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日本初の着物スタイリストから学ぶ”装いの美学” 大久保信子さん(前編) 【YouTube連動】「着物沼Interview」vol.4

日本初の着物スタイリストから学ぶ”装いの美学” 大久保信子さん(前編) 【YouTube連動】「着物沼Interview」vol.4

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着物沼の住人たちに着物愛について語っていただく、YouTube連動連載「着物沼Interview」。今回のゲストは、日本初の着物スタイリストとして長きにわたり活躍される大久保信子さん。「きものと」読者にはお馴染み!ついに、着物のプロ中のプロがご登場です。

2025.09.08

ライフスタイル

褒めオンパレで自己肯定感爆上がり! 鳥塚ルミ子さん 【YouTube連動】「着物沼Interview」vol.3

着物歴80年!日本初の「着物スタイリスト」

「着物沼Interview」メインカット

大久保信子さんは、日本で初めての「着物スタイリスト」。

雑誌やテレビで、多くの著名人の着物スタイリングや着付けを手掛けるなど、日本舞踊の経験や歌舞伎鑑賞で培った深い知識と美意識を活かし、長年にわたって活躍されています。

2025.09.08

エッセイ

大久保信子さんのきもの練習帖

2025.07.07

おでかけ

歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル

「『私、着物が似合わないんです』なんて仰る方がいるけど、お着物が似合わない日本人なんていません。どなたでも美しくなれます。これは、私の長い着物スタイリストとしての人生の中で得たデータです」

と、大久保さんはきっぱり断言されます。

著書と

和装の疑問はこの1冊で解決!大久保さんが監修した『改訂版 伝統を知り、今様に着る 着物の事典』(池田書店刊)には、美しい着こなしのコツが詰まっている

いまでは珍しくなくなった「着物スタイリスト」という肩書きですが、そう名乗ったのは大久保さんが日本初。

初めて本をつくったときに、肩書きは何にします?って訊かれて、肩書きなんてありませんよって答えたら、いまアメリカで流行っている”スタイリスト”なら、着物にまつわるあらゆることに関われますよって教えていただいて。それ以来、『着物スタイリスト』って名乗るようになりました

著書と

雑誌『クロワッサン』(マガジンハウス)の長寿連載「着物の時間」でも、長らく着付けを担当

「素材のことからコーディネートまで。着る方の良きアドバイザーになれるようにやってきました。ご本人の満足が一番ですものね。『これを着て良かった』と思ってもらえるスタイリストを目指しました。何より大事なのは、長所を生かした着付け。その方がもっている味を損なわないよう心掛けています。

長年好きでやっていると、『この人はこう表現したら素敵になるな』ってパッと頭に浮かぶんです。一ミリも間違ってないと確信できる寸法で仕上がると嬉しいですね。着付けはミリ単位の世界ですから

大久保さん

「ご自身を美しく見せることに長けている女優さんより、初心者の方を素敵に撮る方が難しい。でも、それを魅力的にして差し上げるのが私の役目だと思っています」

大久保さん

日本舞踊の師が開いてくれた着物世界への扉

そんな大久保さんの着物との出合いは、幼い頃からの習い事がきっかけでした。

昔は女の子は6歳になると日本舞踊を習うものでしたから、私も踊りのお稽古を始めたんですが、その途端に東京大空襲になって。奢侈禁止令が出て、踊ってる場合じゃなかった。小学生になった頃には世の中が平和になってきて、5年生のときに、家と学校の間にあった踊りの師匠の家を見つけて、通うようになりました。高校まで一生懸命にお稽古しましたね」

扇子を手に

5人姉妹の中で、日本舞踊に夢中になったのは大久保さんだけ。

「息抜きに先生の家に寄っていたようなもの(笑)。着物に関することの多くを、そこで教わりました。踊りをやっておくといろんな着物のパターンを知ることができる。それは着物スタイリストとしての世界に、非常にプラスになりました

思い出の写真と

藤間流のおさらい会で踊ったときの思い出の写真

花魁の写真と

花魁と禿と一緒に踊ったことも

江戸の「粋」を醸し出す大久保流の着こなし

この日の大久保さんの装いは、東レシルックきもの「よろけ縞」。

季節を問わない縞は古くから人気の柄で、中でも、縞が揺らいでいる「よろけ縞」は、かつお縞ややたら縞と並んで江戸の「粋」を表す代表的な模様のひとつです。

縞模様

「細く見えるこの縞は、そもそも浴衣の柄だったもの。気に入って単衣でつくりました。太かったり細かったり、揺らいでいる縞がやさしい印象でしょう?」

全身カット

「この着物は、洗えます。化学繊維の着物は単衣がいいですよ。袷だと間に空気が入ってぶくぶくしちゃうのでね」

バックショット

帯合わせは、同じトーンで揃えた格好いいコーディネートです。

「着物のグレーと白に寄せて、帯は黒と白。着物は、基本の色を3色にするとまとめやすいの」

ポイントは、帯揚げに配した薄い水色。

帯揚げアップ

「これが、江戸の粋を表す色なんですよ。涼しげに見えるので、とても気に入ってよく使います」

大久保流の着付けテーマ「3K」を紐解く

「やっぱり着るからには綺麗に見せたいわよね。でも、着崩れちゃったら終わり。紐が当たって痛いわなんて思ったら、着物が嫌いになっちゃう」

「だから、綺麗・着崩れない・気持ちいい、この3Kが私の着付けのテーマなんです」

その「3K」を叶えるために最も重要なポイントを訊いてみると――

「腰紐こそ、要です」

と力強い言葉が返ってきました。

大久保さん

歌舞伎役者があんなに重い衣裳を着てひとつも着崩れないのが不思議で、尋ねてみたことがあって。そしたら、新モスの腰紐を使っていると教えてくださったの。やっぱり昔から長らく愛されているものはいいです。それ以来、私も生徒さんたちに勧めています」

※新モス……薄地でやわらかな平織りの綿布のこと。「新モスリン」の略で、毛織りモスリンの代用品として似せて織られたもの。

着物って、昔の人は普段着として着ていたものですから、誰だって着られるんです。要は慣れ。失敗してもいい、最初は下手でいいんです。着ていくうちに上手になりますから」

大久保さん

何度も何度も着ていると、腰紐はここ、胸紐はここっていうふうに、自然と紐一本一本があるべきところに落ち着くようになるんです。そうすると、ギューギューと締める必要もなくなって、自分の締まる場所が決まってくるんです。

そういうのを大事にしながら着付けをなさるといいと思います。回数を重ねるごとに、自分の気に入ったように着られますよ」

着付けの上達は、とにかく着ること。納得です。

2025.07.06

エッセイ

スッキリした着物姿に見えるコツ 「大久保信子さんのきもの練習帖」vol.12

季節に添う着物のリーズナブル化とは?

最後に、近年の温暖化に伴って変化を見せつつある「季節のルール」についても伺ってみました。

これだけ暑いと単衣や浴衣を着る期間が、ますます長くなるでしょうね。昔は、三社祭が浴衣の解禁日でしたけど、いまはもうどこからってあまり言わなくなりました。以前は、『もう浴衣なんか着ていいの?』とか『もう単衣着てるの?』なんて、よく言われたものです

※三社祭……約700年の歴史をもつ、浅草神社の例大祭。毎年5月第3金曜から日曜にかけて開催され、東京を代表する祭りのひとつとして知られる。

けれど、最近では人から訊かれることもなくなりましたね。自分の体感で暑いと思ったら涼しいものを着ればいいと思いますよ。だって、暑い最中に汗かいて、気持ち悪くなってまで着物を着ることないでしょう」

と、軽やかに言い放ち、朗らかな笑顔を見せてくれた大久保さん。

大久保さん

「もちろん、何月に何を着るといったルールは、勉強として知っておくべきだと思います。あくまで、お勉強としてね。そういった決まり事をある程度知ったうえで自分なりにアレンジするのが、賢い着方。温暖化に伴って、これからは季節のルールもだんだんリーズナブル(合理化)になっていくんじゃないかしら」

文章/椿屋
撮影/五十川満

2025.07.05

エッセイ

暑がりさんと寒がりさん 「きくちいまが、今考えるきもののこと」vol.61

2025.01.04

カルチャー

日本舞踊の愉しみ

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