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‟油小路の変“を描くオリジナル脚本時代劇『CHAIN/チェイン』「きもの de シネマ」vol.8

‟油小路の変“を描くオリジナル脚本時代劇『CHAIN/チェイン』「きもの de シネマ」vol.8

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銀幕に登場する数々のキモノたちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だってキモノで愉しみませんか。連載8回目では、京都芸術大学の学生が学びの場で映画づくりを実践した『CHAIN/チェイン』に注目!

信虎

銀幕に登場する数々のキモノたちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だってキモノで愉しみませんか。連載7回目は、茶道具問屋が手掛けた本格時代劇『信虎』をご紹介します。

現場を支える、プロフェッショナル

ごきげんよう。
ご縁あって、去る10月17日、豪華ゲストを招いて行われた『東映剣会創立70周年記念公演』にお邪魔してきました。

ⓒ東映剣会
ⓒ東映剣会

東映剣会は、東映京都撮影所所属の殺陣技術集団。1952年、殺陣技術の向上・発展と殺陣俳優の育成を目的として設立されました。

片岡千恵蔵、美空ひばりといった銀幕スターたちの庇護と信頼を得て、最盛期には100名を超える会員が在籍し、時代劇に欠かせないエンターテインメント性に富んだチャンバラ=「魅せる殺陣」をもってして、日本の映画・ドラマを支え続けてきたのです。

そんな彼らが出演する新作映画がまもなく公開されます。その名も、『CHAIN/チェイン』。

ⓒ北白川派
ⓒ北白川派

漆黒の中、妖しく光を放つ刀が美しい弧を描くオープニングをはじめ、劇中の殺陣シーンはどれを切り取っても印象深く、そこには東映剣会の面々による確かな技術と奥行きのある演技が色濃く映し出されています。

「殺陣は芝居」という教えのもと、アクション俳優ではなく役者として大部屋からスタートしたメンバーは皆、選び抜かれた職人。主役を立てる殺陣で、気づけば「斬られ役」なんていう裏の花形まで生み出しました。

とくに、「5万回斬られた男」と呼ばれた福本清三さんの遺作となった本作は、剣会の皆さんの思い入れも一入だったのではないか、とレジェンドを偲ばずにはいられません。

ⓒ北白川派
ⓒ北白川派

加えて、vol.5でご紹介した『燃えよ剣』に続き、嶋原・末廣屋さんが太夫指導や小物提供、禿ちゃんの出演でご協力されています。

(10月8日公開の園子温監督作品『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』でも葵太夫が華を添えています。さらに6月に公開された『HOKUSAI』にも禿ちゃんが出演。2021年は末廣屋さんにとって映画づくしとなりました。)

ⓒ2021「燃えよ剣」製作委員会

銀幕に登場する数々のキモノたちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だってキモノで愉しみませんか。連載5回目は、司馬遼太郎原作の幕末を描いた物語『燃えよ剣』をご紹介します。

ⓒ北白川派
ⓒ北白川派

舞台は、幕末の京都。新選組の終焉を象徴する「油小路の変」を通して、激動の時代を生きた名もなき人々の生き様を描く物語です。これまでの代表的な時代劇とは趣が異なり、現在の風景や音が混在し、幕末と令和が交錯していきます。

想いや時間が雑ざり合う不思議。それすらも許容する、京というまち。
ほんの100年ほど遡れば、信念と主義のもとで命の奪い合いが繰り広げられ、死者があふれていたという歴史を身近に感じさせられます。

未来を担う映画屋たちの、熱き想い

そもそも本作は、京都芸術大学(旧・京都造形芸術大学)の映画学科で形成された「北白川派」の8作目にあたる映画。同学科で教鞭をとる映画監督の作品を、プロの映画人と学生らの混成した座組で一年かけて制作し、劇場公開を目指すというプロジェクトです。
卒業生も加えた学生スタッフを、プロの映画屋たちが牽引した本作は、質の高いインディーズ時代劇に仕上がっています。

ⓒ北白川派
ⓒ北白川派

阿片を求めては女を抱く侍。晒し首をまじまじと眺める夜鷹。手荒な情事に耐える陰間。

時代の荒波に逆らう術を持たず、流されないよう、ときには流されながらでも、生き抜こうとあがく人々の姿は生々しく、突きつけられた現実と向き合う際のヒリヒリとした感じが作品全体を薄膜で覆っているような、そんな時代劇。BGMのギターの音色が心をかき乱すかのような演出も特徴的で、学生たちがもつ研ぎ澄まされた感覚ゆえの時代の切り取り方、見せ方がとても新鮮です。

ⓒ北白川派
ⓒ北白川派

終盤、身を寄せ合う夜鷹と陰間が東山五条を歩くシーンは、ひと際、印象に刻まれます。100年前、彼らのような境遇の人たちが、こんなふうに身を寄せ合って、京のまちを歩いていたのかもしれない……。そんなふうに思わずにはいられません。

時代劇ですから、もちろん、誰しもがキモノ姿。そのままの格好で、現代に立ち現れるシーンでは、奇妙な感覚に襲われるものの、不思議と違和感がないのです。それは京都というロケーションのもつ力なのかもしれません。京都には時代劇が似合う、と言われる所以でしょう。

ⓒ北白川派
ⓒ北白川派

胡弓の師匠・お染が帯を解く様子や、伊東甲子太郎が羽織り紐を結ぶシーンなど、キモノならではの所作や仕草が目に愉しい作品でもあります。『燃えよ剣』『信虎』と時代劇が続いていますが、それぞれの異なる世界観にキモノもまた大切な役目を担っていることが伝わってきました。

わたくしは、時代劇を観ていると、ついつい女性の後ろ姿に見入ってしまうのですが……、今回は酒場で働く町娘の侍結びがかいらし(可愛しい)くて好みでした。見返り美人に代表されるように、やはりキモノ姿の美は、後ろ姿に集約されていると言っても過言ではありません。

ざっくりとしていても、ピシッとしていても、似つかわしい着姿であれば、それだけで魅力的です。

ⓒ北白川派
ⓒ北白川派

DVDやBlu-rayといった、いわゆる円盤や、オンデマンドなどのサブスクを利用して映画を観ることが増えた昨今。映画を学び、映画を撮りたいという熱量をカタチにした本作こそ、規模は小さいながらも映画館で観てほしいもの。

以前、とある映画監督へのインタビューでお聞きした、「テレビやビデオでいいやって思いながら映画を撮ってる映画監督なんていないんです」という言葉が忘れられません。映画館に行かずとも簡単に作品が観られる時代だからこそ、映画館という場そのものを愉しめるのはすてきなことだと思うのです。

映画の最後、主人公の叫びとなって現れる切実な願いを、どうか映画館で体感してください。

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