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これから振袖を選ぶ方へ 「きくちいまが、今考えるきもののこと」vol.74

これから振袖を選ぶ方へ 「きくちいまが、今考えるきもののこと」vol.74

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大昔の「あのとき着たかったもの」への後悔は尽きません。時を経て小さく縮んでいっても、無くなりはしないんですよね。わたしにとってそれは三つあって、その一つはセーラー服、二つ目は卒業式のときの袴、三つ目は、濃い紫色の振袖です。

昨年8月1日のコラムはこちら!

2022.08.01

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半幅帯は4m以上のものを”適当に” 「きくちいまが、今考えるきもののこと」vol.57

これから振袖を選ぶ方へ2

着るものに対しての欲が深いと我ながら呆れるのですが、大昔の「あのとき着たかったもの」への後悔は尽きません。

時を経て小さく縮んでいっても、無くなりはしないんですよね。

わたしにとってそれは三つあって、その一つはセーラー服、二つ目は卒業式のときの袴、三つ目は、濃い紫色の振袖です。

セーラー服の高校に入りたかったのに入れなかったのはしょうがないとして、卒業式の袴は、親に遠慮して借りることを拒否したのでした。袴に関しては、大人になってからなぎなたを習ったことで、袴への憧れはある程度消化できた気がします。

でも、振袖は……

「着るもの」から「眺めるもの」になって久しいわたしですが、濃い紫色の振袖は、今も憧れたまま燻っている感じです。

あれはわたしが学生だった頃のこと。

帰省したついでに、と、母と一緒に振袖の展示会に出かけて行ったことがありました。たくさんの振袖のなかからさまざま選んで羽織って「わたしだけのたった一枚」を母娘で選ぶ喜びに満ちあふれていました。

会場をゆっくり歩いているそのとき、当時母子家庭だったわたしたち母娘に、呉服屋のおじいさんが近づいてきて「お前たちに買えるのは、このくらいのものだ」と言い放ち、たくさん並べられた振袖を踏みつけながら分け入って、その中からぽいぽいと2枚、わたしの足元に投げてよこしたのです。

その横柄な態度と物言いが思春期だったわたしの逆鱗に触れたんですね。赤と黒がぼかしになったその振袖を、わたしは意地でも羽織ってやるものか、と拒み、そのまま会場を後にしました。

帰り道、わたしも母も無言でした。家庭の事情、お財布の事情、どの家々にはいろんな事情はつきものです。それでも娘に振袖を着せたいと願う母心に寄り添う、あたたかなひと言であれば全然ちがったのに。

あーあ、あのとき、いろんな振袖を試着してみたかったのにな。最初で最後の機会を失ってしまったのでした。

それからしばらく、わたしの憧れの色、着てみたい色はなんだろうと考える日々が続きました。

次の帰省のタイミングで「濃い紫の振袖が着てみたい」と言おうと思った矢先に、母から「あなたの振袖、決めてきたから。きっと似合う!」と電話があったのです。

えっ、何色?

「ピンク!」

……申し訳ないけれど、わたしの苦手な色。

ところが、実際に羽織ってみると、似合うんだなこれが。母のうれしそうな顔を見ると、もう何も言えませんでした。

でも、でも!濃い紫色の振袖!一度でいいから羽織ってみたかった~

もう三十年も前なのにこれですから、これから振袖を選ぶ皆さんは、後悔のないようにしっかり試着してくださいね。

例えば今「くすみカラー」が流行っていますが、あれは正直言って、プロのモデルさんだからこそ着こなせる色だったりします。とはいえ、着てみたい色、憧れの色は、ぜひ試着しなきゃ納得いかない。もしかしたら似合うかもしれない!

そして、一緒に行くのがお母さんなのかおばあちゃんなのかみなさんそれぞれでしょうが、ぜひお金を出してくれる「スポンサー」にも「わたしにどれが似合うと思う?」と試着の一枚を選ばせてみてください。きっと大喜びで選んでくれるはず。その時間こそが宝だったりするんですよ。

みなさんの一枚が、よりすてきなものになりますように。

2023.01.09

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2022.10.20

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成人式や振袖にぴったりなおすすめ髪飾りは?失敗しない選び方をご紹介!

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