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紋章の世界 ― 奥深き日本の伝統美 「MariMaedaの着物クリエーション ~波戸場承龍氏との交流編~」vol.5

今回のテーマは「紋章」。個人紋美章『ダリア紋』は、紋章上繪師(もんしょううえわし)波戸場承龍(はとばしょうりゅう)氏によるもの。「私のイメージでお願いします」とだけお伝えしていたのですが、実に繊細に描かれており直感的に、自身にしっくりとなじむ感覚を覚えました。

5月も下旬となり、日本は早くも梅雨入りと耳にしております。
コロナ禍ということもあり外出をしたくてもためらってしまう日々、こちらフランスでもワクチン接種が急がれている昨今です。

世界中が重苦しさに沈みがちですが、心と体をリフレッシュするため、早朝の公園(パーク・アンドレ=シトロエン:Parc André Citroën)を散歩しております。自然界の美しさに魅せられつつ、生命力やエネルギーをいっぱいにいただいて…
今回は、5月上旬に撮影しましたお写真とともにお届けいたします。

藤の花とともに、藤色の着物を楽しむ

藤の花が美しい季節ですので、同色の着物を

5月といえば、藤の花が美しい季節。同色の藤色の着物を着てみました。
藤は東洋のイメージが強いのですが、フランスでも様々な場所で見られます。花の美しさは自然界の神様が与えた芸術ですね、思わずうっとりとみとれております。

新鮮な空気を深呼吸

誰もいませんでしたので、マスクをとって新鮮な空気を深呼吸。

この公園には、ここがパリとは思えないような竹林があります。竹のグリーンに陽の光がフレッシュにふりそそぎ、澄みわたるような空間でございました。

実はこちらの着物は、繍いの一つ紋を入れた色留袖。
通常はもちろん礼装として着用いたしますが、このように楽しむのもまた、昨今の状況においては許されるのではないでしょうか。

1つ紋で五三の桐、縫い紋を施した着物
trottinette éléctriqueに着物で乗ってみました。

それなら!と、トライアル。
電動キックボード(trottinette éléctrique)にも着物で乗ってみました。冒険しすぎでしょうか。
後ろに連なるレンタル自転車(ve’lib)は、現在パリの街のあらゆるところに設置されて街並みのひとつになっています。

さらには、公園を出ての帰り道、スケートボードをするスペースに描かれた迫力あるポップアートに目が留まり思わず撮影。古典的な和の世界とのアンマッチ感を楽しみました。

海外に出られない今の情勢のなか、みなさまに少しでもパリの今を感じていただければと思います。

古典的な和の世界とのアンマッチ感を楽しんで。

私だけの個人紋美章『ダリア紋』

私だけの個人紋美章【ダリア紋】

個人紋美章『ダリア紋』
紋章上繪師・波戸場承龍 作

さて、今回のテーマは「紋章」です。
実はこちらは、私をイメージして制作いただきました”個人紋”でございます。
詳しくは後述させていただくとしまして…まずはぜひこちらもご覧くださいませ。

曼荼羅

波戸場承龍 作『紋曼荼羅』

『紋曼荼羅』は、波戸場承龍氏によるオリジナルの技法。
家紋の構成要素である正円と線に注目し、手描きで描く際にはあらわすことのない「円と線の軌跡」を可視化することで生み出されます。

「家紋」を「アート作品」に昇華させた表現方法であり、紋章上繪師の経験に裏打ちされた細緻に美しい曲線が、実に独特な世界観を生み出しています。

紋章上繪師 波戸場承龍・波戸場耀次 氏との友情交流

紋章上繪師(もんしょううわえし) 波戸場承龍(はとばしょうりゅう)氏によって制作されましたこの紋には、ちょっとした思い出があります。

2年ほど前の日本帰国時に、波戸場氏から、ご自身がデザインされたジュエリー『NISSING』のレセプションにご招待を受けました。
その際私は自身の作品より、京友禅の黒留袖から制作したロング・コートを着用(仕立て上がりの着物のリメイクではなくあえて仮絵羽の着物地から制作したもの)。そのコートの両袖口には、通常でしたら家紋の入る石持(こくもち)部分を、あえてカウスボタンのように丸抜きの状態(家紋を入れていない状態)にしていました。

それをご覧になった波戸場さんが、「真利さん、家紋いれましょうか?」と、私の家紋をお尋ねくださいました。
私の家紋は「丸に橘」なのですが、かねてより”自分だけのオリジナルの紋”がほしいと願っておりましたので、波戸場さんに「私のイメージでお願いします」とお答えしたのです。
今から考えると、大変なことを申し上げてしまったと思いますが…

そのかわりに「私が波戸場さんの陣羽織を制作させていただきます。それでいかがでしょうか?」とお尋ねし、交渉成立となりました。
着ていたコートはその場で波戸場さんにお預けし、パリに戻ってからも、どのようなイメージの紋を入れていただけるのかとても楽しみにしておりました。

こちらが、お預けした黒のロングコートです(私の勝負服です)。
この舞台(『パリに衝撃を与えた日本の美意識』参照)時にはまだ、袖口は丸抜き(紋無し)の状態でした。

お預けした黒のコートは勝負服になりました。
黒留仮絵羽から制作しています。

全体のシルエットはこちら。
手描き京友禅による黒留袖の絹地から制作しています。

同じくこちらのアイテムも黒留袖(仮絵羽=未仕立てのもの)から制作いたしました。(MariMaeda)

このアイテムも黒留から制作しています。
和洋が融合したコントラストを表現

和洋が融合したコントラストを表現。(MariMaeda)

家紋入りの夏物の絽の羽織をアレンジしています。

こちらは家紋入りの夏羽織(絽)をアレンジ。
白袴は、私が手描きで墨のアートを描きました。(MariMaeda)

私自身も気づいていなかったのですが、思えば、黒留袖の素材から制作した作品が数多くあります。パリに長く暮らすようになりますと、どうしてもおのずとパリ好みのシックな作品を手掛けるようになるようです。

『ダリア紋』について

紋章上繪師、波戸場承龍 氏作 美章【ダリア紋】

あらためまして…

個人紋美章『ダリア紋』
紋章上繪師・波戸場承龍 作

MariMaedaをイメージして制作くださいました。

ダリアの花言葉

代表的なもの「華麗」「気品」「優雅」「移り気」「裏切り」「不安定」
白色のダリア「豊かな愛情」「感謝」
赤色のダリア「栄華」「華麗」
黄色のダリア「栄華」「優美」

美しい花姿から「華麗」「優雅」「気品」といったポジティブな花言葉がつけられる一方、「裏切り」「不安定」などネガティブな花言葉もつけられています。その理由は、フランス革命にまつわる話から由来したといわれています。

フランス革命の頃、ナポレオンの妻であるジョセフィーヌはダリアをこよなく愛し、ダリアの美しさを自分だけのものとして独占したいとの思いから、自分の庭だけで育てていました。それを羨んだ貴族の女性がダリアを盗み自分の庭でも育て花を咲かせると、ジョセフィーヌはダリアへの興味を失ってしまいました。

そこから、「裏切り」「移り気」のネガティブな花言葉が生まれたそうです。

ダリアはメキシコが原産国。国花になるほど愛されています。
日本には江戸時代後期に持ち込まれたそうで、「天竺牡丹(テンジクボタン)」とも呼ばれています。

実に繊細に描かれていて…
直感的に、自身にしっくりとなじむ感覚を覚えました。

「私のイメージでお願いします」とだけお伝えしていたのですが、このようにすばらしい紋を制作して下さった波戸場承龍氏に心から感謝しております。

家紋
生地上に描かれた状態

クリエーション交換 ― MariMaedaの陣羽織

イメージどおりの仕上がりの陣羽織

私が制作いたしましたのは、こちらの陣羽織です。(MariMaeda)
波戸場承龍氏がパリにお越しになられた際にお召しいただきました。採寸も仮縫いもしていませんでしたので不安でしたが、イメージどおりの仕上がりとなりました。

裏地にはお名前と昇り龍を使用

裏地(羽裏)には、波戸場氏のお名前「承龍」にちなんで「昇り龍」が描かれたものを。

陣羽織の制作にあたり、折り紙的な発想から「畳む」というテクニックをさまざまな箇所に取り入れています。本来の古典的な陣羽織の発想ではなく、私独自の構築的な立体制作を施しました。

畳むというテクニックを様々な箇所に施しています。
ドレーピング作業

こちらが、制作段階でのドレーピング作業。

吉祥柄でもある「亀甲模様」の120山亀甲泥染め大島紬地を用いました。

亀甲模様の大島紬を使用
羽織紐は、独自のイメージで制作したオリジナルの1点物。

羽織紐は、私が独自のイメージで制作したオリジナルの一点もの。

エッフェル塔を背景に…
2020年新春にパリにお越しになられた時の写真です。

エッフェル塔を背景に、波戸場承龍氏と。
セーヌ川を背景に、波戸場 両氏。
(左)波戸場承龍氏 (右)波戸場耀次氏 

パリ、セーヌ川を背景に。

波戸場両氏によるクリエーションの世界

紋章上繪師、波戸場 両氏。
(左)波戸場承龍氏 (右)波戸場耀次氏 

波戸場承龍(はとばしょうりゅう)氏

京源三代目 紋章上繪師(もんしょううえわし)。
着物に家紋を手で描き入れる紋章上繪師としての技術を継承する一方、家紋の魅力を新しい形で表現したいという想いで、2007年より家紋のアート作品を制作。紋章上繪師ならではの「紋曼荼羅® MON-MANDALA」というオリジナル技法を生み出す。家紋やロゴデザインの域を超えて、森羅万象を描き出す職人兼デザイナーとして、あらゆる分野のデザインに挑戦し続けている。

著書に『紋の辞典』(雷鳥社)/『誰でもできるコンパスと定規で描く「紋」UWAEMON』(彩図社)がある。NHK Eテレ デザインあ「もん」出演/もん制作 他。

波戸場耀次(はとばようじ)氏

紋章上繪師(もんしょううえわし)。
工房「誂処 京源」の立ち上げを機に、家紋とデジタル技術を掛け合わせた多種多様なビジネスモデルを構築。デザインの宝庫である家紋が常に身近にある環境で育ち、8歳から始めた書道で培われたバランス感覚で、シンプルでミニマムなデザインを行う。父 承龍とともに、家紋の魅力を国内外に発信し、ワークショップや講演などを積極的に行っている。

著書に『紋の辞典』(雷鳥社)/『誰でもできるコンパスと定規で描く「紋」UWAEMON』(彩図社)がある。

京源ホームページ
https://www.kyogen-kamon.com/

日本からエアメールでお贈り下さった、おふたりの著作本。

『紋の辞典』著/波戸場承龍・波戸場耀次

日本からエアメールでお贈り下さいました。
日本橋の麒麟像の紋も波戸場承龍氏の作品です。

日本橋の麒麟像の紋も、波戸場承龍氏の作品です。

コロナ禍で世界中が渡航の不自由を余儀なくされているなか…
おふたりからの、海をまたいでの贈り物に大変感動いたしました。

お二人からの贈り物、大変嬉しく思います。
【紋の辞典・著/波戸場承龍・波戸場耀司】①
波止場承龍氏の著作本
【紋の辞典・著/波戸場承龍・波戸場耀司】③

波戸場両氏の多岐にわたるご活動や、紋にまつわるさまざまな内容満載のご著作でした。

おわりに

伝統と継承を重んじつつ世界に向けて発信

政治・経済・文化・芸術・スポーツと、様々な分野が混迷状態となっている現在。ウイルスと共存しつつの生活は、まだ続くことでしょう。しかしそのような状況下でも、この魅力ある日本の伝統文化は、世界中が憧れと尊敬の念でみつめるものに変わりございません。

伝統と継承を重んじつつ、様々な分野をリードして。日本人であるからこそ、世界に向けて発信し続けていくことが大切です。
海外で生活しているからこそ、そのようなことをひしひしと痛感させられています。このパンデミック終息後の、豊かな文化的世界をイメージしつつ…

MariMaeda
京都きもの市場「紬」

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