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早すぎる春の訪れ 「台湾きものスタイル考」 vol.2

2月の台湾は気温もほどよく、雨も少ないハイシーズンと言えるでしょう。ここまで気温があがれば、桜も藤も開花しますね。これは決して冗談ではなく、実際にこのあたりから台湾と日本とでは季節感にズレが生じてきます。

台湾生活も、慣れたはずの3年目。
年末年始の冷え込みが夢か思い違いだったかのような、あたたかい春節を迎えています。

あっという間に冬が終わってしまった、という感覚にとまどうばかり。
もう寒くなることはなく、日に日に「あったかい」のがうれしい日から、「暑い」という感覚に変わっていく時期となりました。

まだ2月ですが、洋服では半袖でも差し支えのない日が増えてきました。
こうなると早くも、袷着物を着るか、単着物にするかを悩む日々となります。
体感で選ぶのはもちろんですが、気温が上がれば室内や乗り物には冷房が入るので、暑さ対策をすることで、寒い思いをする場合も南国ならでは。

また日中と朝晩との気温差も大きい時期です。
短い秋冬に、袖を通せなかった袷着物を着たい思いもあいまって、単純に外気温だけでは選べないのです。

台湾における季節感

2月の台湾は気温もほどよく、雨も少ないハイシーズンと言えるでしょう。
ここまで気温があがれば、桜も藤も開花しますね。
これは決して冗談ではなく、実際にこのあたりから台湾と日本とでは季節感にズレが生じてきます。

和菓子職人の楊さん
三日月茶空間の楊さん

台湾での「季節を代表する草花」とその「開花時期」について、先日、和菓子職人の楊さんにお話を伺ってまいりました。
季節を和菓子で表現することに関して、もはや芸術家とよびたいほどの腕前の方です。

日本人なら当たり前にある「季節ならではの草花のイメージ」がことごとく崩される、衝撃的な時間となりました。

月を追いながら説明を伺いましたが、その都度、「そんな…」とか「ええぇ?!」など、驚きを隠しきれず思わず声をあげてしまいました(大変失礼だったと反省しております)。

一番驚いたのは、台湾にはチューリップが春の花として認識されていないばかりか、ほぼ見られないということでした。
また菜の花が一年中咲いていると聞き、幼い頃に歌い親しんできた童謡が、はるかかなたでフェードアウトしていくような感覚に襲われました(笑)。

椿の練り切り

梅や椿、桜や桃、紫陽花やひまわり、また朝顔など、着物や帯の図案に使いたいと思うような草花の開花は、ほとんどが「日本より2ヶ月ほど早い」というのがざっくりとした印象です。

季節の先取りと早すぎる桜の開花

日本ではまさに今、梅の花が満開の時期でしょうか。
台湾では、1月末に、すっかり花が落ち絨毯のようだというニュースを目にしました。

そして同じ頃、私は「新店」という場所を訪れましたが、そこにはすでに桜が咲いていました。

すでに桜が咲いていました
桜とピンクの小紋写真

そこは台北でも開花が早いほうだということでしたが、つい先日、春節前に訪れた「陽明山」の桜もすでに満開となっていました。
少し趣は違えど、さながら日本の春の景色のようでした。

みなさまには、日本に比べて季節が1〜2ヶ月早く巡る「先取りし(すぎ)た」着物コーデの私をご覧いただくことになるでしょう。

和の世界では、着物や帯の模様に「季節を先取り」するのが「粋」で、その草花が実際に咲き誇る時期には、描かれたものを着るのは「無粋」だという意見をよく耳にしますね。
また逆に、季節の花が咲いている時にこそ着なければ着る時期が短すぎるので、散り際まで着て楽しみましょう。という意見もあります。

季節の移り変わりを意識することが素敵だと思います

さらには、写実的に描かれていない限りは好きな時に着たら良いでしょう、とも聞いたことがあります。
たしかに、浴衣の柄に今が見頃の梅柄のものもありますし、暑い時に冬の寒さを思い出して涼を感じるように雪輪という模様のものもありますね。

何にしても、そうやって自然の息吹を着るもので表現しようとあれこれ思いを巡らせ、季節の移り変わりを意識することこそがステキだと思います。

これも、厳密に「こうでなければならない」ものというより「知っていたらより楽しめる」ものと、私は捉えています。

桜柄の帯

以前のコラム(『着物にまつわるルールとは』参照)で、「桜柄は南国では着づらい」と書きました。
桜模様が描かれた着物は袷の着物が多く、4月には真夏の暑さになる南国では、「季節を先取り」した3月だとしても気温はゆうに25度を超える日が続きますので…袷よりは単着物を選んでしまいます。

台湾の4月には「ひまわり」が咲くと聞いて驚きましたが、今年はもう咲いているそうで、2度びっくりです。
幼い頃から身近で目にしていた季節の草花が、咲くはずもない時期に突如目の中に飛び込んでくる…日本を離れていても日本人である私には、何年経ってもとまどうばかりです。

 
中正記念堂の門にて

私は今回、偶然手に入れた、珍しい単(ひとえ)仕立てでの桜柄の着物を纏いました。

この日の気温は26度。
自分の中に染みついた季節の感覚も、桜を「先取りしすぎ」たかな?という気持ちもいっぺんに吹き飛び、理想と現実の狭間で、時空を超えた別世界、夢の中にでもいるかのような錯覚を覚えました。

やはり桜は3月の終わりから4月、日本でいう春の別れや出会いの時期とセットのほうがしっくりきますね。

パンダの赤ちゃん

台湾においては、2月はさながら短い春ということでしょう。
春節休みも長いため、台湾の方々の行楽シーズンです。

海外に行けないぶん国内を堪能しようと、どこも混雑するのは言わずもがなですね。
私たちは遠出の予定は立てず、台北市内で静かに、今年2度目となる新年(春節)を迎えました。

そうそう、昨年6月に台湾台北動物園にて生まれたジャイアントパンダの赤ちゃんが、ようやく生後半年後となる昨年末から一般公開されていたので見に行ってきました。

昨年6月に生まれたパンダの赤ちゃん「圓寶(ユエンバオ)
圓寶(ユエンバオ)のお母さんパンダ

名前は一般公募からのネット投票にて選ばれた「圓寶(ユエンバオ)」。お母さんパンダの「圓圓」の「宝」という意味とのこと。
こんな時勢ですが、何ともほっこりとした姿にさまざまな緊張感が解き放たれ、癒されました。ぬいぐるみそのもののような愛くるしさに、ついつい通ってしまいたくなります。

台北動物園は、台北市の南東部にあります。
といってもMRT(地下鉄)で30分もあればどこかの観光名所に行ける台北市内。
しかも入場料は大人1人60元(約230円)ですから、時間があいたらふらっと訪れることのできる気軽さがあります。

パンダの大好物!笹柄の帯

着物や浴衣姿が似合うか?と言われたら疑問ですが、「たくさん歩く」ことが苦にならないなら、カジュアルな素材に動物や鳥が描かれたものや、パンダの大好物、笹の葉模様の着物や帯のコーデで出かけたり、また考えたり妄想するだけでも楽しめますね。

伝統的民族衣装とリアルクローズ

着物が日常から離れ、洋服にはない「着付け」に必須な教室や資格が要るようになりました。

ですが本来は「着るもの」です。
ハレの日に着る特別なものとしてだけではなく、リアルクローズとして普段に着るもの。
それは洋服のように身近であってほしいと私は思います。

着物は本来「着るもの」です。

台北では、着物が買える場所(店舗)というと、大手が一軒しかありません。
それでも今までは困らなかったのです。
なぜなら今までは緊急でない限り、台湾で着物類を購入する機会は訪れなかったから。
というのも、台湾と日本とは飛行機でわずか3時間の距離。
金額的に考えても、やはり日本のものは日本で買いたい。それは着物に限らず、生活に密着するものならなおさらでした。

でもそれが簡単に叶わなくなった昨年から、着付けを習い、着物がほしい真っ只中にいる生徒さん達のニーズに応えるべく、台湾国内で着物を販売している場所を探すようになりました。
大手以外では、私を含め、個人的に自宅などで口コミと予約制で新品なり中古なりを扱っているところがあります。

日本で購入したものをEMS(国際郵便)で台湾まで届けてもらうのですから、時間も経費もかかります。大手の場合、場所や維持費のほかに人件費なども上乗せされるのは当然のこと。そのあたりを覚悟しつつも、先日、生徒さん数人と、リサーチがてら、着物を扱う台湾人の方のもとへ行ってみました。

日本人が、日本の民族衣装である着物を台湾人のお店に買いに行く…
なんとも複雑な気分でした。

台湾人で着物を積極的に着ているのは、お茶や日舞などを習う、または教えている方がほとんどです。お茶をされる方以外では、海外という場所柄もあり、私の感覚よりかなり明るく華やかなものを好まれる印象です。

中古として海外に流れるものの多くは、訪問着など日本の箪笥の肥やしとなってしまったハレの日用ですから、華やかさを好むニーズとはぴったりです。
普段着るのには少し大袈裟な絵羽柄の逸品や、有名な作家ものなども、汚してしまうのは「もったいない」と大切にしまわれていたものが海を渡ったのだろうと想像がつきました。

海外での着物は、コスプレ感覚で着用される率が高いですね。
その店には小紋もありましたが、やはり色柄が明るいのが特徴でした。
「明るい」のニュアンスが違うこと、またさらにそもそも渋好みの私は、やはり経費をかけてでも日本から運びたい…と強く感じました。

着物がいつかなくなってしまうかもしれないと危機感

茶道や日舞を長年されており、比較的日本人に近い感覚を持たれている私の中国語の先生に、台湾の民族衣装についてお聞きしてみました。

すると返ってきた言葉は、台湾としてではなく、漢民族としての伝統衣装というものはすでに消滅している、というショッキングなものでした。
映画やTVの中、またはコスプレとしての「漢服」も、本当に正しいものか否かは今では不明なんだということです。

清の時代の民族衣装としては、おなじみ「チャイナドレス」と呼ばれるタイプのものらしいのですが、日本人が思うスリットの深く入ったものは日常的ではなく、やはりコスプレ色が強い印象のようです。
「チャイナ服」という普段使いできそうなデザインのものは、今でも街着として着るというお話でしたが…正直あまり街中では見かけません。

そんなこんなを考えると、日本の民族衣装である着物がいつかなくなってしまうかもしれない危機感が、急に現実味を帯びて迫ってくるのでした。

着物が身近にある人の中にいると、わかりにくく、信じがたいことです。

倉庫や箪笥の中には大量の着物があり、それらをお得に購入した人の声が飛び交い、毎年シーズンが変わるごとに、新しい着物や帯を仕立てる様子がネット上にあふれています。

トラディショナルなスタイルを好む人と、斬新なファッションとしてその形を変えようとする人がいて、その中間の和洋ミックスもあり、人の着こなしや乱れに顔をしかめる人が着物警察と呼ばれる現象も、もはや風物詩のようになっています。

ヴィトンの前

ネット社会になり次々に新たなSNSがあらわれ、人は見たいものだけを意識的に見て、興味のある情報とそれを肯定する人や物だけが身近にあつまるようになりました。
そして、それがあたかも全体像かのような錯覚に陥ります。

私は着物が好きです。ただそれだけでした。

そして着付けを教えたりYouTubeで発信したりすることで、着物を着たいと思う人や、着物を着ることを楽しむ人が増えるのがうれしいと感じるようになりました。

大義があるから着物を着ているわけではないのですが、着物がなくなるかもしれない未来は想像したくありません。

普段着としての着物も後世に残っていって欲しいと思います

「自由」と「伝統」をうまく共存させながら、とにかく「誰もその本当を知らない」未来にならないことを願ってやみません。

「普段着としての着物も後世に残っていってほしい」と、強く、強く、思うのでした。

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