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俳優の心意気として、自前で衣裳を。 歌舞伎俳優 中村壱太郎さん(後編)

女方の若手として歌舞伎界で存在感を放ち、日本舞踊の家元としても活躍されている中村壱太郎さん。父は歌舞伎俳優・四代目中村鴈治郎、母は日本舞踊吾妻流宗家・吾妻徳穂という環境に生まれ、幼いころより袖を通してきた着物。芸と密接につながった壱太郎さんの着物観についてうかがうインタビュー、後編です。

襟が首と密着しているか

”中村壱太郎””荒木町””歌舞伎俳優”

着物を着るうえで一番気をつけていることは。

「着物と首が密着していない状態を、僕らは「襟が抜ける」というんですが、そうなってしまうと、やはりだらしなくみえるんです。
今日も撮影中ありましたけれど、半襟に襟をかぶせる仕草は舞台上でもみなさんよくやられます。とにかく、襟元は一番気にします。

襟って後ろに抜けやすいんですよ。着つけの時点で、襟止めを使っても抜けてくるものですから、つねにここを意識できるか、というのは重要です。下の襟がでてくるのは格好悪い。
役者としても舞踊家としてもそこを崩さずにいたいと思います」

男性と女性の着方の違うところ。女方を演じる壱太郎さん、女性の襟元については。

「今度は襟を抜くほうの話ですね。歌舞伎では、襟の湾曲の形ひとつで女性の性格が変わってみえてくるので、女方の衣裳を着るときも襟の抜き方は一番気をつけます。
もちろん、衣裳の色、柄などでもそれぞれのキャラクターを表現しますが、襟を抜く加減よりも、僕は形を大事にしています」

裄丈など、長めに作るなどのこだわりは。

「自分が女方ということもありますけれども、袴はかなり長めに作ります。踊りの見栄え的に短いと見栄えが悪いということもあります」

共有の財産である衣裳にシミを

”中村壱太郎””歌舞伎俳優””一越ちりめん”

仕事着として、日常的に着ている着物。これまでに着物で失敗してしまったことはあるのだろうか。

「歌舞伎の衣裳は、毎回お役にあわせた衣裳を提供していただきます。その月のお役で着るものを衣裳会社さんが自分の裄丈にあわせて寸法を仕立て直してくださり、それを着させてもらう。
白粉で汚れたり、あまり大きなシミを作ると、次にそのお役を演る人へも残ってしまうので、日々気をつけて舞台に臨んでおります。

失敗談といたしましては、着物に化粧の筆を落としてしまったことがあって。油の筆でしたので、そのシミはなかなかとれないんですね。衣裳さんにはとても申し訳ない気持ちでおりました。

また同じ役を再度演じるときに、そのときと同じ衣裳を着たわけですが、僕がつけたシミが残っているのをみると、こう残ってしまうんだなと切実に感じて。それからすごく気をつけるようになった経験があります」

俳優の心意気として、自前で衣裳を

”中村壱太郎””歌舞伎俳優””寒雀に壱”

「衣裳を大切にしたいという気持ちがより強まったのは、自前で衣裳を作ったというのもあります。

2017年に尾上右近くんの自主公演「研の會」で「二人椀久」を踊らせていただいたとき、お役である遊女・松山太夫の打掛を初めて作ったんです。

その前の年、坂東玉三郎のおじさまから花柳章太郎さんという新派の名優さんのお話をうかがい、その方の本を読んだのがきっかけでした。
花柳さんは一生自分の家は買わず借り家暮らしで、自前の衣裳をどんどん作っていった方だそうです。

それを読んだときに、自分で衣裳を作る覚悟を持たないといけないな、と。右近くんと「二人椀久」をやるというタイミングだったので、作ってみようと。
僕の曾祖母(初代吾妻徳穂)の着ていた松山太夫の衣裳から、柄だけ取り出しました。曾祖母のものは白地だったのですが、白地だと男性の僕が着ると骨格がでますので、黒地にして作ったんです。

わかったのは、自分で作るとより丁寧に扱うわけですよ(笑)。自費で作ったものですから、なおさら。
やはり衣裳はお借りしたものであっても大切にしなければならないと身にしみて感じましたね」

京都の春を彩る南座でのフレッシュな歌舞伎公演

”中村壱太郎””荒木町””歌舞伎俳優”

2021年3月6日から始まる南座での「三月花形歌舞伎」では、歌舞伎界で注目を浴びるU30(アンダー30歳!)の若手4人が芯となって勤める華やかな興行が行われます。
そのなかでも30歳で最年長の中村壱太郎さんは、若々しいチームを牽引する責任あるお立場。

「若手だけでやれるうれしさも感じつつ、責任ももちろん感じますね。
劇場にきただけでも晴れやかな気分になってもらえるような演目が今回は並んでいます。

『義経千本桜』というのは歌舞伎の名作でもあり、しかし、名作ゆえにわかりにくいところもあるので、僕ら4人、日替わりで解説をつけることになりました。
30分くらいのトークですが、千本桜の魅力、歌舞伎の魅力をお伝えしますので、歌舞伎観劇の導入としては、すごく入りやすいと思います。

また、みなそれぞれ好きな色、それぞれの個性がでたカラーの色紋付きで登場しますので、着物が好きな方ならより楽しめると思っています。

桜の時期にもなってきますし、この花形歌舞伎をきっかけに外に出られるようになったら、着物を着て、京都を楽しみ、歌舞伎を楽しむ、そんな時間を南座で過ごしていただけたらと思います。
劇場の空間から春を感じられる仕掛けを考えています。

素で着る着物と化粧をした上で着る着物の、どちらのおもしろさも感じてもらえる舞台だと思いますので、着物ファンの方にはぜひ、歌舞伎というものから、その色彩美などをくみ取っていただけたらうれしく思います!」

企画・構成/渋谷チカ
撮影/五十川満

三月花形歌舞伎のチケットなどの詳細はこちらのサイトをご参照ください。
歌舞伎美人 三月花形歌舞伎

また下記のYouTubeでは、壱太郎さんが公演の見所を紹介しています。

「三月花形歌舞伎」が見逃せない3つの理由【かずたろう歌舞伎クリエイション】

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