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着物ファンにとっての茶道の魅力とは? 『梅が香』水野小巻先生に聞く 「きもの好きの茶道はじめ」vol.3

着物ファンにとっての茶道の魅力とは? 『梅が香』水野小巻先生に聞く 「きもの好きの茶道はじめ」vol.3

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茶道を始めたいけど、なかなか踏み出せずにいるきもの愛好家の皆様に贈る「きもの好きの茶道はじめ」。第3弾は『梅が香 裏千家お茶の教室』のテーブルでのお稽古に密着します。水野小巻先生に茶道の魅力やきものとも共通するその愉しみ方についても伺いました。

よみもの

「きもの好きの茶道はじめ」

茶道の魅力はきものにも通ずる?

洗い茶巾で使用する茶道具

”きものを着始めるきっかけ”になった、あるいは逆に、”きものを着るための口実として始めた”ものとして頻繁に挙げられる「茶道」。

普段のお稽古やお茶会など、茶道はきものを着る機会が多いため、きものファンのなかには茶道に興味を持たれる方が多くいらっしゃいます

そんな方々に贈る連載「きもの好きの茶道はじめ」。

水野小巻先生と社中の皆さま

小巻先生を囲み、生徒のSさん(左)とTさん(右)

梅が香 裏千家お茶の教室』を主宰する水野小巻(宗巻)先生とその生徒さん方にご協力いただき、どうしても敷居が高く感じられる茶道を始めるにあたってのさまざまな不安を解消していきます!

お稽古の一幕

お稽古の一幕

今回は、東京・神楽坂の京料理屋『神楽坂 和食 千』の一室で行われているテーブルでのお稽古に密着

なかなかイメージしづらいお稽古の様子を写真でお届けするとともに、小巻先生に奥深い茶道の魅力や、きものにも通ずる愉しみ方について伺います。

……と、その前に!小巻先生の装いをご紹介します。

小巻先生の装い

年々厳しくなる日本の夏。撮影日はまだ梅雨明け前でしたが、すでにその予感を匂わせる気温でした。

そんななか、ひときわ涼しげなオーラを放っていた小巻先生。

透け感のある紋紗の着物は無地に見えつつも、唐草地紋に七宝の飛び柄をあしらった品のある小紋。薄い黄緑がまた、小巻先生の優しい雰囲気にぴったり。淡いお色味とはいえ印象がぼけることなく、秋草をあしらった絽塩瀬の染め帯が締め色になっています。

桔梗や撫子などの秋草をあしらった塩瀬帯

この日のコーディネートは、“大人かわいい”がテーマ。

全体を上品にまとめつつも、小物使いでかわいらしい印象を添えています。特に、ピンクとグリーンの縦暈しの帯揚げがとても可憐。

秋草の塩瀬帯

帯揚げと帯締めはどちらも、小巻先生がアンバサダーをつとめていらっしゃる和装小物専門店『こまもの玖』で購入されたもの。『龍工房』製の洋角組帯締めは細身ですっきりと締められ、よりいっそう涼しげな印象を与えてくれます。

帯締めの奥には、小巻先生が一番好きという桔梗の花が!今回は関西巻きですが、関東巻きにすると、前帯に撫子の花が出てくるのだとか。

2022.03.15

インタビュー

水と空気以外はなんでも組む。 龍工房 福田隆太さん

『きもの英』の塵よけコート

『きもの英』の塵よけコートを羽織れば、また違った印象に

塵よけコートも、薄物の生地でモダンな印象に。全体に散りばめられたあられが、まるで天の川のよう。

きものファンのみなさんも惚れ惚れするような装いを、今回も披露してくださいました!

お足元は、ペーパーヤーンと呼ばれる和紙に似た素材を撚って織った『和小物さくら』の真綿草履

お足元は、ペーパーヤーンと呼ばれる和紙に似た素材を撚って織った、銀座越後屋でオーダーの『和小物さくら』の真綿草履

お稽古について「教えて!小巻先生」【Q&A】

お茶碗の置き方について指導される小巻先生

Q1 テーブルでのお稽古は足も痺れないし、着物もシワにならなくてとっても魅力的。具体的にはどのようなものなのでしょうか?

畳の上ではなくテーブルで行う茶道のことを「テーブル茶道」と呼び、一般的にはお盆やトレイの上にお道具を乗せ、その中で完結するようなお点前をなさっていらっしゃるようです。

ただ、畳の上でのお点前とは違う部分も多いと思いますので、本格的にお稽古を始めますと一からお点前を学び直すことになります。

そのため『梅が香』ではあえて「テーブルでのお稽古」と呼び「テーブル茶道」とは異なるものになります。

お点前で使用する茶巾を畳むTさん

連載vol.1vol.2で畳の上でのお稽古(四谷三丁目稽古場)を見ていただきましたが、畳の上でのお点前の手の運びを基本そのままテーブルの上で再現しています。

ですので今後畳の上でのお稽古に変わった場合にも、手の運びはすでにお稽古していますので、後は足の運びを学ぶだけとなり、比較的スムーズに切り替えができます。

まずはテーブルでのお稽古をしっかりと身に付けた上で、畳の上でのお稽古に変わるという流れで始められるのもありですよ。

炉開きや初釜などの行事は当然、畳の上で行われますので、行事の前には自由参加の特別稽古をもうけ、席入りの仕方、床の間の拝見の仕方やお茶菓子のいただき方など、お客さまとしてのお作法の稽古をしています。

Tさんが点てた薄茶をいただくSさん

Q2 グンと興味が湧いてきました!先生の思う茶道の魅力を教えてください。

=半分に切ったスイカのようなお茶碗

半分に切ったスイカのようなお茶碗

そうですね。
ひとことで表すことは難しいですが…



これは私自身がまだまだ未熟者だからですが、茶道の魅力だと常々思っているところは、茶道には終わりがない、一生修行だというところ、そして心地良い緊張感があるというところでしょうか。



茶道は”総合芸術”と言われるようにとても奥が深い世界です。
掛け軸の書、茶花のお花、お茶碗などの陶芸など。
通常のお稽古だけではなく、お茶会ではお客さまにおもてなしの心をお伝えするために、その日の趣向(テーマ)や季節感を考えながらお道具を選びますので、さまざまな知識や感性が必要となってきます。

お点前によっては、短冊に短歌をしたためたりするんですよ。
本当に学びの多いお稽古事だと思っています。

薄茶を点てるSさん

考えてみればお茶のお点前というものは同じことの繰り返しです。
何百年も前に確立したお点前を何年も何十年も繰り返しお稽古しています。



それでも飽きることがないというのは、やはり茶道が幅広い分野にまたがっているからでしょうね。

そしていつも同じではないからだと思います。いわゆる「無常」ですね。



私は長年お稽古をしていますのでこのような魅力を感じていますが、もっと単純に「美味しい和菓子とお薄がいただけること」が魅力でもいいのでは(笑)。
人それぞれですから。

Q3 お道具やしつらいの愉しみは、着物コーデにも通ずる点が多いような……

茶道は季節感をとても大事にしていますので、その点はお着物と共通していると思います。

例えば、今回はガラス素材の涼しげなお茶碗や夏を連想するスイカや蟹のお茶碗を用意しました。冬にはお茶が冷めにくい筒茶碗を使ったりしますので、目からでも季節を感じることができます。

それぞれ夏の風情を感じさせるお茶碗

それぞれ夏の風情を感じさせるお茶碗

季節感があるものって、その時その時でしか使えないもの。お茶もお着物も贅沢ですよね。

私の楽さだけを考えますと、通年使えるお道具を選べば良いのかもしれません。
毎回お稽古のたびに違うものを用意するのは、運ぶのも大変ですし、お金もかかりますしね。(笑)

一年に一回しか使わないお道具もありますから。



ガラス製の葡萄のお茶碗は、Tさんの帯の柄に合わせて小巻先生がセレクト

ガラス製の葡萄のお茶碗は、Tさんの帯の柄に合わせて小巻先生がセレクト

でも季節のお道具に触れるたびに、生徒さんの喜ぶお顔が見れ「またこの季節が巡ってきたのね」と、ご一緒に楽しむことができますから、こうして季節のお道具でお稽古をしています。


お着物も同じで季節のお着物は一年に数回、場合によっては一回しか着る時がない場合もあります。夏のお着物を着ていると「とても涼しげですね」とよくお声かけいただき、周りの方に涼感をお届けできていることはお着物のすばらしさ!

また、お会いする方に格や柄で気持ちをお示しすることができますので、その点も茶道と共通しているのではと思います。

Q4 ”着物でのお出かけ先”としてお稽古に通うのは……ズバリ、あり?なし?

撮影中もとても和やかに会話されていたお三方

私は基本的に、お茶を始めるきっかけやお教室に通う理由は何でもいいと考えています。

趣のある神楽坂という街にお着物で出かけ、京料理屋さんの個室でお茶のお稽古をし、お稽古の後には美味しい季節のお食事をいただく。



月に一回、一般的なお茶のお稽古とは全く違う特別な時間を過ごしていただきたいと、そしてお稽古を楽しみにし、またリフレッシュとなり高揚感を味わえるひとときとなればうれしいです。

団扇蒔絵が描かれた溜塗りのお棗

『梅が香』は他のお教室に比べ決まりごとは少ないかと思いますが、だからといってなにもかもが緩くなってはならないと思っています。



特に私が重きをおいています礼儀作法については、都度お教えし生徒さん方にもきちんと身につけていただいています。

自分の前に置いた扇子は「結界」を表し、先生に対して敬意を払う

自分の前に置いた扇子は「結界」を表し、先生に対して敬意を払う

茶道に限らず、どのようなお稽古もそうですが、先生に対しては”学ばせていただいている”ということを常に持ち続けていただかなければなりません。
また、先生がどんなに親しみやすくてもどこまでも先生と生徒という関係性は変わりません。



このようなことを理解した上でお稽古に励んでいただけるのであれば、お出かけのような気楽な感じで始めていただいてもいいと私は思います。

ただ繰り返しにはなりますが「先生によってお考えは違います」ので、ご自分に合うお教室を見つけるためにもまずは体験に行かれることをおすすめします。

本日のお稽古

『神楽坂 和食 千』外観

『神楽坂 和食 千』

風情あふれる石畳の小路に、知る人ぞ知る名店が立ち並ぶ東京・神楽坂。

かつて花街として栄えたこの街に「お忍びで遊びに来た人でも、ここに入り込めば人目を忍べる」ことから名付けられた、“かくれんぼ横丁”に本日のお稽古場があります。

古民家を改築した和食料理店『神楽坂 和食 千』。産地直送の季節食材を生かした本格割烹懐石料理が味わえるということで、会食や接待はもちろん、特別な日のお食事にも使われる人気のお店です。

趣ある店内。1階は囲炉裏のあるゆったりとしたカウンターがメインとなっています

趣ある店内。1階は囲炉裏のあるゆったりとしたカウンターがメイン

もともとこのお店にお客様として通われていた小巻先生。

お料理の美味しさはもちろんのこと接客のあたたかみがとても気に入り、「こちらでお稽古させていただきたい」と自ら企画書を書いてお願いされたのだとか。お稽古とお食事がセットになっており、特別な時間を過ごすことができます。

お稽古の流れは基本的に、四谷三丁目で行われている畳の上でのお稽古と同じ。まずは先生へのご挨拶から。“結界”を意味するお扇子を自分の前に置き、「本日のお稽古よろしくお願いいたします」と先生にご挨拶をします。

先生が用意してくれた掛け軸の写真から、この日の趣向を感じ取る

本来ならば、茶室の床の間に飾られる掛け軸。神楽坂のお稽古はお店の一室で行われているため、掛け軸の写真にて小巻先生からご説明を受けます。

この日のお軸には「瀧 直下三千丈」の文字が。

夏の暑い時期によく使われる掛け軸で、「三千丈の高さから落ちる瀧の轟音が心を満たし、余計な雑念や感情をすべて洗い流してくれる」という意味が込められています。

水を張った平茶碗に二つ折りにした茶巾を入れて運び出す「洗い茶巾」

水を張った平茶碗に茶巾を入れた「洗い茶巾」

ちなみに、この日は「洗い茶巾」と呼ばれる夏のお点前のお稽古。水を張った平茶碗に茶巾を入れ、お点前の中で茶巾を絞るのが特徴となっています。

茶巾を水から引き上げ、絞るのが一つの特徴

茶巾から滴る水や、茶碗から建水にこぼす水音で滝を連想させ、お客様に“涼”を感じてもらうお点前です。

茶巾を洗い終わったら水を茶碗から建水に移していく

茶巾をたたみ終わったら茶碗の水を建水にこぼす

小巻先生の場合滝の問答というのがあり、あらかじめ生徒さんにどの滝をイメージしてお点前をされるのか考えてきてもらっているそう。



お客さまの生徒さんが「大変涼やかな水の音でございますが、どちらの滝でございますか」と問うと、亭主の生徒さんが「〇〇の滝でございます」と実在の滝の名前をこたえていたのが印象深いです。

滝の名前を聞いた瞬間、脳内で滝から落ちる水の音が広がり、より涼やかな気持ちになれました。

京和菓子屋『有職菓子御調進所 老松』の「浮き草」

主菓子の見た目もとっても涼しげ。今回の主菓子は京都の和菓子屋『有職菓子御調進所 老松』の「浮き草」です。

その名の通り、水に浮かぶ浮き草をイメージした主菓子で、外郎生地で白あんを包み込んでいます。取材に行った私たちもいただきましたが、上品な甘さでこの時期にぴったりでした。

2021.04.29

インタビュー

老松 当主・有斐斎弘道館 理事 太田達さん(前編)

2021.05.06

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老松 当主・有斐斎弘道館 理事 太田達さん(後編)

本日の薄茶

お茶は小巻先生がアンバサダーをつとめていらっしゃる『shuhari_kyoto』の「さみどり」。さすがは高級抹茶という香り高さで、生徒さんがお茶を点てている間、お部屋に広がっていくその香りに思わず酔いしれてしまいました。

ここで今回、お点前を披露してくださった生徒さんのお一人をご紹介します。

新年からお茶のお稽古をスタートさせたSさん

今年の1月から小巻先生の教室に通われている生徒のSさん。

なんと本日は、『京都きもの市場』横浜店オープンの際にご購入いただいた着物と帯で取材に臨んでくださいました!

久米島紬はよく見ると縦縞にいろいろな色が入っており、「かわいい!」と一目惚れされたのだとか。

沖縄繋がりで、城間栄順さんの米寿記念の紅型帯をセットで購入されたそうです。

紅型帯には魚や蟹が優雅に泳いでいる

2022.03.20

よみもの

城間栄順 米寿記念 「紅(いろ)の衣」展 沖縄・京都に続き、東京へ―

2023.03.21

まなぶ

城間びんがた工房(沖縄県那覇市・琉球紅型)「バイヤー野瀬の、きもの産地巡りvol.4

着物を始めたのは、娘さんの七五三がきっかけ。

3歳と5歳のお祝いの時は子育てでバタバタしていましたが、7歳になって少し手が離れたのを機にご自身のきものを初めて誂えられたそうです。

しっとりとしたお点前

お茶は兼ねてより、いつか習いたいと思っていたというSさん。教室もずっと探していたそうですが、あまりインターネットに情報を開示している教室が少なく悩んでいたところ、小巻先生のインタビュー記事に辿り着いたといいます。

「素敵な先生!」と思い、勇気を振り絞って『梅が香』のInstagramに初DM。人気があるだろうから入れないだろうな……と思っていたので、「ぜひ体験にいらしてください」と返事が来たときは驚いたそうです。

優しく指導される小巻先生

決め手はやはり、小巻先生のお人柄。お稽古中も隣で、Sさんに優しくお点前を指導されている先生のお姿が印象的でした。

真剣な表情でお茶を点てるSさん

お茶を始めたおかげで世界が広がったというSさん。先生曰く「Sさんは好奇心がとっても旺盛で、積極的に色んなことを学ぶ熱心な姿勢が素晴らしい」。今度は書道も始めようと考えていらっしゃるのだとか。

「人生100年時代と言われているので、お茶がきっかけで出会ったものをこれから少しずつ愉しんでいきたいです」(Sさん)

本日のお稽古は終了。最後もしっかりと挨拶で

今回もお稽古に密着させていただき、ありがとうございました!

次回は……神楽坂お稽古場ならでは!お稽古後のランチの模様をお届けします。

撮影/TADEAI 久野藍

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