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映画製作は長年の夢!茶道具問屋が手掛けた時代劇『信虎』「きもの de シネマ」vol.7

映画製作は長年の夢!茶道具問屋が手掛けた時代劇『信虎』「きもの de シネマ」vol.7

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銀幕に登場する数々のキモノたちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だってキモノで愉しみませんか。連載7回目は、茶道具問屋が手掛けた本格時代劇『信虎』をご紹介します。

ⓒ2021劇場版「きのう何食べた?」製作委員会

銀幕に登場する数々のキモノたちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だってキモノで愉しみませんか。連載6回目の作品は、観る者の心と胃袋を刺激する大人気ドラマ『きのう何食べた?』の劇場版です。

ディティールに宿る、リアルな美

ごきげんよう。

先日、友人のラジオDJと一夜限りのスナックを開店いたしました。ちなみに、その日は当然のごとくお酒コーデ。ボトルが並ぶ半幅帯は、裏面が泡柄になっていて、一目惚れしてポチッたお気に入りです。

ボトルが並ぶ半幅帯

カウンター8席のみの小さなお店で和気藹々としたひとときを過ごしながら、「飲食店ってほんまに大変やわぁ」としみじみ。美酒美食を提供してくださる多くのお店に感謝し、より一層、応援の意味も込めて外食せねば!と、気合いを入れたのでした。

それはさておき、今回ご紹介する『信虎』はその名が示す通り、名将武田信玄の父である信虎の物語です。

ⓒ2021ミヤオビピクチャーズ
ⓒ2021ミヤオビピクチャーズ

戦国時代を忠実に再現するため、衣装はもちろん甲冑や髷、鉄漿(おはぐろ)などの化粧、貝合わせをはじめとする小道具に、膝を立てた座り方といった所作……さらには音に至るまで、徹底的に追求されているのが最大の見どころ。

戦い方もとにかくリアルで、派手な斬り合いやワイヤーアクションなどの過剰な演出は一切なし。自死のシーンを筆頭に、生々しい命のやり取りが繰り広げられます。エンターテインメントに昇華された殺陣=チャンバラとは異なり、「人は簡単に死ぬ」という現実を目の当たりにする新感覚な時代劇です。

加えて、本作は字幕の多用も特徴的です。歴史ファン以外にも観てほしいとの思いから、耳で聞いて判りづらいものに字幕が付けられ、画面の美観よりも理解を助けることを優先されています。

ⓒ2021ミヤオビピクチャーズ
ⓒ2021ミヤオビピクチャーズ

「金子監督による時代劇『あずみ2 Death or Love』(2004年)を気に入っていました。
また、私が初めてお金を出して劇場で観た映画は、中山美穂主演の『どっちにするの。』(1989年)でした。知名度のほか、そうしたことも決め手になりました」

と、共同監督の宮下玄覇さん。

宮下さんは、茶道具を取り扱う株式会社宮帯および宮帯出版社の代表取締役でありながら、古田織部美術館の館長など様々な顔を持つ歴史研究家としてご活躍されています。
新たに映像部門となるミヤオビピクチャーズを立ち上げられた経緯や、初めてとなる映画製作に込める想いをお聞きしました。

映画づくりの裏側を垣間見れば、歴史に詳しくない人でも本作をより深く愉しめること間違いありません。

数寄者が、初の映画づくりに挑戦

――記念すべき最初の作品において、信虎の生涯を題材とされたのはなぜですか?

宮下 私が手掛ける作品は、なんといっても信玄や信長が登場する戦国時代にすると決めていました。そして、あまりに有名な人を主人公に据えても他の大手作品と比較され叶わないことから、”凄いのだが知られてない人”にしようと考えていました。

当初、「信玄公450回忌」の上映を目指して企画し、テーマは「信玄公の死と武田家滅亡」を描くものでした。脚本執筆時は、まさに「こうふ開府500年」の真っ只中。
地元山梨の方より「信玄公生誕500年」である2021年ではどうかとアドバイスを受け、「こうふ開府500年」「信玄公生誕500年」「信玄公450回忌」の三つを掛け合わせ、2021年の上映を決定し、テーマを信玄公が登場する信虎の晩年としました。

――脚本執筆におけるご苦労などありましたら、お聞かせください。

宮下 信虎肖像の賛や『甲陽軍鑑』の記述、歴史的事実と一致させるため苦心もしましたし、それが腕の見せどころでもありました。予算のことも考慮し、歴史に詳しくない人の理解を助けるため、登場武将を減らしました。それでも登場人物は100人を超えています。

ⓒ2021ミヤオビピクチャーズ
ⓒ2021ミヤオビピクチャーズ

――山梨県(旧甲斐国)ゆかりの役者さんが多く起用されていますが、キャスティングへのこだわりを教えてください。

宮下 甲州言葉を話される剛たつひとさん(甲府市出身、孕石源右衛門尉役)、あの方言のイントネーションは地元の人でなければ厳しいと感じていましたし、柏原収史さん(甲府市出身)は、千葉誠治監督『伊賀の乱 拘束』(2007年)を何度も視て渋い役者だなと注目していました。また同作は低予算の時代劇映画で、参考にすべき作品と考えていました。

本作は、現存する肖像画に似せたキャスティングにしています。柏原さんは武田家を再興した柳澤吉保(本作では保明)の顔にそっくりに感じられました。

ⓒ2021ミヤオビピクチャーズ
ⓒ2021ミヤオビピクチャーズ

――撮影中、印象的だったロケ地、そこでのエピソードなどありますか?

宮下 ロケは、紅葉が盛りの京都で行いました。妙覚寺の紅葉を、信長のシーンで収めることが出来たのは本当によかったです。

ロケ終了後、実景撮影を度々行いました。どうしても雪の春日山城を撮りたかったのですが、暖冬でなかなか撮れませんでした。しかし、3月29日に突然雪が降り、急遽京都を出て、東京のカメラマンと合流し、撮影しました。天候には最高に恵まれました。
特殊メイクの江川悦子さんには、「こんなに順調にいくロケは稀、運が良い」と絶賛されました。

本作はもちろんフィクションもありますが、基本的に歴史に忠実です。私は歴史研究と時代考証を趣味としており、そうしたベースを元に武田家の歴史を描きました。また、信虎公・信玄公の追善の映画でもあるので、知られていないエピソードなどもふんだんに盛り込んでいます。

黒澤明映画のような、本格的な時代劇を目指していたので、細部までこだわり抜きました。刀剣は真剣を使って、刀を何本も潰して音取りもしました。

ⓒ2021ミヤオビピクチャーズ
ⓒ2021ミヤオビピクチャーズ

――そもそも、なぜミヤオビピクチャーズを立ち上げることになったのでしょうか。

宮下 映画製作は長年の夢でした。
NHK大河ドラマ特別展の映像製作のお手伝いや、私が所持する「擁翠亭」という茶室の紹介作品のプロデュースなどもしてきました。「武田家滅亡」や「茶人・古田織部」映画は必ず撮ると決めていました。

現在、京都太秦での時代劇製作は下火となっており、自治体でもその復興を目標としています。その一助となればと思い、2018年に旗揚げしました。今後は古田織部美術館で流す映像などの撮影、時代劇製作への積極参加をしていきたいと考えています。

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