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年齢を重ねたからこそ、わかること 「きものとわたしのエイジング」vol.7

年齢を重ねたからこそ、わかること 「きものとわたしのエイジング」vol.7

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優しさとたおやかさ、強いけれど柔らかい心を持ちたい。出逢いと別れと再会を繰り返し、歳を重ねていくなかで固くなっていく心を自覚し、あらためてそんな思いを強くしました。

2023.06.14

よみもの

私を外へと誘う、着物 「きものとわたしのエイジング」vol.6

更年期の夏をのりきる

今年も折り返し地点

早いもので今年もすでに折り返し地点を過ぎましたね。

台湾では連日「炎熱」の日々。

わたしが、更年期後半戦に入ったせいもあるのかもしれませんが、例年より暑さを強く感じる毎日です。

さらに南国らしい、夕刻の突然の雷雨があることも相まって、なかなかきものに手が伸びません。

数年前までは、台湾よりさらに暑いタイにて、きものを着ていたわたし。

「暑くないですか?」
「よく涼しげに着ていますね」

というご質問や、メッセージをいただくことが多かったことを思い出します。

きものが着たくても億劫になってしまう気持ち

もしかしたらあの質問は、今のわたしのような、体温調節が自分のコントロール下から離れて突然体温が上昇し、過去にないくらい汗をかいてしまうことに戸惑い、またきものが着たくても億劫になってしまう気持ちを、どうにかしたかった方からのものだったのかもしれませんね。

洗濯して風に揺れる淡い色の近江ちぢみ

お手入れ代がかかることもなんのその、夏でも正絹のほうがまだ涼しい!と張り切って着ていたわたしも、今年はしじらやちぢみなど、しっかり汗をかいて自宅で洗うというスタイルで、この夏を乗り切る計画に変更しています。

汗をかかないように、と考えるより、汗前提、どこからでも来い、と開き直ってしまうと、何か憑き物がとれたかのような爽快感に浸れます。

普通に夏に汗をかく夫とは「今日もお互いベタベタくん」と呼び合い、ベタベタ度合いを競うなど、爽やかさは皆無の、暑苦しい関係を深めています。

洗濯して風に揺れる淡い色の近江ちぢみや、小千谷ちぢみの透け感を、クーラーの効いた冷えた部屋から眺めるひととき。

それは、心身が変化していくさまを、家人と話せることのありがたみを感じたり、自分のなかにあるさまざまな執着や硬くなりがちな思考を解き放つ癒しの時間となっています。

貴重な”叱られる機会”

アート制作:Wataru

自分が歳を重ねていくにしたがって、知り合うかたの年齢が、自分よりも若いことが多くなっていきます。

もちろん若いかたから学ぶことはありますが、「叱られること」はほぼなくなっていくことでもあり、少し危機感を感じています。

そのことに気づかせていただいたのは、先日一時帰国の際に伺った『梅が香』水野小巻先生との再会の折のことでした。

小巻先生とのご縁は2019年の春、先生のご自宅での茶道体験に伺わせていただいたことから。

2019年、『梅が香』にて

残念ながら海外からお稽古に通うわけにもいかず入門は断念しましたが、その時の先生のたおやかな笑顔と、優しい桜色のきものに、桜柄の帯。

桜の花びらが舞い散る柄のお茶碗に緑が鮮やかなお抹茶、という美しい世界に酔いしれる夢のような時間は今でも鮮明に覚えています。

よみもの

『梅が香』水野小巻先生に聞く 「きもの好きの茶道はじめ」

2019年、『梅が香』にて

私は台湾で茶道を始めましたが、昨年の10月からお稽古は「休止」していました。

それをお話すると、はっきりと私の間違いを指摘してくださいました。

お茶会やイベントなどへの参加は「お稽古」の延長にあるもの。今のままの状態ですと台湾の先生にも失礼にあたるのだということでした。

またこれはお話しのなかで私が感じたことですが、和のお稽古ごとの師弟関係というものは、他の「習いごと」よりも封建的な部分が残っているということ。

私にはその意識が足りなかったし、指摘されなければ、気づけなかったことでした。

私は茶道が好きです。

台湾に戻ってからあわてて台湾の茶道の先生のところにお詫びに伺い、「休止」ではなく、一旦辞めることにお許しをいただきました。

私は茶道が好きです。

和菓子はもちろんのこと、茶室の凛とした空気感が好きです。

小さな音にさまざまな気配を感じる静かでゆったりとした、茶室で過ごす時間は、海外に居て日本を感じられる特別なもの。

その日先生が用意してくださるしつらえや茶碗のことを想像しながら、自らのきものや帯柄を選び、季節感を感じつつそこに参加できることも、楽しみのひとつでした。

お稽古を一旦辞める一番の理由は、幼少期から悪くした膝が、更年期となった今になって痛むことが多くなり、たまにお茶会に参加させていただく程度の触れ方が、今のわたしの心と身体には、ちょうど良いとの判断からです。

「ゆるりと愉しく」そして時代に合わせて……とやわらかな笑顔の小巻先生から、「フリーな立場にならないまま、お稽古をせずにたまにお茶会に行くのは”筋が通らない”」とぴしゃり!

思わず背筋が伸びた瞬間でした。

2023年、『梅が香』にて

歳を重ねても心を固くしない

お茶菓子をいただく

歳を重ねると叱られることが減りますので、はっきりと間違いを指摘し、教えてくださるかたは大変貴重で、ありがたい存在だと身に沁みました。

優しさとたおやかさ、強いけれど柔らかい心を持ちたい。

出逢いと別れと再会を繰り返し、歳を重ねていくなかで固くなっていく心を自覚し、あらためてそんな思いを強くしました。

歳上の方はもちろん、歳下のみなさま、気づいたことがありましたら、どうぞ優しく叱ってくださいね。

一服いただく

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