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筆一本で魅せる線のぬくもり 「古谷尚子がみつけた素敵なもの」vol.11

筆一本で魅せる線のぬくもり 「古谷尚子がみつけた素敵なもの」vol.11

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にわかには想像しがたい… "手描きの縞”をご存じでしょうか。シンプルだけど奥深い、そして優しいリズムを奏でる匠技。フリーハンドで描かれるその現場に、古谷さんが突撃します!

2022.10.06

よみもの

茜さす 秋の美山に 君訪ね 「古谷尚子がみつけた素敵なもの」vol.10

粋のハードル高し、縞のきもの

文楽を観に行った国立劇場で素敵な縞のきものの後ろ姿にくぎ付けになったことがあります。

千筋くらいのたて縞に季節の染め帯。

きもの姿としてはとてもシンプルな装いだけど、凛とした、という表現がぴったりで、知性と教養を醸し出していました。

どんな性格でどんな趣味でお仕事は…と、想像してしまうくらいインパクトがある「縞」の装いはまさに「粋の真髄」。私の中で勝手に縞に対するハードルがぐ~んとあがってしまったのでした(人はそれをただの妄想癖ともいう…)。

縞を攻略するには痩せるしかないのか……

たて縞は身長が高くない私にとって視覚効果的には取り入れたい装いではあるものの、身体のラインに沿って縞がゆがむことも考えなくてはなりませぬ。

大きくゆがめば逆効果というもの。

いつかは縞の似合うスレンダーなオンナになってやる!と思い続けてウン十年…諦めかけていたとき、これまた素敵な装いの方に出会いました。

小柄なその方をすらりと見せる縞のきものはアイボリー地にうす墨色の線。

アイボリー地にうす墨色の線。

国立劇場でお見かけした方と同じく体型はスレンダーな方ですが、モノトーンなのにどこか温かく親しみやすい縞に見えました。

あれ?染めものなんですね。

え?手描きではないですか!!

ちょっと待って、着尺って13mありますよね、13mも縦の線をまっすぐ描くってこと?

想像できません!

これは実際に現場に突撃するしかないと、その手描き縞きものの生みの親、東京手描友禅の伝統工芸士・高橋孝之先生を訪ねることにしました。

やさしい縞を生み出すカッコイイ高橋孝之さんに会いに工房へ

高橋先生

高橋孝之さんは昨年秋に瑞宝単光章を授章された伝統工芸士。工房「染の高孝」は高田馬場駅から神田川へ下って行った、通称・紺屋地区にあります。

毎年秋にお江戸新宿「紺屋めぐり」としてこの地区の12の工房が公開されていますが、「染の高孝」では墨流し体験ができるそうです。

(2022年は11月3~6日、毎年開催されているので、今年は間に合わない方も来年はぜひ)

「染めの高孝」

さて、肝心な縞のお話。

高橋先生は父から引き染ぼかしと一珍染、兄から江戸更紗を習得、若い頃、京都の問屋で見て魅せられた墨流し染を追求するなど、さまざまな技法で多彩な作品を制作してきました。

先生の絵羽の作品

先生の絵羽の作品

高橋先生の手描きの縞3

点と線を組み合わせた作品

先生の作品

一珍染の作品

手描きの縞は25才くらいから独自に研究したもの。

「齢60になったころ、また縞に戻ったんですよ。“点と線は原点”だからね。線なんだから30分も練習すればあなたにも描けるよ」

とお茶目な目をする高橋先生。いやいや、それは偉ぶらない江戸の職人らしい大嘘です。

すうーっと筆を運んで描きます。

縞は最初、青花でつけた目印の点と点をつなぐようにすうーっと筆を運んで描きます。

高橋先生の手描きの縞2

先生は1寸間隔くらいで縞を引いたら、その真ん中、その真ん中と、目加減でどんどん線を引いていきます。しかもどんな太さの線も同じ筆一本で描きます。

先生の筆

引かれた線をよく見ると、やっぱりどこか優しさを感じるのです。

どこか優しさを感じるのです。

ああ、縞にリズムがあるんだ。

“やさしい縞”だなあ。

私も挑戦、ムズカシイ!

ちょっと体験させていただきましたが、たった30㎝ほど離れた点どうしをフリーハンドでつなげることの難しさ、均一な筆圧で筆を運ぶ集中力、筆に含む染料の加減の微妙なこと。

線を引く体験中!

これまでに一番多くて何本の線を入れたんですか?と聞いたところ、

真の職人技を改めて目の当たりにしました。

「最高で320本。13mあるから4週間くらいかかったね。しかしさぁ、一色だったからほとんど無地になっちゃったよ(笑)」

高橋先生の手描きの縞1

反物の幅は約40㎝として… 1本の線が1.25㎜?!それはもはや、”手描き万筋”ではないですか!

真の職人技とは、”誰にでもできること”を、”誰にもできない正確さと根気で真似のできない完成度の高さに昇華させる技”なのだと、あらためて目の当たりにしました。

私の”縞きもの”はもう、高橋先生の手描きの縞しか考えられない!

やさしい手描きの縞

おまけで墨流しも

最後に、墨流し体験もさせていただきました!

墨流し体験
墨流し体験

こちらは先生作。

刻々と変化していろんな形に見えてくる
先生の墨流し作品

刻々と変化していろんな形に見えてくる模様をどのタイミングで写し取るか、一瞬の勝負。

蒸しの設備
蒸しの設備

蒸しの設備を備える工房もいまでは少ないそうですから、きものファンのみなさまはぜひ訪ねてみてくださいね!

撮影/五十川満

おしらせ

2023年5月中旬から8月末まで、高橋先生と、vol.10に登場した京絞り寺田さん、服部綴工房さんのユニット『糸衣司(いとごろものつかさ)』による、茜と紫をテーマにした企画展を岡谷シルク博物館にて開催予定。

2022.10.06

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