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ナレーター 近藤サトさん(前編) 着物へのハードルを取っ払いたい。

テレビでお見かけする着物姿が印象的な近藤サトさん。フリーアナウンサー、ナレーターとして活躍するなか、メディアを通じて着物の魅力を精力的に発信されています。今回は近藤さんに、愛する着物文化について感じていることをお話しいただきました。

フジテレビの看板アナからフリーへ、グレイヘアが話題に。

”近藤サト””牛首紬””白根澤”

日本大学芸術学部を卒業後、1991年、フジテレビにアナウンサーとして入社。平成の女子アナウンサーブームの一翼を担いました。その後、1998年に退社されフリーになります。

2018年には40代にして自然な白髪を活かしたグレイヘアでテレビ出演し、固定概念にとらわれず自由に生きるスタイルに注目が集まりました。

現在は朝の情報番組やバラエティー番組に着物姿で出演なさっています。

バブル時代 ― 初めて買った着物は50万円

”近藤サト””牛首紬””白根澤”

3月初旬、春を感じさせる淡いグラデーションの『白根澤(しらねざわ)※』の捩り(もじり)織りの単衣に、白山工房の牛首紬の帯で現れた近藤サトさん。

※米沢織の織元

「先染めの糸で、織りで、こんなグラデーションが出るなんてびっくりでしょ!
ただ残念なのは、テレビではこの繊細な色合いがきれいにでないんですよ。照明が当たると、白っぽいボヤっとした着物に見えてしまうんですよね。

この着物をみたときの第一印象は『アマビエ』(笑)。だから縁起いいかなって。病が治まることを願って、新型コロナウイルスが流行してから誂えました」

先染めの糸で織られたとは思えない繊細なグラデーションは自然光の下で美しく発光し、まるで天女の羽衣のようなおもむき。

”着物””牛首紬””白根澤”

「帯は、牛首紬の帯です。よくかわいいですねって言われるんですよ。これ、モダンで合わせやすいんですよね。

初めて買った着物も牛首紬でした。着物を着ているヒロインが必ず登場する小説をたくさん書いた作家・高橋治さんの作品で、ドラマや映画化もされた『風の盆恋歌』というものがあるんです。当時、コラボレーションした商品がたくさん生まれたんですね。そのときに出た商品のひとつで、いまもよく着ています。

購入したのは20代後半、末端価格で50万円くらいだったと思います。よく買ったな、と思うでしょ。でも当時、バブルでしたから。かつ、フジテレビのアナウンサーでお給料もたくさんいただいていましたし、そのほかにも司会業もバンバンやっていましたからね、躊躇するってことはなかったかな。

ただ、サラリーマンで若いので、変なところでケチだったんですよ。着物の着付けは、とあるきもの学院の無料講習に行ったんです。
お免状はいらないからって、無料のままで。おかげさまでお金をかけずに着られるようになって感謝しかありません。

”着物””牛首紬””白根澤”

とはいえね、無料講習のお帰り口にはずらーっと着物が並んでいるわけですよ。
私は「見ない見ない、買わない買わない」と念じ、通り過ぎていましたけど。ただ、さすがに一着は買って着ないと覚えられないな、と思ったので、ひたすら着られるものを一枚買いました。

先生が、「最近の化繊はパチパチしないの」とおっしゃるので、「本物買ったら100万円よ!」っていう洗える大島風の化繊の2万円。めちゃくちゃ着倒しましたね。
けっこうパチパチしていましたけれども(笑)。
でも、そのおかげで習慣づいて着物が着られるようになりました。けっこう周りも「大島!?」って騙されていましたね」

”近藤サト””着物””牛首紬””白根澤”

季節のルールは臨機応変に変えちゃって

取材時の3月は、単衣の着物にはまだ早い時期。
でも、近年の気候なら一番コストパフォーマンスがいいのは、袷ではなく単衣の着物だという。

「今日はね、襦袢と襟は冬のものですけど、春、夏になったら薄物の襦袢にして、襟も変えて…とやれば盛夏前までは対応できる。それくらい長いスパンでさまざまな小物を混ぜて着ていくのがいいと思うんです。

雪国だったら寒いかもしれないけど、関東以南だったら2月の終わりぐらいから単衣でも普通に着ていられますから。もったいないと思うんです、単衣にしろ夏物にしろ着る時期が1ヶ月しかなかったりするのは。盛夏だけ着ていいよって…短いですよね。

だってね、この白根澤さんの着物、すごい技術とこだわりが詰まっているのに、1年に1ヶ月しか着られる期間なかったら、人生で何回着られるの?って話でしょ」

”近藤サト””着物””牛首紬””白根澤”

洋服とは比べものにならないコストパフォーマンスの悪さは、着物が現代の衣服として選ばれない原因のひとつ。

「そうでしょ。例えば、紬って高かったりするじゃないですか。100万円しちゃうものもある。それなのに結婚式に着ていってはいけない、普段着ですからって。いや、100万円の普段着ってあります? 

自分にとってこの紬が一番のお気に入りで、しかもいい金額だして買ったんだって思いがあったら、パーティーでもなんでも少し派手目にコーディネートして着ていったらいいですよ。絶対にかっこいいし、素敵だし、注目されますよ。

暦によってどの着物を着るか、TPOで合わせる着物の格とか、そういうルールを教えてくれる着物の本を参考にするのも、もちろんいいんですけど、ほかにもこういう風に着たら冬から初夏まで着られるとか、紬だけど帯を華やかにしてパーティー仕様にできるとか、いろんな考え方や着方があるってことを知っておいてもいいじゃないかな」

多くの人に着物を着る良さ、楽しさを知ってほしい。
そのためにも、縛りが多そうという着物への一般的な先入観を解消したい―

つねづねそう思っている近藤さんらしい考えだ。

着物問屋さんからのお墨付きを得て

「それにね、私、京都の着物問屋のウライさんによくしていただいていて、その裏井会長に着物のこといろいろ伺うんですけど、着物の季節や合わせ方とかは、ぜんぶ無視していいよって教えてもらったんです。
芸能人だってノースリーブ着てテレビに出てるでしょ、スタジオの中は暑いんだし真冬に夏物着ててもいいんだよって。

それで、なるほどね、と。温暖化だし、建物の中は冷暖房完備だし、真冬に防寒のために着物を着るっていうこともないですしね。

生地もね、生地のよさを出すなら袷にするより単衣のほうが落ち感もふくめてきれいに見えるんです。袷にすると野暮ったくみえちゃう。

”着物””牛首紬””白根澤”

昔は着物をよくご存じの視聴者の方から「(単衣の季節ではないのに)今日、単衣だったわね」と、指摘されることもあったんですよ。「襟はなんだったわね」とか着物警察のようにね。

でも、もうそういうの終わりでいいじゃないですか。
だから私のような自由な立場にいる人間が、自由に着ていいんだよってことを表明していこうかなと。

若い人たちは中にブラウスを着たりとか、比較的自由にやっていますけど、50歳過ぎて着物を着ている人たちのなかには、そうはいかない方たちも多くいて。

お茶の世界とか、伝統芸能の世界ではある程度守らなくてはいけないルールがあるけれど、私は自由な立場にいるので、そこは破っていってもいいかなって。裏井さんの一言が効いて、最近は楽になりました。決まりごとを理解した上で外すといいますか。臨機応変に着られたほうがいいですよね」

グレイヘアで颯爽とテレビに登場したときのような、凝り固まった社会へ風穴を開ける言葉。メディアに出ている近藤さんに言われると、決まりごとが多く、融通が利かなさそうな着物のイメージから解放される人が増えそうだ。

ゲリラ的に始めた着物でのテレビ出演

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テレビでの着物姿といえば、訪問着などの華やかな“やわらかもの”が主流だが、近藤さんは、紬など織りの着物を着てテレビに出演されている。
着物でのテレビ出演のきっかけはなんだったのだろうか。

「はじめは洋服で出ていたんです。私はナレーターなので、声の仕事が主なんですよ。
所属事務所も芸能事務所というよりは声の事務所なので、スタイリストを誰も知らなかったんです。かといって私も知らないし、洋服の趣味もいいってわけじゃない。

でも着物ならいっぱいあるから、事務所に着物で出演するならスタイリストいらないよって話したの。そしたら「じゃあ自前で!」ってなったんだけど、着物で行こうとしたらテレビ局から「やめてくれ」って言われたんですよ。

なぜかというと、着物ってそれだけで意味を持ってしまうくらい、印象が強い。
例えば、私が日本舞踊の先生とかお茶の先生という肩書きだったらOKだけど、そういうのではないし、元フジテレビのアナウンサーというだけで着物を着て出る理由がないと。

そこから変えていかないといけないのか、と思いました。
洋服と同じ地平に着物があるはずなのに。ジャージ着てテレビ出る人がいて、タンクトップ着て出る人がいて、なんで着物じゃダメなのか。

さて、どうしようかなと。まず、あまりうるさくない番組には、ある程度ゲリラ的に着物で出るようにしたんです。「着物でいいですか?」とさらっと聞いて「いいっすよ」みたいなところから。そうやって徐々に「着物を着る人」として地ならしをしていったんです。

そしたら、今度は「普段、洋服着ないんですか?」って、逆に言われるようになった(笑)。着物着るからって、普段、洋服着ないわけないでしょって! 

すぐ二元論にしたがるんですよ。そういうところがテレビにはある。IKKOさんはもうすっかり着物の人ってなっていますけど、私はたまに洋服で出るのもありかなと思い始めています。

グレイヘアがもてはやされ始めたときも、白髪、染め直しちゃおうかなって思ったり。それはやめてくれって事務所に止められました。あまのじゃくな心があるんですね」

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~ インタビュー後編につづく ~

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前編では、着物を着るうえでのハードルの高さ、組み合わせやTPOのルールについて、ときには無視してもオーケー、臨機応変に自由に着ましょうと話してくださった近藤サトさん。この後編では、着物に魅了されたきっかけ、コーディネートの作り方、これから着物を着たい人へのメッセージなどをうかがいました。

取材・構成/渋谷チカ
撮影/五十川満
ヘア・メイク/若宮祐子(特攻隊)

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