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新鬼平!松本幸四郎さん単独インタビュー 『鬼平犯科帳 血闘』 「きもの de シネマ」番外編

新鬼平!松本幸四郎さん単独インタビュー 『鬼平犯科帳 血闘』 「きもの de シネマ」番外編

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銀幕に登場する数々のキモノたちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だってキモノで愉しみませんか。今回は、大人気シリーズ「鬼平犯科帳」(池波正太郎/文春文庫)を原作とした映像化で、五代目長谷川平蔵を務める十代目・松本幸四郎さんの意気込みをお届けします。

2024.05.09

よみもの

父子競演が話題!鬼の長谷川平蔵の過去と現在が交錯する『鬼平犯科帳 血闘』 「きもの de シネマ」vol.47

“京都で鬼平を撮ること”への想い

昨日に引き続き、ごきげんよう、椿屋です。

今回の番外編は、トラディショナルな時代劇として長らく愛されている「鬼平犯科帳」シリーズの劇場版『鬼平犯科帳 血闘』の公開に先駆けて、京都で行われた特別試写会と松本幸四郎さんの単独インタビューについてお伝えいたします。

松本幸四郎さんと山下智彦監督

キャストを新たに8年ぶりの映像化となる「鬼平犯科帳」シリーズは、2024年1月8日放送のテレビスペシャル「本所・桜屋敷」からSEASON1がスタートし、劇場版『鬼平犯科帳 血闘』を経て、間もなくSEASON2の撮影が始まります。

ご多用極める準備の合間を縫って、この日登壇されたのは、五代目長谷川平蔵を務める十代目・松本幸四郎さんと、京都出身の山下智彦監督。

松本幸四郎さん

「前シリーズでカチンコを打っていた私は、松竹撮影所に育ててもらった」という監督は、試写を京都で開催できることに「感無量」と喜びを露にしました。

刺激的な現場には活気や賑わいだけじゃない緊張感が漂い、世界一の技が集結した場で「寄ってたかって素晴らしいものをつくっています」とのこと。

「時代劇の所作はもちろん、刀の扱い方や立ち回り、小道具の選び方まで、36年前に習ったことを鬼平で存分に表現したい」と、意欲を示されました。

それを受けて、幸四郎さんは、

「ここ京都は、10代の頃から育ててもらった場所です。時代劇を撮る最高の場所でもある京都の、叔父(中村吉右衛門)と同じ撮影所で、鬼平をやれることに感謝の想いでいっぱいです」

と、京都への想い入れを語りました。

松本幸四郎さんと山下智彦監督

“恰好いい鬼平”に欠かせない殺陣

オファーから現場入りまでの間、本業である歌舞伎の舞台と並行して殺陣や乗馬、江戸弁の習得に労を惜しまず取り組んできた幸四郎さん。

「実際(撮影現場に)入ってみると、最初ほどの緊張感はなかったですね。ドラマは、『明日こそ』の舞台とは違う一回勝負の積み重ねだからこそ、信頼の置ける共演者たちとの距離感が大事」

と、幸四郎さんは言います。

松本幸四郎さん

「出演者の中には、着物を初めて着る人もいれば、着物での演技経験の少ない人もいます。男女共に所作指導の方に付いてもらっていましたが、そればかりに気を取られてもいけません。演じることに集中する環境づくりのため、多少なりとも経験者の立場から、結髪師さんや衣裳さんを通して、こっそりと助言させていただくこともありました」

こっそりと、というお言葉に幸四郎さんのお人柄が覗えます。

周囲への気配りを忘れず、自身の役づくりにも励む——その過程を振り返って、「課題ばかりですよ」と苦笑ぎみに告白された幸四郎さん。

「殺陣はとても大事です。でもそれは剣の技術的なことだけではなく、鬘との兼ね合いも意識しなければいけません。思い切り刀を振れば、当然鬘もズレる。どのくらいの勢いで立ち回れば、どの程度ズレるのか……実際に何度もやって確かめてから撮影に臨みました」

松本幸四郎さん

同じ人物を演じた息子の成長に感じ入る

幸四郎さん曰く、「鬼の平蔵と言われるって相当なこと」

たしかに、人が“鬼”と恐れられるには、それ相応の理由があるはずです。だからこそ、「鬼と言われることの説得力」を念頭に置いて演じたと教えてくれました。

「平蔵は、先頭切っていくタイプ。そこには、強さと信念があります。悪に対しても善に対しても、真正面から受け止める自分自身を持っていないといけません。僕だったら一緒に泣いちゃうような状況もあって、平蔵って強い男だなぁと思います」

©「鬼平犯科帳 血闘」時代劇パートナーズ

©「鬼平犯科帳 血闘」時代劇パートナーズ

そんな平蔵が「鬼平」になった所以の事件を描いた本作では、長男・市川染五郎さんとの共演も話題となりました。

「完成した映像には、見たことのない彼の顔がありました。現場で、自分から飛び込んでいけたんだな、と。その勇気があったことが良かったと感じました」

というのが、息子の演技へのご感想。

その言葉には、「繊細に、大胆に、接してくださる監督」(幸四郎さん談)はじめ共演者や現場スタッフへの感謝があふれているようにお見受けしました。

誤魔化しが利かない着流しの再現

物心ついた頃から着物が身近にあった幸四郎さん。着物での生活も慣れたものかと思いきや……

「洋服の方がラクですよ(笑)。僕にとって、着物は仕事着。だからこそ、着物を着るとスイッチが入るのかもしれません」というお答え。

数ある鬼平の衣裳の中で、最も彼を象徴するのが「着流し」なのは周知の事実でしょう。

「着流しが一番難しいんですよ。袴を穿いていれば隠れるところも多いですが、着流しはそうもいかない。着流しの着姿は、持っているものだけでは太刀打ちできません。どういうふうに着ていたのか? 帯の位置は? いろんな写真を見て研究して、練り上げられたからこその美しさを探し出すのに注力しました」

松本幸四郎さん

最後に。

長年の着物キャリアに頼ることなく、常に恰好よさを追求し続ける幸四郎さんから、きものと読者へメッセージを頂戴しました。

「昔は日常着でしたが、いまの時代、着物は特別なものでもありますよね。

我々の祖母の代の方々が亡くなると、多くの着物が古着屋へと流れていきました。そういう着物を見ていると、髑髏柄が流行っていたり、驚くほど大柄のものが多かったり……こんな大胆な柄があるんだ!と知るんです。昔昔の番付や浮世絵に登場するド派手な色柄も、絵師たちが盛って描いているものですが、逆にそれが自由で面白かったりもします。

歌舞伎を観るなら着物で行こうといったふうに、イベントのときに着られたらカッコいいですよね。きちんと着る着物もありますが、遊んでいい着物もありますから。

現実を離れる気持ちなのか、場所なのか……着物は便利なアイテムだと思います」

撮影/スタジオヒサフジ

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