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工房 真南風(沖縄県中頭郡読谷村・首里織)「バイヤー野瀬の、きもの産地巡り」vol.2

工房 真南風(沖縄県中頭郡読谷村・首里織)「バイヤー野瀬の、きもの産地巡り」vol.2

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バイヤーである野瀬が、実際に買い付けをしている現場に密着。みなさまにお届けしている作品の背景をお伝えします!今回は沖縄・読谷村にアトリエを構える首里織の『工房 真南風(まふえ)』をご紹介します。

買い付けの現場から

日本全国にある染め織りの産地、そしてその地で真摯にものづくりを続けるひとたち―

それはこの先もずっと受け継がれるべき日本の文化であり、私たちの誇りです。

野瀬達朗

このすばらしき伝統文化から生まれる作品をみつめ続けているのが、京都きもの市場のバイイングを務める野瀬達朗。

朗らかな人柄と誰からも愛される笑顔の裏側には、「多くの生産者の努力とこだわりの逸品をきものを愛するお客さまに届けたい」という真摯な想いがあります。

本連載では、野瀬が実際に買い付けをしている現場に密着。みなさまにお届けしている作品の背景をお伝えします。

今回も、沖縄から。

伝統的な草木染めと首里織の世界に、新たなる美の可能性を追求する『工房 真南風(まふえ)』をご紹介いたします。

南風とともに、宝物を乗せて

「工房 真南風」の工房

『工房 真南風』 1階は染め場、2階が機場

『工房 真南風』があるのは、沖縄本島中東部にある読谷村(よみたんそん)。

沖縄では、南から吹く風のことを「真南風(まふえ)」と言うそうです。

琉球王朝時代、交易が盛んだった頃、近隣諸国に出た貿易船は、異国で得た宝物をたくさん詰め込み、南風に乗って台湾や中国から戻ってきました―

『工房 真南風』は、吉祥を招くその南風を工房の名にされていらっしゃいます。

回数を重ねて創る”花城さんの色”

染色作家・花城氏(写真左)

糸染めを担う花城さん(写真左)

まずは工房の1階にある染め場を訪ねました。ここでは、工房 真南風の作品に用いる色糸すべてが、花城さん(写真左)の手によって丁寧に草木染めされています。

バイヤー野瀬達朗(以下、バイヤー野瀬):真南風(まふえ)さんの魅力は、なんと言っても、この”草木染めで出す色”やと思っています。技法的なことも大切ですが、お客様にとって、第一印象はやっぱり”色”なんです。

とくに女性は感性の強い方が多く、色に関しては非常に敏感。店舗や催事会場では、真南風さんの帯だけを並べている訳ではないのですが、会場にある何千点ものなかでも真南風さんの作品の色は輝いていて、お目に留められる方がとても多いです。

花城さんが草木染めで手がける絹糸

バイヤー野瀬:透明感や奥行きが、目に飛び込んでくるんです!
これはお客様も感じているんじゃないかなと思います。花城さんが染めた色糸のクオリティを実感しています。

工房 真南風 花城さん(以下、花城さん):ありがとうございます。

化学染料は表現したい色に一回で染められます。これは悪いことではありません。
一方、草木染めは、染める回数を重ねて調整しながら、出したい色を作ります。

僕はこの”回数を重ねる”という作業が、色に奥行きを生む理由なのだろうと思います。

染色作家・花城さん

工房 真南風の作品の糸染めは、すべて花城さんが行う

花城さん:草木染めは、一気に染めようとすると色が沈んでしまうんです。だから本来なら一度で染まるような淡い色も、必ず2〜3回は重ねるようにしています。

すると、色がふわっと発色するんです。色の深み、奥行きが違うんです。

淡い色は難しく、本来は一回ですぐに染まってしまうんですよね。とくにいい絹糸だと染料をぐんぐん吸うのでなおさらです。でもここで(まあいいか)と思ってしまったら、他の工程でも楽な方へと流されそうな気がして。

だから僕はどんなに淡い色も回数を重ねて作るように努力しています。

同じ色は、創らない

染色現場

バイヤー野瀬:今日は何を染めはるんですか?

花城さん:クワディーサー(モモタマナ:シクンシ科の落葉高木)を使って、グレーの糸に染めます。クワディーサーは煮込むほどデンプン質が出ます。そのデンプン質が糸に付着するほどに、深く染まります。

1〜2回煮出しただけの液では染まらないんですよ。何度も煮出して染めていると、ある瞬間から真っ黒になっていくんです。一ヶ月ほど煮出して染めていると、染液に粘りが出はじめ、糸は一気に茶から黒に変わるんです。お、ここだ!という手応えを感じる瞬間があります。

グールを使って染色

花城さん:今日は一回目ですが、淡いグレーに変わる瞬間はわかると思いますよ。

バイヤー野瀬:何度目にどんな色になる、とか、メモを取らないと忘れてしまいませんか。

グールを使って染色

花城さん同じ色を作るつもりはないので、メモを取る必要はありません。そしてまだ見つけていない染色方法や、草木の組み合わせが山ほどあるんです。

次はあれとこれを染めようか、あれをこうしたらどうだろう、あの木を染めたら面白そうだなとか(笑)。重ねる回数や順番でも糸の染まり方は変わりますしね。

常に頭の中は試したいことでいっぱいです。

やりたいことがたくさんあって、同じ色を作りたいと思えないんですよ。

あえて、一反に満たない量を

染め場

他の工房よりも小さな鍋で糸染めを行う

バイヤー野瀬:染めに使う鍋も、他の工房に比べると驚くくらい小さいですよね。

花城さん:量も少なくていいと思っています。だからこの鍋のサイズがちょうどいいんですよ。この鍋で、帯一本分の経糸(たていと)か緯糸(よこいと)を染めることができますから。

でも、あえて一反にも満たない量しか染めないんです。

いや、意地悪ではないんですよ。足りない分は、織り手さんに他の色を挿してほしいから。僕からの一方的な提案だけではなく、彼女たちの感性を引き出して作品を仕上げてほしいんです。

そして、今まで以上に優しく穏やかな声で、丁寧に語ってくれました。

花城さん

花城さん:大量生産に魅力を感じないんです。

お客さま目線になったとき、自分が買った帯が店舗に何本も並んでいるのを見たらどう思うでしょう。絶対にたったひとつの帯の方がうれしいですよね。

だから僕は、この小さな鍋に入りきる量だけで、たった一回限りの色を、一期一会の色を作り続けていきます。

織り手を守りながら育てる

次は2階にある機場へ。首里織の作業風景を案内してもらいます。

首里織とは、琉球王朝時代の都である首里で生まれた、さまざまな紋織や絣織物のこと。

絣は庶民が、そして花倉織、花織、ロートン織、ティーバナ(手花)織は主に王族や士族が衣裳として着用していたそうです。

工房 真南風:ここでは花城さんが染めた糸を使って、織り手さんたちに織ってもらっています。

花城さんはすごく丁寧に染めてくれます。糸が絡まないように真っ直ぐ揃えて染めてくれるんです。織り手さんたちは巻きやすいし扱いやすいから、みなさん助かっていると思います。

仕立て上がった反物

工房 真南風の帯や着尺

その日工房では、4人の織り手さんたちが、心地よいリズムを奏でながら機を動かしていました。手前で作業をする女性は手で糸を織り込んでいます。

工房 真南風:彼女は今、ティーバナ(手花)を入れているところです。

ティーバナは一見すると、後から刺繍をしているように見えるのですが、実は織りながら手で糸を挟んでいくんです。ティーバナを入れることで、織に立体感が生まれ、実に表情が豊かになります。

バイヤー野瀬:工房には何名の織り手さんがいらっしゃるんですか?

工房 真南風:25〜6名でしょうか。工房にはみなさんお好きな時間に自由に出入りしてもらっています。都合のいいときにきて、好きな時間に帰ってもらっています。週に一度だけの人もいれば、お弁当を持参して毎日のように来ている方もいます。

ロートン織

草木染の絹糸を用い、総ロートン織で織り上げた作品

工房 真南風:出産や育児、介護など、家庭環境はさまざまです。もしそれが理由で織る仕事をやめてしまったら、すばらしい技術が消えてしまうことになります。

私たちは後世に残していくためにも、工房を自由に解放して都合のいいときに織ってもらえるようにしているんです。だから子育てをしながら、自宅に機を持ち込んで織っている方もいます。

バイヤー野瀬:お子さんが病気をしたら、自由に休むこともできますね。

工房 真南風:はい。数が作れない分、収入は減るかもしれません。でも辞めずに続けていたら、いつか長い時間を費やせる時期が来ます。80歳になっても続けていられる仕事ですから、辞めてしまったらもったいないです。

それと、織り手さんが何かを間違えても、工房が100%買い取ります。

何をどうしたら救えるかを一緒に考えます。手仕事ですからいろいろありますよ。作り手さんを守るのも、私たちの仕事です。

”真南風らしさ”を表現する

「工房 真南風」の反物

草木染めの豊かな色と手の込んだ織り技術によって生み出される反物

バイヤー野瀬:読谷山の地域といえば、読谷山花織ですよね。でも真南風さんの手がける作品には、他とは少し異なる新鮮なムードを感じます。

工房 真南風:私たちの工房では、首里織にティーバナを入れたり、ティーバナでジンバナ(銭花・金運を願う)を表現するなどしています。この地域だからというだけで同じことをし続けていても、工房らしさは生まれないと思うんです。

そしてなんと言っても、花城さんが丁寧に染めてくれた糸があります。これらが工房の魅力に繋がっていると思います。だから伝統を大切に守っていきながらも新しいことに挑戦し続け、”工房 真南風らしさ”を築き上げていくつもりです。

トレンドの色柄とは?

「工房 真南風」のアトリエ兼ゲストルーム

工房 真南風 アトリエ兼ショールーム

最後は、別棟にあるアトリエへと移動。山の傾斜地を造成して工房を建築したというだけあって、瀟洒な建物の縁側から眼前に広がる眺望は絶景です。

アトリエからの眺望

アトリエからの眺望。海と空が美しい!

ここでは今日、野瀬がバイイングをすることになっています。

バイヤー野瀬:今回は袋帯をオーダーさせていただきたいと思っています。紅型の訪問着には首里織の帯がとてもよく似合うので、お客様からのご要望も多くて。

工房 真南風:これまでに工房で作ってきた作品の資料がありますから、持ってきますね。

資料を眺めるバイヤー野瀬

資料に見入る野瀬

バイヤー野瀬:これはかなりの量ですね……。探し切れるかな(笑)

工房 真南風:数点ですが、実際にご覧いただける作品もありますよ。

買い付け現場

バイヤー野瀬:うわあ、この絣もいいね。絣ものも最近すごく人気が高いんです。福木で染めた黄色の絣が綺麗ですね!この絣にこの帯を合わせたらどうかな……。

首里織の九寸帯を袋帯用にオーダー

バイヤー野瀬:やっぱりいいですね!

首里織の九寸帯を袋帯用にオーダー

バイヤー野瀬:このティーバナ(手花)も緻密ですばらしい!

工房 真南風:織れる人が限られているので、なかなかお目にかかれないと思いますよ。

買い付け現場

バイヤー野瀬:この柄、とてもきれいですね。もう少し濃い色でお願いすることはできますか。

最近、コッテリといいますか、濃い地色に目がいくんですよね。今まで淡いキレイ色が新鮮で人気があったんですが、最近はまた濃い色の反応もすごく良くて。

とくに真南風さんの濃い地は、草木染めなのでニュアンスがある。すごく品があるのでさらに惹かれますね。出回っている量が圧倒的に少ないから、在庫がなくなってしまう前にお願いしておかないと。

工房 真南風うちは一点ものしか作りません。

花城さんのこだわりが詰まった色糸と、織り手さんの感性と技術。静かで美しい環境のなか、みなに無理のないスピードで丁寧に織り上げていく。小さな工房ですから、このペースのままでいいなと思っています。

撮影/田里弐裸衣 @niraiphotostudio

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