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短い春の終わり、桜への思い 「台湾きものスタイル考」 vol.3

短い春の終わり、桜への思い 「台湾きものスタイル考」 vol.3

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何故こんなにも桜の花が私の心を捉えるのか… これは、ごく個人的な思いに起因しているのですが、寒い冬を越えパッと咲いたかと思うと、わずか10日やそこらで見る人の心を和ませ笑顔を生み、惜しまれつつも一気に散りゆくその潔さに深い憧れを持ったのがはじまりでした。

台湾の3月

台湾の3月は二二八事件の和平記念日(振替休日)からはじまりました。
日本で学ばなかった歴史を、海外に暮らすことであらためて見聞きすることが多々ありますが、この日は台湾の民主化への重要な意味を持つ日です。

不安定な気候も台湾らしい一部なのかもしれません

台湾が「親日」と言われている理由のひとつには、二二八事件の悲しい歴史のインパクトから、日本統治の方がまだ「まし」だったことがあげられます。
たしかに日本好きな方にも多く出会いますが、手放しに「親日」だとあぐらをかくべきではないと常に頭の片隅には留め置いています。

「海外で着物」イコール「もてはやされる」「歓迎される」とだけ考えている方がいるとしたら、あまりにも不用心だといえるでしょう。
「好きだから着る」「民族衣装だから着る」ことができるのは日本国内でのこと、また世界が平和であることが大前提だということを忘れてはいけませんね。
「着物が好きよ」と言ってくれる台湾の人やその他の国の人に出会う度に、その幸運を噛み締めています。

3月1日からの1週間は、気温が29度を超える日があったり15度に下がる日があったり、春をまたいで冬と夏が行ったり来たりする不安定な毎日でした。
気持ちも身体も、まだ春からうまく切り替えられていないことを季節の変わり目も承知してくれているかのようです。
真夏日が続くまでのこんな気候も、台湾らしい一部なのかもしれません。

雛人形が飾られている日本の和菓子屋さんのショーウィンドウ。
うっすら映る行き交う人々の姿いも、半袖とダウンジャケットが混在していました。

雛人形が飾ってある和菓子屋さんのショーウィンドウ

桜への思い

台湾に「桃の節句」はありません。
旧正月の春節、旧正月明けの元宵節、その後の大きな節目は、端午節となります。
(お墓参りをする清明節、比較的新しい児童節も端午節の前にあります。)

それでも日系の店舗に雛人形が飾られたり、桜餅などが和菓子屋さんに並ぶので「雛祭り」を忘れずにすみます。
一度飾られた雛人形は5月まで飾り続けられるのですが、子供の頃に雛人形をしまうのが遅れると婚期が遅れるからと、3月3日を過ぎると慌てて片付けてきたことを思い出して苦笑してしまいます。

2月に咲きはじめた台湾の桜は、約ひと月近く散ることもなく、人々の目を楽しませてくれました。

開花からわずか2週間くらいではらはらと、また風に吹かれ豪快に散りゆく桜の風情も日本ならではのものだと実感し、今年もその風景が見られないことをとても残念に思います。

千鳥ヶ淵の桜

私は東京での生活が長かったので、桜といえば千鳥ヶ淵でした。
お濠の土手に迫り出した黒い幹や枝と薄ピンクの花びらとのコントラストが美しく、水面に映る幻想的な風景は、何時間でもそこに佇んでいられるくらい荘厳かつ神々しいのです。

年々人出が多くなり余計な色味のライトアップが少々興醒めでしたが、それでも桜といえば心だけはいつもあの場所に飛んでいくのです。

何故こんなにも桜の花が私の心を捉えるのか…
これは、ごく個人的な思いに起因しているのですが、寒い冬を越えパッと咲いたかと思うと、わずか10日やそこらで見る人の心を和ませ笑顔を生み、惜しまれつつも一気に散りゆくその潔さに深い憧れを持ったのがはじまりでした。

桜に惜しまれつつも一気に散りゆくその潔さに深い憧れを持ったのが始まりでした。

初めて千鳥ヶ淵の桜の前に佇んだ日の私は、精神的にボロボロでした。

明け方の5時くらいだったでしょうか…
もちろんひとけはなく、しんとした、霞のような霧のような白んだ空気のなか、さらに白い桜が幻想的に浮かび上がっていました。
多分その頃、常に死を意識していた私にその光景は「咲いて散りなさい」と教えてくれているようでした。

「咲く」というのは決して華やかという意味ではなく、「生きる」こと。
「生きてから死になさい」と。気づくと涙があふれていました。

「咲く」というのは「生きる」こと。

あんなふうに潔く散りたいー
そのために生きる。
順番はおかしいですが、私には「あの桜をまた来年見るまでは生きていよう」と思えた朝でした。
それから東京を離れるまでは、毎年その年ごとのさまざまな思いを抱えて桜を愛で、いつしか「死」は私の意識からは遠ざかっていきました。

今もあの風景を思うと、あの時の自分を心の片隅にみつけますが、すっかりたくましくなった私自身は動じることなく、お礼参りと報告のためにまた千鳥ヶ淵を訪れたいと願うばかりです。
3月、台湾では早くも藤の花が咲くようです。

グレイヘアへの道のり

先月髪型を大幅に変え、ショートボブになりました。
読者のみなさまを驚かせたようで、「ウィッグですか?」という質問もいただきました。
実はいきなりではなく、昨年末にロングだった髪をまずはセミロングに切りました。
この時点ではまだ和髪アップも出来、白髪染めもしながら黒髪をキープしていました。

ただ2週間もすると白髪が気になり我慢できなくなるため、思いきって美容師さんと相談し、グレイヘアへの移行を決めたのでした。
グレイヘアとひとくちに言っても、すぐに全頭がグレイや白髪になるわけではなく、白髪を育てる期間が必要となります。

かといって放っておけば良いわけではなく、セルフで白髪染めをしてしまった人ほど手間をかけないと綺麗なグレイヘアへの道のりは遠くなります。

かくいう私もセルフで数年過ごしてしまったために、これからの数年間は2週間ごとに美容院に通い徐々に変化させていくわけです。
ということで、いきなり老け込むこともなく、激しい変化もなく、緩やかに楽しみながら変わっていこうと思っています。

コロナ禍で頻繁に出かけることがなくなり、また海外に住んでいるということもあって、髪色の変化など冒険はしやすい気がします。
また髪色や髪型を変えると、いつもとは違う雰囲気の装いをしたくなるのも新鮮で良いですね。

短い春の終わりに

私にしては珍しく薄いペパーミントグリーンの紬に袖を通した際、髪色が真っ黒の時よりも、明るくした今の方が似合っているような気がいたしました。
明るい色の着物を纏いカメラの前にたちましたが、実は写真に映った肌質にがっかりしました。年齢を重ねながら、加齢に抗う気持ちがなかなか取れずにいます。

髪だけではなく、顔のシワや身体の変化など「目に見える全てを自然に受け入れ愛おしく思えるようになりたい」と願いながらも、若さに執着を残してもいることを葛藤する日々です。

その中で強く思うことは、歳をステキに重ねたお手本のような方がもっともっと増え、さらには世にアピールしてほしいということです。どうも日本をはじめとするアジア近郊では「若さ信仰」的な空気が蔓延しているように感じますので。

台北植物園で、老化についてしみじみ考えていました。

こちらで老化についてしみじみ考えていたのは…私くらいでしょうね。
日本人の持つ季節感を裏切って、美しく咲く花や生命力にあふれた樹木を間近に感じられる台北植物園です。

入園料無料で日本庭園や蓮池などもある台北植物園は、ベンチや木陰もたくさんあり、本を読んだり考えごとをするのにも良い場所です。
都会のど真ん中にありながら緑あふれる敷地で、静かな時を過ごすのには、暑さが本格的になる前の今の時期が最適でしょう。

夏の支度

桜が散った台湾では菖蒲や紫陽花が咲き始めていました。

3月、日本ではまだまだ袷着物の時期ですが、気温で言えば台湾では単衣着物が心地良く、4月に向けて小物を夏物に移行する準備をはじめています。

桜が散った台湾では、菖蒲や紫陽花が咲きはじめていました。
藤の名所で有名な淡水エリアでは、3月25日より藤園の花見の一般公開が行われます。

単衣着物に冬(袷用)の帯、帯揚げ帯締めというスタイルから、まずは半衿、帯揚げ、帯締めなどを夏用に。
この時期、単帯やオトナ感覚の兵児帯があると着姿も洗練され着心地も良いので、南国で着物を着る方や暑がりの方にはおすすめです。

その後、帯も夏帯に変え、最終的には夏着物に夏帯、また帯揚げ帯締めなどの小物まですべてが夏仕様となります。

藤の花が描かれた染め帯は急いでつけないといけません。

藤の花の描かれた染め帯は、(台湾では)3月いっぱいでしょうか。
急いで着けないとまた今年も出番がなくなってしまいます。

また、お手入れのため日本に送っていた絽ちりめんや絽や紗などの夏着物が、台湾に戻ってきました。夏着物は汗をかきますから、そのシーズンが終わったらお手入れに出します。

暑いから着るものを重ねるのが嫌だとおっしゃる方も多いですが、私は下着や補正が汗を吸ってくれるほうを採用しています。
洗える着物ももちろん便利で、私も夏用の着物は洗えるものを増やしがちですが、正絹の肌触りの良さや熱を解放してくれる天然素材は、やはり着心地が良いと感じます。

いろいろと書いてはいますが、体感温度はもちろん、用途や生活スタイルに合ったものは人それぞれ違いますので、どんな方のおっしゃることも参考程度にご自身の心地よさを大切に着物を楽しんでいただきたいと思います。

髪色や髪型を変えると、いつもとは違う感じの装いをしたくなるのも新鮮

まだこれから桜が咲くという、日本では3月の半ば。
そんな時に、4月の、気温が30度を超える日に纏う夏着物の準備を考えている私の話は、2ヶ月後にあらためて読み返していただくと良いかもしれません(笑)

今は3月いっぱいに着る袷着物をいよいよ厳選し、すでにお手入れに出した一便の次をどうするか考えています。
1、2回しか袖を通さなかった袷着物は、汚れをチェックし、シワにならないようたたみ直し。クローゼットに積み上げた、季節ごとのたとうしの束も入れ替えます。

手をかけ、愛情を出し惜しみせず、「好き」を大切に負けを認めましょう。

「着物は大変ね」と言われたり見聞きしたりしますが、この「大変」、好きな人にとっては実際に大変は大変なのですが、気持ちの上では大変ではなく、着物を着る喜びとセットになっているのです。

「好き」なことは、まだそれを「好き」ではない人から見たら「大変」に映るものです。
でも、「好き」になったらもう完全降伏ですよ。

恋人も夫もペットも趣味嗜好も、「負け」で結構。
たとえ大変な側面を感じても、「好き」が勝るものです。
手をかけ、愛情を出し惜しみせず、「好き」を大切に負けを認めましょう。

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