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「フェルナンブーコ」って、なあに? 「古谷尚子がみつけた素敵なもの」vol.1

「フェルナンブーコ」って、なあに? 「古谷尚子がみつけた素敵なもの」vol.1

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元『きものSalon』編集長・古谷尚子さんがみつけた素敵なもの。初回は、自身もファンという桝蔵順彦氏の作品にみつけた美しいニュアンスカラーについて。…どこからともなく、バイオリンの音色が聴こえてきませんか?

はじめに

きもの雑誌編集長10年の経験を生かし、ファッションとしてのきものの楽しみ方や取材の中で出会った素敵なものを紹介していきます。みなさんと、もっとステキなきもの生活を共有できたら嬉しいです。

やっと出合えた“おとなピンク”の正体

草木染の糸で手織りする帯にこだわる夢訪庵。年に数回開かれる展示会で、デザイナーであり指揮者である桝蔵順彦氏の、熱意溢れる作品紹介の弁を聞くのが年中行事のように楽しみだ。

気に入った帯を見つけては、この染料はなんですか?としつこく聞いている。ショロウ、タイセイ、エンジュ…。最近は大概の染料を、掛け合わせも含め言い当てることができるまでになった私だが、ある時、何とも上品な薄ピンクに目が釘付けになった。

纏うとぱっと明るくなるフェルナンブーコ染めの余呉紬
纏うとぱっと明るくなるフェルナンブーコ染めの余呉紬

「すごく素敵な色!この染料は?」と聞くと、桝蔵氏は得意げにこう答えた。

「フェルナンブーコやがな!」

フェ?フェルナンブーコ?

音楽へのエシカルな愛

フェルナンブーコと聞いてピンとくる方は弦楽器奏者か、音楽通に違いない。

そう、フェルナンブーコは木の名称で、弦楽器の弓(高級な)のスティック(棹)に用いられている。別名ブラジルボク。ポルトガル語でパウ・ブラジル(炎のように赤い木)というブラジルの国名の由来にもなっていて、主にフェルナンブーコ州に生息するマメ科の高木。染料や弓材等の欧州での需要拡大による乱獲と都市開発により枯渇し、2007年にはワシントン条約に記載された。つまり、もう手に入らない貴重な木だ。

フェルナンブーコの木で作られた弦楽器の弓の棹
フェルナンブーコの木で作られた弦楽器の弓の棹

絶滅危惧種のフェルナンブーコをなぜ桝蔵氏が入手できるのか。

それは、きもの好きヴィオラ奏者、三原征洋氏との出会いがきっかけ。日本を代表する弓のメーカー杉藤楽弓社が、捨てずに保管していた削りだしのときに出る屑や端材、折れた弓を、染料として利用できないかという三原氏の提案に興味を持った桝蔵氏が、フェルナンブーコ染めに挑戦。

桝蔵氏曰く、荒々しい染材というフェルナンブーコだが、試行錯誤を経て今では薄いピンクから赤系の紫まで多様な赤を操るまでになった。

音楽会の装いに、楽器や音符の模様を取り入れるのも楽しいが、フェルナンブーコ染めという、一見しただけでは分からない秘めた装いができたらなんて素敵だろうと、ちょっとドキドキする。

すくい織で手織された夢訪庵の帯。この紫色に見える部分もフェルナンブーコ染め。
すくい織りで手織りされた夢訪庵の帯。
この紫色に見える部分もフェルナンブーコ染め。

ひとりの優しい気持ちから生まれたエシカルな取り組みは、貴重な植物の息吹をきものという日本の工芸の中で蘇らせ、心にしみいる優美な色となって、纏う人の肌を輝かせる。

赤い染料に宿る大地のパワーは美しくて温かい。

撮影/スタジオヒサフジ

桝蔵順彦さん

奇才、桝蔵順彦氏の作品に出会えるのは、京都きもの市場 実店舗(銀座・京都・博多)にて。
秋以降、桝蔵氏ご本人在店の日もございますので、各店舗情報をお見逃しなく!

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