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お月見団子で一献 「#京都ガチ勢、大西さん家の一年」vol.10

お月見団子で一献 「#京都ガチ勢、大西さん家の一年」vol.10

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扇子製造卸を営む大西常商店の4代目、大西里枝さん。家業に新風を吹き込む若き女将がつぶやく、ガチ勢な京都暮らしの本音炸裂ツイートが、いま注目を集めています。中秋の名月を眺める束の間の穏やかなひととき。大西家でのお月見をご紹介します。

2023.09.27

よみもの

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手づくり団子を、床の間に供えて

9月29日は「中秋の名月」だった。童謡「うさぎ」で歌われている「十五夜」。

丸々としたお月様を見上げたり、写真を撮ったり、SNSにアップしたり……それぞれの方法で、月見を愉しまれたことだろう。

団子をこねる里枝さん

遡れば、名月を観賞する風習は平安時代に中国より伝来したもの

大覚寺の「観月の夕べ」がいまに伝えるように、当初は平安貴族たちが催す宴など、風雅な月見が主流だった。

その後、江戸時代になって庶民にまで広がり、十五夜には満月に秋の実りを供え、豊穣に感謝するようになっていく。さつま芋や里芋の収穫祝いを兼ねることもあり、「中秋の名月」は「芋名月」という名でも親しまれる

カゴに盛られた野菜たち

現代では、秋の収穫物に加え、月見団子やススキなどを一緒に供えることはご存じの通り。

ススキは茎の内部が空洞であることから神の宿り場とされ、鋭い切り口が魔除けになると考えられていたという。

ススキを供えることには、翌年の豊作を願う想いが込められているのだ。

団子を丸める里枝さん

フットワーク軽く準備を進める母・優子さんの傍らで、マイペースに手伝う里枝さん。聞けば、「お料理、好きですよー! 出張のときは、めっちゃ作り置きしていきます」とのこと。

幼い頃から台所に立っていたのかと思いきや、「社会人になったばかりの頃は、お米の洗い方も分からんかったんですよ~」と、大笑い。

完成した月見団子はススキと一緒に、床の間へ。

この日掛けられていたのは、里枝さんが「一番好きなお軸!」と満面の笑みで説明してくれた、2幅の軸。

どちらも、京都を中心に活躍し、風俗画や美人画を得意とした日本画家・伊藤小坡(いとうしょうは)の作品。右側には空を見上げる母と子、左側は満月の下で佇む女性が描かれている。

双対となって「月見」を表現する味わい深い掛け軸だ。

お軸を掛ける里枝さん

「お軸を下ろしてきたときの驚きが、何度見ても新鮮です。萩と桔梗も秋めいていて、菊柄の帯がすてきですよねぇ」と、里枝さん。

完成した床の間

テッパンの月×兎でお月見コーデ

感嘆の溜め息を洩らしつつ、床の間前に座して軸を眺める里枝さん。そんな彼女の装いといえば——

月見をテーマに選んだ兎と月の柄の淡い色合いが上品な単衣

里枝さん着姿
着物の柄アップ

まさに中秋の名月のために誂えたような一枚は、優子さんから譲り受けたものだ。

後ろ肩や膝上あたり、ちょこんと姿を見せる兎がさり気なく、遊び心のあるコーディネートの技となっている。

帯アップ

合わせた紬地の名古屋帯は、雪輪うさぎ。月見を愉しむキュートな白兎は目が赤く、雪輪の中にはススキも描かれており、細部に宿る美が感じられる。よく見れば判る萩との取り合わせも、お気に入りの掛け軸とリンクしていてロマンティック。月見ならではの着こなしだ。

「今月は悩まずに済みました~(笑)」と里枝さんは言うが、季節や行事に似合った組み合わせを簡単に叶えてくれるだけで、大西さん家の箪笥は魔法のアイテム。「きものと」読者にとっては、垂涎必至と言っても過言ではない。

満ちた月明かりの下で、嗜む菊酒

芋を切る里枝さん

メインカットの撮影後、いつの間にか、里枝さんはちゃっかり酒肴を用意していた。

里芋の炊いたんを半分に切り、兎が跳ねている皿に盛りつけていると、見かねた優子さんに並び替えられるという、いつもの母娘劇場が繰り広げられる。黒胡麻をトッピング。

盛りつける優子さん

酒盃には菊花を浮かべて、まずはほのかな香を愉しむ。中庭に面した縁側に腰を下ろし、ほっと一息。

「まだ書類仕事が残ってるんですけどねぇ……」と呟きながらも、つるっと皮を剥いた芋をポイっと口に放り込んだ。

酒と肴

夜空を仰ぎ、「マンションが建つまでは、縁側からも月が見えたんですよ」と教えてくれる。

夜空を仰ぐ里枝さん

十三夜は十五夜に次いで美しく、日本で生まれた風習だと伝わる。

風情を愉しむことはもちろん、ただ月を愛でるだけではなく、これらは収穫と密接な関わりをもつ。豊かさを願い、無事に収穫されたことに感謝する。

生きる糧に欠かせぬ自然の力へ心を寄せるのは、大切な理だということだろう。

満月

「十五夜」の後に訪れる「十三夜」にも月見をすることを、「後の月見」という。その「後の月見」を行わないと縁起が悪いと考えられ、「片月見」(「片見月」とも)と称した。

「芋名月」と呼ばれる十五夜に対して十三夜は、栗や豆の収穫期であることから、「栗名月」「豆名月」とも呼ばれる。

今年の十三夜は、10月27日だ。どうぞみなさま、お忘れなく。

お月見

次回は、大西家の茶室を公開! 気の置けない方とのお茶席にて、我ら取材班もご相伴に与ります。

撮影/スタジオヒサフジ

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