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正月支度はしめ飾りから 「#京都ガチ勢、大西さん家の一年」vol.12(最終回)

正月支度はしめ飾りから 「#京都ガチ勢、大西さん家の一年」vol.12(最終回)

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扇子製造卸を営む大西常商店の4代目、大西里枝さん。家業に新風を吹き込む若き女将がつぶやく、ガチ勢な京都暮らしの本音炸裂ツイートが、いま注目を集めています。一年間密着してきた大西家のガチ勢行事をお伝えする連載も、いよいよ最終回。2024年も素晴らしき年となるよう、正月を迎える準備を始めましょう。

2023.11.13

よみもの

茶人・みくぼ笑り子さんによる炉開き 「#京都ガチ勢、大西さん家の一年」vol.10.5

2023.11.25

よみもの

門出寿ぐ喫茶去 「#京都ガチ勢、大西さん家の一年」vol.11

年神様をお迎えする支度が始まる日

大西さん家の年中行事を追いかけてきて、一年が経とうとしている。恐ろしく早い。

正月事始めを迎え、vol.1でご紹介した立派なしめ飾りを再び飾る日が近づいてきた

2023.01.12

よみもの

七草粥と牛玉宝印(ごおうほういん) 「#京都ガチ勢、大西さん家の一年」vol.1

もとは旧暦12月8日を「事始め(ことはじめ)」といい、正月支度を始める日とされていた。江戸時代以降、最上吉日である「鬼宿日(きしゅくび)」の12月13日年神様をお迎えする準備をするに相応しい日とされ、現在に伝わる歳の瀬の習わしとなった。

年神様をお迎えする準備

煤払い(すすはらい)をし、おせち料理を拵えるための薪や門松に必要な松を山へ取りにいく(松迎え)など、正月を迎えるための用意はあれこれとある。

なかでも、大西家が最も大切にしているのが、正月飾りだ。

しめ飾り

しめ飾りは、煤払い後の12月13日から28日までの間に飾るのが良いとされる。

大西家御用達は年末の3日間だけ錦市場に出店する桝本さんがつくるもの

例年、母・優子さんが年に一度の挨拶がてら買い求めるが、今年は里枝さんが、絶賛作業中の桝本さん宅を訪れた。

桝本さん

門扉の向こうには、大量のゆずり葉とみかん。出迎えてくれた桝本さんは、一見無骨そうだがとても気さくなイケオジだった。

大量のゆずり葉
みかん

玄関を開けると、三和土(たたき)には裏白(うらじろ:羊歯)が詰められた袋が置かれ、青々した香りが出迎えてくれる。

裏白

さっそく作業場を拝見。

材料や商品が山ほど格納されている

一歩足を踏み入れると、所狭しと積み上げられた正月飾りから届く藁の匂いに包まれる。

いつものしめ飾り

いつものしめ飾りを手にした里枝さんは、「この造形美って、しめ縄にしかないなぁ」としみじみ……

造形美にうっとり

「うっとこ(私の家)はお正月から夏越の祓まで半年間置かせてもらってるので、なくなると淋しいんですよね。おくどさんは、しめ飾りがないと締まらない

材料調達もすべて自らの手で行う

作業風景を見学

作業風景を見学中、「生まれ変わっても上手くやれる気がしない……」と何度も感嘆の溜め息を洩らす里枝さん。

「手先が器用ならすぐ出来るようになるわ」と返す桝本さんは、幼い頃からお手伝いするなかで、祖父や両親に習うことなく家業を受け継いだ。しゃべりながらも手は動き続ける。

……が、カメラを意識してか「ちょっと歪んだ」と眉をひそめる一コマも。

しゃべりながらも手は動き続ける

「緊張するとあかんな」と苦笑いする桝本さん。すでに完成しているものを見せてくれる。

完成したものを拝見

「編み目が揃ってて美しい!」と目を見張る里枝さんが極意を尋ねると、「そこはもう気持ち(笑)」との答え

稲穂のあるものを選別

稲穂が入ってると締めにくいため、選り分ける。「穂先がぴょんと出てくるのもかわいいんやけどな」と桝本さん

しめ縄の先

親指の付け根あたりで巧みにねじり合わせると、魔法のようにスッと先端が真っ直ぐに仕上がる様子を見て、一同大興奮!

水回り用の小さいものまで数えると、一年間で桝本さんが仕上げるしめ飾りは「5000ではきかんのとちゃうかな」

しめ飾りがないと締まらない

押し入れにも材料や商品が山ほど格納されているのを見て、「うちも押し入れ開けたら扇子だらけです!」と里枝さんが笑う。

扇の形を発見

扇の形を発見した里枝さん

ここから年末にかけて注文分のしめ飾りを順次発送し、12月28~30日の3日間は”京の台所”錦市場で販売(柳馬場錦の南東角)、足の踏み場のなかった部屋はすっきりする。

しばらくは趣味の鮎釣りをしたり、旅行の計画を立てたりしながらのんびりと過ごし、5月から仕事が始まるという。

まずは、田植えから。

そう……桝本さんはしめ飾りの材料のほとんどを自前で手配するのだ。

材料や商品が山ほど格納されている

水遣りと草刈りに精を出し、7月下旬に穂が実る前の稲を手で刈る。水分を多く含む瑞々しい稲は、乾燥が肝心。10回くらいに分けて刈り進め、都度、干してカラカラになるまで乾かす。

2023.09.27

よみもの

覚性律庵の大阿闍梨と稲刈り 「#京都ガチ勢、大西さん家の一年」vol.9

羊歯やゆずり葉は自ら山へ採りにいき、みかんの収穫も行う。

しめ縄部分を11月中に完成させ、12月はひたすら仕上げの作業に勤しむ

商品

「グリーンが入って、みかんを飾りつけて、全部揃うとしめ飾りらしくなる」という桝本さんの言葉どおり、完成したらいきなり正月気分を醸し出す。

全部揃うとしめ飾りらしくなる

里枝さんの「おめでたみがすごい!!」という言葉が、まさにピッタリだ。

桝本さんと里枝さんの手

手の平が厚く、指が太い。桝本さんの手は、まさにしめ縄職人のそれ。重ねた里枝さんの手が子どもみたいだ

太いしめ縄

大蛇のようなしめ縄。桝本さん曰く、「ひとりで締めるのはこれが限界の太さ」

祇園のお茶屋さんへ

「これは祇園のお茶屋さんに行くんちゃうかな?」という桝本さんの言葉に、「ぽい、ぽい!上品な顔つきしてはる」と里枝さん

2024年のさらなる躍進を願って――

せっかくなので、作業の手を止めていただき、並んで一枚。

並んで一枚

大西家のしめ飾りの引き取りは毎年28日。

「今年は母と一緒に私も行かせていただきます!」

みかんをどっさり

一年で最も忙しい時期にお邪魔させてもらったにもかかわらず、細々と制作過程を見せてもらい、大興奮の里枝さん。

お土産に、と枝付きのみかんをどっさり頂き、満面の笑みで桝本さん宅を辞したのだった。

大西常商店へ帰ってきたら、カウンターの向こうで久雄さんと優子さんが並んで扇子の検品作業をしている。なんて微笑ましい図だろう、と思わず写真に納めさせてもらった。

大西夫妻

取材クルーが優子さんと「桝本さん、男前ですね!」と盛り上がっていると、割烹着を身に着けた里枝さんが脚立を抱えてやってきた。

桝本さんの手しごとへの感動と興奮冷めやらぬうちに、神棚を掃除しておこうという算段だ。

割烹着を身に着けた里枝さん

カウンターを配し、大幅に改装されたおくどさん。新たに設置した棚に合わせて、しめ飾りの場所も変えなければならない

大幅に改装されたおくどさん

「28日にね、出入りの大工さんに来てもらって、実際に当ててみながら高さを決めよ思てね」

と、優子さん。一番収まりのいい場所に、しめ飾り専用の。

やはり、大西家の正月飾りの主役はしめ縄なのだ。

7月に襲名を終え、2023年下半期は里枝さんにとって怒濤の日々であった。

当連載も扉カットを最初から順に見返してみてもらえば一目瞭然だが、それでなくても細身の彼女の顔つきがどんどんシャープになっていくのが判る。

よみもの

#京都ガチ勢、大西さん家の一年

しかし、「疲れた」と口にはしながら、里枝さんの歩みはますまずスピードを増していくだろう。撮影クルーのフォトグラファーと見出した変顔スキルも着実に向上しつつある。

2024年の活躍も、愉しみしかない。里枝さんと大西家の今後を、読者のみなさまとともに見守りたいと思う。

着姿

「事始めの掃除にはあれですけど、最後なんで!」と、親戚から譲り受けた松竹梅柄の華やかな小紋をチョイス。帯締めもオレンジで合わせて、色味の異なるゴールドのスクエアが並ぶ黒の名古屋帯でキリっとした印象に

撮影/スタジオヒサフジ

2021.12.29

まなぶ

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2021.12.16

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