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有職組紐 道明(東京都台東区上野)「バイヤー野瀬の、きもの産地巡り」vol.6

有職組紐 道明(東京都台東区上野)「バイヤー野瀬の、きもの産地巡り」vol.6

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京都きもの市場の名物バイヤー・野瀬の買い付け現場に密着する舞台裏連載。6回目は帯締めの最高峰ともいえる上野・池之端の『有職組紐 道明』さんへ。組み方も色合いもさまざまで本店ならではの豊富な品揃えから、これは!というものを次々とピックアップしていく野瀬の目が光ります。

2023.04.28

まなぶ

南風原花織・琉球絣作家 宮城麻里江(沖縄県・南風原町)「バイヤー野瀬の、きもの産地巡り」vol.5

帯締めの最高峰ともいえる「有職組紐 道明」

道明

3か月に一度は上野の『道明』本店を訪れ、そのたびに3~4ケース(約100本)ほどは仕入れているバイヤー野瀬。

京都きもの市場、バイヤー・野瀬達郎

セレクトの基準は「他のメーカーさんにはない色、魅力的な柄」。

あらゆる商品を見てきた長いキャリアで、迷うことなく、しかしひとつひとつしっかり吟味しながら今日もどんどんセレクトしていきます。

セレクト中の野瀬。

あの帯を締めよう!と、イメージが広がる帯締めを届けたい。

ほかにはない絶妙な色とデザインを探しに...

セレクト中

バイヤー野瀬:お客様の好みにも流れがあって、少し前までは単色の冠組が主流でしたが、いまは柄物に抵抗がなくなったというか、帯とのコーディネートをより積極的に楽しむ方が増えている気がします。

道明・森さん:きもの雑誌の影響も大きいですよね。『きものSalon』の編集部さんとは撮影する帯やきものに合わせて一緒に考えてご提案させていただいたりしています。

誌面を通して、帯締め一本で雰囲気が変わるというのがだいぶ浸透してきたように思います。

これは編集部おすすめの<紺ローズ>ですよ。

紺ローズ

写真提供/有職組紐 道明

バイヤー野瀬:常に人気で常に品薄という<紺ローズ>ですね!これは本当に使いやすそうですよね。しかし道明さんはやはり色出しが絶妙です

道明・森さん:うちは段染めが得意なんです。たとえば亀甲などもグラデーションのものは他社さんにもあっても段染めはなかなかないのではないでしょうか。

糸のどの部分をどう染めれば綺麗な段ができるか、糸と組み(柄)の関係を近くでコントロールできるのが自社内で制作している強みだと思います。

セレクト中02

バイヤー野瀬:たしかに平家納経シリーズ>や<亀甲組>などの段染めのものは人気ありますね。森さんが一番好きな組み方はなんですか?

道明・森さん:唐組ですね。紐として好きなのです。これが組みたくて組紐業界に入ったので(笑)。平たい紐で菱を入れる……ちょっと立体的でふっくらしていますよね?じつは娘の七五三用に娘の好きな色で<春秋>の色違いを組みました。

バイヤー野瀬:それは素敵なエピソードですね!唐組みの<春秋>は寿ぎのかおりがします。複雑な組みになればなるほど糸が多いということになりますか?

セレクト中

道明・森さん:奈良組で16玉、冠組で24玉、御岳や唐組で32玉ですが春秋は36玉で普通の丸台でつくる最大数になります。玉数が増えれば増えるほど当然複雑で手間がかかります。

バイヤー野瀬:36個の玉を入れ替えて組んでいくことを想像すると、絶対どこかでわからなくなりそうな気がしますが……(笑)自社内で制作されているというのは、こちらの建物内ですか?

道明・森さん:はい、今日は特別にご案内しますよ!染め場から行きましょうか。

バイヤー野瀬:見せていただけるのですか?ありがとうございます。楽しみです。

この日の野瀬セレクト。真ん中下に唐組が。

この日の野瀬セレクト。真ん中下、菱模様の組み込まれたものが唐組

10年近く通っているバイヤー野瀬ですが、いつもは、静謐な空間で独特の座売りスタイルを貫く1階の売場のみ。

初の潜入にちょっとワクワクしている様子です。

冠組十段茄子紺。

冠組十段茄子紺

冠組十段茄子紺と鶸茶を注文で依頼。道明の帯締めは数に限りがあるため、一度に仕入れできる本数にも制限が。

道明の魅力 その1 色を探る 
〜染め場の糸の輝きたるや、いと美しき〜

染め場の系の輝き

道明の基本色は120色。

それにプラス60、合計180色に紫苑色や白像色、菜種色などといった素敵な名前がつけられていて、”しっぽ”と呼ばれる見本の色糸が番号で管理されています。

しっぽ

しっぽ

番号で管理されています。

番号で管理されている

鈴木さん(左)と小林さん(右)の染め作業を興味深そうに見つめる野瀬

小林さん(右)と鈴木さん(左)の染め作業を興味深そうに見つめる野瀬

染めの現場を担当するのは、入社10年目の小林さんと、今年入社の鈴木さん。

二人の若い専属の染め職人です。

手染めしているからこそ

設計された色指定通りに、目指す見本の色になるまで根気よく丁寧に染めていきます。

きちっとした段染めができるのも上質な絹糸をひと綛(かせ)ずつ手染めしているからこそ。

小林さん作業中
草木染

復元品の制作は草木染で行いますが、通常商品の帯締めは化学染料。

微妙な色出しのために色を配合するのはもちろん、例えばピンクを下染めしたあとに紫をかけるなど、さまざまな工夫が。

引き寄せられる

バイヤー野瀬:綺麗ですねえ。糸を見ているだけでも引き寄せられます。

通常商品の帯締めは化学染料
微妙な色出しのために色を配合

道明・森さん:1回で染められる糸の量は帯締め5~12本分

見本糸をストックしていて同じ色になるように染めるのですが、手染めなので本当の意味ではまったく同じ色にはならない、そこがまたいいところだと思っています

3ヶ月に一度は伺っている野瀬でも新鮮に感じます。

バイヤー野瀬:3ヶ月に一度は伺っている私でも来るたびに新鮮なのはそのせいかもしれません。

道明・森さん:切り房(帯締めの両端についている房状の糸)だけ違う素材になっている帯締めもよくあると思いますが、房が同色なのもこうやって一緒に染めているから叶うことなのです。

手染め、手組みこそ道明の帯締めです。製作部も見てみますか?

バイヤー野瀬:はい!ぜひ。

切り房

道明の魅力 その2 組みの妙 
〜織る・編む・組む……さまざまな「紐」の世界〜

組み職人部屋にて。

組み職人部屋でもあり設計も行う製作部へ。

製作部の伊東さんが高台で高麗組の段染めを組んでいました

高麗組の段染めを組む

きれいに段染めされた無数の糸が、まるで魔法のように伊東さんに操られて一本の帯締めへと組み上がっていきます

真剣な眼差し

機織りと似ているようでいてまったく違う糸が組まれる様子にしばし見入ってしまう野瀬。真剣な眼差し。

丸台にて帯締めを組む。

丸台では唐組の<幡垂飾(ばんすいしょく)>の帯締めを組んでいました

法隆寺献納宝物にある飛鳥時代の金銅装唐組幡垂飾を表現した、厳かな印象の帯締めです。

糸が巻かれた鉛入りの32個の玉を規則的に移動することで組み上がって行くのですが、見ているだけでも気が遠くなりそうです。

唐組の幡垂飾の帯締めを組み中

唐組、幡垂飾の帯締めを製作中

糸の建築

まるで糸の建築

バイヤー野瀬:なんというか、糸の建築みたいですね。道明さんの帯締めは“締めやすい”と評判ですが、手組みの微妙なテンションに秘密がありそうですね。

道明・森さん:繊維分野は基本的に、織る・編む・組む のどれかで成り立ちます。真田紐は織っていて、ニットとかは編んでいますね。組んでつくる帯締めは糸がバイヤスに走っているので伸縮が出るわけです。

道明は1652年創業、当代社長が10代目で、いまは帯締めで知られていますが、先祖は刀の下緒(さげお)や柄(つか)に巻く紐や掛け軸の紐をつくっていました。多数の復元も手がけていて、その資料が上階にありますので、お宝を見せましょうか?

バイヤー野瀬:はい!お願いします。

道明の魅力 その3 歴史ロマン 
〜復元研究から構築された組紐の美〜

慶応4年から大正12年までの道明の店舗

慶応4年から大正12年までの道明の店舗

バイヤー野瀬:わ、これはすべて復元されたものですか?

道明・森さん:はい、先代・先々代の頃には復元専門チームがいたそうです。それくらい復元の仕事があったのでしょうね。復元品は大抵2本制作して一本をお収めし一本は資料として残してあります

貴重な復元品を特別に拝見

貴重な復元品を特別に拝見

資料01
資料02
亀甲組の帯締め

バイヤー野瀬:亀甲も美しいですね。両面亀甲とは!素晴らしいです。人気商品の亀甲組の帯締めのルーツを見るようですね。

あ、この西大寺の紐も帯締めになってますよね?

戸帳(とばり)

道明・森さん:はい、奈良の西大寺の釈迦如来立像の頭部に入っていたお経を包む錦袋についていた紐を調査して復元したものです。つまり帯締めの<西大寺>は鎌倉時代の紐を元にデザインしたものなのです。複雑なので高い技術も必要だし時間もかかりますね。

バイヤー野瀬:さきほど私が選んだ<戸帳(とばり)>も西大寺由来でしたよね?

道明・森さん:そうです。黒漆大神宮御正体厨子に懸けられた錦の戸帳に吊紐として付帯していた表と裏が入れ替わりながら組まれたとても手の込んだ平組の組紐があり、それを元につくった帯締めです。ちゃんと表現できているでしょう?

バイヤー野瀬:この部分ですね、すごくおもしろいです。

写真提供/有職組紐 道明

写真提供/有職組紐 道明

道明・森さん:そもそも紐を道具として考えれば機能さえ果たせばいいわけですが、紐に装飾を加えて美術工芸的に愛でたというのは日本ならではのようです。

バイヤー野瀬:そんな美意識が帯締めに息づいていると思うと、また見る目が変わります。今日はとても勉強になりました。ありがとうございました!

道明・森さん:こちらこそ。いろいろ知っていただいてうれしいです。紐の世界も奥深いのでまたぜひお越しください。

撮影/田里弐裸衣 @niraiphotostudio
取材協力/SOLIS&Co.

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