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視野を広げるということ 「京友禅染匠・富宏染工 藤井友子」

視野を広げるということ 「ひとつひとつの色をつくる 、京友禅染匠がみる景色」 vol.2

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「藤井寛のきもの」でも広く知られる京友禅染匠・富宏染工。その工房を今年社長として継がれる予定の藤井友子さんは、伝統を受け継ぎ守りながらも、京友禅の可能性を広げる新しい取り組みを積極的に行っておられます。第2回となる今回は、ビジネススクールへ通われたことをきっかけに見えた新たな視点についてお話しいただきます。

大学卒業後、家業にずっと何らかの形で携わっていたのですが、世の中の目まぐるしい変化に自分の仕事がどんどん乖離していっているように感じることが、年を追うごとに多くなってきました。

そんなある日、地下鉄で同志社ビジネススクール(DBS)の広告が目にとまり、母校で新しい大学院ができたことを知りました。
ですが卒業してからずいぶん経ちますし、劣等生の見本のような学生だったので「自分にはハードル高いなぁ」と思ったのですが、一緒にいた家族から「絶対説明会に行った方いい」と言われました。
これから私が家業にどう携わっていくべきか、迷っていたのを見ていたからだと思います。

気乗りしないまま説明会に行くと、たまたまお話しした教授が「京都の大学なんだから、大企業とか官僚とかばかりじゃなく伝統産業に近い人にこそ学んでほしい」また「不安なら開校前に経済学の復習もするよ」とおっしゃって下さり、そこでコロッと気が変わってやる気になり入学することを決めました。

グローバルの波のなかにある伝統工芸の価値とは?

私がDBSに入った頃は、ちょうどグローバル化の波が押しよせてきている時で、それを前提にした授業も多く、ローカルの極みのような仕事の私はとてつもない場違い感の中、最初ほとんどフリーズしたまま授業に出ていました。

イギリス人の先生に「伝統産業はクリエイティブなのか?一子相伝とか何を言うてるんや、全ての人に広く情報を公開すべき!イノベーション!」と講義で圧倒されたことをはじめとして、ビジネスとしての観点では「”日本の独自性”よりも”海外でも受け入れられるわかりやすいデザイン”と”低価格”などの要素が、伝統産業に最も必要なことだろう」という意見が大半でした。

最初の1年はそうした社会の変化やまわりとの違い(というか遅れ)が印象的でしたが、いろいろな先生や同期生との交流が深まるようになると、徐々にまた違う面が見えてきました。

京都は伝統産業の街でもありますが、大企業・ハイテク企業も多く、DBSにもそういったメーカーの方がたくさんいらっしゃいました。
その中で「つくる」ということを掘り下げて考えている人は、伝統工芸のものづくりに興味を持っていることがわかったり、人の手や五感といった部分にこだわりを持ってものづくりをしている企業を知ったりして、自分の仕事の違う面を見ることにつながったと思います。

自分を作ってきた価値観や美意識が支えに

業界の外で学んだことは精神的に貴重なものとして自分に残りましたが、では具体的にどう仕事に結びつけるかというのは、なかなか突破口がみつからずにいました。
着物はインクジェットプリントや海外産のものが多くを占めるようになってきていましたし、弊社のコピー商品もたくさん出回るようになっていたのですが、弊社は直接着物を販売する会社ではありませんので、お客様にどのように自社製品を知ってもらったら良いかということが大きな課題となっていました。

京都以外では「着物=西陣織」というくらいの認識の方も多く、プリントの着物があることも知らない方もたくさんいらっしゃる状況で、いきなり呉服屋さんに行って見てみてくださいというのは不可能に近いお願いです。

京友禅の絹地を用いた数寄屋袋

しばらく悩みましたが、ふと、弊社は呉服店ではなくメーカー=制作をしている会社ですので「作っているものを見ていただくには必ずしも着物でなくてもいいのでは」と思うようになりました。
弊社が染匠として制作しているものは職人の技術が凝縮した特徴のあるものです。
それをまず日常生活で触れてもらうことが、遠回りのようですが一番良いのではないかと考えたのです。

それで、日常の生活の中に京都の着物を感じてもらうことを念頭に『RITOFU』というブランドをつくったのです。
コンセプトは「京都の美しいもの」で、商品はタンブラーなど日常品から、名刺入れやバッグなどを制作しています。
着物の製作をしている同じ工程・職人で制作しており、生地も、振袖用の絹地を用いた商品も多く、手仕事の京友禅を感じていただけるのではと思います。

今はグローバルに活躍される方が増えていますが「海外で自分の国の文化や価値観を問われ、再考するきっかけになった」とたびたび聞きます。
活躍の場が広がり、未来を予測することが難しいようになると、自分を作ってきた価値観や美意識が支えになることもあるのではないでしょうか。

『RITOFU』の「日本の美しさを心に世界で生きる」という考えは、日本の世界観が絵になったり色になったり形になったもの…日本の美しさをふと思い出していただけるよう、使う人の心に沿うものを制作したいという考えからきています。

必ずしも着物の形でなくても良いのでは
『IROMORI』ブランドの立ち上げ

それから、2年ほど前にもう一つ『IROMORI』というブランドも立ち上げています。
ブランド名には「色を守る」という意味と「色を贈る」というコンセプトが込められています。
手描き友禅の技法を用いて創り出したファブリックのブランドで、色それぞれに色言葉があり、カードを添えてお渡しします。

洋服やファッション小物・インテリアなど、日常生活の幅広い用途で使っていただきたいと思い、横幅は着物生地より大幅に広い115 センチ、シルク100%ですが洗濯機で洗うことが可能なファブリックを用いており、30センチ以上10センチ単位で購⼊していただけます。

私の仕事の芯になるのは着物制作ですが、その軸があるからこそ、職人の技術がいくつも重なる「手描き友禅」という表現の様々な可能性を探っていきたいとも考えています。

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