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『永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル — ハイジュエリーが語るアール・デコ』東京都庭園美術館  「きものでミュージアム」vol.51

『永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル — ハイジュエリーが語るアール・デコ』東京都庭園美術館 「きものでミュージアム」vol.51

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『永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル ― ハイジュエリーが語るアール・デコ』が東京都庭園美術館で開催中。アール・デコ博覧会から100年。アール・デコの精華を今に伝える旧朝香宮邸に、ヴァン クリーフ&アーペルによる約250点のジュエリーと工芸品が建築と響き合いながら輝きを放ちます。
扉画像:東京都庭園美術館 本館 大客室

2025.09.19

おでかけ

特別展『運慶 祈りの空間―興福寺北円堂』東京国立博物館 「きものでミュージアム」vol.50

アール・デコの精華を宿す建築空間に、アール・デコのジュエリーが輝く

今回は、 東京都庭園美術館で開催中の『永遠とわなる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル — ハイジュエリーが語るアール・デコ』をご紹介します。

※本コラム内の美術作品の写真につきまして、各美術館プレスより撮影および掲載の許諾を得て使用しております。画像写真の無断転載を禁じます。

1925年にパリで開催された「現代装飾美術・産業美術国際博覧会(通称:アール・デコ博覧会)」から今年はちょうど100年となります。

その記念すべき節目に、ハイジュエリー メゾン「ヴァン クリーフ&アーペル」の展覧会がアール・デコ様式を今に伝える旧朝香宮邸(現・東京都庭園美術館)で開催されています。

東京都庭園美術館 本館 大食堂

東京都庭園美術館 本館 大食堂

ヴァン クリーフ&アーペルは、アール・デコ博覧会の宝飾部門でグランプリを受賞した歴史を持ちます。

本展では、アール・デコ期に制作された歴史的なジュエリーを中心に、現代まで受け継がれる「サヴォアフェール(匠の技)」をご紹介。

東京都庭園美術館 本館 大客室

東京都庭園美術館 本館 大客室

歴史的価値が認められた作品からなるヴァン クリーフ&アーペルの「パトリモニー コレクション」と、個人蔵の作品から厳選されたジュエリー、時計、工芸品を約250点、さらにメゾンのアーカイブから約60点の資料が並びます。

アール・デコの精華を宿す建築空間に、アール・デコのジュエリーが輝き、装飾芸術の記憶と、時を超えた美の瞬間に出会える展覧会です。

時を超えて語りかけるヴァン クリーフ&アーペルの美

ハイジュエリー メゾン、ヴァン クリーフ&アーペルは、1895年にアルフレッド・ヴァン クリーフとエステル・アーペルの結婚をきっかけに創立され、1906年、パリのヴァンドーム広場に最初のブティックを構えました。

それ以来、自然やクチュール、ダンス、空想の世界からインスピレーションを得たハイジュエリーと時計など、繊細で叙情的なデザインと卓越した職人技で知られています。

東京都庭園美術館 本館 妃殿下居間

東京都庭園美術館 本館 妃殿下居間

また、代表的な技法「ミステリーセット」や、ジップ ネックレス、四つ葉のクローバーをかたどったアルハンブラ モチーフなど、革新性と美しさを兼ね備えた作品が多く生まれました。

展示風景より、中央が《シャンティ ジップ ネックレス》 1952年 ヴァン クリーフ&アーペル コレクション

展示風景より、中央が《シャンティ ジップ ネックレス》 1952年 ヴァン クリーフ&アーペル コレクション

展示風景より、アルハンブラ モチーフのネックレスなど

展示風景より、アルハンブラ モチーフのネックレスなど

1970年代には、過去の名品を集めた「パトリモニー コレクション」が始まり、現在は3,000点以上のジュエリーや時計、工芸品が収蔵されています。

このコレクションは1992年から世界各地で公開され、メゾンの作品がジュエリーの歴史やフランスの装飾芸術に果たしてきた役割を伝えています。

東京都庭園美術館 本館 大客室

東京都庭園美術館 本館 大客室

朝香宮夫妻が愛したアール・デコ

東京都庭園美術館は、1933年に朝香宮邸として建てられた建物を、そのまま美術館としています。

戦後のある時期には、外務大臣や首相の公邸、迎賓館としても使われていましたが、1983年に美術館として新しく生まれ変わりました。

白金台の静かな街の中にあるこの建物は、1910年代から30年代にかけてヨーロッパで流行したアール・デコの様式を今に伝えています。

朝香宮鳩彦王、允子妃肖像やパリでの写真など

朝香宮鳩彦王、允子妃肖像やパリでの写真などの展示風景

朝香宮ご夫妻は1922年から約3年間パリに滞在し、1925年のアール・デコ博覧会も訪れました。
 
帰国後に建てた自宅(現・東京都庭園美術館)は、博覧会の会場を手がけた装飾家アンリ・ラパンに部屋の設計を依頼し、ガラス工芸のルネ・ラリックなど、当時の芸術家たちの作品を多く取り入れました。

建築中、朝香宮鳩彦あさかのみや やすひこ王は頻繁に工事現場に足を運びました。明治天皇の第8皇女である允子のぶこ妃も、熱心に建築計画に取り組みました。アール・デコの朝香宮邸はおふたりの情熱と美意識の結晶と言えます。

実際に建築を担当したのは、宮内省内匠寮の技師たちと日本の職人たち。現在は国の重要文化財に指定されています。

旧朝香宮邸(現・東京都庭園美術館 本館)

庭園側から見た旧朝香宮邸(現・東京都庭園美術館 本館)

現在も建築当時の姿がほぼそのまま残っており、アール・デコの時代を実際に感じられるとても貴重な建物です。フランス本国でもここまでよい状態で残されたアール・デコ建築は珍しいと言われます。

本展では、アール・デコの邸宅空間に時を超えて輝くジュエリーが並びます。ヴァン クリーフ&アーペルによる本展は、建築と作品が静かに響き合う、特別な対話の場となっています。

展示風景 東京都庭園美術館 本館 姫宮居間

展示風景 東京都庭園美術館 本館 姫宮居間

ヴァン クリーフ&アーペルのアール・デコ

ヴァン クリーフ&アーペルはアール・デコ博覧会の宝飾部門でグランプリを受賞しました。

それが本展に出品される《絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット》(1924年)をはじめとするハイジュエリーたちです。自然のモチーフを昇華させた、アール・デコの美学を象徴する傑作です。

《絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット》

展示風景より、《絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット》 1924年 ヴァン クリーフ&アーペル コレクション 、東京都庭園美術館 本館 大食堂

ブレスレットのバラの花に注目してみましょう。白いバラはプラチナでかたどった花弁に大小円形のブリリアントカットのダイヤを隙間なくセットしています。赤いバラは同じくプラチナの花弁に異なる形のルビーをびっしりとセットしています。

それぞれの石の特性を生かし、自然の造形を忠実に再現しながら輝きを引き出す高度な技術が、メゾンの匠の技を物語っています。

《ローズ ブローチ》は一輪のバラで、少し立体的な花弁に大小のダイヤモンドが重なるようにセットされています。

展示風景(中央上段 《ローズ ブローチ》

展示風景より、中央上段 《ローズ ブローチ》1925年 ヴァン クリーフ&アーペル コレクションなど

花から着想を得たこれらの作品は、メゾンがアール・デコ期に抱いていたビジョンを読み解く重要な鍵といえるでしょう。

《ロングネックレス》

《ロングネックレス》 1924年 ヴァン クリーフ&アーペル コレクション  ペンダントを取り外してチェーン単独で着用することもできる

この他、1階の大客室・小客室にはアール・デコ期のハイジュエリーが眩いばかりに並びます。本物の煌めきは会場でぜひご覧ください。

展示風景
展示風景より、《イヴニングバッグ》(1926年)など

展示風景より、《イヴニングバッグ》(1926年)など

独自のスタイルの発展

展示室を進むと、ダイヤモンドとプラチナによるホワイトジュエリーを中心に、立体感と素材の多様性を追求した造形が展開されます。

展示風景より、《ネックレス》1929年 ヴァン クリーフ&アーペル コレクション

展示風景より、《ネックレス》1929年 ヴァン クリーフ&アーペル コレクション

このネックレスは、男性のネクタイから着想を得たデザインで、結び目に留め具が巧みに隠されています。胸元や背中、肩など、自在な位置に留めることができ、ひとつのネックレスが多彩な表情を見せてくれます。

展示風景

展示風景

鮮やかなエメラルドが総計165カラットにもおよぶ《コルレット》(上図左端)や幾何学モチーフのブレスレットやブローチなど、大胆さと洗練が共存するメゾンのスタイルが際立ちます。

ヴァン クリーフ&アーペルのモダニズムと機能美

社会の変化に応じて生まれた、抽象的かつ機能的なジュエリーも紹介されます。日常に寄り添いながらも美を失わない作品群が、モダンな感性を伝えます。

会場風景 東京都庭園美術館 本館 合の間

会場風景 東京都庭園美術館 本館 合の間

時計やハンドミラー、パウダーケース、常夜灯まで実用的ですがとても洗練されたものが並びます。

東京都庭園美術館 本館 二階広間

東京都庭園美術館 本館 二階広間

ミノディエールとは、ヴァン クリーフ&アーペルが発明した金属製のヴァニティケースのこと。小さなケースの中にコンパクトに化粧品やアクセサリーなど、女性の身の回りの品を収めており、1933年に特許が取得され、さまざまな素材と技法で作られました。

《カメリア ミノディエール》のカメリアは取り外すとブローチになります。

展示風景より、《カメリア ミノディエール》 1938年 ヴァン クリーフ&アーペル コレクション

展示風景より、《カメリア ミノディエール》 1938年 ヴァン クリーフ&アーペル コレクション

展示室には1920年代のドレスも並びます。マネキンのヘアスタイルやメイクも当時をしのばせ、タイムスリップしたような感覚になりました。

《イヴニング・ドレス》1920年代 などの展示風景 共立女子大学博物館蔵、東京都庭園美術館 本館 北の間

《イヴニング・ドレス》1920年代 などの展示風景 共立女子大学博物館蔵、東京都庭園美術館 本館 北の間

新館は「サヴォアフェール(匠の技)」の庭

新館では、ヴァン クリーフ&アーペルの「サヴォアフェール(匠の技)」に焦点を当てた展示が展開されます。メゾンが愛する草花や動物をモチーフとしたジュエリーが織りなす5つの庭園が広がります。

展示風景より、《1900 フラワーネックレス》1949年 ヴァン クリーフ&アーペル コレクション

展示風景より、《1900 フラワーネックレス》1949年 ヴァン クリーフ&アーペル コレクション

ミステリーセット技法を用いた作品群や、ブレスレットに形を変える《ジップ ネックレス》など、匠の技が光るジュエリーの数々。思わず笑みがこぼれるような可憐な作品にも出会えます。

「いのちを紡ぐ形と幸運」展示風景 東京都庭園美術館 新館

「いのちを紡ぐ形と幸運」展示風景 東京都庭園美術館 新館

最後に

本展の最大の魅力は、ヴァン クリーフ&アーペルのジュエリーが放つ輝きと、それを静かに引き立てるアール・デコの邸宅との調和にあります。この空間でしか生まれない、特別な時間が流れています。

東京都庭園美術館 本館 殿下居間

東京都庭園美術館 本館 殿下居間

旧朝香宮邸で織りなされる、ジュエリーの輝きとアール・デコ建築の調和。その美しい響き合いを、ぜひご自身の目で確かめてみてください。

この日の装い

東京都庭園美術館 日本庭園

東京都庭園美術館 日本庭園

この日の装い2

アール・デコ博でグランプリを受賞した《絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット》をはじめ、本展では花をモチーフにしたジュエリーたちが煌めきます。

小糸染芸の花々を型染めした訪問着にとなみ織物のバラの帯をコーディネート。帯締めは道明の優しい色味の笹浪組を選びました。

この日の装い 帯回り
この日の装い お太鼓

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撮影/五十川満

今回ご紹介の展覧会情報

ポスター画像

永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル
— ハイジュエリーが語るアール・デコ

東京都庭園美術館(東京都港区白金台)
https://art.nikkei.com/timeless-art-deco/

日時:2025年9月27日(土)~2026年1月18日(日)10:00 - 18:00 ※11月21日(金)、22日(土)、28日(金)、29日(土)、12月5日(金)、6日(土)は20:00まで開館 ※入館は閉館の30分前まで

休館日:毎週月曜日、年末年始(12月28日 – 1月4日)※祝日の月曜日開館、翌日の火曜日休館

※日時指定予約制
※詳細は展覧会公式サイトをご覧ください。

おすすめの美術展

※日時など変更になる場合があります。おでかけ前に公式サイトなどで最新情報を確認してください。

円山応挙 ポスター

開館20周年特別展 円山応挙―革新者から巨匠へ

三井記念美術館
https://www.mitsui-museum.jp/

日時:2025年9月26日(金)~11月24日(月・振休) 10:00〜17:00(入館は閉館の30分前まで)
※会期中展示替えを行います。

休館日:10月27日(月)のみ

ブルガリ ポスター

ブルガリ カレイドス 色彩・文化・技巧

国立新美術館 企画展示室2E(東京・六本木)
https://www.nact.jp/exhibition_special/2025/bvlgari_kaleidos/

日時:2025年9月17日(水) ~ 2025年12月15日(月)10:00~18:00(毎週金・土曜日は20:00まで)※入場は閉館の30分前まで

休館日:毎週火曜日

諏訪敦 ポスター

諏訪敦|きみはうつくしい

WHAT MUSEUM (東京・天王洲)
https://what.warehouseofart.org/exhibitions/suwa-atsushi/

日時:2025年9月11日(木)~2026年3月1日(日)11:00~18:00※入場は17:00まで

休館日:月曜(祝日の場合、翌火曜休館)、年末年始(2025年12月29日(月)~2026年1月3日(土))※2026年1月5日(月)は開館

◆ 読者プレゼント ◆

「竹鶏図屏風」 伊藤若冲筆

「竹鶏図屏風」 伊藤若冲筆 寛政2年(1790)以前 個人蔵

「梅鯉図屏風」 円山応挙筆 

「梅鯉図屏風」 円山応挙筆 天明7年(1787) 個人蔵

円山応挙 ポスター

さて、恒例の招待券プレゼント!
今回は『開館20周年特別展 円山応挙―革新者から巨匠へ』三井記念美術館の招待券を5組10名の方にプレゼント!
ぜひ、きものでお出かけくださいね!

下記リンクより、お使いのSNS経由にてご応募くださいませ。

◆インスタグラム
https://www.instagram.com/kimonoto__

◆X
https://x.com/kimonoto___

※応募期間:2025年10月14日(火)まで

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