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『ミロ展』東京都美術館  「きものでミュージアム」vol.45

『ミロ展』東京都美術館 「きものでミュージアム」vol.45

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20世紀を代表する巨匠ジュアン・ミロの創作活動を網羅する大回顧展『ミロ展』が東京都美術館で開催中。代表作〈星座〉シリーズ3点をはじめ、初期から晩年までの絵画、彫刻など多彩な作品が集結!彼の独創的な世界を堪能できます。

2025.03.14

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20世紀の巨匠ミロの大回顧展

今回は、東京都美術館で開催中の『ミロ展』をご紹介します。

※本コラム内の美術作品の写真につきまして、各美術館プレスより撮影および掲載の許諾を得て使用しております。
展示風景 ミロの写真の前で

ミロの写真の前で

ジュアン・ミロ(1893-1983)はスペインのバルセロナに生まれました。同じくスペイン出身のピカソと並ぶ20世紀を代表する芸術家です。

ミロは1920年代にシュルレアリスムのアートで有名になりました。自然の形を記号のように描いた独特なスタイルは、日本でも人気があります。

没後40年の今、世界中で再評価されているミロ。本展では、〈星座〉シリーズをはじめ、絵画や陶芸、彫刻を通じて、彼の芸術の全貌を紹介します。

フォトスポット

ミロのアトリエのフォトスポット

ミロの作品には、その時代の社会や政治に対する鋭い感受性や強い意志が見られます。

そして90歳で亡くなるまで、どの流派にも属さず、自由で普遍的な芸術を追求し続けました。

『ミロ展』エントランス)

世界中から集った作品から、ミロの芸術の真髄を体感できる大回顧展です。

「私は絵画と詩を区別していない。
時にはカンヴァスに詩的なフレーズを加え、またその逆もある」ージュアン・ミロ

※作家名の記載のないものはすべてジュアン・ミロの作品、画像は『ミロ展』展示風景

初期の作品とピカソとの交流

展示は、ほぼ年代順に作品が並びます。展示室に入ると初期の作品が並び、原色の色彩や記号的なミロの代表作を思い浮かべていると意外な作風に驚くでしょう。

ミロ初期の《自画像》は、キュビスム的な手法で描かれています。この作品は、パリの画廊での個展に出品後、ピカソが譲り受け、ずっと大切に保管していたそう。2人の実家はとても近く、母親同士は友達でした。ピカソが亡くなるまで2人の交流は続きました。

《自画像》

《自画像》 1919年 パリ・国立ピカソ美術館

初期の作品は、風景画や静物画が並びます。当時の彼の作品には、セザンヌや印象派の影響が見られ、色彩や描写は落ち着いた雰囲気が特徴的です。

《バイベルの森》

《バイベルの森》 1910年 ジュアン・ミロ財団、バルセロナ(寄託)

初期の傑作《ヤシの木のある家》は、草の葉や小さな花が細かく描きこまれ、建物の壁の描写と相まって大変魅力的な作品。ぜひ実際に、お近くでご覧ください。

《ヤシの木のある家》

《ヤシの木のある家》 1918年 国立ソフィア王妃芸術センター、マドリード

そしてこちら《ノール=シュド》は、色彩が美しく軽やかな作品。

《ノール=シュド》

《ノール=シュド》 1917年 アドリアン・マーグ・コレクション、サン=ポール・ド・ヴァンス

まず赤い色が目に飛び込んできますが、不思議と落ち着いた印象を受けました。

パリ時代から戦時下へ

1921年、ミロはパリに移住し、シュルレアリスムの作家や詩人たちのグループに出会い影響を受けました。芸術の最前線であるパリに身を置き、精力的に活動しています。

alt=《絵画》

左:《絵画》 1925年ナーマド・コレクション

また1928年にはオランダ旅行に出かけ、マウリッツハイス美術館やアムステルダム国立美術館で17世紀オランダ絵画に強い影響を受けました。

《オランダの室内 I》は、ヘンドリク・ソルフ《リュートを弾く人》を元に描いた作品。自然主義的な作品はミロの手により平坦でくっきりとした色彩になりました。

展示室には元絵とこの作品のための準備素描のパネルがあり、ミロがどのようにこの作品を完成させたのかがわかります。

《オランダの室内 I》

《オランダの室内 I》 1928年 ニューヨーク近代美術館

《焼けた森のなかの人物たちによる構成》は、1932年、日本で最初に紹介されたミロの2作品のうちのひとつ。この作品は数年前にも来日し、その時に見てから私のお気に入りでもあります。

alt=《焼けた森のなかの人物たちによる構成》

左:《焼けた森のなかの人物たちによる構成》 1931年 ジュアン・ミロ財団、バルセロナ

真ん中の人物はかわいらしくも不気味にも見え、背景のかすれ、左右に描かれている人物など興味深く、様々な想像が膨らんできます。

戦時下と〈星座〉シリーズ

alt=《絵画(カタツムリ、女、花、星)》

左:《男の頭部》 1935年 国立ソフィア王妃芸術センター、マドリード、右:《絵画(カタツムリ、女、花、星)》 1934年 国立ソフィア王妃芸術センター、マドリード

1936年にスペイン内戦が勃発し、その後第2次世界大戦と戦争が続きます。この頃の作品には、怪物のようなものが描かれていたり、不吉な戦争の影が見えます。

alt=《絵画=オブジェ》

左:《絵画=オブジェ》 1936–53年 国立ソフィア王妃芸術センター、マドリード

ミロはパリからノルマンディー地方に避難し、〈星座〉シリーズの制作を開始します。

ミロにとって〈星座〉シリーズは、スペイン内戦と第二次世界大戦の2つの戦争という厳しい現実から逃れるため、ミロが詩や音楽にインスピレーションを受けて紙にグアッシュ画23点を制作したものです。シリーズの制作途中でスペインのマジョルカ島に移住し、ひっそりと暮らしました。

現在、シリーズ作品は、各地の美術館や個人コレクションに分散しているため、まとめて観賞する機会は少ないです。本展ではそのうち3点が展示されます。

このエリアは照明も暗く、まさに夜空に作品が輝くように展示されています。

星座シリーズの展示風景

〈星座〉シリーズの展示風景

夜空をイメージした神話的な世界が広がり、その中に女性や鳥、星、梯子といったモチーフが描かれています。繊細な線が特徴ですが、大きな口を開けた不気味なモチーフも3点ともに描かれています。

ミロはこの作品の制作中、悲劇について考えることをやめることができたと語りました。現実から逃避する意味もあったのですね。じっと見ていると絵の中に吸い込まれるような錯覚を覚えました。

《カタツムリの燐光の跡に導かれた夜の人物たち》

《カタツムリの燐光の跡に導かれた夜の人物たち》 1940年 フィラデルフィア美術館

《明けの明星》

《明けの明星》 1940年 ジュアン・ミロ財団、バルセロナ

《女と鳥》

《女と鳥》 1940年 ナーマド・コレクション

新たなアトリエと新たな創造

こちらの《自画像》は、1937年から翌年にかけて制作した鉛筆画《自画像》の複製に、1960年に黒く太い線で顔、目、肩を描き色を付け仕上げました。

《自画像》

《自画像》 1937–60年 ジュアン・ミロ財団、バルセロナ(寄託)

近づいて見ると鉛筆で描いた部分も見えます。冒頭の《自画像》と比較すると大変興味深い作品です。

戦後、ミロはマジョルカ島に定住し、2つのアトリエを構えました。大きなアトリエを持ったことは作品制作にも影響しました。

このエリアにはいわゆる「ミロらしい」明るい色彩で大型の絵画や彫刻作品が並んでいます。

《太陽の前の人物》

《太陽の前の人物》 1968年 ジュアン・ミロ財団、バルセロナ

戦後の明るい空気を感じ、存分にミロの世界に浸れます。彫刻も展示され楽しい雰囲気が演出されていますね。

展示風景
《夜の風景》

左:《夜の風景》 1966–74年 ジュアン・ミロ財団、バルセロナ(寄託)

終生、新たな創造を

ミロは、生涯自分の活動を検証し続け、新たな試みを行いました。

《焼かれたカンヴァス 2 》は、5点の連作絵画で、キャンバスに勢いよく絵の具をたらし、したたらせ、踏みつけ、ナイフで切り刻み、最後に火をつけた作品です。

《焼かれたカンヴァス 2 》

《焼かれたカンヴァス 2 》1973年 ジュアン・ミロ財団、バルセロナ(寄託)

この時、80歳でしたが、大胆で型破りな制作を行いました。この作品は、強烈なインパクトを放ちます。

《花火 Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ》は、バケツやビンの絵具を激しくぶちまけ、したたり落ちる絵具の跡に重ねるように筆を入れました。アメリカの抽象表現主義の若い画家たちからの影響を受けた作品です。

《花火 Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ》

《花火 Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ》1974年 ジュアン・ミロ財団、バルセロナ

一見モノトーンなのですが、よく見ると赤や青の描写があり、それがまさしくミロの作品であることを主張するのです。この作品の前で「さすがミロ」とつぶやいてしまいました。

最後に

ミロ展エントランスにて

ミロ展エントランスにて

ミロは、1966年に日本で開催された回顧展の招待を受け初来日しました。

アトリエに葛飾北斎の作品を飾っていたとも聞くミロは、日本に到着した時、「長いあいだ日本を夢見ていた」と語ったそうです。

ミロの作品は、見れば見るほど感じ方が変わります。私は本展を3周し鑑賞しましたが、その度に新しい発見がありました。会期中にまた訪れたいと思います。

ミュージアムショップ

また、本展はグッズも大変魅力的なものがそろっています。ぜひゆっくり時間をとってお出かけくださいね。

ミュージアムショップ

この日の装い

この日の装い1

ミロの作品は原色のイメージがありますが、実は淡い色彩の絵もあり魅力的。そしてぼかしが美しいのです。そんな作品を思い浮かべて、今回は小糸染芸の小紋を選びました。

少し抽象画のようでもあり、薄紫のぼかしが下の2点のミロの作品と呼応しています。

《女、鳥、星》

左:《女、鳥、星》 1942年 ジュアン・ミロ財団、バルセロナ(寄託)

《火花に引き寄せられる文字と数字(V)》

左:《火花に引き寄せられる文字と数字(V)》 1968年 ジュアン・ミロ財団、バルセロナ(寄託)

そして今回のミロ展の見どころのひとつ、ミロの代表作〈星座〉シリーズには月も描かれています。加納幸の帯は露芝の葉なのですが、三日月に見立てました。

この日の装い2

帯締めは道明の唐組 春秋、帯揚げは着物スタイリストの秋月洋子さんの『れん』、かんざしと根付は『HENDY CLAFT』さんにオーダーしたウッドレジンのものです。

この日の装い3
この日の装い4

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撮影/五十川満

今回ご紹介の展覧会情報

『ミロ展』ポスター画像

ミロ展

東京都美術館(上野公園)
https://miro2025.exhibit.jp/

日時:2025年3月1日(土)~7月6日(日)
9:30~17:30、金曜日は9:30~20:00、入室は閉室の30分前まで

休室日:月曜休室。ただし4月28日(月)、5月5日(月・祝)は開室し、5月7日(水)は休室

※詳細は展覧会公式サイトをご覧ください。

その他、おすすめの美術展

※日時など変更になる場合があります。おでかけ前に公式サイトなどで最新情報を確認してください。

「百花ひらく」ポスター

百花ひらく-花々をめぐる美-

皇居三の丸尚蔵館
https://pr-shozokan.nich.go.jp/2025flowers/

日時:2025年3月11日(火)~5月6日(日・休)
 前期:3月11日(火)~4月6日(日)
 後期:4月8日(火)~5月6日(火・休)
9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで)
毎週金曜・土曜は夜間開館。20:00まで開館。(入館は閉館の30分前まで)
※ただし4月25日(金)を除く

休館日:月曜日 ※ただし5月5日(月・祝)は開館。
※その他諸事情により臨時に休館する場合があります。

【特別展】「桜 さくら SAKURA 2025
―美術館でお花見!―」ポスター

【特別展】桜 さくら SAKURA 2025
―美術館でお花見!―

山種美術館
https://www.yamatane-museum.jp/

日時:2025年3月8日(土)~5月11日(日)
10:00~17:00 (入館は閉館の30分前まで)

休館日:月曜日(5/5(月・祝)は開館)

※きもの特典:きものでご来館のお客様は、一般200円引きの料金となります。
※複数の割引・特典の併用はできません。

松山智一展ポスター

松山智一展 FIRST LAST

麻布台ヒルズギャラリー
https://www.tomokazu-matsuyama-firstlast.jp

日時:2025年3月8日(土)~5月11日(日)
月・火・水・木・日 10:00~18:00、金・土・祝前日 10:00~19:00
※4月18日(金)のみ10:00~18:00
(入館は閉館の30分前まで)

会期中無休

◆ 読者プレゼント ◆

『ミロ展』ポスター画像

さて、恒例の招待券プレゼント!
今回は『ミロ展』東京都美術館の招待券を3組6名の方にプレゼント!
ぜひ、きものでお出かけくださいね!

下記リンクより、お使いのSNS経由にてご応募くださいませ。

◆インスタグラム
https://www.instagram.com/kimonoto__

◆X
https://x.com/kimonoto___

※応募期間:2025年4月25日(金)まで

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