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1年遅れのステイホーム 「台湾きものスタイル考」 vol.7

1年遅れのステイホーム 「台湾きものスタイル考」 vol.7

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着物は、私のなかで「おしゃれ」の範疇にあり、ただのお出かけにちょっとした楽しみを加えてくれたり、気分が高揚するものなのです。なかでも緊張感を持って着れるものを着る機会は、じつはそれをなくしてみると、とても大切な時間だったことに気づきます。

台湾の推しスィーツ「マンゴーかき氷」

こちら台湾では、かなり厳しい外出自粛生活も、はや2ヶ月。

季節はずっと夏のままですが、毎年楽しみにしていた台湾のいちおしスイーツ「マンゴーかき氷」を、まだ今年は食べていません。

カフェやレストランはお持ち帰りのみの対応にてかろうじて営業を続けていますが、かき氷はやはりその場で食べたいですよね。

和装用トルソーで楽しむ夏

日本のみなさまに比べましたら、「一年遅れ」の台湾でのステイホームを経験しています。

日本からの航空便(EMS)にて、和装用トルソー(名前を付けようとしましたが決まらないので「トル子(仮)」としています)が台湾の自宅に届いたのを機に、コーディネート写真の整理をはじめました。

私は主に、インスタグラムを着物コーディネート記録用として使っています。
ですが、写真を撮り忘れていたり、いくつかのコーディネート候補のうちのひとつの組み合わせの写真しかなかったりと…あらためて見返してみると手を加える部分が多いことに気づきました。

着物や帯や小物類を、単独ではなく実際に着た状態で写真を残しておくと、手持ちのものの把握や季節ごとのコーディネートの備忘録としても見返すことができおすすめです。

着物や帯の数が増えてくると、しまい忘れていたり、組み合わせがマンネリ化してしまったり…それによって新鮮さが薄れてしまうことがあります。

もちろん「この着物にはこの帯と帯揚げ帯締めが1番似合う」「この組み合わせ以外は着る気にならない」というほどお気に入りのコーディネートもあるのですが、トル子(仮)には個性的な顔が乗っていないせいか、私にとっては意外とも思える組み合わせも着こなしてしまいます。

新しい発見や既成概念が崩れる楽しさがあります。

新しい発見や既成概念が崩れる楽しさがあります
着せ替え人形での遊びを彷彿とさせる楽しさもあります。

写真の整理が目的なので、過去に撮った組み合わせは省略しながらですが、箪笥(クローゼット)の整理も同時に行うこととなり、時間がいくらあっても終わる気がしません。

また、コーディネートを組み直して写真に残すことで、万能なアイテムを発掘したり新たに加えたいものがはっきりするなど、メリットが大きいことにも気づきました。

さらに、この時期は汗をつけてしまうとお手入れの問題が発生しますが、実際に自分で袖を通すわけではないので、未着用の夏牛首紬や絽の付け下げなども、いつか実際に纏う日のために、いろいろなコーディネートを試せるのも利点です。

トルソーに着せたり脱がせたりするのは、幼い頃の着せ替え人形での遊びを彷彿とさせる楽しさがあります。

ただ、写真の整理と箪笥の整理をしているはずなのですが…
過去のカメラロールの着物の写真アルバムには、インスタグラムには載せていない、着物を着て出かけた先でのあれこれや、その時かかわった人たち、その時好きだったものなどが一緒に写り込んでいて、良い思い出ばかりが蘇り、ついつい時間がたつのも忘れて見入ってしまいます。

良い思い出ばかりが蘇ります。

おうち浴衣のススメ

冷房対策として浴衣は有効です。

みなさまのなかにも、自宅時間を浴衣で過ごされる方はいらっしゃいますか?

我が家はもともと、ともに通勤するような職業ではないので自宅で過ごすことには比較的慣れていると思っていましたが、制限されたなかでの自宅生活が長くなると、やはり軽いストレスは感じるものです。
外出しない毎日…朝から晩まで同じルームウェア(私の場合はどこも締めつけないやわらか素材のワンピース)というのは、楽ですが味気ないものです。

化粧をしない日が続いたある日、1日を浴衣で過ごしました。
なんのことはない、補整はしない帯も結ばない―まさに寝巻きのような感覚でした。

「浴衣は涼しい」と書きたいところですが、正直汗だくになりました(笑)。
逆に、冷房と扇風機とで室内温度をかなり下げた状態だと、身体が冷えすぎず、程よく快適に過ごせました。

南国では「涼をとるため」ではなく「冷房対策」として浴衣は有効です。
それでも、自分の着ている浴衣の袖や裾が目に入るたびにうれしく、なぜか優しい気持ちになれました。

大きな気分転換となります。

外に出かけられない、おしゃれができない今、自宅内で浴衣を楽に着る。
ただそれだけのことが、大きな気分転換になります。

外出用に適した浴衣と、自宅でそのまま寝転べくつろぐのに適した浴衣との違いにも気づけました。

まだまだ自粛生活が続くようなら、自宅用の浴衣を増やしたいと目論んでいます。

着物が着れない理由と、台湾の防疫警戒レベル3級の中身

LOVE

着物を着て出かけることができない日々が続いています。
それは、着物を着ることを誰かに禁止されているわけではありません。

台湾は現在(2021年7月7日)、「外出自体を控えるように」という警戒レベルです。
唯一とも言える外出先であるスーパーは、行く曜日が個人番号によって分けられているというような状況であり、自己判断で控えています。

マスクの常時着用の義務付けに加えて外出時の飲食は一切できませんから、外出する楽しみがない上に休憩もままなりません。

そうそう、公園のベンチの周りはまるで事件後のような黄色いテープが巻かれ、近所のお年寄りの憩いの場も失われたまま。

どんなに小さなお店に入るのでも、立ち寄り場所には、携帯をかざすか手書きで履歴を残すため、つい寄るのをやめてしまうことのほうが多くなり、短時間で目的のみを果たす味気のない外出となっています。

外出が制限されている台湾
空き物件が目につくようになりました。

そしてやはり、商店街やビルなどに空き物件が目につくようになってきていますので、深刻な状態が改善されるのが待たれます。

最初は2週間の予定でした。
でもその時間が長くなるほどに着物を着たいのに着れないジレンマを抱え、なぜ自分は着物を着て出かけることを控えているのかを何度も自問するようになりました。

着たいものをいつでも好きなように着れば良いと思う気持ちと、今は控えておいたほうが良いと思う気持ちとが行きつ戻りつしながら、実際にはスーパーか病院へ行く以外の予定はすべてなくなり、外出自体のハードルが上がったままです。

残念ながら着物は、浴衣も含め、すでに日常のものではなくなっています。

着物を着たいのに着れないジレンマ
「着物を着て出かける」のが好きなのです。

私は24時間365日着物生活をしているわけではなく、普段使いにもフォーマルシーンにも着物で出かけることが多い、というスタイルの楽しみ方をしています。

着物が好き、そのなかでも「着物を着て出かける」のが好きなのです。

好きが高じて今では洋服の数よりも着物の数のほうが多いのですが、それでも出かけない日常の日々に袖を通すのは洋服のことのほうが多いです。

着物は私のなかで「おしゃれ」の範疇にあり、ただのお出かけにちょっとした楽しみを加えてくれたり、気分が高揚するものなのです。

行き先がスーパーだけでは、気分を高揚させる気もなくなります。しかも35度を超える日差しの中、一度にできるだけ大量に求める食材の買い出しです。

着物?浴衣だとしても今は着る気にならないのが現実です。

さらに言えば、海外で着物姿は目立ちます。生活圏内で誰もが外出を控えている時に、わざわざ目立つ出立ちでスーパーに行くのは賢明ではないと思うのです。普段着感覚の浴衣だったとしても外国人から見たらその違いは分からず、「漂亮!(綺麗)」と声をかけられてしまう「めかしこんだ」印象なのですから。

そしてそれは、「着物=日本人」と日本人代表のように受け取られてしまう危険もはらんでいます。

誰もが自粛し我慢している時に「浮かれている」と思われたりしないか、またそれが在台日本人にとってマイナスになりはしないか…といった懸念が、自分のなかで拭いきれずにいます。

着物が大好きだからこそ、着物を着たことがマイナスの印象を生んで欲しくないと強く思います。

そんなふうに、自分のなかで許可が出せていないため、着物を着て外に出ることも自粛しています。そろそろ限界…カフェに行きたいし美しい景色も眺めたい、お茶のお稽古にも行きたいです。

どちらも良さと魅力があります。

台湾人の方々もかなり引きこもっている様子。おかげさまで、3桁だった新規感染者数も2桁まで減りました。台湾は再びゼロを目指しているのです。台湾加油!

警戒レベルが緩んだら…
まずはかき氷を食べに行き、スーパーに立ち寄りましょうか。
もちろん、浴衣を着て、お気に入りの日傘をさして。

着物を着るのは誰のため(海外での着物) 「WORLD KIMONO SNAPS」 – TAIWAN –

着物を纏うのは誰のため?と問われれば、当然自分のためと答えます。が、暑い時期の着物には、自分よりも見ている人に涼を感じさせる役割があるのではないでしょうか。

「正絹」の夏着物に魅せられて

台湾加油!

外出を我慢し、自宅で、自分は浴衣や麻の着物を着て正絹の夏着物をトルソーに着せていると、その素材感や透け感・優雅さの違いが、目から指先から感じられ、同じように夏に着る着物でありながら、まるで違うことをあらためて実感するのでした。

浴衣をはじめとする、自宅で洗える気楽な着物と、プロにお手入れを任せなければならない美しく繊細な正絹の夏着物。
どちらにも良さと魅力があります。

「夏は自宅で洗えるものしか着ない」などと宣言せず、素材ごとの特徴や着心地を楽しんで欲しいと思います。

正絹の絽や紗の着物のお手入れは、(特に大きなシミなどつけなければ)シーズン終わりに丸洗いクリーニングか汗抜きに出すのですが、それが約5000円ほど(キャンペーンなどを使えばもう少しお安いかもしれません)です。

シーズン終わりにクリーニングに出します。
パールトーン加工などをしていれば安心です。

最初にパールトーン加工などをしておけば、汚れがつきにくく落としやすいので安心です。

袷の着物と違い、シーズンに一度でも着たらお手入れに出すのが正絹の夏着物を長く綺麗な状態で着るコツです。洗いすぎも生地を痛めると聞きますので、ローテーションのための数が欲しくなりますね。

緊張感を持って着れるものを着る機会は、とても大切な時間

正絹の夏着物は、限られた季節ならではの「贅沢なもの」なのかもしれません。
ですが、自宅で手軽に洗えないからこそ、細部に気を使う所作が優雅さを生み出すとも言えます。

緊張感を持って着られるものを着る機会…
実はそれは、無くしてみてはじめて、とても大切な時間だったことに気づきます。

この原稿は7月7日時点の台湾の状況で書いたものです。
台湾の防疫警戒レベル3級は予定していた12日には解除はされず、26日まで延長が決まりました。
ですが一部緩和措置として細かい制限はありながらも、飲食店での食事ができたり、美術館、映画館、運動施設などは開館されています。

京都きもの市場 浴衣一覧
京都きもの市場 正絹夏物一覧

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