確か、高専へ行って花火師になってから飴細工職人になったと認識してるけど…

大体そんな感じ。飴細工は2010年から始めたかな。

花火師はいつからやってたの？

18歳の高専在学中からバイトで2年、正社員で1年働いた。

花火もかっこいいよね。そこから、どうして飴細工やろうと思ったの？

一度実家に戻って、自分が今後何をやるべきかを考えた時にふと、子供のころに見た飴細工のことを思い出したのよね。

私も小学生の時に、「飴細工職人は絶滅危機だ」って本で読んだなぁ。

子供のころから造形は得意だったの？

好きではあったけど、先生の言うことを聞かないタイプだから（笑）成績は良くなかったよ。飴細工を研究しながらデザイン会社のバイトで店舗の3DCGパースを引いてたりもしたし、デザインは得意な方ではあるかな。

日本人ってあまり「ゼロから構築してやろう」って人は少ない気がするけど、飴細工は特に、当時すでにやっている人がほとんどいなかったのでは？

ほとんどいなかったけど、勝機はあったよね。おもしろいと思ったし、何よりみんなが知ってる工芸。これは「ちゃんとやれば上手くいく」と思った。

そのイメージでここまで大きい集団にできるって、本当にすごいよね。

あらためて、工房の歴史を聞かせてください。

2010年から独学で飴細工を作り始めました。飴といってもいろいろあるから洋菓子のシュガークラフトも含めて勉強して、最初は露店みたいなとことか地域のイベントでも作ってたかな。
1号店は、2013年に浅草のとある場所に。内装なんかも自分でコツコツ、夏の暑いなか作って。そこは今では製造本工場になっているんだけど、お陰で初期費用は安く済んだね。

さすが、生きる力が強いね（笑）

その2年後の2015年に、スカイツリータウン『ソラマチ』出店のオファーがきて。
さすがに内装はプロに頼んだけど、基本的には自分の希望を盛り込んで、イメージ通りに作ってもらっている。

そこから2018年に、浅草寺の近くのこの花川戸店を作った感じ。ここは主に、飴細工体験とか目的を持った人向けの店舗だね。

2〜3年ごとに新店舗オープンはすばらしいよね。社員さんを雇うのも大変だし…

人様を食べさせていくのは本当に大変。特にこのコロナ禍の2年はね（笑）

今の従業員数は？

全員で9名かな。弟子はそのうち7名。

…みなさん、アメシンさんでお買い物をお願いします！（笑）

飴細工も伝統工芸と言われているけど、斜陽産業の伝統工芸に何が足りないと思う？

そもそも「伝統」っていう概念をみんな間違って認識してる。守らなきゃいけないわけない。いらないものは淘汰されていくのが自然の摂理。「伝統だから偉い」という考え自体が滅びの始まり。

どの時代も、その時代に合わせて良いものだったから選ばれてきたわけで。
振り返った時に「サバイブしてきた結果、残っている」というのが正しいと思う。「伝統」にお高く留まった時点で破滅への第一歩だと思う。

飴細工も、業界全体的にデザインは良くなってると思う。
単純に「製品がいい」と思ってもらえなければ無理。新しい感動を与えて、革新的だから伝統になるってことかと。

腕一本、実力で魅せていく。職人さんのかっこよさでもあるよね。

「シュガークラフトでこんなのが作れるんだ！」って世界中に感動してもらえることに存在意義があるし、そこで初めて「伝統」に意味が出てくる。

アメシンさんは、ちゃんとお弟子さんにもお給料を払ってる。
私が徒弟制度のなかにいた頃は「数年無給で…」みたいなのが基本だったし、今もそういうところは多いんじゃないかな。

ちゃんとお給料を払って、実力のある人は社員になってもらってるよ。無給で…は持続可能じゃないよね。続かない。

求められればお金になる。最低限、自分が生きる、スタッフが飯を食えるために、需要を作り出す。需要を生み出す環境を作るっていうのが経営よね。

伝統工芸の世界にも経営手腕が問われている、ということだね。

飴細工は作れなくても、袋詰めとかからステップアップさせる。飯を食べていける状態を作ってやらなきゃ生きていけないじゃない。一般企業と変わらないという意識を持たないと、当然潰れていくよね。

最近、社員さんが作ったものが店頭に並ぶことが多くなったよね。

そういう環境作りが大切。自分がいなくても会社がまわる状況にできたのは、良いステップアップだったと思う。

社長が動かなくてもまわる組織にできたことは成長だよね。職人さんって「ある一定以上のレベルに達さないと表に出ない、出さない」イメージだけど。

いつまでも練習だけしてる人は、そのレベルから脱しない。少しでも無理して背伸びして、サバイブさせないと成長はしないよ。「実戦で、自分で闘え」ってスタンスだね。

今、一番売れている商品は何ですか？

『ちょこざい飴』が一番出てるかな。郵送もできるし。

お弟子さんたちが作り出した製品だね。ヒットの要因はなんだと思う？

手頃だからじゃないかな。お土産にするのにいいんだろうね。映えるし。消え物っていうところも魅力だと思ってる。バレンタインとかホワイトデーにもよく出る。

季節によって内容が変わるし、かわいいし。飾っておきたくもなるよね。

体験で使うこのハサミも特注なの？

そう。名前は『角蔵』。私が使ってるハサミは『伊八郎』。

『角蔵』と『伊八郎』ww 名前、渋くて良いね（笑）

伊八郎はね、千葉出身の江戸時代の彫刻家から名前を貰った。名前というかブランド名だね。伊八郎さんは、波の様子を彫刻していたらしい。

新理くんは千葉出身だし、海も好きだもんね。これを作るのは、刀鍛冶（かたなかじ）とかとはまた違う職人さんなの？

刀鍛冶とは違う「鋏鍛治（はさみかじ）」だね。普通の刃物とはまた違う。ハサミのところと持ち手の部分の材質が違って、合わせと曲げ、焼きの入れ方とか、いろいろ違うのよ。

…鋏にも興味が出てしまう（笑）

これを作れる人もほとんどいなくて。存続の危機だったんだけど、この前やっと弟子が入ったみたい。可能な限り発注して、職人の継続を応援したいと思ってる。