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DJ・きものスタイリスト マドモアゼル・ユリア (後編)

DJ兼シンガーとして世界の音楽シーンで活躍する傍ら、独自のセンスが世界から評価され、一流メゾンのショーに毎シーズン招待されるファッショニスタでもあるマドモアゼル・ユリアさん。ロンドンV&A博物館の着物展キャンペーンビジュアルのスタイリングを手がけるなど、ここ数年で着物スタイリストとしての存在感も高まっています。

京都へー和の伝統文化を学ぶ

東京駅舎を背景に撮影

DJやデザイナー、ファッションレポーターとしての様々なキャリアがありながら、今春、京都造形大を卒業。もう一度大学で学ぼうと思ったのはどうしてでしょうか。

「高校卒業後は美容学校へ行って美容師免許を取得したのですが、日本の歴史が好きだったので、いつか大学で歴史を勉強したいという気持ちはあったんです。

それで、ちょうど2年前、もっと着物について知りたいと思い…だったらこれを機にずっと行きたかった大学へ入れば、ちゃんと勉強できるし、長年の夢だしと思って、和の伝統文化学科を選びました。

大学では日本文化のつながりを知るために、体系的に学びました。着物のことだけでなく、華道も茶道も、また煎茶道というものも学んだり、義太夫や日舞もやりました。日舞の授業では尾上菊之丞先生が来てくださって。歌舞伎が大好きなので、このために入学したんじゃないかっていうくらいうれしかったです(笑)。着物の授業は、雑誌『美しいキモノ』の編集者だった富澤先生が来てくださったりと、すごく贅沢でした。

卒論は、高畠華宵の絵から見た当時の着物のことに関して書くか、明治時代の歌舞伎で書くかで最後まで迷って、結局歌舞伎のほうで書きました。

今までは、好きになったものを独自に調べたり勉強したりはしていたけれど、誰かに伝えるでもなくただ自分の中にたまっていくだけだったのですが、卒論を書いて発表するということで、どう人に伝えるか、アウトプットの手段を勉強できたのも大きかったです」

無意識のソース(源泉)から普遍的な要素をすくい上げる

アンティークの着物を品良く着こなすユリアさんのスタイリングに憧れる方も多いです。なにかお手本にしているものはあるのでしょうか。

マドモアゼル・ユリアさんのスタイリングとは

「スタイリングの決め方は、”新しいかんざし買ったから、これに合わせるコーディネートにしよう”とか、それが帯だったり、帯留めだったり、着物だったり、そのときどきのアイテムから着想していく感じが多いです。それに加えて着ていく場所やこれから会う人を想像して決めることも多いです。

本や絵画などの資料を直接参考にすることはあまり無いです。スタイリングの軸は、今までの自分の洋服でのファッションや、母や祖母から受け継いだ物、これまで学んできたことの積み重ねから来ているんじゃないかなと思います。

高畠華宵や竹下夢二の世界は好きですけれど、スタイリングを組むときに、実際にそれを見て参考にするというより、自分の見て来たものや触れて来たいろいろなものが集積されて出てくる感じです。

そういう無意識のソースは映画や音楽、その他様々な文化、例えば大和和紀さんのマンガ『はいからさんが通る』からかもしれないし、とくに今日の色の組み合わせは武内直子さんの『美少女戦士セーラームーン』から来たものだったかもしれません、様々です」

「最新のファッションシーンからインスパイアされることも勿論あります。歌舞伎を観ていてハッとすることもあるし、日常の小さなことが着物のコーディネートや色の組み合わせのヒントになっています。これまでに刷り込まれたすべてのカルチャーが反映されている、のだと思います。

自分としては、洋服を選ぶのと変わらない感覚で選んでいます。洋服も一般的に流行っている物にはそれほど興味なくて、感性に引っかかるものを着ていたい。着物も同じ選び方です」

ファッションからインスパイアされることも

「だからアンティークに惹かれるのかもしれません。質感や色合いがとにかく好きなんです。また華宵や夢二などの戦前の着物のイメージが好きというのは確実にありますが、大正時代だとアールデコが流行りで幾何学模様が多いですよね。私自身は、アールデコよりもアールヌーボーに興味があります。

私がモダンな柄を着ると、洋服っぽくなってしまってめざすイメージと違ってしまうのであまり着ません。洋服と共通して好きなのは繊細な装飾や珍しいモチーフ。洋服は”形”がおもしろいものを選ぶので色では遊びますが”柄”はクラシックなものを選びがちです。逆に着物では大胆なモチーフも好きです。

好きな時代は大正よりも前なのかもしれないですね。とはいえ、着物も小物ももう大正―昭和初期くらいのものしかなかなか手に入らなくなっていますよね…これくらいの時代までの着物のなかでも明治の匂いが消えていないものを選んで購入しています。

古いものを集めていて思うのは、どの時代でも女の子が憧れるものって変わらないんじゃないかな、ということ。アンティークの着物や小物をみていると、細工が凝っていたり、色味がかわいかったり、私が惹かれるものがずっと共通してあるように思います」

乙女の憧れる普遍的な要素をすくい上げるのも、ユリアさんらしいセンス。
今年の2月、ロンドンのV&A博物館で行われた展覧会「Kimono Kyoto to Catwalk」では、キャンペーンビジュアルのスタイリングを担当されました。

Kimono Kyoto to Catwalk

「2年ほど前にV&Aのキュレーターから、着物を普段から着ている人にインタビューしたいとお願いされたのがきっかけです。それからしばらく経ってV&Aの方からスタイリングを頼みたいと連絡をいただきました。カメラマンはロンドン在住の日本人の友達だということも知り、なんだか安心して、是非やってみたいとお返事しました。

メインビジュアルでブーツを履いているものがあるのですが、アートディレクターからの要望でした。私は普段自分のスタイリングで袴だったり、明治―大正時代の設定とかでは無い限り靴は合わせないのですが。矢絣の着物に足袋ブーツを合わせてみたら、なんだかアリだなと。矢絣ってやっぱり『はいからさんが通る』じゃ無いけど、大正っぽいイメージがあるし、ブーツも足袋の形でしかも蛇柄なので全体的に良い意味で時代を歪めることが出来たのかなと思います。モデルの方に着てもらうと、うまくはまってよかったです。

西洋と日本のファッションのミックスを、現代において目に見てぱっとわかる形でやってしまうことにはちょっと抵抗があったのですが、ポージングやモデルさんの出で立ちがとても現代的だったので着物のシルエットも洋服っぽくこの写真では見えるし、逆にブーツが足袋の形で着物に寄ってきているのでバランスが取れたかなと思っています。

私自身は洋のアイテムを意識的に着物に合わせる、ということはあまりしません。バッグや帯留め髪飾りといった小物くらいですね。バッグは自分の好きなブランドのものを合わせるので洋のものが必然的に多くなっています。

和洋のミックスですが、明治―大正時代は時代の変わり目なので面白いミックス感がありますよね。アイテムに頼りすぎず、アールヌーヴォーやアールデコ、幾何学模様とか、そういうものをモチーフや柄として取り入れてミックスしていたし。アイテムでいえば、帯留めだって、もともと日本にはなかった西洋の宝石や、ブローチを使ったりしていましたよね。あと、色の合わせ方でも斬新さをだしたり。

日本の文化自体がいろんな文化を取り入れて昇華してきたものなので、現代において和と洋の文化を単純に切り分けることが難しいと思っています。洋の文化は、すでに私たちの文化の一部になっていると思うので。和洋の幅広い選択肢の中からそのアイテムがもっとも輝くコーディネートをしようとすると自然と、この着物にはこの草履、このワンピースにはこのヒールという風な考えに至るのかもしれません」

着付けをとにかく丁寧に

自分の好きなものをミックスしたスタイリングは、バランスが難しく、ややもすると品のない印象を与えそうだが、ユリアさんの着物姿は常に凜としています。品を失わずに見せる秘訣はなんでしょうか。

「着付けをとにかく丁寧に。というのは母からの教えですが、着付けをきちっとしているだけで、同じ着物でも印象が変わります。

昔は日常的に着るものだったので、着崩れていても誰もなにも思わなかったと思います。でも今、少なくとも私が着物を着ていくような場所では、見ている人はどうあれ、ちゃんと着ていないと自分が居心地悪くなるんですよね。

だから余計にきれいに着たいなってすごく思うんです。また海外だと、初めて着物を見る人がほとんどなわけですから、それこそちゃんと着たいなって思っています」

隙のないスタイリングは、コーディネート以上に隙のない着付けで美しくみせると。
ちゃんとして見える着付けのためにしていることはなんでしょう。 

「補正はしっかりします。あとは色ですね。感覚的なことになってしまうので難しいんですけれど、色使いで品がなく見えることってあるじゃないですか。なので、色の組み合わせには気をつかいます。あまりトゥーマッチにならないようにしながらも、遊び心は忘れたくないです」

着付けの習得はどちらでされたのでしょうか。

「着付師の母から習いました。きれいに着るのはコツがいるので、自分で着ながらわからないところを、その都度母に教えてもらえるのは本当に得がたいことだと思います」

挑発的な視線の先にー描かれる着物の未来

マドモアゼル・ユリアの視線の先には

つねに新しいファッションシーンに身を置くユリアさんにとって、着物も一つのファッション、一過性のブームなのでしょうか。

「いいえ。一生やりたくて大学まで行きました。自分がやっている仕事はすべて、人にその文化の楽しさや魅力を伝えることなんです。音楽だったり、ファッションだったり、それぞれの楽しさを自分のフィルターを通して”これ、すごくよくない?”ってみんなに伝えることをしてきました。これからは着物も同じように、その魅力を伝えることをしたいと思っています。自分のフィルターを通すことにより、今までとはちょっと違った視点で捉えてもらえたら面白いなと思っています。

着物がみんなのワードローブの中のチョイスの一つになったらステキじゃないですか。しかも、自分の周りのファッションに携わっている人たちはとびきりおしゃれな方たちばかりなので、”こういう人たちが着物を着たらどうなるんだろう?”とか、”着物姿を見たい!”と思ってしまうんです。

私はたぶん、幸運にも着物が身近にあったんですよね。祖母も母も着付師で、そういう人等が周りにいたからこそ、興味を持ち勉強する事ができたけれど、今多くの人は着物が身近にないので、着物がどういうものか聞ける人もいないしという人がほとんどで。着付け教室へ通うのも…等不安がある感じなんです。

もっと構えないで興味を持てるような、ファッションに興味を持つのと同じ感覚で着物を着られる世界になったらいいなと思っています。今までファッションと音楽の世界にしかいなかった自分の発信によって着物に興味を持ってくれる方がいたら、そして、着物を着てみたい!と思う方が一人でも増えるともっと面白くなる!と思っています。」