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女性の身体の変化ときもの 「台湾きものスタイル考」vol.10

女性の身体の変化ときもの 「台湾きものスタイル考」vol.10

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きものの未来については、ライフスタイルやTPOに合わせた「着やすさ」も人それぞれですから、着たいものを着る、そこに制限をかけるような進み方だけはしてほしくないですね。「自由」と「伝統」をうまく共存させながら、とにかく「誰もその本当を知らない」未来にならないことを願ってやみません。

着物にまつわるルールとは

「ルール」は式典などでの装いには必要ですが、礼装ではない普段の着物では、コーディネートの幅や着物を着る楽しさが狭められるようなことを、あたかも「決まり」のように伝えてしまうことには気をつけたいと実感しました。

10月の台湾

もう、10月。
あっという間に今年が終わってしまいそう…袷の季節だというのに、気温は30度近い台北ですが、ようやく朝晩に秋の気配が漂い始めました。
日本から、季節感がズレて少し置いてきぼりな感覚になる数ヶ月の始まりでもあります。

デルタ株の国内感染も抑えた台湾では、10月10日に双十国慶日(中華民国の建国記念日)が盛大に祝われました。

歴史に翻弄されてきた台湾の今については、こちらのYouTube(中華民国国慶節プロモーションフィルム-2021年)をご覧ください。

きものの始め時

きもの離れが進んで長い中でもきものに興味を持ち始めたり、きものを普段に着始める人が少しずつ増えている気がします。

それは私自身がきものをとりまくコミュニティにいて、積極的に情報を取っているせいもあるでしょう。

実際はまちなかに、きもの姿のかたが溢れているわけではないので、まだまだごく少数派なのかもしれませんが、私のもとに届くコメントや、ここ台湾でも着付けを習われたかたが、実際にご自分のペースで日常に少しずつきものを着ることを取り入れて下さっているのを見ると、「増えている」と実感できます。

もちろん20代できものを積極的に着ているかたもいると思いますが、私の受ける感覚では、「新たにきものを着始める」のは若いかたより中高年の女性に多い気が致します。

後ろ姿菊の帯

私もそのひとり。
40代後半から日常の外出に積極的にきものを着るようになりました。

経済的時間的なゆとりが手に入ったり、情緒の成熟、環境の変化や家族から譲り受けるということなどがおこる時期でもあり、また身近な人が着始めて影響を受けることもあると思います。

きものを着始める理由は人それぞれですが、女性の経年による身体の変化もその理由のひとつと言えるのではないでしょうか?

女性の身体の変化ときもの

台湾できもの

「更年期」といわれる心身の変化は、早いかたで30代後半から始まります。

更年期=閉経と直結するかたもいらっしゃいますが、閉経前後の10年〜20年間におこる様々な心身の不調や変化のことを指します。
大事なことなので2度いうと「閉経前後の」です。

一瞬で終わるのではなく、長いのですよ。
もちろん自覚症状のないかたもいて、「更年期の障害はいっさいなかった」とおっしゃるかたもいます。

情報が曖昧なのと、人により症状としてのあらわれかたが違うため、実際に経験してみて過ぎ去ってみてからでないと、あれが更年期だったのだと気づかない場合も多いのでしょう。また気づいた時や思い返した時には、その症状は緩和されていることも多く、本人も忘れてしまうため、後世に言い伝えられることのない場合もあるでしょう。

女性の生理については始まりも終わりもオープンに話すことをタブー視する傾向があり、それが「更年期」も曖昧なものにしています。

その長い長い「更年期」に入ったと思われるころ…これも「今日から更年期に入りますよ」というお知らせめいたものはありません。
なんとなくぼんやり感じる、違和感のようなもの、また「気のせい」にしたい現象などがその始まりだったように思います。

気のせいにしたかったのは、ニの腕や腰回りの身体のラインの変化でした。

趣味で定期的に大人バレエのクラスでレッスンを受けていましたから、自分の全身を鏡で見る機会は多く、確実に身体が変わってきているのを目の当たりにしました。

自分に似合うと思っていた服装に、違和感が出始めたのも同じ時期だったように思います。

バレエシューズ

きものは、気になり始めた二の腕や腰回りの変化や脚などをうまく隠し、さらに「しとやかさ」までも演出してくれました。
着慣れなかった時期の、ちょっとした「特別感」は更年期の不調やそれらに落ち込む心に光を与えてくれるようでした。

草履や下駄は長年築き上げてきた外反母趾にも優しく、どんな靴でも、新しい靴には靴擦れをおこしてしまう私の足にとって、救世主が現れたように感じました。

着付けの動作による変化

自覚し始めた右肩の鈍い痛みにも着付けの動作は、これ以上酷くしないためのストレッチには最適でした。

目眩がおこるようになったことから、バレエ教室への足は遠ざかり、時間が空いたことも着付けへの探究に傾倒していった理由と言えるでしょう。

きものや帯の美しさに触れることは、そういった身体の変化、ホルモンバランスが変わることによる心の落ち込みに、優しく寄り添い、豊かな時間を与えてくれているように感じました。

ただ、良いことばかりでもなく、きものを遠ざけてしまう症状もあります。

更年期の症状として有名な体温の突然の上昇や、ほてりやのぼせ。首から上だけ汗が出るという「ホットフラッシュ」などは、洋服の重ね着とは違い外出先では脱ぎ着ができないきものはちょっと不便です。

私の場合は、1日の中で予測できない瞬間に突然全身が熱くなり、しばらくするともとに戻る、というものでした。
きものが快適な時間帯もあれば、暑くてたまらない時間帯も訪れ、そんな時は1人だけ全身に大汗をかいてしまいます。

空調が寒いくらいに効いている場所以外では常に不安です。
逆に冷房で長時間身体を冷やしてしまう懸念は肩やお腹周りは布で守られているのでさほど問題ではありません。

体の変化と着物

また、同じ時期におこる四十肩や五十肩。
これもある日突然腕の動きに違和感と痛みが生じ、半年くらいたつと自然に治るのです。
どうして自然に治るのかは解明されていないようですが、実際に私の身にもおきました。

今右肩は問題なく動いていますが、2年前にバンザイはおろか、背骨を触ることができませんでした。その後、今度は左側に五十肩と言われる痛みが出ていましたが、「ある日突然」治ってしまった様子です。

始まりも終わりもわからない痛みで肩の動きが制限される五十肩ですが、帯を結びたい一心で少しずつでも可動させていたことは私にとっては良かったと思っています。
ただこれは人によりますので、痛みを我慢してきものを着ることを勧めているわけではありません。

着物について考える

何に対しても無理をしないこと。

私にとってはきものを着ることが、更年期を快適に過ごすひとつの方法だった(まだ継続中です)という例で、もしかしたらこの先きものが着れなくなる事態がおきるかもしれませんし、それはわかりません。

着やすい、きものの未来

グレイヘアの先駆者で、こちらのインタビューにも出られた近藤サトさんが先日Twitterにて、
「どうしたら、きものをより多くの人に着て貰えるか、買って貰えるかを考えるお仕事をいただき悶絶しています」と呟いておられました。

”近藤サト””牛首紬””白根澤”

テレビでお見かけする着物姿が印象的な近藤サトさん。フリーアナウンサー、ナレーターとして活躍するなか、メディアを通じて着物の魅力を精力的に発信されています。今回は近藤さんに、愛する着物文化について感じていることをお話しいただきました。

そこには普段からきものを着ている、またはお仕事にしている多くのかたがたからコメントがついていました。

Twitter上では「買いやすい価格帯」や「自宅で洗えるきもの」の普及「学校で着付けを教える」「自由な着こなしの許容と周知」といったご意見が多かったようです。

また一部の呉服屋さんに対しての販売の強引さを指摘する意見も目立っていました。

私も普段感じていることを書きましたが、「きもの姿が素敵だな」という光景や、身近にきものを着る人が増えて、普段にきもの姿を目にする機会が増えることが「着てみたい」に繋がると思っています。

私は特にきものを広めようとは思っていませんでしたが、もの珍しい、と思われる視線から逃れるのと、自分が「買いやすくなる」には、着る人が増えたほうがよいのではと考えるようになり、自らきもの姿をSNSに投稿し、かれこれ7年以上になります。

また着たいかたが「自分で着れる」ようになればと、YouTubeで着付けを発信して数年になります(『着物ひろこHiroko Hasegawa KIMONO チャンネル』)。

YouTubeで着付けを発信して数年になります。

きものは高いものも、比較的安く買えるものもありますが、「高いから買えない、売れない」と、手頃に買える安価な店やリサイクルだけに走るのでは技術が残らないといった問題や弊害がおこり、結局廃れてしまう危機はなくならないのが悩ましいところです。

新たに誂える、仕立て直す、お手入れに出すことも必要なことだと実感しています。

また最低でも冠婚葬祭のルールは守りつつ、自由な着こなしが許される風潮も必要だと思います。

ただこれらの意見は既に、業界の皆さまも十分にお考えの上、対策や新たな試みの実践、努力、改善に手をつけておられる印象も受けています。

この中で私が強く感じたことは、きものに縁のない、大多数のかたと、既にきものを実際に買ったり着たりしている一部のかたがたとの、情報の差が開きすぎているのではないかということでした。

興味のないことに関しては積極的に調べないのは、きものに限ったことではありませんが、「このくらいはわかっているだろう」という前提が違うのかもしれません。

2017年の「しまむら」のTVCMで「洗えるゆかた」というフレーズを聞いた時には、当たり前すぎて何をいっているのか?と、一瞬固まりましたが、ゆかたは昔から自宅で洗えることが、2021年にどのくらいきものを着ないかたにも周知されたのでしょうか。

ゆかたときものの着姿の違いに気づかない、わからない人が多いのは実は、海外のかたの反応や理解度とあまり変わらないのかもしれません。

そう考えると、小学校や中学校などの義務教育課程に、民族衣装としてのきものの種類と格について学ぶ機会を作ったり、きものに触れる機会があるのが望ましいと思います。

台湾の茶席

台湾には伝統的な民族衣装として漢服があります。
けれども今ではその正式な姿は消滅していて、映画などでは一部が想像で、またコスプレ色の強い形となって最近流行り出しているということです。

ファッション性を重視し、売りやすく買いやすく、より着やすく変化していくのは仕方のないことかもしれません。ただ、普段着だからと、洗えるもの、太物(ふともの:綿や麻の織物のこと)だけになってしまうのも寂しいものです。

ライフスタイルやTPOに合わせた「着やすさ」も人それぞれですから、着たいものを着る、そこに制限をかけるような進み方だけはしてほしくないですね。

日本のきものは、民族衣装でありながら日常にまだ残っている、また海外の方もごく少数ですが着こなされている、その事実は稀なことです。

「自由」と「伝統」をうまく共存させながら、とにかく「誰もその本当を知らない」未来にならないことを願ってやみません。

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