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小紋屋主人と現役芸妓も納得! Netflixシリーズ『舞妓さんちのまかないさん』〈後編〉

小紋屋主人と現役芸妓も納得! Netflixシリーズ『舞妓さんちのまかないさん』〈後編〉

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京都の花街を舞台に、芸舞妓さんの日常を描く『舞妓さんちのまかないさん』。タイトル通りの美味しいごはんと、花街ならではのキモノがたくさん登場します。作品の魅力に迫る後編は、小紋屋高田勝の主人・高田啓史さんと祇園甲部の芸妓・槇子さんの対談です。

2023.01.30

よみもの

是枝裕和監督が描く花街の文化 Netflixシリーズ『舞妓さんちのまかないさん』〈前編〉

キャラクターありきの衣裳提案

衣裳監修の伊藤佐智子さんが前編で語ってくださったように、花街の女性たちはかわいいものがお好き。

それが何気なくあらわれているのが、屋形で芸舞妓ちゃんたちを見守る”梓さんお母さん”役、常盤貴子さんがお召しになっている着物たちです。

対談風景

小紋屋高田勝にて

是枝裕和監督のロケハンにお力添えされた祇園甲部の芸妓・槇子さんをお招きして、小紋屋 高田勝における主人・高田社長との語らいは……そのあたりのお話から。

——今回の衣裳協力はどちらからのご依頼ですか?

高田社長:衣裳さんからですね。商品を提供するにあたっては、まずそれぞれのキャラクターについてお聞きして、こういうものならどうですか、と提案します。

槇子さん:へぇ、イメージで?

高田社長:今回のドラマに限らず、全体的なイメージやキャラクター設定の年代やバックボーンといったものを聞きますね。

©小山愛子・小学館/STORY inc.

©小山愛子・小学館/STORY inc.

槇子さん:難しいですねぇ。

高田社長:ようけ人がいはる場合は、それぞれのイメージカラーを決めることもあります。

©小山愛子・小学館/STORY inc.

©小山愛子・小学館/STORY inc.

——今回とくに衣裳選びにおいて意識した点はあったのでしょうか。

高田社長:常盤さんのがそうなんですが、わりと「ほんまに着はんの?」ってくらい個性的というか、ええんかな?って思うような着物を選びました。猫の柄とか、蜻蛉(トンボ)の柄ですとか。ちょっと面白いお遊びの柄がけっこうあって、「ほんまにいいんですか?」って訊いたら「今回はいいんや」と。まあ、最終的にご本人が嫌って言ったら使われませんけどね(笑)。

槇子さん:そうなんどすか!

面白いお遊びの柄

今回撮影に使用された着物たち

——蜻蛉の柄の着物は、とても印象的なシーンで登場していました。本作は、衣裳が何かを物語ることもあると、さまざまな場面で感じることができる作品です。槇子さんはどのような印象をもたれましたか。

槇子さん:お着物を着慣れてる俳優さんは少なかったかなと思うんどすけど、でも若い女優さん方が舞妓さんになるにつれてだんだんと着こなしも上手になっていかれてるのが、ほんまに成長されていっているようで素晴らしかったです。みんなかわいいの着てはったので、いいなぁ思て見てました。

——まさしく。なかでも出戻りの吉乃(松岡茉優)の衣裳は、和服も洋服もどちらもエッジの効いたコーディネートでした。

槇子さん:そう、どれもかわいかった~。うちらも、見てて愉しかったです。

©小山愛子・小学館/STORY inc.

©小山愛子・小学館/STORY inc.

リアルな美は細部に宿ってこそ

©小山愛子・小学館/STORY inc.

©小山愛子・小学館/STORY inc.

——あらためて、作品をご覧になっていかがでしたか?

高田社長:想像していた以上に緻密に描かれていますね。セットもそうですし、撮り方や全体的な雰囲気もすごく……

——リアルでしたでしょうか。

高田社長:いやぁ、お金かけはったな、と(笑)。

高田社長

——路地まで再現した見事なセットはもちろん、桂川に浮かべた船上の舞台など、是枝監督に「Netflixでなければ不可能だった」と言わしめただけのことはあると思います。実際に花街で暮らしていらっしゃる槇子さんから見た感想はいかがですか?

槇子さん:そうどすねぇ。取材の時に、置屋さんやらを何軒か見てらっしゃったんですね。これどこまで再現しはんのかなぁと思ったら、ちょっと片づけたくなるくらいに、ほんとにもうすごくリアルやったのでビックリしました。そういう細かいところまで、いやな感じなく描いてくださってますね。母娘の関係性だったり、家の中の雰囲気だったり、ほんまにあんな感じなので、ほっこりした気持ちで見せてもらいました。

——ふだんはあまり見る機会のない景色が垣間見られる作品に仕上がっていましたね。

槇子さん:内部のことを描いてもらうのは難しくて……あまり見せたくないところも、正直ありますし。最初の段階では、みんな不安な方が大きかったんですけど、是枝監督をはじめ、 関わってくれたはる方々みなさんがすごく大事に思ってくださっているのが伝わってきて、安心しました。丁寧に描いてくれてはって、リアルやけどきれいにまとめてくださってます。なので、京都で試写会してくれはった時も、大きいお姉さんや女将さん方も観に行かれてたんどすけど、「ほろっときたわぁ」って声もあって、つくっていただいてよかったなと思てます。

槇子さん

——試写後、舞妓ちゃんたちが「お腹空いた~」って口々に言っておられましたね。

槇子さん:みんな帰って食べてはりました。親子丼つくったりして(笑)。

©小山愛子・小学館/STORY inc.

©小山愛子・小学館/STORY inc.

得難い機会となったドラマ撮影

対談風景

——多くのドラマや映画で衣裳・美術協力に尽力されているのはなぜですか。

高田社長:大きなきっかけになったのは、NHK朝の連続テレビ小説『だんだん』(2008年9月~2009年3月)でした。半年ほどかけて関わらせてもらって、100点ほど提供しました。

槇子さん:そんなに!

高田社長:衣裳協力はなかなか難しくて、『舞妓さんちのまかないさん』でも1年半ほど前から動いてましたが、オファーがある時にはその作品がヒットするかどうかも分からない。実際以前に一度、俳優さんの不祥事でボツになったこともあったんです。

——そう考えると、リスクもありますね。

高田社長:水物ですからね。けど、『だんだん』でそういうご縁をいただいてから、お話があったら面白いしのろかな、と。とりあえずいっとくかと(笑)。

一同:

©小山愛子・小学館/STORY inc.

©小山愛子・小学館/STORY inc.

——具体的には、どういったところが面白さだとお考えですか?

高田社長:ひとつは、自分たちがつくってるものが画面に出るという点。もうひとつは、現場で働いているつくり手たちのヤル気がもつってことですね。

——モチベーションは上がるでしょうね。

高田社長:半年一年くらいは、もつんですよ(笑)。そうこうしているうちに、また次の作品のオファーがあったりして、少しずつモチベーションを維持できる効果もあると思ってます。

——ドラマの舞台となることで、花街のみなさんにもメリットはありましたか。

槇子さん:コロナの時はお稽古しても見てもらえる場もなかったですし、知り合いの少ない若い子ほど、頑張っても頑張っても報われないのが、見てて可哀相やなぁと思うことも多かったんどす。けど、こうして作品のおかげで“ハレ”ができて、ありがたい時に撮影してくれはったなと思います。2時間くらいかけてお化粧して、「お姉さん、今から撮影行ってきます!」って言うのに、「誰もアップならへんと思うよ」って返したり(笑)。

槇子さん

——ワクワクすることがあるだけで、閉塞感が少し紛れたのではないですか。

槇子さん:ほんまそうどす。撮影に参加させてもらえた子らが、すごいうれしそうにしてはりました。

©小山愛子・小学館/STORY inc.

©小山愛子・小学館/STORY inc.

作品に提供された着物を眺めながらの着物談義に花咲くひととき。

とくに印象的だったのは、細かい柄まで鮮明に移り出すことを可能したここ10年における映像業界の技術革新によって「提供する衣裳もよりリアルなものを提案できるようになった」という高田社長のお話。それは、「ほんまに自然で、違和感がありまへんどした」という槇子さん言葉が証明しています。

〈予告編〉

2020.03.11

インタビュー

小紋屋高田勝 三代目主人・高田啓史さん

対談風景撮影/スタジオヒサフジ

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