着物・和・京都に関する情報ならきものと

宮古上布 新里玲子さん(沖縄県宮古島市)「バイヤー野瀬の、きもの産地巡り」vol.8

宮古上布 新里玲子さん(沖縄県宮古島市)「バイヤー野瀬の、きもの産地巡り」vol.8

記事を共有する

ついに!きもの好き憧れの地、宮古島へ。日本三大上布のひとつとして知られる国指定重要無形文化財・宮古上布は、もはや幻の布と呼ばれる織物。はたして野瀬はこの旅で希少な“美ら布”(美ぎ布・かぎぬぬ)と巡り合えるのでしょうか?

2023.10.19

まなぶ

鎌倉友禅 坂井教人・三智子さん(神奈川県鎌倉市・友禅)「バイヤー野瀬の、きもの産地巡り」vol.7

新里玲子さん「わたしの宮古上布は”糸に合わせる仕事”」

宮古島

宮古上布は苧麻(ちょま・からむし)という植物の繊維を糸にしたもので織られている通気性のよい夏のきもの。

野瀬が宮古島に着いて真っ先に向かったのは人気作家・新里玲子さんの工房です。

新里玲子さんと野瀬

さっそく、苧麻糸の話から……

バイヤー野瀬:上布は細い糸ほどよいものと思っていたのですが、新里さんの帯には極細の糸の中にたまに太い糸が入っているものもあり、なんとも言えない味わいなんですよね。

苧麻(ちょま・からむし)という植物の繊維

苧麻(ちょま・からむし)という植物の繊維

新里さん:私が織り始めた頃は細い糸しかなくて、太い糸は自家用だったようです。いま70の手習いで糸績み(いとうみ)を始めれば一生の仕事にできるんですけど、90歳を過ぎるとやはり糸がちょっと太くなるんです。

それを見たときに「おお!これは帯にしよう」と。味わいがあっていいでしょう? 60代70代の人に太い糸を作ってとお願いしても、これが不思議なことにできないのよ。細いほうが繋ぎやすいこともあるのですけど。

“糸に合わせる仕事”

バイヤー野瀬:均一な糸の中に太い糸があると、宮古島のおばあが見え隠れする感じがして、可愛らしいです。

新里さん:そこにある素材を生かすというのが私自身の原点でもあって、そういう意味で“糸に合わせる仕事”なんです。糸の魅力に支えられているのが宮古上布ですね。

糸を織る新里さん

宮古の色を上布に写し取りたい

バイヤー野瀬:宮古上布というと細かい絣の紺上布というイメージでしたが、本当のところはどうだったんでしょうか。

苧麻糸

新里さん:私がこの世界に入った当初は細かい紺絣一色でした。たしかにすごい技なんだけど、島の匂いがしない、宮古の色がない、これだけ明るい島なのに……と疑問に思って、歴史をひもといてみました。

そうしたら、琉球王国時代に色鮮やかな上布の世界があって、あ!私がやりたい仕事はこれなんだと。それで色上布をやりだしたら否定され「宮古上布じゃない」と言われたり……それでも、自分が着たいものができればそれでよかった

宮古上布1

バイヤー野瀬:沖縄ならではの歴史背景はつきまといますね。

新里さん:私は本当に恵まれていて、周囲のおばあたちが毎日たくさん糸を持ってきてくれるし、(紺絣ではないので)仕事は認めないけど愛情深い先輩たちが応援して問屋さんを紹介してくれたり、感謝ですね。

そうして好きなようにやってきて20年くらいたったころ、はたと、島の匂いがしないと思っていた緻密な紺絣が、”これぞ宮古島よ”という真逆の見方になったの。

宮古上布2

バイヤー野瀬:それはまた、なぜ?

新里さん:確かにデザイン的にはやまと風だけど、白か黒か、右か左かみたいにはっきりとした世界には島の気質が凝縮されてる!って気づいて。自分は好きなようにやってきたけれども、そういう伝統があってこそだったと。

それからはみなさんに言うの。「緻密な紺絣があって私の上布です、まず一反目は紺絣をどうぞ」って(笑)。

宮古上布3

バイヤー野瀬:逆にどっちが“宮古らしい”というのはないのかもしれませんね。

新里さん:そうですね。宮古上布には島の風土が凝縮されていると思ってからは私の作風の幅も広がりましたね。

新里玲子さんの緑色

バイヤー野瀬:新里さんの作品は、緑色が印象にありますが

新里さん:ベースは紺。緑もベースは藍でしょ?だから緑色は好きよ。

※緑は、藍をベースに福木の黄色などをかけあわせて染色される

新里さんの緑色

バイヤー野瀬:新里さんの緑色は、光によって福木の黄色が見えたり藍が出てきたり……あと、僕は新里さんの木麻黄(モクマオウ)の色も好きです。

新里さん:焦茶色ね。杉みたいな大木で、このあたりでは防風林になっています。藍とは違う趣がある味わい深い色ですね。よく使われている車輪梅(シャリンバイ)より身近なので、アクセントに使ったりします。

バイヤー野瀬:ぜひ、次の作品が織り上がったら一番にお願いします!

新里さん:またいつでも来てください。

作品の数々

藍甕と裏庭の苧麻を拝見

糸績みと砧打ち以外はすべて工房内で製作、絣くくりもご自身でされる新里玲子さん。藍をたてている染め場と、琉球藍や蓼藍、苧麻を植えられている裏庭にもご案内くださいました。

工房
藍をたてている染め場

工房には、長男の英之さんをはじめ妹さん方も携わっておられるそう。

家業として取り組む責任を感じつつも「笑顔には自信があるのよ」と語る明るいお人柄に、作品同様大いに魅了されたひとときでした。

笑顔の新里さん
藍には地元の泡盛と黒糖を入れる

藍には地元の泡盛と黒糖を入れる

絣くくりされた苧麻糸

絣くくりされた苧麻糸

庭の藍

裏庭の苧麻や藍

苧麻

苧麻から繊維を取り出す様子。ミミガイと呼ばれるアワビの貝殻を用いる

藍染した糸を干す。

藍染した糸を干す。暮らしの中の染織が新里さんの原風景

野瀬コメント

宮古ブルー

新里さんの作品はこれまでありがたいことに何十点も扱わせていただいており、私自身、思い入れの強い作り手さんのおひとりです。手績みの苧麻糸の魅力を最大限に生かした作品には、宮古島の方々が績まれた苧麻糸への深い愛情が感じられます。

従来の藍の宮古上布の色柄にとらわれることなく、草木染めにてさまざまな色に染められた糸を、手括りの絣にて、趣ある柄に表現されていらっしゃいます。宮古島の海のような鮮やかな色や落ち着いた配色の作品など、新里さんの色の世界も魅力的です。

撮影/田里弐裸衣 @niraiphotostudio
取材協力/SOLIS&Co.

シェア

BACK NUMBERバックナンバー

LATEST最新記事

すべての記事

RANKINGランキング

CATEGORYカテゴリー

記事を共有する