着物・和・京都に関する情報ならきものと

神秘的な社からインスピレーションを得た巫女装束『脛擦りの森』 「きもの de シネマ」vol.77

神秘的な社からインスピレーションを得た巫女装束『脛擦りの森』 「きもの de シネマ」vol.77

記事を共有する

銀幕に登場する数々の着物たちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だって着物で愉しみませんか。今回の映画は、『脛擦りの森』。衣裳デザインを担当された柘植伊佐夫氏からお聞きした制作秘話をお届けします。

こちらも公開中!

2026.02.05

カルチャー

甘酸っぱい純愛☆令和の異類婚姻譚『鬼の花嫁』 「きもの de シネマ」vol.75

妖怪「すねこすり」を題材とした愛の物語

ごきげんよう、椿屋です。

NHK朝の連続ドラマ小説「ばけばけ」が無事に最終回を迎えましたね。同作で怪談の魅力を知ることとなった方も少なくないのでは、と思いつつ。ちょっと八雲ロスかも?という皆さんにぜひ観ていただきたい4月10日封切りの一本をご紹介いたします。

©『脛擦りの森』プロジェクト

©『脛擦りの森』プロジェクト

映画『脛擦りの森』は、荒木飛呂彦氏の人気コミックを実写化した「岸辺露伴は動かない」シリーズを手掛けた渡辺一貴監督のオリジナル作品です。

主演は同シリーズで主人公・岸辺露伴を演じてきた高橋一生さん。ポスターやトレーラーの特殊メイクで老人となったビジュアルが、一際目を引きます。

©『脛擦りの森』プロジェクト

©『脛擦りの森』プロジェクト

全国各地に数多ある伝承の中から着想を得たのは、岡山に伝わる妖怪「すねこすり」。

雨の夜。灯りのない暗い道を歩いていると、ぬかるみに足を取られて転んでしまう。「見えない何かに悪戯された」と思い込み、周りの人に吹聴する……そんな何ということもない妖怪です。

©『脛擦りの森』プロジェクト

©『脛擦りの森』プロジェクト

横溝正史作品のロケ地としても知られる岡山県高梁市・新見市で撮影された本作は、神秘的かつ幻想的な風景が、観る者を人里離れた森へと誘います。

長らく人々の間で語り継がれてきた普遍的な物語が、圧倒的な映像美によって新たな解釈を見せてくれるのです。そこに描かれる、恐ろしくも哀しい愛の行方は劇場にてお確かめください。

巫女装束に託した禁忌的存在のインパクト

©『脛擦りの森』プロジェクト

©『脛擦りの森』プロジェクト

森に迷い込んできた若い男(黒崎煌代)が心を囚われていく謎めいた存在の“さゆり”(蒼戸虹子)。この物語のキーとなる人物です。何より印象的なのは、その巫女姿。

そこで、人物デザイン監修・衣裳デザインを担当された柘植伊佐夫さんに、映画づくりの裏側について語っていただきました。

――さゆりの巫女姿は、最初の段階から構想があったのですか?

柘植伊佐夫さん(以下、柘植):タイトルにもなっている妖怪「すねこすり」について名前は聞いたことがありましたが、詳しい出自や背景などを存じ上げませんでした。さゆりの人物デザインを生み出していく上でこれについて知る必要がありましたので、監督からお話をお聞きしたり資料を拝見したりとコミュニケーションを深めました。

その中で、監督が以前NHKに在籍されていた頃に岡山に4年いらしたことを興味深く拝聴しました。随分と方々へ出かけたらしく、そのような経験の中で選び出された、今回のロケ地の一つである穴門山あなとやま神社の写真を見て、これはただならぬ雰囲気だなと感じました。と同時に、さゆりの姿には巫女姿が相応しいだろうと自然と直観されました。

――さゆりの登場シーンから、その存在感に目が離せなくなりました。彼女の巫女装束に込められた想いをお聞かせください。

柘植:はじめに巫女装束をイメージした中でも、特に一揃い着付けるというよりは、「緋袴」を穿かせたいという思いがありました。なぜなら、あの人里離れた山奥のさも古びた社の結界の中で、寂びた木造を背景に立つその姿が目を奪う色彩の衝撃は、ご覧になる皆さまの網膜に強く刻み込まれるだろうと想像に難くなかったからです。

それは美しいながらも、どこか見てはいけない禁忌に触れる底知れなさを想起させるのではないだろうか……。そう感じられたのです。

©『脛擦りの森』プロジェクト

©『脛擦りの森』プロジェクト

――本作は、極寒の冬山での撮影でした。防寒対策が重要な課題だったとのことですが、どういった点を工夫されたのでしょうか。

柘植:映像が観る人にとって「自然さについて意識しないほど自然である」ためには、撮影される環境や気候と設定する装いに、できる限り齟齬がないということが大切さの一つであるように思います。そのような意味で、「寒さ対策」のために装いを支度するというよりは、そもそもこの場所はこのような風土と気候であるのだから、それに対して自然に則す、というのが、表現として相応しいだろうと準備しました。

そこで思いつきましたのが「どてら(綿入れ)」と「ゴム長靴」でした。もちろん撮影時は雪が吹き荒ぶような寒さでしたので、それだけで足りるものではありませんが、この二つを設定することによって、保温について自然に準備することができました。

沈黙の中に流れる「気」を感じる映画体験

――監督曰く、「柘植さんは“もうひとりの監督”」とのこと。監督とは違うアプローチからの作品に対する問いかけが刺激になったと仰っています。人物設定や衣裳デザインの構築に留まらず、キャラクターのあるべき姿やその周囲に配置すべき物、それらを撮影する際に必要となる準備などトータルでのご提案があったそうですが、作品づくりにおける「人物デザイン監修・衣裳デザイン」という役割をどのように考えてらっしゃいますか?

柘植:「もうひとりの監督」というのは勿体無い言葉で、あまり出過ぎないように心がけなければいけませんね。ご質問の内容についてはいつも考えるところはあるのですけれども、監督や役者、そして関係者と共に作品を生きる上で、やはり、「この物語は何を伝えようとしているのだろうか」ということを各々の役割を通じて読解しているのだろうと思います。

――その読解の作業において、意識されていることはありますか?

柘植:いかに些細な思いつきでも、これを正直に監督に伝えること、俳優と話すこと、は大切だろうと考えています。その瞬間的な正直さというのは、さまざまな物理的な事情、例えば、予算や時間や人員や……そのような現実世界とは異なる純粋なビジョンだからです。まずそのビジョンを思いつくことと、それを迷うことなく共有すること。それは私の職掌に限らず、どのような役割であっても同じではないかなと思います。

©『脛擦りの森』プロジェクト

©『脛擦りの森』プロジェクト

――最後に、本作の見どころを教えてください。

柘植:物事が描かれている以外の部分に「余白の美」というようなものがあるとは、日本の芸術にはよく言われるところですけれども、この作品にはそのような「気」が流れているように感じます。

そもそも妖怪という存在は、実体としてあるのかどうかわからない力学を、人間が何かを察知して擬人化したようなエネルギーなのだろうと思います。そのような意味では、この作品はとても台詞が少なく、沈黙というか、静かな時間が流れる映画です。

しかし台詞で満たされているから物事の本質を言い当てているのかといえば、そうとばかりは言えないのは実生活も同じで、この作品は、その沈黙の中に流れている「気」にこそ、すねこすりが背負う時間そのもの――感情のレイヤーが表されているように思えるのです。見どころと申しますか、「感じどころ」とでも言えばいいのでしょうか。

©『脛擦りの森』プロジェクト

©『脛擦りの森』プロジェクト

難しいことは考えず、ただその身を銀幕の前に置くだけ。それだけで、すねこすりが存在する世界へと足を踏み入れることができる作品です。ぜひさゆりをはじめ、3人の登場人物の衣裳にも注目してお愉しみあれ。

2025.12.23

カルチャー

知ってた?べらぼうなお江戸話

2026.03.29

ファッション

徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー

シェア

BACK NUMBERバックナンバー

LATEST最新記事

すべての記事

RANKINGランキング

  • デイリー
  • ウィークリー
  • マンスリー

HOT KEYWORDS急上昇キーワード

記事を共有する