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紫色の白昼夢 〜小説の中の着物〜 泉鏡花『艶書』「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第四十五夜

紫色の白昼夢 〜小説の中の着物〜 泉鏡花『艶書』「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第四十五夜

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小説を読んでいて、自然と脳裏にその映像が浮かぶような描写に触れると、登場人物がよりリアルな肉付きを持って存在し、生き生きと動き出す。今宵の一冊は、泉鏡花著『艶書』。音にした際のリズムや響きが何とも言えず心地良い、その独特の文体により、どこかスローモーションのようにも思える優雅な動きが実像を伴って脳内で再現される。百合が、薔薇が、菖蒲が散り、白い足袋を染める……それはまさに、紫色の白昼夢。

2024.12.29

まなぶ

陽の当たる、その裏で 〜小説の中の着物〜近藤史恵 『散りしかたみに』「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第四十四夜

今宵の一冊
『艶書』

「あゝもし、一寸ちよつと。」
「は、私……でございますか。」
 電車を赤十字病院下で下りて、むかうへ大溝おほどぶについて、岬なりにみちうねつて、あれから病院へくのに坂がある。あの坂の上り口の所で、上から來た男が、上つて行く中年増ちうどしまなまめかしいのと行違つて、上と下へ五六歩離れた所で、男がこゑを掛けると、其のなまめかしいのは直ぐに聞取つて、嬌娜しなやかに振返つた。
 兩方りやうはうあひだには、袖を結んでまとひつくやうに、ほんのりと得ならぬかをりたゞよふ。……をんなは、薄色縮緬うすいろちりめん紋着もんつき單羽織ひとへばおりを、ほつそり、やせぎすな撫肩にすらりと着た、ひぢに掛けて、濃い桔梗色ききやういろの風呂敷包を一ツ持つた。其の四ツの端を柔かに結んだ中から、大輪の杜若の花の覗くも風情で、緋牡丹も、白百合も、透きつる色を競うて映る。……盛花の籠らしい。いづれ病院へ見舞の品であらう。路をしたうて來たてふは居ないが、誘ふ袂に色香が時めく。……
 輕い裾の、すら/\と蹴出にかへると同じ色の洋傘かうもりを、日中ひなか、此の日のあたるのに、かざしはしないで、片影を土手にいて、しと/\と手に取つたは、見るさへ帶腰おびごしも弱々しいので、坂道に得堪えたへぬらしい、なよ/\とした風情である。

泉鏡花『艶書ー決定版泉鏡花全集ー』/千歳出版

今宵の一冊は、泉鏡花著『艶書』。

抜粋したのは物語の冒頭部分です。

alt=泉鏡花『艶書ー決定版泉鏡花全集ー』/千歳出版)

泉鏡花『艶書ー決定版泉鏡花全集ー』/千歳出版

男が声をかけたのは、病院へ見舞いに来たらしい、大輪の華やかな春の花々を携えたひと。流れるような、詠うような流麗な文体でそこに描き出されるのは、春らしく明るい陽射しに照らされた景色……にも関わらず、ふたりの会話が進むに連れて徐々に滲み出す不穏な気配。

どこまでが現実でどこからが妄想なのか……それすらも定かではないけれど、そのじわじわと蝕むような毒というか狂気の気配は妙にリアル。そのいちばんの要因は、数少ない登場人物の風貌や装いの濃やかな描写にあるのではないかと思えます。

例えば、

可厭いやな、土蜘蛛見たやうな。」
もすそをすらりと駒下駄を踏代ふみかへて向直むきなほると、半ばむかうむきに、すつとした襟足で、毛筋けすぢの通つた水髮みづがみびんつや。と拔けさうな細い黄金脚きんあしの、淺黄あさぎ翡翠ひすゐに照映て尚ほ白い……横顏で見返つた。

泉鏡花『艶書ー決定版泉鏡花全集ー』/千歳出版

とか、

其の間に、風呂敷は、手早くたゝんで袂へ入れて、をんな背後うしろのものをさへぎるやうに、洋傘かうもりをすつとかざす。と此の影が、又籠の花にうつすり色を添つつ映る。……日を隔てたカアテンのうちなる白晝まひるに、花園の夢見る如き、男の顏を ぢっと見て、

泉鏡花『艶書ー決定版泉鏡花全集ー』/千歳出版

とか。

短編である本作、抜粋ばかりしているとほぼ全部になってしまう(笑)ためこのくらいにしておきますが、この“をんな”をはじめとした登場人物たちの、それぞれ装いの描写が秀逸。

をんな”においては、華やかな外見を描写することで内に抱えた屈託をくっきりと浮かび上がらせ、男たちにおいては、その爽やかな季節にそぐわない装いが彼らの孕む狂気や醸し出す違和感を際立たせる。街中で遭遇する神学校の女学生やシスターなど、その限られた人数のビジュアルだけで強固に裏打ちされる説得力。お見事としか言いようがありません。

玉を転がすような美しい文体は、一見装飾過多のようにも思えるけれど、そのリズムというか、音にした際の響きが何とも言えず心地良く、それらと相まって、どこかスローモーションのようにも思える優雅な動きが実像を伴って脳内で再現されます。

ほとんどふたりの会話で進む、この物語。クライマックスへ向かい加速していきながら、そのピークでいきなりぷっつりと断たれるような唐突な幕切れに、ちょっと呆然とさせられますが……その翻弄される感じも、ある意味、鏡花作品の醍醐味と言えるかもしれません。

「では、御一所ごいつしよに。」
「まあ、嬉しい。」
 と莞爾につこりして、風にみだれる花片はなびらも、露を散らさぬ身繕みづくろひ。帶をおさへたパチンどめを輕く一つトンとてた。

泉鏡花『艶書ー決定版泉鏡花全集ー』/千歳出版

ちなみに、この“パチン留”という呼び方。

ここでは帯留を指していますが、髪留めやブローチなどの装飾品でパチンと音をさせて留めるものなら何であれ使われていたようです(昭和生まれは使ってましたよね……“パッチン留”。懐かしい笑)。

現在も主流の、紐を通す形の帯留が明治の半ば頃から流行し、パチン留の形状は徐々に廃れていったようですが、現代ではまた挟むタイプの帯留も作られていますから、まさに流行は巡るといった感がありますね(“パチン留”とは呼ばれていないと思いますが)。

今宵の一冊より
〜春の花尽くし〜

一寸ちよつと、お待ち下さいましよ。……折角せつかく持つてまゐつたんですから、ばかり、記念しるしに。……」
で、男は手を出さうとして、引込ひつこめた。――をんなが口で、其の風呂敷の桔梗色ききやういろなのを解いたから。百合は、薔薇は、撫子は露も輝くばかりに見えたが、それよりも其の唇は、此の時、鐵漿かねを含んだか、と影さして、言はれぬなまめかしいものであつた。
花片はなびらいたはるよ、てふの翼でづるかと、はら/\と絹の手巾ハンケチかろはらつて、其の一輪の薔薇をくと、重いやうに手がしなつて、せなぢさまに、と上へ、――坂の上へ、通りの端へ、――花の眞紅まつかなのが、燃ゆる不知火しらぬひ、めらりと飛んで、其の荒海にたゞよふ風情に、日向の大地に落ちたのである。
菖蒲は取つて、足許に投げた、薄紫が足袋を染める。

泉鏡花『艶書ー決定版泉鏡花全集ー』/千歳出版

和の色名において“薄色”とは、単なる濃い薄いではなく、紫系の色名のひとつ。

貴重な紫根を大量に用いて、しっかりと深い紫色に染められた“濃色こいろ”に対し、その数分の一の量の紫根で染められた薄い紫が“薄色”。平安時代に、一般庶民には使用が許されなかった高貴な色として禁色とされた“紫”は、はっきりとそう名乗らずとも、濃色・薄色だけで通用していたことからこの名が付いたと言われます(ちなみに濃色は使用を禁じられましたが、薄色はそうではなかったようです)。

作中の“蹴出にかへると同じ色の洋傘かうもり”という描写は、そのままずばり蹴出し(裾除け)か、もしくは八掛でしょうか。

ここでは薄羽織とトーンを合わせた日傘を添えましたが、袖口からちらりと見える長襦袢とリンクさせても、きっと素敵でしょうね。

作中で花籠を手にしたをんながまとう「薄色縮緬の紋着もんつきひとへ羽織」を彷彿とさせる縫いの一つ紋が入った薄色の色無地に、大輪の百合が描かれた濃色の染め帯を合わせて。

薄色ー僅かに灰がかったシックな紫ーの色無地は、茶席などのセミフォーマルなシーンにはもちろん、略喪服にも使えそうな落ち着いた雰囲気。ですが、こういった艶やかな染め帯を主役にした着こなしの土台としても、カジュアルにもかなり活躍してくれそうです。

藤や菖蒲の刺繍が施された、楊柳の半衿はアンティーク。

小物:スタイリスト私物

藤や菖蒲の刺繍が施された、楊柳の半衿はアンティーク。

同じくアンティークの象牙の薔薇の帯留を添えて、作中に描写された花籠に溢れるようなー百花繚乱ー春の花尽くしに。

洋傘かうもりの手を柱に縋つて、うなじをしなやかに、柔かなたぼを落して、……帶の模樣のさつく……羽織の腰をたわめながら

泉鏡花『艶書ー決定版泉鏡花全集ー』/千歳出版

ほのかに透ける大輪の花。

薄羽織(作中ではひとえ羽織)の内側に、ほのかに透ける大輪の花。

まるで霧雨に濡れたような、織り込まれた銀糸の煌めきとともに、後ろ姿にいっそうの奥行きをもたらしてくれます。

季節のコーディネート・花の帯
〜牡丹〜

百花繚乱の季節、春。

お花の帯というと、やはりどことなく甘く優しいイメージを抱きがち。

ですが、こんな個性的な縞尽くしの洒落訪問着に合わせたら、程良い甘辛ミックスのコーディネートに。

グレイッシュな白地に、大輪の白牡丹が織り出された袋帯を合わせて。

抑えたトーンながら程良い華やぎのある袋帯は、紬などの織物から訪問着まで幅広く合わせられて重宝します。真っ白すぎない、こういった白地の帯は合わせる着物の色を選ばないのでとても便利。

真冬には雪のモチーフと合わせて“寒牡丹”としても、出番がありそうです。
(先日のドラマ『プライベートバンカー』では、そんな組み合わせも)

モノトーンに深い蘇芳色をぴりっと効かせて。

モノトーンに二部半紐で深い蘇芳色をぴりっと効かせて、ランダムな縞のように見える白黒の霞が染められた帯揚げなど、遊び心のある小物を合わせたらいっそうこなれた印象。

親子らしき大小の獅子を象ったアンティークの帯留を合わせたら、『春鏡鏡獅子』や『連獅子』など、『石橋物しゃっきょうもの』と呼ばれる演目の観劇にぴったりの組み合わせに。

季節のコーディネート・花の帯
〜杜若〜

“杜若”という王道の古典モチーフでも、勢いのあるシャープなシルエットが印象的なこんな帯なら、モダンで新鮮な表情に。

水辺に咲く杜若には、水と縁のあるモチーフを……ということで、流水の半衿、お約束の八橋の扇子を添えて。例えば『伊勢物語』にちなんだ舞台や展覧会などにも良いですね。

2023.06.29

よみもの

端午の節句に菖蒲尽くし 「#京都ガチ勢、大西さん家の一年」vol.5

黒ベースの半衿。

小物:スタイリスト私物

黒ベースの半衿でも、刺繍の白の分量が多く動きのある柄なら顔映りも良く華やかさがあります。

胸元にはハイライトの役割を果たしてくれる白鼠色の楊柳の帯揚げ、そして柘植の鯉の帯留を添えれば、“端午の節句”にも。

2022.03.04

まなぶ

麗らかな陽光、春の訪れ ~弥生(やよい)の巻~ 「十二ヵ月のアンティーク半襟」vol.11

季節のコーディネート・花の帯
〜撫子〜

しぼのある紬ちりめんの素材感には、紬の帯も好相性。

ざっくりとした素朴な風合いが魅力的な紬地に、動きのある撫子の刺繍が施された名古屋帯を合わせたら、ナチュラルな雰囲気が漂う大人の甘さが感じられる組み合わせに。

リズム感のある斜め縞の帯締めで、縞を重ねて軽やかに。

小物:スタイリスト私物

柳の縞が描かれた染めの半衿に、帯揚げには撫子の花の色を思わせる浅紫を。

麻のような、少し軽さのあるざっくりとした風合いの帯なので、単衣の着物に合わせても良いですね。

リズム感のある斜め縞の帯締めで、縞を重ねて軽やかに。

今宵のもう一冊
『外科室』

泉鏡花『外科室・海城発電』岩波文庫

泉鏡花『外科室・海城発電』岩波文庫

数ふれば、はや九年前なり。高峰がその頃はいまだ医科大学に学生なりしみぎりなりき。一日あるひ予はかれとともに、小石川なる植物園に散策しつ。五月五日躑躅つつじの花さかんなりし。渠とともに手を携へ、芳草の間を出つ、入りつ、園内の公園なる池をめぐりて、先揃ひたる藤を見つ。

〜中略〜
 一個ひとり洋服の扮装いでたちにて煙突帽を戴きたる蓄髯ちくぜんおとこ前衛して、中に三人の婦人を囲みて、後よりもまた同一おなじ様なる漢来れり。渠らは貴族の御者なりし。中なる三人の婦人等おんなたちは、一様に深張の涼傘ひがさ指翳さしかざして、裾捌すそさばきの音最冴いとさやかに、するすると練来ねりきたれる、ト行違ひざま高峰は、思はず後を見返りたり。
「見たか。」

〜中略〜
―――行くこと数百歩、彼のくすの大樹の鬱蓊うつおうたる木の下陰の、やや薄暗きあたりを行く藤色のきぬの端を遠くよりちらとぞ見たる。

泉鏡花『外科室・海城発電』岩波文庫

今宵のもう一冊は、同著者の『外科室』。

この作品は、泉鏡花の代表作をいくつか挙げるとしたら?と聞かれたらかなりの確率で入ってくるであろう作品。1992年に坂東玉三郎丈監督、吉永小百合さん主演で映画化もされていますので、お読みになったことのある方も多いかと思います。

私自身も、この作品に関しては映画の印象が鮮烈で、吉永小百合さんのぐるりとフリルの付いた白い日傘に、刺繍衿をたっぷりと見せた紫の紋付裾模様の着物がすぐ浮かんできてしまうのですが、意外にも原作にはこの物語の主人公である伯爵夫人の、ストレートな衣裳の描写はそれほど多くないのですよね。

しかし、さすがに泉鏡花作品だけあって、舞台背景としての人々の装いや伯爵夫人の心理を表すちょっとした仕草などの描写は多く、イマジネーションを刺激するには充分すぎるほど。

特に、抜粋部分において(あえて〜中略〜としましたが)「見たか」の後に続く、この婦人等を評する“商人体の壮者わかもの”たちの会話が面白いので、そこはぜひ実際に読んでいただけたらと思います。

9年前の、ただ一瞬の邂逅に殉じた伯爵夫人と医師の秘められた恋。
(しかも、お互いにそれとは知らず)

キャッチコピー風にこう聞くと、さも美しく儚い情景が思い浮かぶかもしれませんが、できればリアルには想像したくない(痛いのダメな人はちょっと読むのがつらいかも)なかなかにハードな展開が待ち受けています(流麗な文体に誤魔化されるけど、かなりなスプラッタ……以前にご紹介した、鏡花作品の挿絵を主に手掛けた小村雪岱『日本橋檜物町』にも、その人となりが垣間見える描写ー全集の表紙に使われた写真の風貌や着こなしからも、どことなく感じ取れる繊細で潔癖な雰囲気ーがありますが、その極端さがなんとも鏡花らしいというか、何というか笑)。

2023.09.30

まなぶ

掌(たなごころ)を充たすものー装幀という芸術ー 〜小説の中の着物〜 邦枝完二著『おせん』「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第二十九夜

先に挙げた『艶書』とは、「病院」「日傘(本作では涼傘、『艶書』では洋傘かうもりと表記は違いますが)」「紫(本作では藤色、『艶書』では薄色)の似合う女性ひとーという共通項があります。

本作が発表されたのは明治28年。『艶書』が大正2年と少しあとの時代ですが、どちらも贅沢な衣裳を身にまとった裕福な身分の奥様であることは確か(爵位の有無はともかくとして)。

翻る裾の美しい紫、というイメージから選んだのは、淡い紅藤色から濃色のグラデーションが美しい裾濃に金霞の訪問着(本作中で描写された紫は“藤色”なので、もうちょっと青みの薄紫かなとは思いますが)。

茶系の地色に、なんとなく明治の丸帯の気配が感じられる大胆な藤と蝶が織り出された袋帯を合わせて。

躑躅つつじの刺繍衿をたっぷりと見せつつ、長めの紋紗の羽織を重ねたら、ちょうどこれからの季節のお出かけにぴったりな春先の装いに。

現代のパーティーなどでも、違和感なく映えそうなコーディネートに。

小物:スタイリスト私物

本作の時代設定に合わせて“衣裳”として考えるなら、この頃(明治前半)の装いであれば、本当は帯ももっと細かい柄で帯留も小さな方がらしい・・・と思います。

でも、この大胆な藤と蝶の帯が面白いなと思ったので、大ぶりなマベパールの帯留を合わせ、ちょっと大正寄りのコーディネートにしてご紹介しますね。

現代のパーティーシーンなどでも、違和感なく映えそうなコーディネートに。

大正っぽい雰囲気のコーデ

小物:スタイリスト私物

深い虫襖むしあおの地色に躑躅つつじが染めと刺繍であしらわれた楊柳の半衿。こういった、少しクセのある反対色の組み合わせも大正っぽい雰囲気に。

花芯に遣われた、くっきりとしたフクシアピンク(和名では躑躅色)は、海外から化学染料が入ってきた大正時代のターコイズブルーと並ぶ二大流行色。

この画像では少し見えにくいかもしれませんが、そんな色遣いもまた大正浪漫の空気観を醸し出します。

松の文様が織り出されたリアル明治期の丸帯と彫金の帯留

小物:スタイリスト私物

ちなみに、こちらは松の文様が織り出されたリアル明治期の丸帯(力いっぱい締めたらそろそろ切れそう……)と、銅鏡に桜を象った彫金の帯留。こちらも明治時代のもの。

鏡花作品の中でも『艶書』はそれほどメジャーというわけではないと思うのですが、美しい日本語で綴られる(あえて“奏でられる”と表現したくなるような)その情景は、そのまま映像として脳裏に浮かんでくるようで……

今日まで本作が単体として映像化されていない(鈴木清順監督の『陽炎座』に、オマージュ的に使われているくらい?)ことがちょっと不思議なほど(鏡花作品には『天守物語』『海神別荘』『日本橋』『婦系図』をはじめとして、戯曲も多く、舞台化や映画化されたものが多々ありますし、ネタには事欠かないからかもしれませんが。そして、もう現代ではコンプライアンス的に難しいでしょうね……)。

昨年末から先月末まで、連続ドラマ『プライベートバンカー』(京都きもの市場さま、ご協力ありがとうございました。このコラムを読んでくださっている皆さまにも、楽しんでいただけたでしょうか?)をはじめとした諸々の撮影に追われており、物理的に時間が取れずコラムをお休みさせていただいている間にすっかり季節が変わってしまいました(ゆかたの撮影も始まりましたし……すでに夏モード……)。

このところのあまりの急激な気温の上がりっぷりに、もう完全に単衣で良いのでは……?という気分になっておりますが、袷・単衣併用の調整期間が長くなったということで、臨機応変に楽しむといたしましょう。

帯留には、銀細工の桜を添えて。

小物:スタイリスト私物

つい先日、本っ当に半年ぶりくらいに着物を着まして……毎年逃しがちな蕨の帯を、ぎりぎり桜が咲く前に締めることができました。

茶系の細縞の御召(単衣)に、蕨が織り出されたアンティークの綴れの帯。
帯留には、銀細工の桜を添えて。

それに袷の羽織で、ちょうど良いくらいでしたね。
そうやって、その都度調節が必要だなと……改めて。

さて次回、第四十六夜。
その 袙扇あこめおうぎで雅に隠すは―花の かんばせ、物想い。

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