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茶人・みくぼ笑り子さんによる炉開き 「#京都ガチ勢、大西さん家の一年」vol.10.5

茶人・みくぼ笑り子さんによる炉開き 「#京都ガチ勢、大西さん家の一年」vol.10.5

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扇子製造卸を営む大西常商店の4代目、大西里枝さん。家業に新風を吹き込む若き女将がつぶやく、ガチ勢な京都暮らしの本音炸裂ツイートが、いま注目を集めています。炉開きがある11月は、里枝さんの酒席仲間でもある茶人・みくぼ笑り子さんによる一客一亭の茶会に密着!まずは、おもてなしの支度風景をお届けします。

2023.06.02

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着たいから、はじめます! 『梅が香』水野小巻先生に聞く 「きもの好きの茶道はじめ」vol.1

寿ぎの空間を、調える

霜月、2024年秋公開予定のとある映画のロケ地となった大西常商店は、月の半分近くショップを休業するという異例の事態を迎えている。

だが、多くの機材や小道具が運び込まれ、至る所に養生が施されるなか、中庭奥にある茶室だけは静謐さに包まれていた

躙り口

今回の舞台は、母・優子さんご自慢の大西家の茶室

いつもは様々な客を出迎える側の里枝さんが、社長就任のお祝いを兼ねたプライベート茶会でもてなしを受ける。

2023.07.30

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若女将から4代目社長へ 「#京都ガチ勢、大西さん家の一年」vol.7

抱えきれないほどの大きな荷物を手に、ふわりとタクシーから降り立ったのは、京都を拠点に活動されている若き茶人・みくぼ笑り子さん

里枝さんとは呑みの場で知り合い、親しくなった間柄だ。

みくぼ先生

70人以上の生徒を抱える人気の先生が、里枝さんのためだけに一客一亭の茶会を開いてくださるという。

大西家の茶室で釜を懸けるのは4年ぶりとのことだが、掛け軸を包んだ風呂敷を解き、炭を熾す傍らで、料理の仕上げをする場を整えるなど、手際よく淡々と準備を進めていく。

茶室の設えとしては、まずは軸を選ぶ。この日は、これぞ!という一幅を持参しているため、大西家にお借りする炉縁を決めるところから。

いくつもの茶道具が納められている押し入れから、笑り子さんが取り出したのは花喰鳥(瑞鳥が花の枝を咥えた装飾文様のひとつ)が描かれたもの

2020.03.13

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優子さんが指物師にオーダーして作ったという「獅子に牡丹」の柄の風炉先屏風と相まって、唐風な雰囲気を醸し出す。そこにそっと置かれた水差しの赤も、映える。

風炉先と水差し

畳だけだったシンプルな空間が、たったこれだけでグッと引き締まった。

茶室

心尽くしで、もてなす

そもそも、炉開きとは

5月から10月まで閉じていた「炉」の中に火を入れる行事で、茶人にとっての正月のような位置づけだ。

手元

炉開きは、亥の月最初の亥の日(旧暦10月10日)に行うとされ、今年は11月13日

亥は、中国の陰陽五行説において「水性の陰」と捉えられ、それが重なる日に炉を開けば、「火(火難)を免れる」と考えられたためだ。「火の用心」を願うことから、一般家庭でも、こたつなどの暖房器具を出すのによい日とされている。

裏千家の炉開きでは、善哉(ぜんざい)が出されることが多い。笑り子さんも、小豆からことこと炊いた餡を持参していた。

「今日は里枝さんのためのお祝いの会なので、手を抜かずに準備してきました」と微笑む。

ぜんざい

亥の陰に対して、小豆は陽。善哉は、陰陽の和合を図る食べ物だ。

また、「善哉」は「よきかな」。

一休宗純が一口食べて「よきかな」と絶賛したという謂れから、「よきかな(とてもよい)」=おめでたいという意味合いも含まれている。

出汁の入った小鍋からいい香りが立ち昇り、風にのって取材クルーの鼻先まで届いた。

里枝さんの4代目就任のお披露目会に駆けつけられなかったことを、心苦しく思っていたという笑り子さん。炉開きというだけでなく、門出を寿ぐ場として、今回の茶会に対する思い入れも一入だ。

吸い物

"御目出度い"鯛と蕪の吸い物。朝から引いた出汁はポットに入れて持参

「里枝さんのお祝いの席で、お酒がないなんてありえませんよね(笑)」と、取り出したのは自身の名前にもちなんだ長野県産の吟醸生原酒『七笑』

それに合う肴としての八寸には、揚げ銀杏と台湾産からすみをセレクトした。

八寸

「葉っぱは拾ってきました」と、にっこり。縁がやや黄色味を帯びた公孫樹を会敷とし、黄葉を期待させる粋な計らいだ。

細部の美にこそ、心宿る

もともと掛かっていた軸を丁寧に外し、用意してきたそれに替える。

するすると開かれ、現れたのは、

関 南北東西活路通(かん なんぼくとうざいかつろつうず)

の文字。禅語だ。

軸

大徳寺の塔頭・黄梅院小林太玄和尚筆

「関」とは、関所のこと。関所を越えた先では、東西南北どこへでも行けるという意味をもつ。

「関には、関所以外にも難所や重くて開けにくい扉という意味があるそうです。伝統から新しいものを生み出し続けるのは、本当に大変なことだと思いますが、里枝さんはいつも軽やかに突き進んでますよね。社長という門出を寿ぐにはピッタリのお軸だと思います」

茶花は、白玉椿。「これは、炉開きの定番ですね」と、笑り子さん。

軸

鶴首(つるくび)の花入れは、大西家のものをお借りして、柏葉紫陽花とともに活ける。

柏は、新しい葉が出て古い葉が落ちることから「家系が絶えない」縁起もの。ここにも、笑り子さんの里枝さんへの想いが込められている。

香炉

香合は、もちろん大西家の家業である扇子で

高校卒業後、裏千家学園に進学した笑り子さんだが、「最初からお茶の先生になりたかったわけではないんです」と眉尻を下げた。

「誰かを招きたい、誰かに良きひとときを差し上げたい――そういう場を自分が用意できたらいいな」という感覚だけだったという。「愉しいな、美味しいな」からスタートしたという言葉は真っ直ぐで、彼女の人柄そのもののような気がした。

着物は、亭主になるためのスイッチというか、切り替えるためのツールですね。役になりきるためのものです」

この日のコーディネートについて訊けば、「里枝さんを引き立てるための着物です」ときっぱり。そこにも、彼女の心意気が表れている。

大西里枝さん

笑り子さんが亭主となって開かれた祝いの会の様子は、次号「#京都ガチ勢、大西さん家の一年」vol.11にて、たっぷりとご紹介します!

撮影/スタジオヒサフジ

2020.03.02

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