できることならしないで済ませたい。できればアイロンを押し入れから出したくない……というのが本音です。

それに、きものは折り目縫い目に合わせて畳まれていますから、基本的にアイロンがけはしなくてもいいはずなんです。

アイロンが登場しなくてはならないのは、たとう紙の中できものが片寄って、変な皺がついてしまったときくらい。

昔、新人だった頃、雑誌の撮影現場に”アイロンさん”と呼ばれる専門の方がいました。

素材に合わせての温度調整は当然、その場限りの荒業や秘密の技など、その技術たるやとても真似できるものではないな、とびっくりしたものです。

経費削減でいつしかアイロンさんと呼ばれていた人たちが撮影現場に呼ばれなくなり、アイロンさんの仕事はスタイリストさんやそのアシスタントさんがするようになりました。

あるとき、新米のアシスタントさんがアイロンの温度を間違えて、ポリエステルの小紋を「ちゅっ」と溶かしてしまったことがあったのです。

幸い撮影が済んだ後だったので、撮影のスケジュールに大きな狂いはなかったのですが、温度を間違えての失敗を目の前で見てしまったわたしは、それ以来すっかり「アイロン怖い！」と怯えるようになってしまいました。

とはいえ、大事なきものに変な皺がついてしまったら、いくらアイロンが苦手でも「どれ、仕方ないか……」と重い腰を上げなくてはいけません。

おっかなびっくり、温度は低めに、スチームアイロンなんかしてしまったら蒸気で布が縮んでしまうので、ドライモード一択！

さぁ、手ぬぐいを当て布にして……でも、全然きれいにならないんですよね。

ところが、あるとき別のスタイリストさんと撮影現場でご一緒したときに、とてもいいことを教えていただいたんです。

「当て布に手ぬぐいなんて使っていたら、温度が全然伝わらなくて役に立たないわよ！一番いいのはコピー用紙！」

白いコピー用紙を当て布（布じゃないけど）にすると、熱が伝わりやすくてきれいにアイロンができるというのです（ただし、印刷されている紙を使うと、インクが転写されてしまったりするといけないので使わないでくださいね）。

コピー用紙を使うようになってから、あんなに苦手だったアイロンが、ちょっとだけ得意になりました。

木綿や麻など自分で洗濯できるきものは、洗った後の脱水を数十秒で止め、きもの専用のハンガーに手で伸ばして吊るせばアイロンは必要ありません。

訪問着や小紋、紬などの正絹のきものだって、よほどくっきりとついてしまった畳み皺でなければアイロンをかける必要はありません。

きものを着て出かけて、脱いだあとについた紐や帯などの皺も、一晩きもの専用ハンガーに吊るしておき、それから丁寧に畳めばそれでよし。

きものをたとう紙にしまうときは、三つ折りにするよりは二つ折りのほうがアイロン要らずでおすすめです。二つ折りにすると、ちょうど折れる場所が帯で隠れるところになるんですよ。

つまり、きものにアイロンは基本的にしなくてOK！

どうしてもしたかったら、全体をかけるときは「きせ」を広げたり潰したりしないように注意してください。

あとは、うっかり生地を濡らさないようドライモードにして、温度設定を確認して、当て布はコピー用紙で、ですね。

ご質問者／kimonojiyuuさま