着物・和・京都に関する情報ならきものと

ナレーター 近藤サトさん(後編) 着物文化をみんなの元へ戻したい。

着物文化をみんなの元へ戻したい。 ナレーター 近藤サトさん(後編)

記事を共有する

前編では、着物を着るうえでのハードルの高さ、組み合わせやTPOのルールについて、ときには無視してもオーケー、臨機応変に自由に着ましょうと話してくださった近藤サトさん。この後編では、着物に魅了されたきっかけ、コーディネートの作り方、これから着物を着たい人へのメッセージなどをうかがいました。

着物への先入観、縛りの多さを解消したい。 ナレーター 近藤サトさん

テレビでお見かけする着物姿が印象的な近藤サトさん。フリーアナウンサー、ナレーターとして活躍するなか、メディアを通じて着物の魅力を精力的に発信されています。今回は近藤さんに、愛する着物文化について感じていることをお話しいただきました。

着物とは物語を身にまとう楽しさにあり

”近藤サト””着物””牛首紬””白根澤”

近藤さんが着物を好きになったきっかけはなんだったのだろう。

「アンティークのものが好きというものもあるんですけど、”物語性”にはまったことですね。

例えば、はじめて買ったアンティークの帯は梅の織りの丸帯だったんです。琳派っぽい図案に素晴らしい織り。梅の季節にしか着られないかもしれないけど、そこにある物語に惹かれました。

帯留めでも昔のものって、そのモチーフに意味が入っているじゃないですか。松竹梅であるとか。扇子もそうですよね。こう帯に挿しているだけじゃ一生誰にもわからないけれど、開くと遠山が描かれているとか。

そういう、なにか”自分が物語を身につけられる”ことがいいなって思ったのが最初です」

”着物””扇子””遠山”

「あとは、子供のころからですね。小さいときからなにかの折に、親に浴衣や着物を着せてもらっていてね。
またうちの祖母が、着物が好きで縫っていて。かつ、結び糸っていう、どうやら東海地方の独特の文化みたいなもので、「こんなのどうやって結ぶの?」っていうくらい短い糸切れを、ずーっと指でこよってひたすら結んでいまして。それをね、反物にするんですよ」

いつ反物になるのかというくらい、気の遠い作業…

「そうでしょ。それで生地に仕立てたものを持っているんですけど、当時流行した綸子に織ってあって、あんまり好きになれなくて。グリーンに染めて失敗したのをねずみ色に染め直し、着物ではなくコートに仕立て直してたまに着ています」

コーディネートは鍋みたいなもの

”近藤サト””着物””牛首紬””白根澤”

近藤さんはTwitterに、日常的なつぶやきとともに着物にまつわる情報や、テレビ出演時の着物姿をアップし、着物ファンを楽しませている。

着物のコーディネートの組み立てはどのように? 

「着るものは、その日の気分で決めることが多いです。鍋みたいなものです。
味(着物)を決めて、どんな感じで仕上げるか、です。足す具材によってしゃぶしゃぶもできるし、すき焼きも、もちろん寄せ鍋もできるし、みたいな。

私は比較的おとなしいのが好きなので、今日のコーディネートは珍しいパターン。着物は織物がメインで、例えば『徹子の部屋』に出るようなときは色無地ですね。色無地で綴れ織りの帯みたいなものが一番。

いま持っているもののなかで、これが正解っていう色無地は、紺色と紫の中間みたいなシックな色。綴れの帯がきれいに映えるんですよ。

昔は袋帯のキラキラしたものが流行りましたけど、最近はしないかな。なにかっていうと、綴れを締めることが多い。訪問着も持っていますけど、可哀想なことになかなか出番がないですね」

感覚でパッと組み合わせる感覚派か、それともロジック派か。 

「感覚派かな。あとは面倒くさいのもあって、一度この着物とこの帯と決めたら、ずっとその組み合わせ。たまに違う組み合わせをして、これも合うなって発見もあったりしますけど。

半襟も面倒くさいので白がメイン。白じゃない半襟でコーディネートすると、やたら派手になって失敗したなって思うことがあります」

”近藤サト””着物””牛首紬””白根澤”

スタイリングにおいて、なにかお手本にしているものはあるのだろうか。

「とくに参考にしているものはなくて、好きなものを着ていますね。
着物っていいなって思うのは、合わせちゃいけない色というのがあまりない、反対色入れてもなぜか合ってしまうところ。洋服だと3色以上の組み合わせは難しいとかあるでしょ。
でも、着物の場合だと3色以上入るのは当たり前なので、いろんな色を入れても大丈夫だし、そこから季節のルールを外していけば無限の可能性がある。

なぜ無限でもスタイルが保たれるかというと、形なんですよね。
これだけ糸とか織りとか、染めとか刺繍とか種類があるにもかかわらず、形は変わらず同じなので、なにを入れてもオッケーな器になっているんですよ。

最初に誰が考えたんでしょう?この着物の歴史は比較的浅いんだけど、ここで定着したというか、ある意味、止まりましたね。
ここから変わっていってもいいとは思う。袖の長さがだいぶ短くなったとか、丈が短いとかね。反物の幅も広くしてしまってもいいかもしれない。臨機応変なレボリューションも必要。

そうやってもう一度進化したら、現代の生活にもあってくるんじゃないかな。
いまは止まっちゃってるから、”着るの面倒くさいよね”、”生活しにくいよね”、で放置されているような気がします」

とにかく、着物への障壁を取っ払いたい

”近藤サト””着物””牛首紬””白根澤”

着物に興味を持っている人は増えていると感じるけれど、呉服業界の売上は下がったまま。
このギャップは、市場から求められているものに業界が応えられていないことの表れのように思う。

「着物、興味がある人はたくさんいると思うんですよね。だから着てほしいと思うし、着物への障壁を取っ払いたいですよね。

一番の難関は着付けと値段、現代様式に合わないところ。
どれだけ、袖口をドアノブにひっかけたことか! 家にふすまが1枚もないので大変なんです(笑)。

価格の問題はね、値段の付け方もいろいろな事情があると思うんですけど、高額なものばかりではね。どうしても機械化できず、人間が作っているものだから仕方ないんですけど。
これから着たいと思っている人たちにどう応えたらWin-Winになるかの模索だなと思うんですよね。私はもっとリサイクルを回していったらいいと思う」 

古いものもコーディネート次第でいくらでも今風に生き返るし、親から子へ受け継ぐものもあり、ストーリーも詰まっている。

”近藤サト””着物””牛首紬””白根澤”

「人生で着物を着る機会が、七五三と成人式とで、女性だったら3回というのが現状ですよね。
成人式に振袖って文化は残すべきだけど、振袖を買うなら、デートで着ていける小紋でも付下げでも買ったほうがいい。
カジュアルに着ていけるリユースでいいと思うんですよ。
それこそ、ヨーロッパではリユースなんて当然なのに、日本だと「古着」とされてあまりいい意味を持たないのがね。

いまね、箪笥着物が何兆円もあるっていわれているじゃないですか。新古品みたいな、きれいなのに着られていないものがたくさんあるわけですよ。
カジュアルなものはリユース、リサイクルで回るはず。

それに何代もお古で着るのは昔ならよくあることでした。私も母の着物を着ていますけれども、たまに着ると「なにそれ?」っていわれますね。いまの時代、そんな面倒くさい染めをしているところないからって」

気づく方がいらっしゃると。

「やはりプロの方からね。古いものでいいものたくさんありますからね。

あとは洗い張りを何回かした紬も必ず指摘されますね。体に沿うようになるんですよ。そうとう洗ってあるんでしょうね、それは流れ流れて何人かの手を経て私のところへきた紬なんです。

よく紬は3代っていうけど、実際に3代着てる人いないですよね(笑)。
私が持っている他のたいそうな紬だって、一生のうちに何回も洗いませんから。
だから、もったいないな、と思うこともあります。せっかくのいい紬でも、私は息子しかいないので彼に譲っても着てもらえないですし。

とりあえずは私が丁寧に着て、ゆくゆくはほかの誰かに着てもらえたらいいなって思っています。
そう考えるとSDGsの概念と着物はすごく合っているし、ひたすら3代、4代と長く着られるとすれば、相当エコでもありますよね」

あとは着付けの問題。

「若い子たちに着物を着る機会を増やしたいですよね。若いうちに自分で着られるようになっておくのが理想。小、中学校、または高校の教育の中で着せて欲しいっていうのはあります。

例えばだけど、京都の高校生は全員自分で着付けできるとなれば、全国から「すごい!」ってなるし、文化として強いですよね。官民じゃないですけど、どうにかならないのかな。着物を着るってもう家庭の中では伝承されないんですよ。親も着られないんだから、誰がつなげていかないと。そうなると、業界かなぁ。

でもね、呉服屋さんがやっている着付け教室にいくのもちょっと怖いところがあるじゃないですか。地元の公民館で着付けの得意な人が無料で教えてくれるっていうのがいいと思うんですよ。着付けも、道具は必要最低限でいいのでね」

浴衣にビーサン、スニーカーでいいじゃない

”近藤サト””着物””牛首紬””白根澤”

着物を着てみたいと思っている読者へ伝えたいことは。

「なんでもいいから着て欲しい。夏の浴衣でいいじゃないですか。足下だってビーチサンダルでもスニーカーでもいいですよ。それでおかしいとかいわれても気にしないで。
とにかく着るものなんですから、着ることが大事! 

『東京ガールズコレクション』の着物版ができたらな、と思っています。

そしたら着物を楽しんでいる若い人たちがいっぱい来ると思うんですよ。それに混じってきもの学校の先生たちも来てくれれば、着物を愛する人たちの一大イベントになりますよね。

着物好きで連帯して、いかにステージを構築していくかってことだと思うんですよ。インターネットの世界でもいい。好きなアイドルのことをツイートしたら、みんなリツイートして広まっていく、みたいに、着物のことをつぶやいたらみんなで拡散しよう! みたいな広がりで、なんとかして、着物文化をみんなの元に戻したいんですよね」

次回は、近藤サトさんに思い入れのある品々についてうかがいます(近日公開予定)。

取材・構成/渋谷チカ
撮影/五十川満
ヘア・メイク/若宮祐子(特攻隊)

シェア

BACK NUMBERバックナンバー

LATEST最新記事

すべての記事

RANKINGランキング

CATEGORYカテゴリー

記事を共有する