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伊藤佐智子さんに聞く!衣装裏話 Netflixシリーズ 『阿修羅のごとく』〈後編〉

伊藤佐智子さんに聞く!衣装裏話 Netflixシリーズ 『阿修羅のごとく』〈後編〉「きもの de シネマ」番外編

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向田邦子作品の傑作『阿修羅のごとく』令和版がNetflixにて独占配信中。今回は、宮沢りえさん・尾野真千子さん・蒼井優さん・広瀬すずさんが演じる四姉妹のオシャレについて、衣装デザインを担当した伊藤佐智子さんにお話をお伺いしました。

2025.01.20

よみもの

是枝監督が現代に甦らせた名作 Netflixシリーズ『阿修羅のごとく』〈前編〉

四人四様!姉妹のキャラクター

ここで、簡単に四姉妹がそれぞれどんな人物か見ておきましょう。

キャラクターカット

宮沢りえさん演じる長女・綱子は、いけばなの師匠として生計を立てています。

ひたひたと滲み出るような色気が人を惑わせる寡婦。話し方、息遣い、眼差しに、艶っぽさが見て取れるのは、役者の力量あってこそです。

キャラクターカット

次女・巻子は、平凡なサラリーマン家庭の主婦。中学生になる一男一女の母であり、この時代の平均的な女性像を担うキャラクターです。

清濁併せ呑む印象の彼女を、現実味ある物言いや表情で体現している尾野真千子さんの存在感に唸ります。

キャラクターカット

三女・滝子は図書館司書。男っ気がなく、真面目で融通の利かない妙齢の女性を蒼井優さんが生々しく演じています。

“阿修羅”があぶり出されるきっかけとなった父親の愛人探しを興信所に頼んだのも彼女。堅物さによる生きづらさがリアリティをもって描かれています。

キャラクターカット

広瀬すずさん扮する四女・咲子は、家族に内緒で無名のボクサーと同棲しているイマドキ女子。

ややはすっ葉で、末っ子ならではの要領の良さもあり、己の欲望に忠実なタイプです。思ったことは口にする真っ直ぐな性分ですが、恋人を支えるために周りに気を遣う一面ももっています。

人物の装いに託した「喜怒哀楽」

——ティザービジュアルが大変印象的でした。四姉妹の着物コーディネートに、どんな想いを込められたのですか?

ティザービジュアル

伊藤さん:長女は”哀”、次女は”楽”、三女は”怒”、四女は”喜”と、人生における喜怒哀楽を着物に託しました。

それぞれの感情を、色や柄を含め、バランスをとって構成しています。

伊藤さん手描きのスケッチデータより

伊藤さん手描きのスケッチデータより

――4人の性格からか、三女はグレーなどの地味な色、四女は赤やピンクといった華やかな色の洋服が多いように思えました。四姉妹のキャラクターをどのように受け止めて衣装をデザインされたのでしょうか。

伊藤さん:三女は一番のシンプル派。コンプレックスもあり、性格も堅いけれど、自分なりの愛情で周囲を愛しています。そんな彼女は洋服のデザインや色で自分を大きく見せようとはしません。

対して、四女は生まれつき末っ子で甘やかされていた面もあり、持って生まれたポジティブさが相俟って、強い色や明るい柄、自分が目立つものに目がいきます。

場面カット

伊藤さん:コンサバな次女は、まさに良妻賢母の鏡のようなキャラクター。中流家庭のセンスある奥様のようにつくりました。

年長者らしい自由な心と行動力を秘めている長女は、4人の中では“秘すれば花”というような存在です。

撮影風景カット

――ここぞ!というときには着物を着る次女のライフスタイルは素敵でした。

伊藤さん:次女は一番のしっかり者です。良き妻、良き母として自信のある出で立ちを意識しました。コンサバな趣味もあるので、長女とは違った織物の着物である大島紬できりっとした姿にしました。

TPOに合わせた着こなしの提案

――全編にわたって、長女の娜婀あだな着姿が見どころのひとつだと思います。ざっくりとした襦袢姿はもちろんのこと、黒や藍など落ち着いた色合いに赤を効かせるコーデ、同系色の濃淡で合わせた小物とのバランスなど、綱子の着こなしについて意識されていたことはありますか?

伊藤さん:彼女の着こなしについては、未亡人の色気を含め、華道の先生らしい芯のある美しい在りようを、四季の着物や帯の意匠を活かしたコーディネートで表現しました。

場面カット

――着物が仕事着でもある長女の、不断着ふだんぎとハレの日の着物はどのように設定されたのでしょうか。

伊藤さん:着物の持つ色柄と、ドラマの設定や場所のトーンとのバランスで決めました。

基本は、ハレはやわらかもの。不断着は動きやすい紬系で。小紋も不断着なので、最初の出のシーンは印象的にしたくて、やわらかものでつくりました。

キャラクターカット

――形見分けのメインとなるものが着物だったのは、「きものと」読者に響くシーンだと思います。三女が最終話で、母の形見である着物を着て白菜を漬けるシーンも美しい光景でした。

伊藤さん:ラストシーンで彼女が着用したのは、母がいつも着ていた不断着のお召しです。先練り先染めの縮緬織物なので、落ち着きのある生活に密着した独特の着物地で、三女の生活感にマッチしていると思います。

『阿修羅のごとく』扉カット

――個人的には、夏川結衣さん演じる旅館の女将の着こなしに目を奪われました。

伊藤さん:女将の着物はほぼすべて、お客様に対してのおもてなしとしてやわらかものの訪問着としました。帯のたれのアンバランスや斜めに締めた帯締めなど、粋人の女将ならではの着こなしです。

場面カット

――今回のお仕事を振り返って、いまのお気持ちをお聞かせください。

伊藤さん:4人の女優さんたちの本来持っているイキイキさを、原作と共に是枝監督の料理の中でどういう味つけにするか考える毎日は楽しかったです。衣装における“総ての流れ”に満足しています。

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