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オトメゴコロをくすぐる更紗、天草にあり! 「古谷尚子がみつけた素敵なもの」vol.7

オトメゴコロをくすぐる更紗、天草にあり! 「古谷尚子がみつけた素敵なもの」vol.7

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「天草更紗」、「アマクササラサ」…!? 甘美な響きに導かれるように、天草の地をひとり訪ねた古谷尚子さん。そこには、教会のステンドグラスやヨーロッパの壁画を思わせる、そして、「天草」という土地が持つどこか神秘的な魅力に満ちた更紗がありました。

帯留めいろいろ

着物姿における帯留めの存在感たるや。うっとり見惚れる和美人となるか、あら少し残念?の印象となるかはここにかかっています。世界のハイジュエリーを見てきた古谷尚子さん、今回は京都・東山にて思わず「あったー!」となった出会いを早速みなさんにシェア。

導かれるように出合った天草更紗

ある日、熊本の工芸館にいた私の耳に飛び込んできたのは「アマクササラサ」という甘美な響き。

居ても立っても居られず、羽田行を天草行の便に変更し、ひとり天草の地に降り立ったのはちょうど一年前です。

「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が世界文化遺産に登録されたニュース映像(2018年)を見て、いつか行ってみたいなあと漠然と思っていた天草、初上陸のその日はあいにくの大雨。

﨑津教会

ワイパー全開で美しい佇まいの﨑津教会や丘の上にある白亜の大江教会などを駆け足で巡るうちに空はだんだんと青く澄み、晴れ間に浮かぶ幻想的な風景に後押しされるように、天草更紗の工房へと向かいました。

大江教会
丘の上

ひと目見て衝撃。南蛮の風を感じるモチーフ。

少ない情報を手繰り寄せて天草更紗の工房「野のや」さんを探し当てると「close」の文字。 

ガーン…

試しに扉に手をかけ「ごめんくださーい、あのお、天草更紗を見せていただくことはできますか?」と声をかけてみると、若い女性が「いまカフェはお休みなんですが…よかったらどうぞ」と招き入れてくれました。

ほっ。

緊張しつつ中に入ると、そこにあったのはまさに「天草」更紗。

天草更紗01

教会のステンドグラスやヨーロッパの壁画を思わせる鮮やかな色彩の細かな模様が、バッグや小物、Tシャツにちりばめられていました。

天草更紗のバッグ
天草更紗のポシェット
天草更紗のブックカバー
天草更紗のTシャツ

うわー!これは可愛いすぎるぅ!

唯一の継承者である中村いすずさんに会えた!

「これは私の母が染めています。もうすぐ帰ってきますからよかったらお待ちください」

あわよくば工房を拝見してお話を聞きたいと思った私は即座に「ありがとうございます」と、答えていました。

私たちがよく目にする更紗は唐草、唐花、立木文といったムガール帝国のイスラム教の影響を受けたインド更紗。

同じようなモチーフが見られるものの、人間や動物の描かれ方が聖書を思わせ、その色彩感覚も青い海と空に囲まれたキリシタンの島ならではの世界観。

キリシタンの島ならではの世界観
天草更紗の小物入れ

あれも欲しいこれも欲しいと迷っているうちに、唯一の継承者である染織家・中村いすずさんにお会いできました。

怪しい者ではないことを自己紹介し、お話を聞くうちに、工房を見せていただけることに。

中村いすずさん
天草更紗唯一の継承者である中村いすずさん

天草に更紗が伝来したのは安土桃山時代、長崎の出島を通じてポルトガル人によってもたらされたと言われています。

江戸時代になると天草の豪商の命を受けた職人によって天草独自の更紗が製作されたようですが、怒涛の歴史の波にもまれて廃れてしまいます。

大正11年に本渡(現天草市)の中村初義氏が中村染工場を開業して天草更紗の復興に取り組み、昭和8年の熊本工芸展で完全復興を果たします。

昭和39年には県の重要文化財認定も受けましたが、それから程なくして工場の閉鎖とともに天草更紗は途絶えてしまいました。

平成に入り、天草更紗の復元を模索した市や文化協会が白羽の矢をたてたのが、市内在住の染織家・中村いすずさんでした。

郷土史家や関係者から寄贈されたわずかな資料を手掛かりに復元に取り組みますが、残存裂や型が一切なかったため、大変苦労したそうです。

そんな時、前出の中村初義氏の子孫の「あなたの更紗をつくりなさい」というひと言で、「平成の天草更紗」を目指そうと思った中村さんは、キリシタン浪漫の島・天草の異国情緒と天草の風土をあらわした独自の更紗を2002年に発表、現在も唯一の天草更紗の作家として活動しています。

工房の一画
工房の一画

中村さんが模様をデザインし、柿渋の型紙は伊勢の職人さんに依頼、柄によっては10枚以上の型紙を使って型染めしていきます。

天草更紗02

化学染料の鮮やかな色合いのものが主ですが、復元と継承の意味で草木染の作品にも取り組んでいます。

同じ型紙でも色の組み合わせでまったく違う表現となり、そこがまた型染めの面白さ。
しかしどの色彩も天草色に見えてくるから不思議です。

天草のことを知ってほしい

天草のことを知って欲しい

天草は、大小120余の島々からなる諸島。九州本土とは5つの橋で結ばれていて現在は熊本県です。

南蛮文化やキリシタンの歴史を伝える施設はもとより、日本最大級の肉食恐竜の化石が発見されたり、一年中楽しめるイルカウォッチング、えびやうになどの新鮮な海鮮、歴史と文化と食と自然に恵まれています。

岐阜県出身の中村いすずさんは、結婚を機にご主人の故郷である天草に。すぐにこの素晴らしい土地柄に魅せられたそう。

ご自身が天草更紗を作る意味を、作品を通してこの素晴らしい地、天草のことを多くの人に知ってほしい、その一助となれば、と熱く語ります。

東京に戻った私はすぐにこの出会いを丸善日本橋店のギャラリーを取り仕切る山地恭子さんに伝え、作品を見ていただきました。

さまざまな分野の全国の工芸品を見ている山地さんもご賛同くださり、5月18日(水)〜24日(火)まで、丸善日本橋ギャラリー3階にて「南蛮の風 天草更紗 ~ポルトガルへ想いを寄せて」を開催する運びとなりました。

ぜひ多くの皆さんに天草のこと、天草更紗のことを知っていただければと思います。

「天草更紗」の着物はこちら

天草更紗の会
案内

丸善 日本橋店 
東京都中央区日本橋2−3−10

「南蛮の風 天草更紗 ~ポルトガルへ想いを寄せて」

3階ギャラリーにて
5月18日(水)~24日(火)
営業時間 9:30~20:30(最終日は15時閉場)

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