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きもののファッションと文化 「台湾きものスタイル考」vol.9

きもののファッションと文化 「台湾きものスタイル考」vol.9

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まだまだ暑い台湾の9月。単衣をまだ着れないと嘆くのではなく、その日の天候や気温で、夏着物も単衣着物もゆかたも混在させて、選べる自由を楽しめる期間なのだ、と思うことにし、実践しています。

着物を”敬遠させるもの”と”奥深さ”「WORLD KIMONO SNAPS」 – TAIWAN –

この夏、とうとう袖を通さなかった着物があります。 たとう紙に包まれた着物に風を通したあと、「また、来年ね」とそっと声をかけ、クローゼットの扉を閉める。 さて、来年はどんな夏になるのでしょうか。

再び新規感染者数を抑えることに成功した台湾では、少しづつ街に人が戻り、イベントなども開催されるようになってきました。

台湾では少しづつ街に人が戻ってきました。

それでも慎重な対策は続いており、室内で集まるのは警戒レベルの規定では80人とされていますが、私が参加したこれまでの室内イベントは20人以下に抑えられていました。

イベントは予約制で、参加者の実名登録が必須。カフェやレストラン利用時も口に物を入れる時以外はマスクを常時着用など、まだまだ油断は禁物というのがみなさまの共通認識という様子です。

私も様々な場所や人から、遠慮がちにお誘いを受けて外出する機会が増えてきました。
恐る恐るながらも、髪を整えたり何を着ていくかなど装いを考える時間は、やはり特別感があり心が躍ります。

不織布マスクもコロナ禍に欠かせないアイテムの一つ

不織布マスクも様々な色柄・形態のものが手に入りますので、着物や小物との色合わせを楽しむなど、コロナ禍に欠かせないアイテムの一つとして考えるようになりました。

秋のない台湾での9月の装い

こちらでは9月に入ったからといって気温が急に下がるわけではないので、秋を先取りしたくともままならない毎日。

まだまだ、この酷暑は10月半ばまで続きそうです。

ジレンマを感じることが多々ありました。
葡萄柄の帯

自分の中にある理想であったり、SNSに見る季節を先取りした美しい装いの影響で、今まではこの時期に秋の装いができないことにジレンマを感じることが多々ありました。

私は着物を着始めてからずっと海外に住まい、しかもほぼ夏の気温が続く国で着物を着ていますので、特に秋口と春先はそれができないことをもどかしく感じてきました。

それでも、台湾はタイに比べればまだ日本に近い季節の変化がありますので、それに合わせて着用を楽しめる、季節限定の色柄の着物や帯も増えてきています。

菊の帯
今では無理をしない着こなしを優先するようになってきました。

とはいえ、つい先日も今年1番の夏日と、高温と紫外線への注意報がでていたのが現実。

五感を研ぎ澄まし秋の気配をようやく感じても、すぐにまとわりつくようなじっとりした熱気に襲われて、秋到来は気のせいだった…と気づきがっかりします。

もう何年も同じことを繰り返していますが、つい、秋の訪れを探し続けてしまいます。

着物歴が長くなったこと、そして着付けを習ってくれた生徒さんに快適に着物を楽しんでもらうという視点が生まれたことで、今では無理せずその土地での体感に合った着こなしを優先するようになってきました。

モダンに着こなすことの魅力や合理性も発信していきたい。

単衣をまだ着れないと嘆くのではなく、その日の天候や気温で、夏着物も単衣着物もゆかたも混在させて、選べる自由を楽しめる期間なのだ、と思うことにし、実践しています。

もちろん、季節を纏うという着物の醍醐味に強く惹かれているのも事実です。

それに加えて、いつでも着られて何にでも合わせやすい幾何学模様や無地などをモダンに着こなすことの魅力や合理性も、大いに発信していきたいと考えています。

着物ファッション

海外に住み、日本を母国にしない方々の着物との関わりを目にすると、着物の可能性は無限なのだと感じることが多いです。

タイ在住時には、日本からコンテナにて大量に送られてくる着物を、あたかもドレスのようにマネキンに着せたり、オーナーさん自らがガウンのように纏い、それらを販売しているお店と出会いました。

ハッとさせられるような色の組み合わせや大きなリボン結び、風になびく布そのものの美しさに、着物を着物として着ない方々も惹きつけられる事実を目の当たりに。

当時私が訪れた時には、「自宅でガウンのように着るつもり」というマダムと、「パーティーに上着がわりに着ていきたい」というシンガポール在住の若い女性に会いました。

着物をパーティーに上着がわりに着ていきたい女性。

雑誌や写真では見たことがありましたが、実際に着物をそのまま引きずらずに羽織るには、やはり背の高さが必要です。

トラディショナルな着方(つまり着付け)ができない中で着物を纏いたいと思った場合には、羽織る、ウエストマークする、という方法しかない現実も突きつけられた気がしました。

私が着物を着ていたことから、お客様に突然着付けを頼まれてしまうということも…

もろもろ足りない中でもなんとか私たちの見慣れた着姿に仕上がると、大層喜んでくださいました。

羽織りを洋服の上から羽織るという姿は、普段にもパーティーでも見たことはありましたが、着物(長着)をガウンのように羽織った方には、実際にはまだどこの国でもお会いしたことはありませんでした。

それが数ヶ月前に台湾・台北のとあるパーティーでなんと、長襦袢を羽織っている女性をお見かけしたのです。

その女性は外国籍のかたでしたが、身長は高いほうではありませんでした。
なるほど長着ではなく薄いし短い長襦袢をガウンにすれば、引きずることはなく着やすいのだなぁ、と目から鱗でした。

長襦袢を羽織っている女性

「下着」だということはご本人も知っているご様子。

洋服でもキャミソールをジャケットの下に着たり、ジーンズに合わせたりする着方がありますから、ファッションとしてあえて使ったのでしょう。
純粋に似合っていて素敵だと思いました。

ほどなくして日本でも、黒留袖をリメイクしジーンズと合わせていたお嬢さんが、SNSで写真をあげているのを拝見しました。丈を短く、柄が目立つようリメイクされていて、日本人には真似できないのではないかという既成概念が消えた瞬間でした。

長襦袢は下着であり、喪服や留袖はその意味を知っているが故に、正式に纏う時の思いの強さから、複雑な気分になるのが正直なところではありますが…美しいものを纏いたい気持ちや、着る機会もないままに大量に廃棄されるくらいならこういった使われかたもまた一つの道なのだろうとも思ったりします。

黒留袖のリメイク
写真提供:岡野あゆみ

自分がやるか否かは別問題ですし、美の基準は人それぞれです。
また、ファッションを楽しむというのと、文化伝統を守る・伝えていくというのも分けて考えることだと思っています。

海外で目にする着物や帯には、さまざまな驚きがあります。

TPOをおさえるのは教養と捉えています。
でも実際に、そこまで厳密に守らなければならない場所への出入りをする機会は、一生の間に何回ありますでしょうか。

海外で目にする着物や帯には、実にさまざまな驚きがあります。

海外で目にする着物や帯には、さまざまな驚きがあります。

着物の未来

台湾では、比較的私たちが見慣れたトラディショナルな着こなしをされる方が多いです。

それは、台湾人の着付け講師の方や、日舞や茶道など和文化を教えたり習う方が一定数いらっしゃるからだと推察します。

台湾人女性「陳 佩吟」さん

8月の終わりに、陶器の個展を開催していた台湾人女性「陳 佩吟」さんもその1人。

過去の日本旅行で、茶道体験の機会に触れたことから陶器を作る道に進まれたそうで、自分で着付けた着物姿で茶席も開催される腕前です。

今年9月に大学を卒業し、さらに日本で焼き物の勉強をする予定だったそうです。

残念ながらコロナ禍はその進路も阻むこととなってしまいました。

8月の終わりに、陶器の個展を開催されました。
作品は若々しい感性がみなぎる美しさが感じられました。

作品は若々しい感性がみなぎる美しさで、茶道を始めたばかりの私ですが、この茶碗で一服たてたい衝動に駆られました。

様々な形で日本の着物は人々に好かれ、またそこから日本文化に親しんだり発展させたり、特に大切に扱ってくださる姿を見るとありがたいことだなぁと感じます。

一方で、美しい着物に魅了される海外の方は多いけれど、「着付け」というハードルを越えるのはなかなか難しいのが現実のようですね。

颯爽と歩けるようにもなってみたいという思いもあります。

海外での私の着姿は「着物をトラディショナルな着方で着ている人」と認識されているようで、今はその着方が気に入っていますが、たまには崩したり、羽織るだけで風になびかせ、颯爽と歩けるようにもなってみたいという思いもあります。

ハレの日の装い、ケの日(日常)の自由な装い、文化を継承する決まり事を大切にした装い。

そのどれもが「着物」の一部であり、そのどれもがずっと存在し続けてほしいと思います。

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