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長月、 新たな自分と邂逅する秋 「現代衣歳時記」vol.8

長月、 新たな自分と邂逅する秋 「現代衣歳時記」vol.8

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京都祇園の禅寺に生まれ、東京でサロン「enso」を主宰する伊藤仁美さん。禅語とともに着物の楽しみ方を教えてくれるコラムには、日々を軽やかに生きるヒントが隠されています。今回は秋らしい葡萄柄の小紋を基本としたスタイリングにも注目してみてください。

長月、単衣の私的な愉しみ「現代衣歳時記」 vol.2

京都祇園の禅寺に生まれ、東京でサロン「enso」を主宰する伊藤仁美さん。一児の母でありながら着物を日常着として暮らしておられます。移ろいゆく季節の中、着物を纏い五感の美を暮らしに取り入れることで心地よく豊かに過ごすヒントを綴る…美しい禅語とともに語られる連載をお楽しみください。

足元に転がる宝物に気づかせてくれる秋

春夏秋冬と、四季折々の美しさを楽しむことができる日本。

晴れ渡った青空の下で草木が生い茂り、人々の活気に満ち溢れた夏ももうすぐ終わり。茹だるような暑さも落ち着き、過ごしやすい季節がやってきます。

「食欲の秋」「スポーツの秋」「芸術の秋」と言われたりしますが、さわやかな気候で動きも活発的になりますよね。頭の中がクリアになり、ぐんぐんと意欲が増します。

秋の風物詩である葡萄柄の小紋に、黒地の名古屋帯を合わせて
秋の風物詩である葡萄柄の小紋に、黒地の名古屋帯を合わせて
photo by 水曜寫眞館

けれど、夏の終わりは何故だか寂しくなるもの。思うにこれは“やり残した”感があるからではないでしょうか。どこか忙しない夏の空気にあてられ、ジタバタともがいている内にハッと気づいた頃には季節が変わり始めている。

秋は一度そんな自分をリセットして、見つめ直す絶好の機会なのです。

新しい出会いや物事を求めて外に飛び出したのに心が晴れない、うまくいかない。そんな時、ふと足元を見たらすでに宝物が転がっていることに気づくことがあります。

シンプルながら赤色の前坪で華やかさをプラス
シンプルながら赤色の前坪で華やかさをプラス
photo by 水曜寫眞館
紅葉を彷彿とさせる帯揚げの柄と帯締めの赤色が、気持ちを秋へと誘って
紅葉を彷彿とさせる帯揚げの柄と帯締めの赤色が、気持ちを秋へと誘って
photo by 水曜寫眞館

うまくいかない時、人は何か新しいものを取り入れようとしてしまう生き物。だけど実は近くにヒントが隠されていて、気持ち次第で仕事もプライベートも上向きに変わったりする。

特に思うように外出ができない今、いかに身近なもので心を満たすかが試されているのではないでしょうか。

今あるものをどう活かし、心を満すか

シックなモノトーンコーデに
photo by 水曜寫眞館

日本では古くから「モノにも魂が宿る」と信じ、工夫を凝らして長く使い続ける文化が根付いています。かつて流行語大賞にもなった「もったいない」という言葉も、そんな精神から生まれたものでしょう。

着物にも解いてつなぎ合わせると一つの布に戻り、どんなものにもリメイクすることができます。

限りある資源を大切にし、今あるものをどう活かすか。

先人の心得に習い、今回は「豊穣」の象徴である葡萄柄の小紋で様々なコーディネートをつくってみました。小物や髪型を変えるだけでイメージが様変わりし、シチュエーションに応じた“新しい自分”に出会うことができるのです。

情熱と暖かさを象徴する赤色をプラスして
photo by 水曜寫眞館

基本は葡萄柄の小紋と黒地の名古屋帯。
そこにパープルとグリーンが重なった帯揚げと帯締めを合わせれば、秋を纏う歓びを感じられる。ちょっと気合を入れたい時はルージュのような赤色の小物を合わせ、自分の中にある情熱と暖かさを表現したり。

小紋+半幅帯でカジュアルに
photo by 水曜寫眞館

半幅帯を合わせ、ダウンヘアにしてとことんカジュアルダウンすることも可能です。

私らしい私でいたい時、ちょっと背伸びをしたい時、とことんリラックスしたい時……
その時々で「なりたい自分」は変わるけれど、どんな時も変わらない本質的な部分は大事にしたいから。

お気に入りのアイテムと心に向き合い、夏にやり残したことを進めていこうと思います。

一灯照一(いっとういちぐうをてらす)

「隅っこを照らす微かな光が、いつの日か大きな光となって広がっていく。」

色でなくディテールで演出し、大人っぽく
色でなくディテールで演出し、大人っぽく
photo by 水曜寫眞館

慌ただしい日々の中で忘れられがちな存在が、実は自分にとって重要なものだったりする。

隅っこを照らす光に気づいたら、それを手に取り、辺りを照らすのは自分。「この光は私をどこへ連れていってくれるのだろう」。そんな探究心をいつの時代も持ち続けていたい。

文章/苫とり子

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