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宮古上布 宮古織物事業協同組合/工房がじまる(沖縄県宮古島市)「バイヤー野瀬の、きもの産地巡り」vol.9

宮古上布 宮古織物事業協同組合/工房がじまる(沖縄県宮古島市)「バイヤー野瀬の、きもの産地巡り」vol.9

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きもの好きが憧れる沖縄県宮古島への旅、続編です。野瀬、宮古織物事業協同組合で希少な織物の仕入れに成功か!?工房がじまるでは、宮古島のおばあに教わりブーンミ(苧麻績み)にもチャレンジ!

2023.12.21

まなぶ

宮古上布 新里玲子さん(沖縄県宮古島市)「バイヤー野瀬の、きもの産地巡り」vol.8

宮古上布を識る ~その歴史~

宮古島伝統工芸品センターに、宮古織物事業協同組合の浦崎専務理事を訪ね、組合にも限られた数しかないという商品を野瀬がじっくりと拝見している間……

宮古上布の歴史をおさらいしておきましょう。

バイヤー野瀬

16世紀のこと。

琉球の進貢船しんこうせんが中国から帰る途中で台風に遭い、船の舵を取る綱が切れてしまいます。乗っていた宮古島洲鎌村の下地の真栄という素潜りが得意な男が勇敢にも海に飛び込んでその綱を結び直し、船は無事琉球に帰ることができました。

琉球王がその功績を称えて真栄を下地の頭職に取り立てます。妻の稲石いないしが感謝のしるしに王に献上した「綾錆布あやさびふ」が宮古上布のはじまりと言われています。

稲石の織った「綾錆布」は、苧麻を原料糸とした錆色(青色)の経縞の織物で19ヨミ(布幅40cmに経糸1520本、数が多いほど繊細)の細上布だったと伝わっています。

宮古島の織物について熱心に語る浦崎美由希望専務理事

宮古島の織物について熱心に語る浦崎美由希専務理事

宮古織物事業協同組合の入り口には稲石の石碑が建てられ、毎年11月末に「稲石祭」が行われています。

宮古島伝統工芸品センター

宮古島伝統工芸品センター

以降、御用布として調えられ、粟に代わる税として王府に納められるようになると、役人に監視されながら織らねばならなくなったり、薩摩藩の琉球侵略後からは「薩摩上布」という名称で扱われていたという、島にとっては厳しい時代もありました

1908(明治41)年に仲宗根恵茂なかそねけいも「絵図台」を移入して数種類の絣もひとつの杼で製織できるようにし、地機から高機に切り替えて綜絖を考案

1917(大正6)年に下地紹壽しもじしょうじゅ締機を用いた絣締めを、翌年には西原幸位にしはらこうい奄美大島の締機を研究し改良に努めました

鹿児島からもたらされた締め機は今も現役

鹿児島からもたらされた締め機は今も現役

「宮古上布」の産地名を取り戻したのはこの頃で、とくに細上布は夏の最高級織物として非常に高値で取引されました。

宮古上布

最盛期には年1万8000反を数えた宮古上布でしたが、二度の戦争の間にほとんど織れなくなります

戦後、宮古織物組合、宮古織物工業組合の発足と復興に携わる人々の努力で日本復帰(1972年)頃には1000反弱まで回復しますが、苧麻糸を績む人の高齢化などから1980年代には300反ほどにまで減少してしまいます。

保護すべき伝統的技法として、国は1978年4月「宮古上布保持団体」に重要無形文化財の認定書を交付

さらに2003年には「宮古苧麻績み保存会」が設立され重要無形文化財の保存技術「苧麻糸手績み」に選定、現在でも生産数は少ないながら島一丸となって保持育成に取り組んでいます。

宮古上布を識る ~宮古上布とは?~

重要無形文化財「宮古上布」指定案件

重要無形文化財「宮古上布」指定案件は以下の5つ。

1 すべて苧麻を手紡ぎした糸を使用すること
2 絣模様をつける場合は伝統的な手ゆい技法または手くくりによること
3 染色は純正植物染であること
4 手織りであること
5 洗濯(仕上げ加工)の場合は木槌による手打を行い、使用する糊は天然の材料を用いて調整すること

宮古上布を織る製作工程

製作工程としては、

●糸づくり(苧麻栽培から経木掛け)
●デザイン(図案・絣くくりなど)
●染め(藍染めや福木など植物染め)
●織りの準備と織り
●仕上げ(砧打ちなど)

となりますが、それぞれ数えられないくらいの工程があるため、一番大事な糸づくりの現場を見せていただくことに。

風当たりの少ない敷地内で栽培されていることが多い苧麻

台風の被害にあわないように、風当たりの少ない敷地内で栽培されていることが多い苧麻

宮古上布の原料である苧麻イラクサ科の多年草

宮古別名「からむし」「まを」といい、宮古島には、細くて強く毛羽立ちの少ない繊維がとれる赤苧麻(アカブー)や、少し毛羽立つが収穫が多く見込める青苧麻(アオブー)など数十種あり、年に5~6回は収穫できます。

ミミガイ

ミミガイを使って茎を割き繊維を取り出します。

収穫した苧麻の茎にミミガイを当ててしごいて繊維を取り出し乾燥させます。

この繊維のことを「ブー」と呼び、きもの一反分の糸を績むには600~700gほど必要だそうです。

ブー

ブー

ブーンミにチャレンジ!

工房がじまる

工房がじまる

この日はちょうど、浦崎さんの『工房がじまる』おばあたちが集まって、苧麻績み(ブーンミ)をしていました

苧麻績み(ブーンミ)

苧麻績み(ブーンミ)

トンボの羽のようと称される極細の苧麻糸

極細の苧麻糸

ということで、野瀬もブーンミに挑戦

トンボの羽のようと称される極細の苧麻糸に悪戦苦闘です。

悪戦苦闘の野瀬

糸がたまるとヤマと呼ばれる糸車で撚り掛けをし、長さと本数を揃える経木掛け(カシカキ)されてようやく材料となります。

きもの一反分に必要な糸の長さは30kmで、早い人でも半年(!)はかかる作業なのだそうです。

ヤマ(糸車)で撚り掛けします

ヤマ(糸車)で撚り掛けします

原料の段階でこれだけの手間がかかる宮古上布。

日本を代表する宝石のような織物ということがよくわかります。

宮古上布だけじゃない、宮古島の手織物

宮古苧麻織

宮古島では、宮古上布のほかにも宮古苧麻織宮古麻織宮古織などの手織物が織られています。

宮古苧麻織

手績み苧麻糸を緯糸だけに使用し、経糸は麻(紡績苧麻・ラミー天然素材)、化学染料の使用も可能。

宮古麻織

経糸・緯糸とも麻が使われている手織物で、麻100%のきもの地として愛用されています。藍染めに化学染料なども使った自由な色の表現が魅力です。

宮古織

経糸に木綿緯糸に麻が使われている手織物で、木綿が入っているのでカジュアルなきもの地として、また洋服地などにも利用されています。

宮古織

どれも宮古島のおおらかな自然が感じられる素敵な手織物

制作数が限られていることに違いはなく、足繁く通ってこそ自信をもっておすすめできる満足のいく品を手に入れることができると、あらためて実感した野瀬なのでした。

宮古麻織

野瀬コメント

浦崎さんと野瀬

人間の体温や湿気と呼応するように、朝着たときと夕方でだんだんと身体に馴染む宮古上布は日本の夏の最高級織物。

宮古島の手織物はますます希少になってきたので、入ってきた商品を大事に、気持ちを込めてご紹介したいと切に思いました。

撮影/田里弐裸衣 @niraiphotostudio
取材・文/SOLIS&Co.
参考文献/『宮古上布~その手業』(改訂版 宮古上布保持団体発行)

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