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”伝える努力”と”実直で美しい製品作り” 螺鈿職人 野村拓也さん(後編)「川原マリア × 令和の若手職人」vol.2

”伝える努力”と”実直で美しい製品作り” 螺鈿職人 野村拓也さん(後編)「川原マリア × 令和の若手職人」vol.2

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前編に引き続き川原マリアさんがお話を伺うのは、螺鈿職人の野村拓也さん。「ぼくは伝統工芸を諦めません」というTwitter投稿でも、世界中より共感を得ていらっしゃいます。伝統産業の可能性とは?若い世代にも刺さるアプローチとは?螺鈿アクセサリーを用いた川原マリアさんのアイデアコーデにもご注目を。

『 嵯峩螺鈿野村 』の店頭にて

令和を力強く生きる若手職人に「自ら道を切り拓くこと」についてインタビュー。初回特大号は、「Twitterで世界が変わった」という螺鈿職人の野村拓也さんにお話を伺いました。自己犠牲からの脱却、SNSの活用法、現代で活躍する職人の生き方とは?

川原マリアが訪ねる令和の職人

ロンドンの街で和洋折衷を楽しむ川原さん
ロンドンの街で和洋折衷コーデ

令和を生きる職人とは―

着物の図案家として職人を経験し、「Forbes Japan セルフメイドウーマン100」にも選出された着物デザイナー 川原マリアさんが訪ねる伝統工芸の「今」と「未来」とは。

“自力で道を切り拓くこと”について、活躍されている若い世代の職人とともに考えます。

前編に引き続き…

Twitterで3.7万人のフォロワー(2022年1月現在)に支持されながら、螺鈿(らでん)職人として活動されている『嵯峨螺鈿野村』野村拓也さんのインタビュー後編をお届けします。

店頭で話す2人
店頭で談笑する2人
野村さんのTwitter投稿

「ぼくは伝統工芸を諦めません」

静かな強さを感じるこちらのメッセージは、本記事公開直前1月18日のTwitter投稿より。

全世界から15万件近くの「いいね!」を集め、応援のメッセージが続々と到着しているようです。

忙しい日々にやすらぎを与える製品を

川原マリア
マリア

こちらが、螺鈿(らでん)に貼る貝の原型ですか?

左:夜光貝、真中:外国産の鮑貝、右:国産の鮑貝)左:夜光貝、真中:外国産の鮑貝、右:国産の鮑貝
左:夜光貝、真中:外国産の鮑貝、右:国産の鮑貝
野村拓也
拓也さん

そうです。左から夜光貝、鮑(あわび)貝2種類ですね。鮑貝は国内のものと海外のもの。見た目も違いますし色も違いますよね。

板状の貝
野村拓也
拓也さん

これらの貝から、別の専門の職人さんが、こういった板状にするんですよ。

川原マリア
マリア

知らなかったです!螺鈿の色は、天然の色合いを組み合わせて製品にするのですか?

野村拓也
拓也さん

はい、全て天然の色です。型で抜いて、良い部分を組み合わせています。

貝の色
ひとつずつ形を抜いていく作業
くり抜かれた桜の花びら
手作業でくり抜かれた桜の花びら
川原マリア
マリア

そこから漆等で貼り付けていくのですね… 手間のかかった美しさに見惚れます。

螺鈿製品
川原マリア
マリア

螺鈿ってなんだか、ずっと見ていると宇宙みたいに美しくて癒されますね。作るときに意識されていることはありますか?

丹精込めて作る製品
野村拓也
拓也さん

今の時代はみなさん日々忙しいと思うんですが、電車に乗っている時間だけでも指輪を見てボーッと何も考えず、癒される時間を持っていただけたらいいな、と思って丹精込めてお作りしています。

作業する野村さん

後継者不足と職人の地位へのジレンマ

川原マリア
マリア

SNSで人気だと、弟子入り希望の方から連絡がきませんか?

指輪に螺鈿を貼り付ける工程
野村拓也
拓也さん

たくさん来ますね。ただ、今はお断りしている状況です。コロナで情勢も変動的ですし、職人の仕事は簡単な作業を「これやっといて」と依頼できるような内容ではないんですよね。

川原マリア
マリア

前編で『自己犠牲からの脱却』というテーマもありましたが、実際、違法労働みたいなことはさせられないし、「その程度の報酬だけどこの業界においでよ」とは気軽に言えないですよね。

すばらしい経営をされて、職人を抱えながら実益を維持されている会社もありますが、地道に繋いでおられる職人さんが多い印象です。やりたい人がいるのに手放しで歓迎してあげられない。このジレンマは…どの職人も抱えていると思いますが、本当に悔しいですね。

川原マリア
マリア

後継者不足への解決策として、どんな方法があると思いますか?

真剣に考え、討論する2人
野村拓也
拓也さん

次世代の職人がさまざまな分野から集まって、メンター的にオンラインサロンのようなものを運営して、ダイレクトに受講料をいただきながら教える、という方法なら将来後継者になってくれる方も増えるかもしれませんね。

川原マリア
マリア

今の時代ならではですね。いずれにせよ早く行動しないと、もう技術は失われるばかりですものね…

Whyから考えて差別化

川原マリア
マリア

多様性の時代にあって、どのように製品をアピールするのが良いと思われますか?

野村拓也
拓也さん

「Whyから始めよ」という有名な言葉がありますが、What /How/Why でいうところの「Why」の部分が一番の差別化になると思います。

美しい螺鈿
野村拓也
拓也さん

僕でいうところの「Why」は、家業だからというのもありますが、なぜ漆器って扱いにくそうなのか?すぐ壊れそうなイメージなのか?そのハードルをなくすものを作りたい、ということでした。
そしてその答えが「金属を使った指輪を作ろう」だったんです。

指輪
引用元:嵯峩螺鈿野村HP
野村拓也
拓也さん

そこからいろいろと試行錯誤したりお客様の声を反映していった結果、カラーバリエーションやサイズ展開も増やしたラインナップができてきています。

柔軟な創作品を楽しんでほしい

川原マリア
マリア

着物ユーザーの方へ伝えたいことはありますか?

野村拓也
拓也さん

帯留めのご要望はよくいただくので、新製品も考えているところです。
よくSNSで「着物警察が怖い」というのを目にするのですが、「こうすべき」という価値観の強要を続けてしまうと、業界の衰退を招くと思います。

説明する拓也さん
川原マリア
マリア

確かに「ルール」にとらわれすぎている方もいらっしゃる気がしますね。
伝統=昔と同じものというより、本当は革新の連続で、今を生きる方に刺さった新しい感動が「伝統」になっていくと思うんですよね。もちろんTPOは守るべきですが、日常の範囲内なら新しい発想をおもしろがる心も必要だと思います。

「伝統は革新の連続」
野村拓也
拓也さん

実はこの指輪も、漆器からは少し離れたものなんです。本来「金属の上に漆」という発想はなかったですから… 今までのものも良い部分があるけれど、新しい挑戦も取り入れることでその良さが引き立つのだと考えています。

金属の上に漆、螺鈿を装飾した指輪)金属の上に漆、螺鈿を装飾した指輪
引用元:嵯峩螺鈿野村HP

伝統は、若い世代には”新しい感動”

野村拓也
拓也さん

伝統工芸は、若い世代からしたら、新しい感動なんですよね。
例えばこれは(下記写真左)、祖母のデザインで50年前のものですが、とてもモダンですよね。当時は女性の職人は珍しくいろいろ苦労もしたんだと思いますが。

アクセサリー
左:50年前にお祖母様が作られたアクセサリー 右:それを元にした現代の製品
川原マリア
マリア

すごくモダンなデザインですね!

野村拓也
拓也さん

昔は和室用の香炉とかインテリア商材を作っていたのですが、時代が変わり、祖母が趣味で作っていたアクセサリーに主軸を移行したんですよ。
それからはアクセサリーをメインに販売してるんですが、半世紀という時を越えてSNSを通して若い方に「綺麗!」とか「とっても素敵!」とか喜んでいただけてうれしいです。
伝統工芸は古いからダメだとか高価だから若い人には難しいとか言われることが多いですが、見せ方や伝え方を工夫すればちゃんと伝わるんだと自信になりました。

インテリアとしての螺鈿製品が主流だった頃の作品
川原マリア
マリア

若い方でも、本当に欲しいものなら購入してくださいますものね。

野村拓也
拓也さん

大切なお金を握り締めて「お母さんへのプレゼント」という方もいらっしゃって…本当に感動しますね。

伝える努力と提案力

野村拓也
拓也さん

「伝統」というと、すごい!キレイ!という感想で終わってしまうことがほとんどです。
それより、どう日常に提案していくか?が大事。いいものを作れば売れるというのは幻想で、自分の口で、とにかく魅力を伝えないといけない。

店内で話す2人
川原マリア
マリア

なんだか恋愛と似ていますね(笑)。伝えなきゃ始まりませんよね。

店内
店内
アクセサリー、万年筆、海外向けの製品まで多くの製品を提案する店内

SNSを活用しながら「伝える努力」と「実直で美しい製品作り」を続けてこられた結果としての、嵯峨螺鈿野村・野村拓也さんの躍進。

多くの学びがあり、同じ時代を生きる同志に出逢えたような感動を覚える時間でした。

螺鈿アクセサリーを使ったコーディネート

「令和装」コーディネートのポイント

ブーツを合わせて、和洋折衷に

タートルネックに、祖母から引き継いたウール着物を合わせて。

螺鈿のピアスやネックレス、指輪などを組み合わせてもしっくりくるよう、落ち着いたトーンのなかに、幾何学柄で少し洋風な要素も組み合わせました。

帯締めに指輪を通して帯留めのように

指輪を帯留として

あまり出番のない、喪服用?とも思える黒地の帯も、帯の結び方に遊び心を加えることでぐっとカジュアルダウン。帯締めに螺鈿の指輪を通せば、帯留めのようにも装うことができます。

もちろん、帯留めとしての拓也さんの作品も楽しみです!

指輪と帯締め
指輪を帯締めに通して。透明な輪ゴムで2連を繋いで抑えるとずれない

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