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チャレンジングな役柄も次々と― 歌舞伎俳優 澤村國矢さん(前編)

チャレンジングな役柄も次々と― 歌舞伎俳優 澤村國矢さん(前編)

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古典芸能と最新技術が融合した歌舞伎公演「超歌舞伎」。その舞台に出演し、リミテッドバージョンでは主役もつとめる歌舞伎俳優の澤村國矢さん。着ている着物の話から歌舞伎俳優となったきっかけ、「超歌舞伎」への思いなどをうかがいました。

若手の実力派として注目の歌舞伎俳優

9歳から子役として俳優活動を開始。16歳で歌舞伎俳優になる決意をし、澤村藤十郎に入門。
2010年には名題昇進、2018年に重要無形文化財(総合認定)に認定されるなど、数々の歌舞伎公演に出演し、若手の実力派俳優として頭角を現してきた澤村國矢さん。

2016年から始まった中村獅童とバーチャルシンガー初音ミクが競演する「超歌舞伎」では、毎年重要な役どころを演じ、注目を浴びます。

人気の高まりを受け、2019年の「超歌舞伎」リミテッドバージョンでは主役に抜擢。2020年には日本俳優協会賞本賞を受賞するなど、華々しい活躍をされています。

また、今年5月には12歳のときより師事していた日本舞踊世家真(せやま)流で名執を取得され、今後は舞踊家としての活動も期待されています。

「超歌舞伎」を意識した夏の装い

”澤村國矢””超歌舞伎””歌舞伎”

昨年行われた京都きもの市場銀座店のリニューアルパーティーで、迫力満点の『助六』を披露してくださった歌舞伎俳優の澤村國矢さん。

2022.02.15

イベント

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そのときは紋付き袴姿でしたが、盛夏のこの日は、なんとも涼しげな小千谷縮でいらっしゃいました。

「いやぁ、夏物ってぜんぜん持っていなくてね。夏、着るとなると浴衣が多いんですよ。
でも、おもてで着るのに浴衣ってわけにはいかないから、少し前に作ったまま着ていなかった小千谷縮を出してみました。

これね、色味が明るめで配色がポップだなって思い、気に入ったんです。着物を選ぶポイントは老けすぎないようにすることですかね。

帯はデニム地のもの。普通なら博多の献上帯を合わせるところなんだけど、「超歌舞伎」を意識して現代の素材のものをミックスしてみました。

この帯は旦那(2代目澤村藤十郎)のお客さんからいただいたものなんですよ。縞の感じと色味が合うかなと」

”澤村國矢””小千谷縮””デニム帯”

あえて献上ではないところに、あか抜け感が。

「よかったです。僕ら歌舞伎役者って、外に着ていくような着物に関して無知なところがあって。着物は仕事で着るものっていう感覚なんです。

お稽古で着ますけど、舞台稽古ってもうスポーツみたいなものだから、そのときの着物で外にはいかないですしね」

國矢さんのキャリアだと、稽古着との付き合いも長いのでは。

「それでも歌舞伎の家ではないので、9歳からですね。子役のときに劇団で日舞の授業があり、浴衣を作らないといけないね、となって。それで初めて浴衣を作りました。あとはウールの着物だよね、子供だから。付け紐なんかがついて帯が高めなんだよね。

子供心に着物を着るのは楽しかったですね。普段着ないものを着るという非日常的な感じが好きだったんだと思います。それがずっと続いている。歌舞伎役者で衣裳を着るのも、コスプレをするというのも、違う姿になりたいという願望があるからじゃないですか」

日本舞踊というのは着物を美しくみせるものでもありますよね。着物での動きであったり、扱いであるとか。

「そういったことをひと通り習いますよね。当たり前のことだけれども、帯の結び目を触るときは必ずたもとの後ろから手をまわして触る。たもとのの前から触ると、人形の手になっちゃうから」

「また、昔の人はよく肩山のあたりを気にしていらしてね。歌舞伎の振りにもそういう振りがあるんです。

肩山から袖山にしっかりと線が入っているものを着ている、つまり、いいとこのボンボンなんだとわかるようにさせているわけです。踊りを通して、そういった着物の扱い、意味を、身につけた気がしますね」

初舞台は子狐の着ぐるみで

劇団の子役から歌舞伎俳優になるきっかけというのは。

「うちの旦那・澤村藤十郎から子役のときに歌舞伎役者にならないかと誘いを受けまして。

ただ和物には興味はあったんですけど、歌舞伎は自分が出るまで観たことがなかったんです」

観たことがないまま、出たんですね。

「舞台袖から観たのが初歌舞伎です(笑)。『義経千本桜』の子狐で着ぐるみで出たのが初でした。いまだにあの稽古場の空気を思い出しますね。初めての歌舞伎の稽古。昔の歌舞伎座のロビーのところでね、上敷を引いてやるんです。

それが当たり前だったんですけど、狭かったし、柱はあるしねぇ。あんなところで稽古して、次の日の舞台稽古では一気にダーッと広くなるわけだから、舞台上では想像以上に動かなくちゃいけない。いったいどういう寸法で稽古しているんだ? と、子供ながらにびっくりしましたね」

そして、本格的な歌舞伎俳優への道へ。

「『河内山』でした。旦那が松江出雲守、僕がその小姓で出たのがきっかけで毎日教わって、出番も一緒に待たせてもらってね。

そのあいだに、「歌舞伎好きなのかい?」と聞かれて。僕は「はい」って。

ただ、自分が言うのもなんだけど、当時僕はテレビのほうが好きで。なんでテレビに出ないで舞台に出ているのかな、と思ったときもありました」

「幸運というか、歌舞伎の子役のなかでもとりわけ”歌舞伎顔”だったらしいんですよ。

音羽グループを束ねていた子役のときの先生が、僕をいろんな役者のところに連れ回して「こうちゃんに似てるでしょ」と言うわけ。

僕は内心「こうちゃんって誰?」って思ってたけど(笑)、あとあと聞いてみたら橋之助さんのことだった。いまの中村芝翫さん。本名が幸二さんっておっしゃるから。

それで自分が歌舞伎っぽい顔をしているんだなってわかってきて。師匠もそれを感じてたんだろうし、立派なのは顔だけだったのかもしれないですけど、まぁ、育てたいな、と思ったのかもしれないですね」

とにかく古典を崩さないように

子供のときから歌舞伎の舞台にでられて、いまでは革新的な歌舞伎舞台「超歌舞伎」に抜擢されていますね。

「古典に骨を埋めていたところに話がきてびっくりしましたね。

テクノロジーとのコラボレーションと言われていますが、「超歌舞伎」は古典をベースに作っているので、演じる側はとにかく古典を崩さないようにやっています。

歌舞伎というものが壊れていかないよう、我々が古典を守り、示す。そこに映像や音楽などの新しい技術が掛け合ってくる。そこは「超歌舞伎」チームのみんなが意識しているところです。

なにせ歌舞伎役者の立ち回りだけでなく、アクションの方から、女流の舞踊家の方、いろんなものが入り込んで、それでもエンターテイメントとしてきちんと成立させる、ということをやっていますから」

バーチャルシンガー初音ミクさんと芝居をするのはどういう感覚でしたか。

「これは本当に不思議なものですし、体験した人にしかわからないと思うんです。

最初は間尺といって、1分間なら1分間、ミクさんの動きとセリフが全部つながってついていたんです。だから、こっちが一瞬でも遅れたらセリフがかぶっちゃう。逆に怖くなって早くすると、変な間が空くという。稽古場でずっとそうで、頭を抱えましたよ。

もう仕方ないから秒数で覚えるしかない、と。毎回測りながら、ここは何秒っていうのをひたすらやった。そのおかげで本番はピッタリ。それが1年目。

2年目からは叩きで、セリフとセリフの間が切れるようになったので少しは楽になったかな。でも、裏話をすれば、ミクさんがセリフを出してくるなっていう空気感が読めるようになったというか。

裏には叩く人(セリフを出す人)がいて、その方の技術も向上してきているからできることでもあるんですよね。そういう方たちがミクさんのなかに入っているので、息吹を感じられるようになったんでしょう。きっと観ていただく方にも感じられると思います」

”澤村國矢””超歌舞伎””歌舞伎”

ミクさんに命を吹き込む。技術の向上でいうと、着物のテクスチャーもすごく進化している。

「驚きますよね。計算にAI的な技術を使っているのか、陰影のつき方がすごい。ミクさんのたもとが燃える演出があるんだけど、どこから火がついているかわかるものね。

たもとにしろ、ただ動いているだけだとペラペラなものを着ているようにみえてしまうんだけど、着物の重さが伝わってくる質感になってるし。

これだけ技術が向上したのは、チーム一丸となって、毎年、進化しなければ、と思ってやっているからでしょうね」

中村獅童さんの推薦で主役へ

今年で3回目となる國矢さん主演のリミテッドバージョンも上演されます。「超歌舞伎」での國矢さんの人気を受けて、獅童さんが主役へ推薦したと聞いています。

「初めて聞いたときは信じられなかったですね。

開演時間を午後6時(今回は午後3時30分開演)としたナイトシアターがコンセプトで、1時間で終わるというもの。獅童さんが主役をやる案もあるなか、声を掛けてくださったのはうれしかったです」

國矢さん演じる悪龍が宿った蘇我入鹿。©松竹

「獅童さんが若いころ、いいお役につけず悔しい思いをなさったので、重なったというか。せっかく注目されているのだから、きちんと舞台に乗せてあげないといけないという。そこに松竹も賛同して、こうして実現することができるなんてね、本当に会社のみなさんやさしいなぁ、と思いました(笑)。

歌舞伎の本公演でそういうことが行われるのは難しいことでもあるのでね。「超歌舞伎」というもの自体が、それを可能にするパワーを持っていたのかもしれません。とにかく熱量がすごいですから。作る側だけでなく、観るお客さまの生む熱量が。従来の歌舞伎とは違いますね」

「超歌舞伎」は初演から、観客の「すごいものを観ている」という熱に沸いていました。もともと歌舞伎を知らないお客さんが大勢だったのに、みな、オープンマインドで観劇されていて。

また國矢さんは、先月から始まったミームニッポンプロジェクトの新作歌舞伎『瑠璃光』にも出演されています。チャレンジングな興行にお声がかかる傾向がありますよね。踊りの技術や古典もしっかり入っている國矢さんだからこそ対応できる、と目されているのでは。

「試されている気がするんですよね(笑)。古典であればそれに則って自分のものにしていくというプロセスがあるけれども、新作は自分で必死こいて、どうにかしないといけない。

でもまぁ正直、どんな役にも対応できるように常に準備はしつづけている…かな(笑)。こういう起用は役者としての真価が問われると思っていますし。毎回、新しいものをやるのは怖いけれども、なんとかあがいて結果を残してきたたからこそ、さまざまな役を振ってもらえるんだと思っています」

舞台と客席が一体化する歌舞伎とは

今年初めて「超歌舞伎」に参戦される方へメッセージなど。

「「超歌舞伎」ってね、参加型の歌舞伎なんですよ。参加することで物語への集中の度合いが違ってくるんですよ。

「ニコニコ超会議」の配信では、画面通しての観劇の楽しさにも触れられますけど、自分がその舞台のなかに飛び込んでいけるような歌舞伎って「超歌舞伎」の現場にしかない」

”超歌舞伎2022””中村獅童””初音ミク”

舞台の盛り上がりを受けて、観客席もヒートアップしていく。©松竹

「なにが言いたいかというと、劇場ではぜひペンライトを買って観てね!ってことです(笑)。だって、ペンライトがないと楽しさも半減しますから。しかも、いまのペンライトは”大向う(おおむこう)音声入り”なんです。

感染症対策でお客さんの声がけが禁止になってしまったので、ぜひ、これで大向うをかけてください!やっぱりこのペンライトが劇場で光ってないとさみしいんですよ」

”澤村國矢””超歌舞伎””新橋演舞場”

インタビュー後編に続きます。

聞き手/九龍ジョー
構成/渋谷チカ
撮影/グレート・ザ・歌舞伎町
撮影協力/新橋演舞場

公演情報

”超歌舞伎2022””中村獅童””初音ミク”

博多座、御園座と続き、8月21日からは東京・新橋演舞場で、9月8日からは京都・南座にて、澤村國矢さんが出演される「超歌舞伎2022 Powered by NTT」が上演されます。

今回上演される演目『永遠花誉功(とわのはなほまれのいさおし)』は古代王朝を題材にした歌舞伎の名作『妹尾山婦女庭訓』の世界をもとにした作品。リミテッドバージョンでは主役の金輪五郎今国を國矢さんが演じます。伝統芸能の歌舞伎とNTTの研究所が開発した最新テクノロジーとの融合、舞台と客席が一体化する「超歌舞伎」ならではの劇場体験、この機会にぜひお楽しみを。

チケット・公演詳細

新橋演舞場 ●8月21日(日)〜9月3日(土)
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/shinbashi/play/752

南座 ●9月8日(木)〜9月25日(日)
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kyoto/play/753

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