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重ねた年齢と写真の加工について 「台湾きものスタイル考」vol.13

重ねた年齢と写真の加工について 「台湾きものスタイル考」vol.13

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私は写真の加工修正度合いに、実際にお目にかかった時に違和感が生じない程度、という自分の中の線引きを持っています。シワやシミは全て消えさってはいないけれど、いつもより写りの良い自分の写真は、眺めてうれしいものです。

タイ在住時代から本格的に着物生活をはじめ、毎日ではないものの外出時に着る機会が増えていくのを、当初夫は快く思っていなかったようです。それでも夫の持つ「着物への特別な感覚」は、時間をかけ少しずつ変化してきたように感じます。良い面も面倒くさい面も見せたり話したりしながら、私の「好き」を理解してもらうために、楽しんで着てきました。

海外で迎える9度目のお正月

きものの世界の沼の深さ

明けましておめでとうございます。2022年が始まりました。
でも、台湾での新年はまだ…今年は1月29日から2月6日までが春節です。

ひと月のうちに元旦を2回も味わえるのは中華圏ならではですが、タイ生活とあわせてもう9年、日本のお正月から離れてしまっています。

この数年の「帰れない」状況の中では、物心ついた時から恒例だった、記憶の中にある昭和日本の家族と迎えたお正月に郷愁を感じます。

海外生活のスタートとともに本格化した、私の、普段の外出にきものを着る生活も同じく9年。時の流れの早さときものの世界(沼)の深さをますます実感しています。

「きものと」でのコラムも、まもなく丸2年。

あまりあちこちに出かける生活スタイルではないため、海外といえども、自分の身の周りのことに終始していて、ただ徒然に、きもののある日常で見たり感じたりしたことや、自分の中に起こった変化などを綴らせていただいてまいりました。

「きものが好き」という共通点を持つ読者のみなさまと繋がらせていただける貴重な場所であり、「きものと」に関わるみなさま、そして京都きもの市場さんの「わくわくする着物、はじめましょう。」という大きな視点からの取り組みに、改めて感謝したいと存じます。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。

引き続き、本年もどうぞよろしくお願いいたします。

重ねた年齢と写真の加工について

みなさまは写真に加工はなさいますか?

今どき「写真は修正するのが当たり前」とも耳にしますが、私は、実際とかけ離れるほどの「修正」や「加工」は好きではありません。

とはいえ、肌のトーンをあげる、シワやほうれい線を薄くする。
たったそれだけの修正で見違えるような写真となります。

自然に肌質だけを変えるようにしています。

私が普段使っている写真加工の美肌アプリは「B612」。

使いすぎると別人のようになってしまいますので、気をつけながら私は出来るだけ自然に肌質だけを変えるようにしています。

私より15歳ほど年長の方が、着付け講座を受けてくださっていた時のことです。

その方はセンスがあったのでしょう、覚えが早く身体もしなやかだったためすぐにご自身で着付けらるようになりました。

講座の時には、記録と確認用にお写真を撮らせていただくようにしていますが、毎回彼女は、「顔は写さないで」「シワシワでお婆ちゃんみたい、お婆ちゃんだから、まあ良いんだけれど…」とおっしゃっていました。

たしかに年齢は重ねていますのでシワがないとは言いませんが、でも実年齢よりはるかに若々しく、とても美しい女性であるのに、と感じたものです。

その人の生きてきた事実が映ります。

歳を重ねることは悪いことじゃないし、シワもシミも肌の衰えも全て自然のこと。

写真には、その人の生きてきた今の事実が写ります。
刻まれたシワはたくさん笑ってきた幸せの証。シミだって若い頃に太陽の下で行動してきた、または各地リゾートでの楽しい思い出の証なのです。

それを加工し、アンドロイドのようにツルンと変えてしまうのは失礼そのものだと思うのです。

だから、ほんの少しだけ、肌のトーンを上げる程度。
それだけでもシワは薄くなり確かに若々しい写りになります。
シワやシミは全て消えさってはいないけれど、いつもより写りの良い自分の写真は、眺めてうれしいものです。

私はその方に、写真でもきもの姿を楽しんでいただきたくて、迷いながらも少しだけお写真に加工をさせていただきました。

自分の中の線引きを持っています。

印象が変わらないギリギリのラインでの、少しの「写真加工」。それは、その方を笑顔にするものでした。

その生徒さんはそれから私が「写真を撮りますよ」とお声がけすると、一瞬迷われた後「はい」と、とても美しい笑顔を私に向けて下さるようになりました

修正度合いへのこだわりと、変化

私は写真の加工修正度合いに、実際にお目にかかった時に違和感が生じない程度、という自分の中の線引きを持っています。

ところがタイ在住時代には、良かれと思ってか、なんと通常のサービスとして写真を加工修正された経験がありました。
(よろしければブログをご覧ください。一体何を証明するのか…?タイで証明写真を撮ると勝手に修正されるという衝撃

Webコラムに原稿を入稿した際などにも、提出した写真をさらに明るく加工・修正されてしまうこともあります。

確かに素人に中途半端に加工された写真よりもプロの目から見たら「綺麗」にしたい、または画面を明るく仕上げたいなど、私にはわからないサイトのコンセプトや方向性があるのかもしれません。

それでも私は、出来るだけ加工をしないようにお願いしています。

年齢を重ねていくことで失われていく若さへの執着と、それを手放すこと、受け入れることの美意識の変化については、この数年の私自身のテーマでもあるので、写真の加工加減というものにも私なりのこだわりがあるのです。

変化と新たな視点が加わりました。

ところが最近、このこだわりや思いに変化が訪れ、新たな視点が加わりました。

写真加工に対して感じていた「事実をごまかし、見た目を変え、若く見せていること」へのうっすらとした罪悪感など、ネガティブな思いが溶けていったのです。

そのきっかけは、先述の着付け講座の生徒さんの笑顔、そしてもうおひとりの方との数時間の邂逅でした。

台中での再会

そのある方とは、来世は日本人として生まれたい、とまでおっしゃるほどの日本好き、台中にお住まいの台湾人男性、馬龍さんです。

台湾人男性、馬龍さん
写真提供:馬龍さん(馬龍浴衣事務所
個性的で斬新な和服姿
写真提供:馬龍さん

写真からもひしひしと伝わってくる、日本文化や和服に対する憧れ。
2018年9月から浴衣のレンタルや販売、また彼自身を含む和服姿の撮影をお仕事にするようになったとのこと。

個性的で斬新な和服姿、それも多数ネット上で披露されているため、こちらの読者のみなさまの中でも写真を目にしたことがある方がいらっしゃるかもしれませんね。

彼と最初にお会いしたのは、2019年の1月、私は夫との初めての台中旅行を楽しんでいた時でした。

本当に偶然の出来事で、その時私は洋服だったのですが、100メートルほど向こうに和服姿らしき人がいるよと夫に言われ、そちらを見ると、みるみるうちにその距離が縮まり大興奮した馬龍さんに、あれよあれよというまに、近くのカフェにいざなわれ、食べきれないほどのスィーツを振る舞われたのでした。

写真からも伝わってくる和服に対する憧れ。
写真提供:馬龍さん
SNS上の繋がりは「世間は(意外と)狭い」。
写真提供:馬龍さん

聞けば数年間SNS上で私をフォローして下さっていたとのこと、実際に会えると思っていなかったのに、突然目の前に現れたことに驚いている、と…。

台湾の台中で和服姿の男性に声をかけられ歓待されていることが理解できていない夫に、SNS上のきもの繋がりは国境を超えて「世間は(意外と)狭い」ことを、馬龍さんのFacebookページを見せながら説明。

私自身も初対面である彼がなぜ和服を着るようになったのか、なぜ洋服姿なのにすぐに私だとわかったのかなど、短い時間にとりとめのない話をしたのでした。

それからすでに3年、同じ台湾国内に住みながら、実際に会う機会はありませんでした。

台北と違い、台中は広く、ほとんどが自家用車かタクシーという移動手段に頼るため、目的地に行って帰るという訪問の仕方になりがちで、「ついでに寄る」には「ついで」も計画に入れておかないと難しいのがその理由です。

今回とあるご縁で台中を再訪することとなり、かねてより「きもの姿」で訪問したいと考えていた場所が比較的近距離に点在していたため、その中でも特にきもの姿が映えそうな場所で、再会を果たせたのでした。

以前伺った台中の『蔵Art』もとても素晴らしい場所なのですが、時間と距離の都合から再訪することができませんでした。

駆け足で過ぎる!花いっぱいの台湾の春 「台湾きものスタイル考」 vol.4

日本では桜が咲く時期、台湾では藤の花が真っ盛りとなります。 台湾の北部、都心からも小1時間で行ける「淡水」は風光明媚な場所。そこに、見事な藤棚を一般公開している珈琲農園があります。

自己表現としての着物

無為草堂

今回再会に選んだ場所は『無為草堂』という茶藝館。

400坪あまりの敷地の中心に池を構え、その周りに、日本の和室と中国様式の建築やインテリアがうまくミックスされた美しい小部屋が点在し、渡り廊下がそれぞれを繋ぐ…とても趣きのあるお店でした。

強力なカメラマンである夫を伴わなかった今回の台中旅(半分仕事)では、数ヶ月前から私の自撮りに欠かせない折りたたみ式の小さな三脚が大活躍。

1人で三脚を立てて写真を撮る恥ずかしさはありながらも、こちらに使う写真には、腕を思い切り伸ばした自撮りよりは、まだ三脚を使う方が全体の様子がわかるかな、と採用したのでした。

馬龍さんと、彼のご友人と

その後馬龍さんと、彼のご友人と合流し、ランチを取ったり写真を撮りあったり楽しい時間を過ごしました。

その際馬龍さんが、写真を撮る時に気をつけている点のひとつ、アングルの秘密を教えて下さいました。

つい三脚を自分の目の高さに合わせてしまう私には、かなり低い場所にセットされたiPhoneで撮られた写真の写りに驚きました。

もともと背の高い馬龍さんですが、さらに強調されていますし、157センチの私も長身に写りこんでいます。

その後も写真を撮りあっては見せあうなかで、ポージングや撮影のコツ、加工のやり方などに気づかされることが多く、勉強になりました。

彼は被写体としては滅多に笑わないそうなので、私の撮った少し微笑んだ自分の写真を見て驚き、また喜んでくれました。

馬龍さんの写真は、自己表現なのだということ。

これらのやりとりの中で、これまで見てきたSNS上の馬龍さんの大量の和服姿の写真は「自己表現」なのだということに、改めて気づかされました。

なぜ台湾人がここまで和服を日常に着ているのだろうか?なぜその写真を大量にSNS上にUPしているのだろうか?

それはずっと私の中で疑問でした。

「好き」だということはわかりますが、自国ですら日常に着る人がいなくなっている民族衣装を、異国の地で異国の人が着る姿は奇異に映るものです。
日本人である私が海外できものを着ることですら、多少なりとも特異な存在として見られていることも自負しての感想です。

でも彼が藝術を愛する演者であったこと、舞台に関わるお仕事をされたり、舞台衣装をつくることもあると聞いてようやくその疑問が解けました。

彼はアーティストなのだ、と理解することができたのです。

アーティストというと、何かを作り出したり生み出す、それをずっと続けていく人のことを指しますが、もう一方で表現することで影響を与える人もそう呼ばれます。

生き方が、すでに生きていること自体がアートとも言える、と大きく捉えると、私自身もまたアーティストとして表現したいと思っている本音に近づくことができました。

馬龍さんが、きもの姿で写真を撮ること、それはただの記念撮影とは明らかに違う意図があり、自分も同じことを求めていたのだと、今さらながら気付かされたのです。

自分らしく演出して

「きものを着る」ことを楽しむ。

みなさまも記録用にカメラの前に立つだけではなく、たまにはせっかくのきもの姿、ふだんきものの気楽さをコミカルに、またおめかしきものの美しさをより際立たせるなど、自分らしく演出して写真を撮ってみるのはいかがでしょう。

作品ならば、やりすぎた加工も許せるかもしれません(笑)

きもの姿は珍しいもの、特別な日の礼装、またはコスプレの域とお考えの方もまだまだ多い2022年。

きものにハマったみなさまが、昨年より1回でも2回でも多く着る機会を増やしたり、お気に入りのきものをお手入れやお直しに出したり新たに誂えてみるだけで、少しだけ未来が変わります。

私も引き続き台湾できものを着て、着付けを教えて、きもの姿の写真を少し加工しながらSNS上にあげて、きもの好きのみなさまと「きものを着る」ことを楽しんでいきたいと思います。

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