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源氏物語のもう一人の主役、紫の上 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.1

源氏物語のもう一人の主役、紫の上 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.1

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着物ファンな「きものと」読者のみなさんとでしたら、「もし現代人なら、こんな着物を選びそう!」とか、「登場人物の”人となり”を表す概念コーデ」なんかを考えたらおもしろそうじゃないですか?

まなぶ

3兄弟母、時々きもの

こんにちは。2024年も着物や歴史に関わる楽しい連載をしていきたいと思います。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて、今年は大河ドラマが平安時代ですねー!!

服飾史が好きなのですが、なかでも最初に興味を持ったのが平安時代。枕草子や源氏物語などの平安文学に想像の世界を広げてもらった元・古典少女な私が一気に蘇って、早速ワクワクしながら観ています。

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平安時代の風俗や暮らし方はまだまだ正確にはわかっていないことも多く、また史実通りにドラマを描くと動きの少ない会話劇になってしまいがちでしょうから、創作物語として自由な観点で楽しめそうですね。

そこで!

今年一年は平安ドラマへのウキウキテンションが抑えられないので、『源氏物語の女君たちの装い』に注目した連載をさせていただきます!

題して『源氏物語の女君がきものを着たなら』

平安装束の襲の色目(かさねのいろめ)を知ったり、その姿を想像するのも楽しいですが……

着物ファンな「きものと」読者のみなさんとでしたら、「もし現代人なら、こんな着物を選びそう!」とか、「登場人物の”人となり”を表す概念コーデ」なんかを考えたらおもしろそうじゃないですか?

物語の人物なので、みなさんもそれぞれに「この女人はきっとこんな人……」というイメージがあるかと思います。漫画『あさきゆめみし』のお顔でがっちり固定されている方も多いでしょう(そのうちの一人です)。

なので、あくまで”とめっこが感じた人物像”に似合いそうな着物を着せていきますのでご了承ください。

「えーもっとこうじゃない?」なんてご意見も大歓迎です!

というわけで……初回はやはり!源氏物語のもう一人の主役、紫の上でしょう。

一人目は源氏物語のもう一人の主役、紫の上

紫の上は、光源氏が恋い焦がれる藤壺の女御の姪に当たる血筋なのですが、妾腹であったため父である兵部卿宮の正室から疎外され、祖母である北山の尼君の元で育てられているのを光源氏に見染められます

「好きな人と血が繋がっている上に顔立ちもよく似ている」という、まぁ今の感覚からするとだいぶん身勝手な理由で、ほぼ誘拐のような形で自邸へ連れ帰ってしまうのです。

なんだかもうこの時点で可哀想な感じがありますね……

光源氏に最も愛され、通い婚があたりまえの時代において光源氏の館で人生のほとんどをともに過ごした女性ではありますが、例え平安の世でも正式な結婚とは言えない形だったので、紫の上が正室となることはなく”最愛の恋女房”と呼ばれているのも切ないところです。

そんな彼女が紫の上と呼ばれる前、光源氏が垣間見た少女だった若紫は、こんな姿をしていました。

中に十ばかりにやあらむと見えて、白き衣、山吹などのなれたるを着て走り来たる女子…
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫
【染の北川】京友禅振袖 「扇面雪輪に四季花」

十ぐらいに見えて、白の上に淡黄の柔らかい着物を重ねて向こうから走って来た子は、さっきから何人も見た子供とはいっしょに言うことのできない麗質を備えていた。将来はどんな美しい人になるだろうと思われるところがあって、肩の垂れ髪の裾が扇をひろげたようにたくさんでゆらゆらとしていた。

『全訳源氏物語 上巻』角川文庫

山の自然のなかに淡い山吹色の衣がさぞかし映えていたんでしょうね……愛らしさと、10歳ごろの、”子どもから大人に変わりつつある女の子の美しさ”がよく現れています。

今、もし若紫が七五三や十三詣りで振袖を選ぶなら、こんな感じ(左)でしょうか。

お花いっぱいな友禅の古典柄。やわらかそうなクリーム色に、色みは抑えつつ柄ゆきの華やかな帯で引き締めるのはどうでしょう?

そして光源氏と夫婦となり、館の女主人として華やかで落ち着いた大人の女性となった紫の上。

容姿は気高く、現れるとその場が明るくなるような華やかな美しさと評され「春の御方」と呼ばれます。

優れた人柄として描かれている彼女

気高くきよらに、さとにほふ心地し春の曙のの霞の間より、おもしろき樺桜の咲き乱れたるを見る心地す
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫

時の最高権力者でもある絶世の美男に愛されても驕らず、夫が通う多くの女君たちにも取り乱すことなく、また他の女性が産んだ子も大切に育てるという優れた人柄として描かれている彼女

『野分』では、台風の後片付けをしているところに光源氏の息子、夕霧が見舞いに訪ねて紫の上の姿を垣間見てしまいます。

秋真っ盛りというのに、その時の紫の上の容姿を表す言葉が春の温かさ、華やかさにあふれていることからも、花が咲き乱れるような美貌が思い浮かびますね。

女君たちの衣装といえば、源氏物語のなかで最も有名なのが、六条院で暮らす女君たちに正月の晴れ着を送るために選ぶ「衣配り」と言われるシーンです。

その中で、他の女君たちは結構納得だったのですが、個人的には紫の上への衣装は意外でした。

柄の派手さにも負けない気品で上手に着こなす

紅梅のいと紋浮きたる葡萄染(えびぞめ)の御小袿、今様色のいとすぐれたる
『源氏物語』小学館 新編古典文学全集22

紅梅のいと紋浮きたる葡萄染(えびぞめ)の御小袿、今様色のいとすぐれたるとはかの御料

『源氏物語』小学館 新編古典文学全集22

光源氏とともに春の御殿に住まう女主人には、現代的で華やかさの際立つ『今様色』の襲(かさね)を選んだ光源氏。

派手……というか、下手をすればどぎつい印象になりかねないのでは?と思ってしまいました。平安時代は若い人の方が渋く、年を取るほどに明るい色の袴を履くという決まりもあったので、現代とはまた色に対す概念も違うのかもしれませんが……

文章から感じられる紫の上はパステルカラーや温かみのある柔らかい色味をいイメージしていたのですが、光源氏としては紫の上がこの色目の衣装に着られない華やかさを認めており、また女主人としての存在感と威厳を見せたかったのかもしれないな、と思いました。

あとこれは現実的な話、当時の染色技術でこのような濃い紫を染めるのは途方もない労力が必要、つまり貴重で高級なのですよね。源氏としては紫の上に最高級の衣装を贈って敬意を表したのかな、とも思われます。

着物でこの色味をそのまま使うと今どき?というよりアンティーク好きの洋装ミックスが合いそうですが……私のなかでの紫の上は正統派に着物を着るイメージなので、晴れ着ということもあり、訪問着を選んでみました。

色味と梅のパキッとした柄の派手さにも負けない気品で上手に着こなす現代的な美人さん。でも人柄のあたたかさが着物の強さを中和させることと思います。

こんなふうに、物語の登場人物に着せるならどんな着物?と想像するのっておもしろい!

みなさんのイメージはどうでしょう?

正解はないので、手持ちの着物の中から「今日は紫の上が選びそうなコーデ」なんて考えて遊んでみるのも楽しそうですね!

2022.11.29

まなぶ

袖についての、ちょっとした考察 〜小説の中の着物〜 河治和香『国芳一門浮世絵草紙3ー鬼振袖ー』「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第十九夜

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