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『LES TROIS CHOCOLATS PARIS』 佐野恵美子さん(前編)「MariMaedaが訪ねる、パリで活躍する日本人」vol.3

『LES TROIS CHOCOLATS PARIS』 佐野恵美子さん(前編)「MariMaedaが訪ねる、パリで活躍する日本人」vol.3

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さまざまな分野においてパリで活躍する日本人の方々にスポットを当て、着物姿にてお話しをお伺いいたします。今回は、『LES TROIS CHOCOLATS PARIS』オーナーシェフ・ショコラティエの佐野恵美子さんを訪ねました。

北野ゆりかシェフインタビュー

さまざまな分野においてパリで活躍する日本人の方々にスポットを当て、私の大好きな着物姿にてお話しをお伺いしていきます。初回は、パリ15区にある一つ星フレンチレストラン『PILGRIM (ピリグリム)』メインシェフ、北野ゆりかシェフを訪ねました。

パリで今、活躍する日本人を訪ねて

みなさま、ご機嫌いかがですか。

パリでは、毎日暑い日が続いております。カフェのテラスでは人々が楽しそうにヴァカンス気分で時間を過ごし、大半の人がマスク無しの生活へと移行。解放感を感じています。

パリで活躍する日本人第二弾

今回「パリで活躍する日本人」第二弾として訪ねましたのは、日本のテレビ番組や各種メディアでも多く取材されている『LES TROIS CHOCOLATS PARIS』のオーナーシェフ・ショコラティエ、佐野恵美子さん。実は、以前からの友人というご縁でもございます。

『LES TROIS CHOCOLATS PARIS』がありますのは、パリの流行の発信地、マレ地区。おしゃれなパリジャンたちが行き交い最先端のモードを発信するお店が建ち並ぶ一方で、中世の貴重な建造物も残され、最先端の”今”と古き良き時代の魅力が交錯するエリアです。

小さな路地には、ギャラリーやアンティークショップ、雑貨屋さん、小さなビストロ、カフェなどが建ち並び、常に人々が行き交い賑わいます。

マレ地区にて旧友との再会

LES TROIS CHOCOLATS PARIS

趣ある石畳の路地を歩いていきますと、早速『LES TROIS CHOCOLATS PARIS』に到着。
パリらしいおしゃれな外観ですね。

大変楽しみにしておりましたインタビュー取材ですので、お店に入る前から心躍ります。

久しぶりの再会

久しぶりの再会に、あたたかい歓迎を受けました!うれしいです!

本当に嬉しかったです。

インタビューは、フランス式のご挨拶からスタート。

まずは、誰もが憧れるマレ地区にお店を構える佐野恵美子さんのご経歴をご紹介いたしましょう。

何もかも未経験のまま、パリへ

佐野恵美子さん1

佐野恵美子さんプロフィール

大学卒業後、一般企業にて三年間営業職に就き、その後「実家のチョコレートショップを100年続けたい」という想いから25歳で渡仏を決意。フランス語は全く話せずパティシエ経験もないまま、フランスのロワール地方にあるパティスリーにて一から製菓を学ばれました。

その後南仏や、人口5000人ほどの小さな村にあるパティスリーなど幾人かのシェフのもとで修行をされ、その間に「cake au patisserie a Beauzac」(フランス中南部・ボーザックにて行われる菓子コンクール)のプロフェッショナル部門にて優勝。

その功績が認められ、長年の夢だったパリの最高級ホテル『プラザ・アテネ(Hôtel Plaza Athénée)』へ。その後も幾人かのシェフのもとで修行を続け、2015年、当時恵美子さんがシェフ・ショコラティエだったお店が世界的に有名なチョコレートのコンクールである「C.C.C.(Club des Croqueurs de Chocolat)」でのアワードを獲得。

また実家のチョコレートショップを継ぐにあたって「祖父、父がなしえなかったことに挑戦しなければ誰も認めてくれない」さらには「パリでショコラティエとしてもっと成長したい」との想いから、2017年にご自身のショコラトリー『LED TROIS CHOCOLATS PARIS』 をオープンされました。

2017年 オープンより毎年、ミラノやパリコレクションからのチョコレートのオファーを受ける

2017年 ボルドーで行われた、福岡市とボルドー市の友好35周年イベントから親子揃って指名を受け参加

2018年 パリで行われた九州合同レセプション(九州内観光地への周遊観光の促進PR)に、現地進出飲食店代表として依頼を受ける

2019年 福岡市で行われたG20福岡財務大臣・中央銀行総裁会議にてスイーツ担当として各国代表のみなさまをおもてなし

2019年 「世界のショコラティエBEST100」のなかのさらに31人にのみ贈られた「les meilleur des meilleurs(the Best of the Best)」受賞

佐野恵美子オーナー × MariMaeda インタビュー

芸術的な美しさと完成度―

フランス人の舌に溶け込む魅惑のショコラは、どのような想いから作り上げられているのでしょうか。

大変に努力家でバイタリティーあふれる恵美子さんに、さまざまな角度からお話しをお伺いいたします。

様々な角度からのインタビュー

MariMaeda(以下、Mari)―――
あらためて、なぜショコラティエになろうと思われたのでしょうか。

佐野恵美子オーナー(以下、恵美子さん)―――
博多にある実家のチョコレートショップを「100年続く洋菓子店にしたい」と思い、3代目としてショコラティエを目指しました。

Mari―――
パリでお店を開かれた経緯を教えていただけますか。

恵美子さん―――
フランスで7年以上修行を続け、ある程度自分にも自信がついてきた頃、パリで同時多発テロがおこりました。両親はものすごく心配して、そろそろ日本に戻ってきてもいいのでは?と説得されました。

Mari―――
パリ中が大変な時期でしたね。

恵美子さん―――
しかし、襲撃されたのが無作為に選ばれたカフェのテラスもあったにも関わらず、テロの翌日、毅然といつも通りにカフェでテラスを楽しむフランス人を目の当たりにして、なんて強い国民だと驚きました。

それと同時に、自分たちの尊厳に誇りを持つフランス人の姿勢に「この人たちから認めてもらえるように挑戦したい」と考えるようになりました。

また、祖父も父も博多では少し名の知れたショコラティエ。何年フランスで修行しても、福岡に帰れば、私はいつまで経っても「佐野さんの娘さん」です。きっと、博多に帰って父の後を継いだとしても、佐野恵美子という名前は誰も知らない。それだったら、祖父も父もできなかったフランスという異国で、自分自身の力だけでどこまでやれるのか挑戦したい、このフランスでショコラティエとして成長したいと考えて独立しました。

Mari―――
なぜ、マレという地域を選ばれたのでしょう。

恵美子さん―――
今の場所に至るまでには、物件探しを始めてから約2年かかりました。マレ地区はもともとパリの中でもすごく好きな場所で、さまざまなカルチャーと思想を持った人たちが集まる場所。古くから大事にされている歴史的建造物に立ち並ぶ小さな商店として、伝統と流行が行き交うこの街で、日本人である私がどう溶け込んでいけるのかとワクワクしてこちらに決めました。

ショコラ1
左から、TIMUT KALAMANSI、WASABI、CAMEROUN70%、MADAGASCAR64%

Mari―――
恵美子さんにとって、ショコラの魅力とは。

恵美子さん―――
ショコラとは、”無限”なのです。

ワインと同じように、世界各国で生産されるカカオはその土地の気候などによってさまざまな香りを持ちます。私はおのおの個性の違うカカオに、それぞれに合うような素材を組み合わせてショコラを作ります。

”美食の街”と呼ばれるパリには世界各国からおいしい食材が集まってきます。日本では出会えなかったような食材に、個性豊かな各国のカカオを合わせる。固定概念にとらわれず新たなおいしさを”無限”に追求できるのは、ショコラの最大の魅力だと思います。

Mari―――
ショコラティエになられて、今までで一番うれしかったことは何でしょうか。

恵美子さん―――
やはり、お店に来てくださるお客様から「ありがとう」と言われる時です。
「いつもおいしいショコラをありがとう」
そう言っていただけるのは、職人冥利に尽きます。

ショコラ2
左から MISO・MATCHA CHAÏ・CARAMEL TONKA

Mari―――
日本人とフランス人では、ショコラに対する好みの違いはありますでしょうか。

恵美子さん―――
フランス人のお客様は、カカオ分の強いダークチョコレートを好まれます。
逆に日本人のお客様は、クリーミーなホワイトチョコレートやミルクチョコレートがお好きな方が多いです。

Mari―――
日本の食材を使用してオリジナルの商品を展開されていますが、そのことについて教えていただけますか。

恵美子さん―――
フランスでは、日本の食材がとても人気です。

しかし、まだ知られていない日本の食材はたくさんあります。そんな日本の食材を使って、”私らしい”ショコラを作っています。フランス人には味に馴染みがないなと思う食材には少しフレンチテイストを付け加えて融合。例えば、味醂(みりん)や黄粉(きなこ)などでしょうか。

黄粉(きなこ)のプラリネはお店でもとても人気のひとつなのですが、この理由から、少しだけ白ゴマとアーモンドを加えています。観光でパリに来たアメリカや他の国の方々にもすごく好評で、毎日少しずつ買って仕事に向かうムッシュもいらっしゃいます。

ショコラ3
左から、YUZU MIEL DE SAVOIE(ハチの巣のような柄)、HOJICHA FLEUR D’ORANGER、CITRON VERT MENTHE(中央の黄色い柄)、MATCHA(グリ-ンの柄)

Mari―――
お父様も有名なショコラティエでいらっしゃいますが、お父様の製作されるショコラと恵美子さんの製作されるショコラの違いは何でしょう。

恵美子さん―――
お客様に安心安全なおいしいショコラを作り続けるという祖父の信念を父が受け継ぎ、今も守り続けています。ショコラティエを目指した私も一番大事にしていることです。

よくお客様から言われるのですが、父のショコラはすごく優しくまろやかで、どこか懐かしい。逆に私のショコラは大胆で、インパクトのある素材の味をしっかり感じとれる。そのように言われることが多いです。

Mari―――
恵美子さんと私の出会いは2014年、共通の知人を介してでしたね。

その後2015年に開催されたミラノ万博では「食料」をテーマとする「地球に食料を、生命にエネルギーを」という展示がなされ、日本館の第二拠点となる「ジャパンサローネ」に、ご実家のチョコレートショップがご出展されました。

ミラノ万博
photo by MariMaeda

Mari―――
私もミラノのその会場にいたのですが、あの時は、スタッフの方々が着物を着て商品をアピールされ、会場でも大変注目の的となっていましたね。また、博多帯や伝統工芸をコラボレーションされた独創的な展示がとても印象的でした。

日本の伝統的な着物工芸は、外国の方から見てどのような印象があると思われますか。

博多織をあわせた展示
photo by MariMaeda
博多帯も
photo by MariMaeda

恵美子さん―――
パリのお店でもたまに「日本人のお店なら着物着たらいいのに!みんな喜ぶわよ!」とお客様に言われます。

私もショコラティエになる前は呉服も扱う大手通販会社に勤めていたので、仕事柄着物に関わる機会が多くよく着ていました。フランスでは、友人の結婚式やショコラの大きなイベントなどここぞと言うときに着物を着るのですが、やはりみなさん喜んでくれます。最近はフランス人のパティシエやショコラティエたちが、矢絣や市松模様などの日本の伝統文様をショコラやお菓子のデコレーションに使ったりしています。

Mari―――
そういえばミラノ万博では、当時の日本の首相夫人もお着物でご来場になり、私はその場にいたイタリア人の方に「あの黄色いお着物のご婦人はどなたですか?」と問われました。「日本のファーストレディですよ」お伝えしますと、すごく驚かれていたことを思い出します。

また私は、毎週日曜の昼食時にこちらでテレビ放映されています「TRÈS TRÈS BON(パリのグルメのスポットをご紹介する番組)」を観ているのですが、その番組に突然恵美子さんのお店が特集されていた時には、うれしさのあまり思わず恵美子さんにメッセージをお送りしてしまいました。テレビの反響はいかがでしたか。

恵美子さん―――
やはりテレビの反響はすごくて、連日大行列になりました!その後コロナ禍になってしまいましたが、今でも「番組を観て来たよ!」と遠方からいらっしゃるお客様も多いです。

Mari―――
今後の夢や抱負について教えて下さい。

佐野恵美子さん

恵美子さん―――
博多の祖父から続くチョコレートショップは、80周年を迎えることができました。私は3代目を継ぎ、夢である100周年を迎えたいです。

そして、世界的に有名なシェフたちがライバルとなるパリは、私がショコラティエであり続けるための大事な場所。世界中からすばらしくおいしい食材が日々たくさん集まってくるパリでショコラを作れるのはとても幸せなことです。

パリで成長し続け、もっともっと腕を磨き、たくさんの方に感動してもらえるようなショコラを作って世界に挑戦していきます!

自信に満ちた、力強いショコラティエとしての意志を感じたインタビュー。 

後編では、店頭に並ぶショコラから、恵美子オーナーこだわりのお品をご紹介いたします。どうぞお楽しみにして下さいませ。

この日の装い

自然界の美しさを表現した単の訪問着

この日は、鮮やかなグリーンベースの総柄の訪問着を纏いました。

花々に包まれるように鳥たちが遊び、自然界の美しさ絵画的に表現した一枚。もともと袷で仕立てていましたが、色目から単衣の時期に袖を通したくなり、自身で単衣に縫い直しました。

今年はファション界でもこのグリーンが大流行。パリのモードの世界でも注目のカラーになっています。

明るいお色の着物を着ますと、全身がすっきりとして元気がでますね。

鳥のさえずりを聞きながら、陽光もまぶしいほどに。恵美子さんの明るさを象徴するような、晴天に恵まれたインタビュー取材でした。

次回は、ヴォージュ広場(PLACE DES VOSGES)で撮影した写真や街中での撮影時のエピソードもお伝えいたします。パリの気配を感じていただけましたら幸いです。

これから暑さも厳しくなりますが、みなさまどうぞ、お健やかにお過ごし下さいますよう。

鳥の囀りを聞きながら

撮影/Ikuo Yamashita

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