着物・和・京都に関する情報ならきものと

秋の名残と冬のはじまりが同居 ~霜月(しもつき)の巻~ 「十二ヵ月のアンティーク半襟」vol.7

秋の名残と冬のはじまりが同居 ~霜月(しもつき)の巻~ 「十二ヵ月のアンティーク半襟」vol.7

記事を共有する

11月におすすめのモチーフは、収穫が終わった「稲穂」のあとの「落穂」「雀」など、晩秋を思わせるモチーフが季節にぴったりとマッチします。そのほか、「松ぼっくり」「茸」「吹き寄せ」「いちょう」「山茶花」「枯木立」「竜田川」「鹿」「落ち葉焚き」など、実りと収穫を終えた風景をイメージさせるモチーフで11月の着物姿を楽しんでみませんか?

着物姿のなかで一番目につく面積の狭い「半襟」。
しかし、かつては…

「お話しする時は相手の目ではなく、半襟をみてお話しするように」

という躾(しつけ)の言葉や、

「いずれ白襟で伺います」
※普段掛けている色襟を正式な白襟に替えて(=あらためて)伺う

という礼儀の言葉があったように、「半襟」は特別な意味を持つ和装小物です。

アンティークの刺繍半襟や染めの半襟にはすばらしい手仕事が凝縮されており、礼装はもちろん、縞の着物などに季節の半襟を掛ける(つける)ことが、明治から昭和、当時の女性の楽しみでした。

刺繍半襟は、

「着物を一枚仕立てる贅沢のかわりに、せめて刺繍の半襟を…」

という女性の気持ちに寄り添って作られた、小さな贅沢だったのでしょう。

そんな半襟に込められた和の美と季節の再発見をテーマに、旧暦の月名にあわせたアンティーク半襟をさとうめぐみの「半襟箱」の中からご紹介していきます!

さとうめぐみの半衿箱

二十四節気と半襟について

さて…
今月10月は、旧暦名で「霜月」(しもつき)。

霜月(しもつき)とは、陰暦(旧暦)の11月を意味し、陽暦(新暦)11月の和風月名としても知られています。まだ霜が降りるには早い季節だと思われる11月が、なぜ霜降月とも呼ばれるようになったのでしょうか?

その意味・由来・語源には諸説あります。
陰暦の11月は、陽暦の11月と時期が違います。
陰暦は陽暦から1か月ほど遅れています。陰暦の11月は、陽暦の11月下旬から翌年1月上旬頃に当たるのです。
もっとも有力だとされている説は「霜降り月・霜降月(しもふりつき)」が省略されて「霜月(しもつき)」に転じたというものです。

陽暦(新暦)では12月頃となる霜月ですから、陰暦(旧暦)が用いられていた当時ではすでに霜が降りていたのでしょう。
ほかにも、満ちた数字である十を上月とし、それに対して下月(しもつき)になったという説、その年の収穫を感謝する意味を持つ「食物月(をしものつき)」が省略されたという説があります。

そんな秋に向かう月に訪れる「二十四節気」は、

「立冬(りっとう)」(2021年は11月7日)
「小雪(しょうせつ」(2021年は11月22日)

です。

立冬:冬の気配が感じられるようになる、暦の上での冬の始まり!

着物の暦としては「紅葉と共に羽織を着る」といわれる時期で、重ね着や防寒のアイテムを楽しむ時期のスタートでもあります。今回はまもなく訪れる七五三をテーマにした姉妹コーディネートを、可愛らしいアンティーク尽くしでご紹介いたします。

南天の襟巻きをワンポイントに

「小雪がちらつき始め、本格的な冬の到来を告げる時期」という意味の「小雪」。この時期の過ごし方のポイントは「祝う」こと、そして「休む」ことです。新暦の12月ももうすぐ、せわしない季節の前に着物でほっとひと息を。

「冬」に「雪」…文字を見るだけでも、いよいよ冬が近づいてくることを感じますね。

「二十四節気」とは、旧暦(太陰太陽暦)における太陽暦であり、2月4日の「立春」を起点に1年を24等分し約15日ごとの季節に分けたもので、いわゆる「暦の上では…」のもとになっているものです。

さて、十九番目の節気・立冬(りっとう)は、二十四節気で冬の初めとなる日です。

旧暦の太陰暦では十月・十一月・十二月を「冬」としており、二十四節気(旧暦の太陽暦)では、「立冬」から「立春」の前日までの約90日が「冬」です。
「立春」から約270日(度)が経ち、あと約90日(度)で四季がひとまわりし、一年が終わります。

冬の語源は、そうして年が経ていく様子をあらわした「経(ふ)ゆ」だとする説もあります。
「立春」「立夏」「立秋」と同じく、ちょうどこの日から「冬」になっていくという日です。

秋の豊かな実りをしっかり受け取り、感謝し、冬に備えるのがこの時期の過ごし方のポイントとなります。

11月にもうひとつ訪れる節気は二十番目の節気「小雪」です。

この節気は、

「小雪がちらつき始め、本格的な冬の到来を告げる時期」

という意味で、例年ほぼ国民の休日である「勤労感謝の日」の前日が「小雪」の日となります。

「勤労感謝の日」は、もともと「新嘗祭(にいなめさい)」といって、その年にとれた穀物を神に供え、それを共に食する神と人が一緒になって行う新穀感謝の祭りでしたが、戦後、神への感謝という側面が消され人間の日頃の労働をねぎらう休日となりました。

この時期の過ごし方のポイントは「祝う」こと、「休む」ことかもしれません。
この日一日は「ハレの日」を満喫することで、年末年始への新しいエネルギーを養ってみましょう。

実はこの「15日ごとの季節」=「二十四節気」という小さな区切りこそ、半襟のお洒落の見せどころ。

着物や帯の季節のモチーフを取り入れてしまうと、短い時期しか着ることができなくなってしまいますが、ほんのわずかな面積が襟元からのぞく程度の半襟なら、印象に残ることも少なく、着ている方は季節の移り変わりを密かに楽しむことができます。

秋の名残と冬の始まりが同居するこの季節は、「帯付き」という、着物の上に羽織やコートを着なくても心地良い天気や気温が続きます。

「紅葉ととも着て、桜とともに脱ぐ」

といわれる羽織の風情も素敵なものですが、季節の先どりを半襟に託し、着物に帯の姿を楽しめる「帯つき」姿を存分に楽しみましょう。

霜月の半襟1『縮緬地 竹に雀文様 染め 刺繍半襟』

『縮緬地 竹に雀文様 染め 刺繍半襟』
どこかメルヘンチックな趣の刺繍半襟

そんな霜月にご紹介する一枚目の半襟は…
         
          『縮緬地 竹に雀文様 染め 刺繍半襟』

鉄紺色のシボの高い縮緬地に、橙色で竹笹を描き、小さな雀を数羽飛ばした、どこかメルヘンチックな趣の刺繍半襟です。

「竹に雀」は「取り合わせが良いもの」のたとえとして使われる慣用句で、「松に鶴」ほどの格の高さはないものの、まっすぐに伸びる竹と、群れをなすことから子孫繁栄、実りの季節をイメージさせる雀は晩秋から冬にかけてぴったりのモチーフです。

一年中いつでもどこでも身近にさえずる雀の、人を恐れない姿は愛らしく、春の子雀、稲穂をついばむ雀、冬の寒さに羽毛をふくらませている雀など、さまざまな雀文様が平安時代から描かれてきました。

本来、若竹色であるはずの笹竹が橙色なのは、晩秋の日足の長い夕日に照らされた光景を写し取ったもの。

そこをねぐらとする雀たちがいっせいに家路についた様子を一枚の半襟に描いたその意匠は、昔の作り手は自然をよく観察していたからこそ…と感心させられます。

笹竹の筋張った葉脈を際立たせる白い刺繍の効果、稲穂をついばみ、ぷっくりと膨らんだお腹を下から描いた構図は、あまりほかでは見かけない面白いものです。

かつての使い手もこの半襟を大事に扱っていたのでしょう、笹竹の橙色と同じ色糸で半襟の端をぐし縫いし、ほつれ止めをしています。

半襟そのものはもちろん、一枚の半襟を大切に扱っていた先人の心づかいに微笑みがこぼれます。

半襟を大切に扱っていた先人の心づかいに微笑みがこぼれます。

霜月の半襟2『縮緬地 公孫樹・銀杏文様 刺繍半襟』

『縮緬地 公孫樹・銀杏文様 刺繍半襟』
赤色の縮緬地に、公孫樹の葉と実を刺繍した半襟

二枚目にご紹介する半襟は、

『縮緬地 公孫樹・銀杏文様 刺繍半襟』

赤色の縮緬地に、公孫樹(いちょう)の葉と実(銀杏・ぎんなん)を刺繍したモダンな雰囲気の半襟です。

水色と朱鷺色(ときいろ・ピンク)の葉、そして朱鷺色と紫色という、実物の公孫樹・銀杏とはまったく違った色のセレクトに度肝を抜かれて、思わず手にした一枚です。

よく「秋空を金色に染めるように…」と表現される公孫樹ですが、黄色を一色も使わないで公孫樹と銀杏を表現したその面白い発想は、当時のものづくりの大胆さを物語っています。

秋になると寒暖差で木の葉が色づくことを「紅葉(こうよう)」といいますが、厳密には葉が赤くなる「紅葉(こうよう)」、葉が黄色くなる「黄葉(おうよう)」、葉が茶色になる「褐葉」などがあり、「黄葉」の代表である公孫樹は、まっすぐに天に向かって育ち、30mに達する巨木となることで知られます。

水分を多く含んでいるため火災にも強く、炎に焼かれても簡単に枯死しない強い生命力を持っていることから、長寿の木・吉祥木ともいわれていますね。

この半襟が作られた大正~昭和初期は、まだ女性のほどんどが日本髪を結っていた時代です。

そもそも半襟は、日本髪の襟足のふくらみ「髱(たぼ)」と呼ばれる部分で、着物の襟が汚れるのを防ぐために考えられた実用を伴う装飾品。最初は無地の地味な生地で作られていましたが、次第に染めや刺繍などが施されるようになりました。

イチョウと日本髪といえば「銀杏がえし」。
髻(もとどり)を2分して根の左右に輪をつくり、毛先を元結いで根に結ぶのが特色。形がイチョウ(銀杏)の葉に似ていることからその名前が付けられた髪型です。

シンプルな着物に公孫樹の半襟を掛け、粋といわれる銀杏がえしに髪を結う、そんな大正ロマンの装いを彷彿とさせてくれる一枚です。

大正ロマンの装いを彷彿とさせてくれる一枚

霜月の半襟3『縮緬地 小菊に柴垣文様 刺繍半襟』

『縮緬地 小菊に柴垣文様 刺繍半襟』
偽紫色に、小菊と柴垣を配した目に鮮やかな半襟

三枚目にご紹介するのは…

『縮緬地 小菊に柴垣文様 刺繍半襟』

です。

偽紫色(にせむらさきいろ)と呼ばれる濃い紫色に、新橋色と牡丹色・黄色・赤色の組み合わせで小菊を描き、柴垣を配した目に鮮やかな半襟です。

「柴(しば)」というと、現代人のわれわれは緑色の庭草「芝生」を連想しますが、漢字が違うように「柴」は、山野に自生する小さな雑木のことです。

昔話で「おじいさんは山に柴刈りに…」と語りはじめられるように、野山の雑木は切り揃えられて「柴」となり、壁・垣根・屋根などの建材として用いられるほか、薪として火にくべられるなどかつての日本生活にはなじみの深いものでした。

これを束ねて結んだ柴垣は、柴垣は田舎屋のしつらえとして一般的なものであり、古くから風情を感じさせる文様として文学や絵巻などに登場しています。

江戸時代の明暦期(1655~1658)頃には、

〽 柴垣 柴垣 柴垣越しで 雪のふり袖 ちらとみた

という「柴垣節」が生まれ、それに合わせて踊る柴垣踊が流行したということから、柴垣は雪を待つ冬の情景として描かれるようになりました。

秋の象徴の菊の背後にさりげなく線描された柴垣が雪の季節の到来を暗示する、小雪(しょうせつ)の頃にぴったりの半襟です。

「小雪」の頃にぴったりの半襟

霜月の半襟4『塩瀬地 蜘蛛の巣に紅葉文様 刺繍半襟』

『塩瀬地 蜘蛛の巣に紅葉文様 刺繍半襟』
真っ赤な塩瀬地に蜘蛛の巣と紅葉・楓を刺繍した半襟

四枚目の半襟は…

『塩瀬地 蜘蛛の巣に紅葉文様 刺繍半襟』

真っ赤な塩瀬地に、白・金・銀色の三色で蜘蛛の巣と紅葉・楓を刺繍した半襟です。
蜘蛛の巣は春から夏にかけての文様とされることが多い中、地を赤にし、落葉と組み合わせたところに工夫があります。

楓の葉は紅葉するとより美しくなるので、古くから文様として使われてきました。楓と紅葉は同じ植物で、楓の葉が色づいたものが「もみじ」です。

「楓」は葉の形がかえるの手のような事から「かえるで」が転じて楓と言われる風になりました。楓の葉が赤く色づいた紅葉は着物・焼き物を始め多く使われる文様の一つです。

「楓」は春の花見、秋は紅葉として紅葉・紅葉狩りと日本人に四季を感じる植物として非常に親しまれてきました。

「紅葉」を観賞するようになったのは平安時代頃からで、それ以前の奈良時代には黄葉(おうば)に映える美しい山並みを眺めていたようです。

それが色づく楓の葉を愛でるようになったのは、紅葉を見て夏に疲れた体に生気を取り込もうとする、中国の思想が伝わったからとの説があります。それがいわゆる「紅葉狩り」で、山中で宴に興じて体力の回復を願い、山の神に秋の収穫を祝う意味も込められるようになりました。

桃山時代以降代表的な植物文様となり、鹿と並べて秋の風情を表現するのに使われたり、流水文との組合せも多く見られますが、こうした蜘蛛の巣と組み合わされるのは、大正・昭和のデカダンスの影響と思われます。

というのも、江戸から昭和の花柳界では「客をつかまえる」縁起物としてこの蜘蛛の巣文様が女性たちに好まれれていたからです。

風情が巧みに表現された構図に冬の足音を感じます

少々生々しく思えるかもしれませんが、昔の日本では、蜘蛛=親しい人の来訪を告げる縁起の良い虫とされていたことがその起源にあたります。

奈良時代に成立した「日本書紀」には、衣通姫(そとおりひめ)が詠んだ歌として、

我が夫子(せこ)が 来べき夕(よい)なり 小竹(ささ)が根の
蜘蛛の行い 今宵 著(しる)しも

という和歌が紹介されていますが、夫の通い婚が通例だった時代、蜘蛛が庭の小竹に巣をかけることは、女性にとっては夫の来訪の予兆=うれしい虫の知らせだったのです。

とはいえ、楓や銀杏などの落ち葉が絡まった蜘蛛の巣の意匠はどこか寂しげで、この季節ならではの風情が巧みに表現された構図に冬の足音を感じます。

11月のモチーフ

実りと収穫を終えた風景をイメージさせるモチーフで楽しんでみませんか?

11月におすすめのモチーフは…
収穫が終わった「稲穂」のあとの「落穂」、「雀」など、晩秋を思わせるモチーフが季節にぴったりとマッチします。

そのほか、「松ぼっくり」「茸」「吹き寄せ」「いちょう」「山茶花」「枯木立」「竜田川」「鹿」「落ち葉焚き」など、実りと収穫を終えた風景をイメージさせるモチーフで11月の着物姿を楽しんでみませんか?

霜月のとっておき

霜月のとっておき

今月のとっておきのコレクションは、歌舞伎にちなんだモチーフの半襟です!

11月といえば歌舞伎興行の「顔見世(かおみせ)」のシーズンです。
「顔見世(かおみせ)」は、歌舞伎で、1年に1回、役者の交代のあと、新規の顔ぶれで行う最初の興行のことです。

江戸時代、劇場の役者の雇用契約は満1箇年であり、11月から翌年10月までが1期間でした。そのため毎年11月に変わるその役者の顔ぶれ・一座を観客にみせ、発表するのが顔見世のはじまりで、歌舞伎興行において最も重要な年中行事とされています。

現在も11月(歌舞伎座)か12月に顔見世興行が行われていますが(御園座など10月のところもある)、なかでも京都南座の12月顔見世公演は、最も歴史が古いことで有名。
劇場正面には役者の名前が勘亭流で書かれた「まねき」と呼ばれる木の看板が掲げられ、京都の年末の風物詩となっています。

この「まねき」の東西二枚目・三枚目に掲げられる役者名から「二枚目(美男子)」「三枚目(ひょうきんな個性が持ち味の人)」という言葉が生まれたことからも、歌舞伎がどれだけ町人に定着していたかということがわかります。

同じく、「ある文様」を見れば歌舞伎の演目がだいたいわかる、という…
着物と芝居の蜜月時代に作られた半襟をご紹介します。

「縮緬地 流水に麻の葉・糸巻(苧環)文様 染め刺繍半襟」
一枚目は、

『縮緬地 流水に麻の葉・糸巻(苧環)文様 染め刺繍半襟』

鮮やかな紫と赤のコントラストに流水文様のこちらは、近松半二原作『妹背山女庭訓(いもせやまおんなていきん)』『道行恋苧環(みちゆきこいのおだまき』をモチーフにした半襟です。

『妹背山女庭訓』は、烏帽子折求女(実は藤原淡海)と、そのかたき蘇我入鹿の妹・橘姫、杉酒屋の娘・お三輪の三角関係を、相手の裾に糸で結ぶ苧環(おだまき)を小道具に巧みに浄瑠璃化したもの。

橘姫とお三輪という身分の異なる女の恋を対照的に描いた作品で、お三輪の衣装の定型である麻の葉文様と手に携えた苧環(糸巻)がその物語を暗示しています。

鮮やかな紫と赤のコントラストに水を思わせる流水文様。
「楊柳地 三味胴に撥・鼓・梅文様 染め刺繍半襟」

二枚目は…

『楊柳地 三味胴に撥・鼓・梅文様 染め刺繍半襟』

渋い赤の楊柳地に疋田絞りで撥や鼓を染め、三味線の胴の形をした四角を色紙に見立て、仮名文字で歌詞を書き、梅の花の刺繍を散らした洒落た半襟です。

三味線と梅といえば、

〽 梅が枝の手水鉢 叩いて お金が出るならば 叩いてお金が出た時は 
その時きゃ 身受けを ソレ頼む

という「梅が枝節」で知られる、『源平盛衰記(げんぺいせいすいき)』を元にした江戸中期の浄瑠璃『ひらかな盛衰記』(二世 竹田出雲原作)を連想します。

着物からほんの少ししかのぞかない半襟に、ひとつの世界を表現する面白さの詰まった半襟です。

ひとつの世界を表現する面白さの詰まった半襟です。
「縮緬地 丸文様に結び文文様 染め半襟」

三枚目は…

『縮緬地 丸文様に結び文文様 染め半襟』

青色に鉄紺色・水色・辛子色・紫色などクールな色で、大きな輪と小さな輪、結び文を染めた半襟です。

丸は円、円は縁、そこに結び文で「縁結び」とかけた洒落た図柄は、『文売り』や『雁の便り』など、恋文をテーマにした楽しい歌舞伎を連想させます。

結び文は、文を折りたたんで一回結んだ形をデザイン化した柄で、平安貴族が恋文をしたため、花枝に結んで渡していたことから定着した雅な形です。

やがて江戸時代には普通の書状にもこの結び文の形が使われるようになり、結び文は糊で封をしないかわりに封じ目に〆と引墨(ひきずみ)をするものとされていました。
単純ながら愛らしい形が好まれ、江戸時代初期から着物の柄として取り入れられるようになりました。

縁を繋ぎ結ぶ縁起柄は身に付けるだけでもうれしいものです。密かな思いを半襟に込めて装うのも、着物の楽しみですね。

※ちょうど今年12月の京都・南座顔見世興行第三部では『雁のたより』が上演されます。

密かな思いを半襟に込めて装うのも、着物の楽しみですね。
「縮緬地 十字鐙文様 刺繍半襟」

四枚目は…

『縮緬地 十字鐙文様 刺繍半襟』

焦茶色の縮緬地に黒色・墨色と薄墨色で「十字轡(じゅうじくつわ)」を刺繍した、渋さ漂う半襟です。

轡(くつわ)とは、馬の口に咬ませて手綱を付ける馬を制御するための金具のこと。
轡には両端に手綱を引くための鐶(カン)という、環状の金属製部品があり、その形や文様にさまざまな技巧が尽くされました。

馬を先導するところから「人の前に出る」の意味に通じ、男の洒落着に使われることは多々ありますが、女性ものに使われるのは珍しい文様です。

轡と女性で歌舞伎といえば、馬を駆って戦場に赴く『源平盛衰記』『女暫』の巴御前、伝説の大力で馬を取り押さえる「近江のお兼」が思い浮かびます。

そのほか、『実盛物語』『矢の根』『当世流小栗判官』『塩原多助一代記』『馬盗人』など、馬を題材にした歌舞伎の演目は数多くあります。

そう思ってこの半襟を見直すと、地色の焦茶色は馬の栗毛色だった!と気づかされる意匠の面白さ。半襟の奥深さを感じる珠玉の一枚です。

地色の焦茶色は馬の栗毛色だったと気づかされる意匠の面白さ。

さて、歌舞伎好きの眼福になればととっておきをご紹介しましたが、いかがでしたか?

ひと月に一度、半襟箱という名のタイムカプセルを開けるドキドキをみなさまともにに…
以上が今月のさとうめぐみの半襟箱でした。

次号は「師走(しわす)」の巻、12月7日二十四節気「大雪」の前日の配信をお楽しみに!

半襟撮影協力/正尚堂

『旧暦で楽しむ着物スタイル』河出書房新社
 
さとうめぐみ著『旧暦で楽しむ着物スタイル』(河出書房新社)他
アンティーク着物や旧暦、手帳に関する著作本多数!

シェア

BACK NUMBERバックナンバー

LATEST最新記事

すべての記事

RANKINGランキング

CATEGORYカテゴリー

記事を共有する