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文化の垣根を越えた試みに挑戦― 歌舞伎俳優 中村壱太郎さん(前編)

文化の垣根を越えた試みに挑戦― 歌舞伎俳優 中村壱太郎さん(前編)

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女方の若手として歌舞伎界で存在感を放ち、日本舞踊の家元としても活躍されている中村壱太郎さん。父は歌舞伎俳優・四代目中村鴈治郎、母は日本舞踊吾妻流宗家・吾妻徳穂という環境に生まれ、幼いころより袖を通してきた着物。今回は、芸と密接につながった壱太郎さんの着物観についてうかがいました。

伝統芸能の担い手として注目の歌舞伎俳優

”中村壱太郎””荒木町””歌舞伎俳優”

代々続く上方歌舞伎の家に生まれ、1歳のときに京都・南座で祖父である三代目中村鴈治郎襲名披露興行で舞台初お目見得。

4歳で中村壱太郎を名乗り大阪・中座で初舞台を踏み、以降、史上最年少で『鏡獅子』を、19歳で役柄と同じ年齢である『曽根崎心中』のお初という大役を務めるなど、早くから歌舞伎俳優としての才能を発揮してきました。

24歳のときには日本舞踊吾妻流七代目家元を襲名。大ヒット映画『君の名は。』ではヒロインの舞う巫女の奉納舞を創作しています。

また、伝統芸能の担い手として日々精進する中、2020年のコロナ禍でYouTubeチャンネルを立ち上げ文化の垣根を越えた試みに挑戦、歌舞伎や舞踊の魅力を伝えるための活動も精力的に行っています。
昨年の新たな取り組みのなかで、壱太郎さんが企画・脚本・演出・振付・出演すべてを統括した配信公演「ART歌舞伎」は、邦楽と舞踊の美しい世界観に多くの人が魅了されました。

中村壱太郎×尾上右近「ART歌舞伎」予告編〈Official Trailer〉

普通着の着物とは縁遠い生活だった

”中村壱太郎””荒木町””歌舞伎俳優””一越ちりめん”

清楚、可憐、小粋であり、また嬌艶(きょうえん)でもある―
役柄によって演じ分けるものの、舞台上ではつねにたおやかな姿をみせている壱太郎さん。
この日、お召しになっていたのは藍鉄色の一越ちりめんのアンサンブル。
帯は繻子、半襟は帯の茶にあわせた薄茶のコーディネートで、さわやかな青年ながら、どこかはんなりとした柔らかさも感じさせる出で立ち。

「僕らが着る着物というと、やはり仕事着という一面が多いです。おもに稽古着になります。

稽古着ですと、こういった洒落たものは着ません。今日のような取材やテレビに出たりするときに着る着物、一般の方も着られるようなものは、数を持っていなかったんです。
どこに行くにも同じものだったので、新たに作りたいなと思い、一昨年、初めてアンサンブルもので作ったのがこの着物ですね」

歌舞伎や踊りでは、着流しの出番は少ないのでしょうか。

「母方が日本舞踊吾妻流の流儀をしておりまして、その流儀のお仕事では素で踊るということが多いです。また、舞台で踊るときは必ずといっていいほど、袴をはきます。

素踊りといいまして、紋付きと袴で踊る形があるのですが、僕はそのときに着る舞台用の着物のほうを多く持っているので、舞台映えのする着物は多いですが、逆に、いざ外に出かけるとなると、普段着で着るような着物はやはり少ないかもしれません」

【舞踊】中村壱太郎『DOODLE』

袷の黒紋付に銀鼠の袴で踊る壱太郎さん

継承したい「文化」にお金を使っていきたい

「それこそ学生のとき、友達と花火大会に行こう!というときに着ていく浴衣がなかった。稽古着の浴衣ですと、だいたいは白地か紺地で地味でして、それなりに遊んだ柄があったとしても、それでも地味で困った思い出があります。

そんななか思い出に残っているのは、2018年に宮古島へいったときのことですね。宮古上布という布があることを聞いて、織物屋さんへ見にいきまして。ひとつひとつ細かい手作業で作っていて、1年に何枚作れるかわからない、1日に指1本分くらいの長さしか織れないんだよ、と見せてもらったんです。

素晴らしい! と。
かなりのお値段したのですがこれは買いたい! とすぐに思い、1反買って仕立てた着物があります。
初めて自分で着物を買ったな、という実感がありましたね。
稽古着でもなく、今日着ているような仕事で着るようなものでもなく、プライベートで買ったのは初めてでした」

仕事以外で着物を着ることはめったにない。やはり、着物は仕事着という意識が強いのだろうか。

”中村壱太郎””荒木町””歌舞伎俳優”

「着物、和服を着るというのは、仕事のスイッチが入って気持ちも姿勢も切り替わるところがあるので、プライベートで着る機会は本当に少ないんです。
仕立てた宮古上布は夏の着物なので、購入した次の年に、友達といった花火大会に一回着ていきました。

今日荒木町を歩いてみて、こういう形でこのまま飲みにいけたら最高だなって感じました。着物は洗うと高いですから、なかなか汚せないという思いから飲みにいくのはちょっと躊躇してしまいますけれども(笑)」

成長期、つねに黒紋付を揃えておく大変さ

”中村壱太郎””荒木町””歌舞伎俳優”

壱太郎さんは1歳で舞台初お目見得。
それから伝統芸能とは切っても切れない生活を送ってきました。着物は幼いころから身近な存在だったのでは。

「そうなんです。だから気づいたときにはもう着物を着ていたような感じです。

覚えているのは、いまでこそ体型が決まっていますけれども、成長期、とくに学生のころはどんどん着物を買い替えなくてはいけなくて母が大変そうだったことですね。とくに晴れの衣裳の、黒紋付。

【口上】歌舞伎俳優・中村壱太郎、YouTube始めます〈Kabuki Creation〉

黒紋付での口上

結婚式に着る黒紋付に羽織という格好が、私たち歌舞伎俳優の正装なんです。
年始のご挨拶にいくときですとか、襲名ですとか、祝いごとのときは決まって黒紋付ですし、必ず一着は持っていなくてはいけないから、きちんとしたサイズのものを揃えておくことが求められます」

お直しできるとはいえ、成長にあわせて都度揃えるのはなかなかのこと。
一方、日常で着る稽古着はどのようなものなのか。

「だいたい舞台では袷を着ますけれども、稽古着にいたっては袷、単衣に絽もありますし、季節にあわせたものを着ますね、着流しで。

季節でいきますと、1月から5月までは袷、6月は単衣になったり、夏は絽でも浴衣でも、9月くらいからまた浴衣が単衣に変わっていって、10月から袷に。
そこは一般の着物と共通ですね」

企画・構成/渋谷チカ
撮影/五十川満

ー 後編へつづく ー

2021年3月6日から始まる南座での「三月花形歌舞伎」では、中村壱太郎さんを筆頭とした歌舞伎界で注目を浴びるU30(アンダー30歳!)の若手4人が芯となって勤める、春にふさわしい華やかな興行が行われます。

三月花形歌舞伎のチケットなどの詳細はこちらのサイトをご参照ください。
歌舞伎美人 三月花形歌舞伎

また下記のYouTubeでは、壱太郎さんが公演の見所を紹介しています。

「三月花形歌舞伎」が見逃せない3つの理由【かずたろう歌舞伎クリエイション】

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