたう)

「松を通り過ぎる風は、昔も今も変わらない。」

緑の中で映える紅葉の着物と帯
photo by 水曜寫眞館

松林を吹き抜ける風。
それは古よりかわらないもの。

時を超えても変わらないものを残していく。

着物との暮らしの中でも、変わるものと変わらないものがあります。
時代に合わせて形を変えていくものと、それを支える変わらず豊かなもの。

これからも繋ぎ続けていくべきものを見落とさないようにしたい。

文章/苫とり子

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