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お見送りするときの、お別れのきもの 「きくちいまが、今考えるきもののこと」vol.76

お見送りするときの、お別れのきもの 「きくちいまが、今考えるきもののこと」vol.76

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故人とのお別れのときに何を着るのかは、それぞれが決めることであって、誰かに押し付けられるものではないのだな、大事なのは、見送る心なんだなと改めて思いました。

2022.10.01

よみもの

暑がりさんと寒がりさん 「きくちいまが、今考えるきもののこと」vol.61

=お見送りするときの、お別れのきもの2

まだ若いのに、病を得て旅立ってしまった仕事仲間のお別れの会が、先日執り行われました。いつも元気いっぱいで、きものが大好きだった彼女の遺志を尊重して、しっかりとお伝えしようと思います。

お別れは、遅かれ早かれいつかやって来る、と若いうちから悟っていたわたしは、お別れのきものが各種揃っています。つまり、どの季節にどんな関係の人が亡くなっても、きものでお別れに行けるということ。

ただし、その土地土地で風習が異なることがあるので注意が必要になることもあります。

例えば京都がいい例です。

東京では、黒紋付は身内が着るもので、親族以外の場合は色無地に喪の帯をしますが、京都の場合はお通夜のときは親族も一般の人も色無地に喪の帯、葬儀のときは親族も一般の人も黒紋付です。これを知ったときは衝撃でした。

それを踏まえての、今回のお別れの会。

お通夜も葬儀もすでに終えています。場所は京都のホテル。しかも残暑厳しい9月の上旬です。絽なの?単衣なの?それだけでも迷うのに、案内状には「平服でお越しください」と書いてあるではありませんか。

平服!

……わたしの脳裏に、平服に騙されてはいけない!と警報が鳴り響きました。

昔、母が若いころ、東京に嫁いだ友人の結婚式があり、案内状に「平服で」と書いてあったので小紋を着て行ったら、友人たちはみんな振袖や訪問着で恥をかいたと言っていたのを思い出したのです。

知り合いの呉服屋さんに聞いたら「いまさん、園遊会の案内状でも平服でお越しくださいって書いてあるんですよ」とのこと。ひぃぃ!

結局わたしは、一つ紋が入った淡いグレーの絽の色無地に墨色の地の紗の袋帯、故人が好きだった紺色が入った帯締めと帯揚げ、喪の扇子を挿し、喪の草履、黒いクラッチバッグという組み合わせで参列しました。

平服という表現には、普段着ではなく、ある程度改まったもの、という含みがあるとわたしは思っていたのですが、実際に会場に着いたら、みんな本当にそれぞれの装いでした。女性は色無地に喪の帯の人が多かったかな。黒紋付の人もいましたし、どこかに黒っぽい色を入れている人も、故人との思い出のきものを着ている人もいました。

その様子を見て、あぁ、故人とのお別れのときに何を着るのかは、それぞれが決めることであって、誰かに押し付けられるものではないのだな、大事なのは、見送る心なんだなと改めて思いました。

故人を思って選ぶコーデというのも、なんだかいいものでしたよ。

きっとあっちで「お、いまさん、やるやん!その色いけてるやん!」って目をキラキラさせながら言ってくれそうな気がしました。

きっと参加したみんなが、それぞれそう思ったんじゃないかな。故人は、誰かが着ているものを蔑んだりするような人じゃなかったから、例えTシャツ短パンだって「うわー、外は暑いのに、来てくれてありがとう」って言うだろうなと思うのです。

わたしの場合ですが、お通夜や葬儀、お別れ会のきものは、故人に「ありがとう」と感謝の気持ちを伝えに行くための正装です。

亡くなったと聞いて急いで駆けつけるときは、グレーのきものに黒い半幅帯のことが多いですね。これは故人のためにではなく、ご遺族に寄り添うためのきものです。その日たまたま着ているきものが派手だとしても、上から黒い羽織さえ着てしまえば、取り急ぎの喪の装いにはなるんです。

ですが、静かにそっと優しく寄り添いたいと思うと、簡単に自然とグレーや寒色系、黒っぽい色のきものに着替えたくなるんですよね…… でもこれは、あくまでもわたしの場合。

参考にしてくださるのは大歓迎です。これを機に、ちょっと考えてみませんか?

おまけ

「平服」という考え方について、わたしの仕事仲間数人に聞いてみました。

Aさん
「平服は、下のラインを決めていないという意味だと認識しています。遠方からの人や、都合のある場合は何でもいいよ、という感じですね。格上の装いをしてくれる人には、キチンとしてくれてありがとう、という気持ちになります」

Bさん
「聞かれた時に何故その格好なのかがキチンと答えられること。それが相手に対する弔意だと思います」

Cさん
平服はあくまでも礼装という認識です。お別れの会の場合の装いは、相手に対する想いが大事ですね」

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色無地「笹葉文・紺色」

色無地「流水四季花・青碧色」

【ブラックフォーマル】 喪服用 レース手提げバッグ 

喪服用扇子 弔事用

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