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文月、軽やかさは涼の権化 「現代衣歳時記」vol.6

文月、軽やかさは涼の権化 「現代衣歳時記」vol.6

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京都祇園の禅寺に生まれ、東京でサロン「enso」を主宰する伊藤仁美さんのコラム。今月は涼しげな装いから、高温多湿な日本の夏を乗り越えるための“マイナスの美学”について伺います。

相手に涼を感じてもらうこと

梅雨が明け、猛烈な暑さが日本列島を襲っている今日この頃。
感染対策でマスクをしていることもあり、ちょっと歩いただけで汗が吹き出てきます。

東京の町並みを歩く伊藤さん
photo by 水曜寫眞館

さて先日、萩に芝草柄の絽小紋で友人と息子さんと一緒に出かけました。とても鮮やかな青色を全身で愉しむように纏って。

大人になるとついつい落ち着いた紺色のものを選びがちですが、青は夏を象徴する色。今着なければもったいない!ということで、この色味をチョイスしました。思い切ってこのくらい鮮やかな青を選べば、華やかで女性らしい印象に。肌も綺麗に見せてくれますし、何より目から“涼”をとることができます。

私は、夏の装いで最も大事なことは、お会いする方に涼を感じてもらうことだと思っています。パッと目に入った時に「涼しそうだな」と感じれば、自然と体感温度も下がり、その日を心地よく過ごすことができる。ひいてはお相手との良好な関係性を築くことにも繋がると思うのです。

もちろん着こなしにもこだわっています。

季節によって襟合わせを変え、この日はダウンヘアにしていたこともあり、衣紋をしっかりと抜き、首の横の衿は付け根が少し見える程度まであけて着付けています。
その空間が艶っぽい涼を演出し、風が通り抜け体感も涼しくなります。

涼しさを感じさせる襟合わせ
photo by 水曜寫眞館

マイナスの美学が涼を作る

私の人生のテーマは、いかに“軽やか”に生きるかということ。

“軽やか”と“涼しさ”。この二つの言葉はどこか似ていると思いませんか?

崩れにくく上品な矢の字結び
崩れにくく上品な矢の字結び
photo by 水曜寫眞館

「こうあらねばならない」という執着に囚われると、いつの間にか視野が狭くなってしまう。

だから、私は“引く”という作業をとても大事にしています。この日も友人の息子さんを抱っこしたり、遊ばせることを想定して、動きやすいように半端帯というカジュアルなものを合わせ、帯枕も帯揚げも使いませんでした。

また、色味も最低限に。基本は青と白で、下駄の台座にだけ淡いピンク色を入れて女性らしさを出しています。

白の足袋と淡いピンクの台座
白の足袋と淡いピンクの台座
プロデュースしたエナメル草履
銀座与板屋とコラボレーション
photo by 水曜寫眞館

装いも暮らしもできるだけミニマムにして、余白を残しておきたい。どんなことでも詰め込みすぎると、本当に大事なことが見えなくなってしまいます。

高温多湿な日本の夏はただでさえ暑く、ついついイライラしてしまうもの。マイナスの美学が涼を作り、それが心地よさに繋がる。余白があれば、すっとその日出会った人や場所とも呼応していくものだと思います。

principle of overprintとコラボした縄文編みバッグ
principle of overprintとコラボした縄文編みバッグ
photo by 水曜寫眞館

この日持っていたのは『principle of overprint』さんとコラボし、プロデュースした縄文編みのバックです。和紙100%でできているため、肌触りもサラサラでとても涼しく感じられます。

和紙は麻よりも湿度を外に出す力が強く、体温も調節してくれて、防臭や抗菌など色んな効果を持っている素材。それを太古縄文時代から続く最も古い編み方のひとつである「縄文編み」で、一点一点手で編んで作ったオリジナルのバックです。

さらに和紙は土に還る素材なので、環境にも優しい。自分の心にも優しく、こうしてきちんと大事にできるものを選んでいくことがまた心地よさにも繋がり、夏の暑さを乗り越えていく力にもなることでしょう。

涼風招人(りょうふうひとをまねく)

「暑い時期の樹木や、清流のほとりは、涼を求める人の最高の憩いの場となる。
清々しさを感じさせる人は、人を惹きつけてやまない。」

涼にこだわった着こなしで心も軽やかに
photo by 水曜寫眞館

日々いろんなことがあるけれど、できるだけ心軽やかに生きていたい。

装いや暮らしの中で必要のないものを少しずつ削ぎ落として、余白を作ることで身軽に。

冷たいものを食べたり、冷房をつけて部屋を冷やすだけでなく、時には涼しげな装いや本当に必要なものを選ぶ作業から、心地よさと涼を感じたいと思うのです。

文章/苫とり子

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