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アバカの半巾帯と、マリナオ村の物語 「古谷尚子がみつけた素敵なもの」vol.8

アバカの半巾帯と、マリナオ村の物語 「古谷尚子がみつけた素敵なもの」vol.8

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自然味あるなかにも白く繊細な編みが上品なマリナオ村の「アバカ」。籠バッグをご紹介した昨年のコラム公開後には、多くのお問い合わせをいただきました。そして今年の新作はなんと、古谷尚子さん自らがプロデュースした半巾帯。現地の編み手さんインタビューとともにどうぞ。

天草更紗

「天草更紗」、「アマクササラサ」…!? 甘美な響きに導かれるように、天草の地をひとり訪ねた古谷尚子さん。そこには、教会のステンドグラスやヨーロッパの壁画を思わせる、そして、「天草」という土地が持つどこか神秘的な魅力に満ちた更紗がありました。

夏こそきものの季節!

突然ですが、常盤貴子さんが老舗和菓子屋の若女将を演じていたNHKのドラマ『京都人の密かな愉しみ』を観ていた方いらっしゃいますか?

ドラマの構成のおもしろさもさることながら、京都の商家らしいさりげない日常のきもの姿が毎回楽しみで!とくに日傘をさした夏きもののスタイルは「こんなに暑いのにちっとも暑そうじゃない」とまさにドラマの台詞通りの京美人。夏きものを着こなしてこそ、真の“きもの好き”が名乗れる、夏こそきものを着なくては!と意を決するのであります。

アバカの帯

ちなみに常盤貴子さんはいまKBS京都(TOKYO MX/BS11)で放映中の『京都画報』にも出演中。
実生活でも茶道を習われていたり和事に興味をお持ちのきものが好きな素敵な方なんですよ。

夏にぴったりの素材、アバカ(糸芭蕉)

そんなわけで、気分は京オンナ妄想コーディネートのスタート。

まずは正当に、澄んだ青い紗に白地流水絽八寸か、それともシックな上布に自然布の帯?
いや背伸びせずに大人の浴衣も色っぽいかも…。ああなんと奥深き夏きものワールドよ!

さんざん妄想した挙句、アッと思い出したのです。

去年この連載で書かせていただいたアバカ(糸芭蕉)で、半巾帯を作ってもらいたいとお願いしていたことを!

アバカのクラッチバッグ
アバカの籠バッグ

元『きものSalon』編集長・古谷尚子さんが見つけた素敵なもの。今回は、この夏の思い出に寄り添った自然味あふれるバッグについて。優しい人たちの気持ちが繋がり合い生み出されたプロダクトには、南の島の気配がたっぷりと詰まっています。

マリナオ村のアバカが白くて美しい理由

私が愛用するアバカの籠バッグはフィリピンのパナイ島・マリナオ村で作られているもの。発展途上国のモノづくりを支援する日本のNPO法人フェア・プラスがプロデュースしているフェアトレード品です。

アバカの籠バッグ

アバカとは糸芭蕉のことで、沖縄の憧れの織物、芭蕉布の原材料と同じ種類の、バナナ科の植物です。
アバカ自体はフィリピンの全土で見られますが、4つの清らかな川が流れる肥沃な土地で、適度に日当たりもよく、アバカの木の生育に特に適しているのがマリナオの森。

お土産物など量産品を作っている他の地域では、アバカの木を大量に植林し、化学肥料で育て、繊維の採取にも機械を使ったり、変色防止のために薬品に漬けたりしているようですが、伝統的な手作業でオーガニックにこだわった100%天然素材のマリナオ村のアバカは、白くて繊細で美しい光沢があり、最高の手工芸品としてフィリピン貿易産業省から表彰されるほど。

その美しさゆえ、帯にすることで本来の価値に繋がると考えたのがフェア・プラスさん。

7年ほど前に八寸帯の製作を現地に依頼し、技術指導も行います。

アバカの帯2

今では村の15人の女性職人のうち3人が帯を編めるようになりました。

でもたった3人なのです。

八寸帯は1本編むのに1ヵ月ほどかかるため、3人がフル稼働しても年間で36本が限界という希少品。アバカの八寸帯は自然布の帯を探している方にとても喜ばれています。

欲しい!の声にお応えして、アバカの半巾帯ができました!

そんな中で、浴衣にもできる大人の夏帯が欲しい!との周囲の声もいただき、半巾帯の製作をお願いしたところ、さっそくやってみますと前向きなお返事をいただいたのが今年の初春のこと。

そろそろ?と思っていると、

「古谷さん、今日現地から発送しましたと連絡がありました!」

と嬉しいお知らせが届きました。

”花繋ぎの全通”と、”網代編みのところどころに花繋ぎの切り替えを入れたもの”、2種のリクエストを、デザイナーの井澤葉子さんがデザイン(設計図)にして指示を出してくれたと聞いていました。

見せていただくと、アイデア通りのものが!いえそれ以上に思ったよりもしなやかで、なんと美しい自然の光沢。これぞ大人の半巾帯だ!キャー嬉し~。

アバカの網代編みの帯
網代編みの帯の中に、花繋ぎの柄の幅の飾りを何度も入れて行く際、まっすぐなラインを何本も維持するのがとても難しいのだそうです。長さは約3m80㎝。
アバカの全体が花繋ぎになった半巾帯
こちらは全体が花繋ぎになった半巾帯。繊細で可憐な雰囲気ですね。

マクラメ編みを受け継ぐジェネリンさんにインタビュー

マリナオ村に伝わるアバカのマクラメ編みは、母から娘へと受け継がれてきた伝統工芸。

それを生かして日本の消費者基準に叶うよう技術指導を受けた15人の女性を代表して、帯を編む3人のうちのひとり、ジェネリンさんにインタビューしてみました。

アバカのマクラメ編み

アバカは村ではどんなふうに使われていますか?

ジェネリンさん―――
昔から魚網に使われていました。繊維を撚って糸状にし、マクラメ編みで網を作る技術は昔ながらの技法です。

アバカは水に強いのですね?

ジェネリンさん―――
はい、みなさんの帯やバッグも水洗いできますよ。でも洗った後は、よく乾燥させてください。

帯を編むようになって何か変わりましたか?

ジェネリンさん―――
生活のために家政婦として出稼ぎに行く必要がなくなり村で家族と一緒に暮らせるようになりました。子どもたちも学校に行っています。今は手作りの竹の家に暮らしているのですが、レンガで新しい家を建てています。

レンガ作りの家
アバカのマクラメ編み2

マリナオ村のアバカ製品で特に気を遣っていることは何ですか?

ジェネリンさん―――
日本のみなさんから求められている完成度をクリアすることですね。歪んだり曲がったりということのないように。それと、自然のままのアバカの魅力をお届けしたいということです。

育て方から糸への加工、マクラメ編みまですべて手作業で行っています。
時間がかかるし、たくさんできないけれど、自然に対しても無理をさせないことが大事。帯やバッグからマリナオのゆったりした空気を感じ取っていただけたら嬉しいです。
最近は娘たちが興味をもってくれていて、教えていきたいと思っています。

マリナオ村のアバカの半巾帯、ぜひ見てくださいね!

扉写真撮影/小澤達也(studio mug)

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