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人生を彩る10枚の大切な着物たち 島田史子さん(前編) 【YouTube連動】「着物沼Interview」vol.9

人生を彩る10枚の大切な着物たち 島田史子さん(前編) 【YouTube連動】「着物沼Interview」vol.9

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着物をこよなく愛する人々の“沼”っぷりに迫る、YouTube連動連載「着物沼Interview」。今回のゲストは、歌舞伎役者・九世澤村宗十郎氏の番頭を23年間務めた島田史子さんです。宗十郎氏の形見をはじめ、人生の節目を彩ってきた着物の数々をご覧ください。

2025.12.11

ライフスタイル

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歌舞伎俳優の番頭を務め上げた島田史子さん

島田史子しまだちかこさんは、歌舞伎俳優・九世澤村宗十郎氏を支え続けた元番頭※。

※番頭……歌舞伎俳優のマネージャー的存在。チケットを手配するなど、御贔屓の方々の世話係としても濃やかな心配りも欠かせない仕事。

島田さん

現在は、銀座でエステサロン「まゆ月」を経営する株式会社まゆ月代表取締役で、和粋伝承人・化粧師として商品開発に携わったり講演を行ったりと、幅広く活動されています。
松本幸四郎さんと共にクレンジング『凄艶』をプロデュースするなど、「23年間お世話になった歌舞伎の世界にご恩返しがしたい」という気持ちで、挑戦し続ける日々をお過ごしです。

2025.04.28

アイテム

歌舞伎役者・松本幸四郎さん×和粋伝承人・島田史子さん共同プロデュースの拭き取りクレンジング『凄艶』「きものと編集部のおすすめ」」vol.4

はとこが歌舞伎俳優・九世澤村宗十郎氏と結婚したことがきっかけで、10代の頃に歌舞伎と出合った島田さんが、どのような経緯で澤村宗十郎氏の番頭となったのか――。必然とも言える人生の転機については、ぜひ動画をご覧ください。

勧められるままに買った始まりの着物

心斎橋の呉服店で購入した始まりの一着は、可愛い絵羽柄ながら主張しない色味の夏単衣。「すごく清楚でいいなと思って」、すごく惹かれた唐織の帯と一緒に買い求めた島田さん。

島田さん

「この着物と帯では一緒に着られないことも全然知らずに、勧められるままに購入しました。着物が好きなだけで分からなかったという思い出の着物と帯です(苦笑)。買って何年かは着ることができなかったけれど、最近になって出番が増えました。20代のときに買ったものが60歳を過ぎても着られるってすごいなと思います」

最後のお正月を覚悟して着た着物と帯

27歳の年の瀬、島田さんは胃がんと診断されました。両親に代わって余命宣告を聞いてくれたのが、澤村宗十郎氏。頭を撫でながらの

「お前さんね、お正月は一番いい着物を着なさいね。着れなくなってしまうから」

という言葉に、

「私、もしかしたら死んじゃうかもしれない……」

と悟った島田さんは、お客様に買っていただいた豪華な着物と帯でお正月を迎えたのです。

余命宣告後、新年を迎える際に締めた帯

余命宣告後、新年を迎える際に締めた帯。「いまでも時々締めています」

「白地に裾から暈しの入った翡翠色のお着物は、全身に金彩で蔦と梅の柄が描かれた豪華な一枚。思い入れのあるお着物でしたが、宗十郎のお嬢さんに差し上げたので、私の手元にはないんです。

いまなら携帯のカメラがあるけれど、当時は着物を着たからといってすぐに写真が撮れるものではなかったので、残念ながら着姿もありません。あの年のお正月を振り返ってみると、最後のお正月になるとしたらすごくいいお正月だな、と納得のいくお正月でした」

宗十郎氏から贈られた思い出の一枚

「京都の高橋染工さんへご挨拶に伺った際、宗十郎が『何か安いお着物はないの?』と訊くと、傷があるものを5枚出してきてくださって。

『傷って何とかできるんでしょ』と言う宗十郎に、金彩入れて直しますっておっしゃって。『お前さんね、着物買ってあげるからどれがいい?』と言ってもらって、お姫様の柄に惹かれてこのお着物を選びました」

お姫様の柄に惹かれてこのお着物を選びました

「お店の人には『地味じゃない?』って言われたけれど、最初に買った帯にぴったりかなと思って。着物を人からプレゼントされると、思い出に残るものですね。いまでも着られるのが嬉しいし、着ると、あのときの宗十郎の優しさを思い出します」

歌舞伎俳優らのパネル

歌舞伎座のロビーに飾られた歴代の歌舞伎俳優らのパネル前で足を留め、宗十郎氏の写真を見つめる島田さん

「父と同年代なのでお父さん的に頼れるところもあり、お芝居的には尊敬する部分もありましたが、普段はすごく可愛い人でした。人が大好きで、お客様や周りの方々を喜ばせることが役者としての仕事だと思ってた人。枕元に置いてある宗十郎のパネルに向かって毎朝話しかけているんですが、いつも近くにいるように感じています」

ご縁ある呉服店で出合った「形見の着物」

六本木にあった「高會堂」謹製の紗袷。お孫さんの嫁入り道具として誂えた思い入れのある一枚でしたが、「お孫さんにこんな黒い透けてる着物いらないって言われてしまったそうで……」と、当時の店主に想いを馳せる島田さん。

「中の菱絽には友禅が施してあって、鴛鴦の頭には金駒刺繍までしてあるすごく贅沢なお着物。思いが籠った一枚をお値打ちに分けていただきました。いまではもうつくれないような、凝りに凝ったお着物です」

「高會堂」謹製の紗袷

その紗袷を着て参列したパーティで、

「高會堂さんがお店を畳むことになり、残ってるものを譲りたいと聞いて、すぐに伺いました。そこで、『丸にいの字』の紋がついた男物の着物を出してこられて、宗十郎さんのでは?と。

まさしく、宗十郎のものでした。男物だし、五つ紋の舞踊用だったので、丈を長くして着るわけにもいかず、ちょっと悩みましたが、宗十郎が着るはずだった着物だからこそ私がいただくのが宗十郎も喜ぶかなと思い、買い求めました」

「波に千鳥」の替え紋が入った着物

宗十郎氏の替え紋「波に千鳥」をひとつだけ刺繍で入れてお直しをした着物は、

「いまではなかなかない鬼しぼの生地がちょっとぽってりしていますが、宗十郎に包まれているような重みを感じます」

と、愛おしそうに語る島田さん。

宗十郎氏の形見分けで着物はお弟子さんや友人知人の手に渡り、島田さんが譲り受けたのは作家・谷崎潤一郎から贈られた暖簾のみ。
この着物が宗十郎氏の形見として島田さんの手元へやってきたのは、なんと素敵な巡り合わせなのでしょう。

敬愛する岩崎かず子さんの「KAZ着物」

その格好いい生き方を心から尊敬してやまない人……それが着物デザイナー・岩崎かず子さんです。

「かず子さんと出会わなかったら、いまの私はなかったかもしれません」と言うほど、島田さんが影響を受けた師とも呼べる人生の先輩です。

勝虫柄のこの着物は、「これはあなたが持っていていいわよ」と譲り受けたもの。

「後から知ったんですが……ご病気で、誰にもおっしゃらずに亡くなられて、葬儀もせず、全部献体として提供されたので……ちゃんとお別れができなかったんです」

勝虫柄の着物

「KAZ」の落款を眺め、しばし故人を偲ぶ島田さん

「一度焼けてしまったので色をかけ直しました。これは一生着ていきたい着物。大切なかず子さんの形見です。『衿は白よ、草履の鼻緒も白よ』というかず子さんからの教えだけは、いまもずっと守り続けています」

島田さんが毎日着物を着るきっかけを与えてくれた岩崎さんのコレクションは、彼女が亡くなられた後、行方知れずに。ずっと探しているなか、2024年秋にとうとう再会を果たします。

牡丹柄の着物と帯の着姿

「牡丹の柄を一目見て、かず子さんのお着物だ!と思いました。KAZの落款もあり、確かにかず子さんのもの。大柄で色も少し派手だと感じたけれど、きっとかず子さんが呼んでくださって、私の手元に来たら喜ばれるかなと思って、同じ柄の帯と、流水紋の襦袢と3点セットでお迎えしました」

片岡愛之助さんとプロデュースする「花布季」

元々は十代坂東三津五郎氏が立ち上げたブランド「花布季かぶき」を、三津五郎氏亡き後、当時『半沢直樹』で注目を集めていた片岡愛之助さんと一緒に受け継いでいくことに。

「歌舞伎の演目に由来する柄や、愛之助さんの屋号や家紋から松や銀杏を取り入れるなど“ちなみ柄”の着物や、歌舞伎座へ行くのに相応しい素敵な着物をご提案しています。座ったときにシワになりにくい、ブランド用に織ってもらった生地でおつくりしています」

この日の装いも、もちろん「花布季」から

この日の装いも、もちろん「花布季」から。菊・梅・竹が華やかに描かれた訪問着は、あらゆる演目に寄り添える万能な一枚

合わせた帯も「花布季」のもの

合わせた帯も「花布季」のもの。上品な七宝柄の袋帯

イメージカラーは、鮮やかな“史子ブルー”

15年ほど前から、焦げ茶や黒のシックなコーディネートの差し色としてブルーを好んで取り入れてきた島田さん。小物はもちろん、ときには襦袢もブルーで仕立てました。

その頃から、周囲の人々が大胆な色遣いに注目し、いつしか彼女の愛するブルーを“史子ブルー”と呼ぶようになります。

「伊と幸」の単衣

衣桁に掛けられているのは、「伊と幸」の銀通しで織られた白生地を、“史子ブルー”で染めた単衣

「以前、インドネシア・ジョグジャカルタのクラトン王宮の王室紋様を染め上げた着物に出合って、尻込みしつつも、他にない色に惹かれて着てみたら、思った以上に周りの方々から褒めていただいて。撮影でも『史子ブルーでお願いします』って頼まれたり。だから、単衣と紋紗とそれぞれ同じ色で染めました」

“史子ブルー”の帯
ブルーが入った帯締め

“史子ブルー”の帯と同系色コーデにしたり、帯揚げや帯締めにブルーが入ったものを合わせたり。

「ブルーを身に着けていると元気になれるし、自分が輝けるかんじがするので、どこかにブルーを入れるようにしています」

”キラキラ”で輝く着物生活を!

最近のお好みを訊けば――。

「キラキラが好きなの」と、にっこり。

京都の創作江戸小紋ブランド「一道~ひとつのみち」製

京都の創作江戸小紋ブランド「一道~ひとつのみち」製

「ある程度の年齢になったら、キラキラを味方につけて、自分も輝きましょう!って伝えています。それって、自分自身にも言えることだなぁと思って。金糸・銀糸の入った着物は、どんな場面でも着やすいですし、帯によって雰囲気も変えられます。

これは、牡丹の大きな地模様があって、江戸小紋が全身に入っているとても凝ったお着物。凝っているけれど、着姿を後ろから見ると無地っぽいさりげなさが気に入っています」

島田さん

「ここ3年、毎日着物。私、お洋服を持ってないんですよ。毎日スーパーに行くのも着物、コンビニに行くときも草履。歌舞伎も海外も、着物です。ちょっと早まったかな、と思ったけれど(苦笑)。

洋服って一年前のものでも古く感じることがあるのに、着物はそうじゃない。楽しいしラクだし、健康にもいい気がします。洋服だとすぐ猫背になっちゃうけど、着物だったらシャキッとしていられるし。絹のパワー?で、肌にもいい気がするの」

島田さん

撮影の合間、「先人の碑」に手を合わせる島田さん

「着物は日常」と、力強い言葉をくださった島田さん。

着物と共に生きてゆくなか、数々の思い出や人生そのものが刻まれた着物が誰かのもとへと譲られていけば――彼女の想いが次の世代へと繋がっていくのです。

「汚したら……って思うこともあるけど、着て気持ちいいとか、誰かに褒められるとか、着物ってプラスのことの方が多いと思います。歌舞伎も着物も日本の大切な伝統文化。

それを次の時代に残していくためには、いま生きている私たちが『着物は楽しいんだよ』と、伝えないといけません。着物で歌舞伎を観にいくだけでも、文化がちゃんと伝わっていくと思います。ぜひ、みなさんも着物で歌舞伎をご覧になってくださいね」

撮影協力/歌舞伎座
文章/椿屋
撮影/五十川満

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