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『青砥稿花紅彩画』 ”悪の美学”が江戸っ子たちを熱狂させる! 「十倍おもしろい!?歌舞伎ど定番演目大解剖」vol.5

『青砥稿花紅彩画』 ”悪の美学”が江戸っ子たちを熱狂させる! 「十倍おもしろい!?歌舞伎ど定番演目大解剖」vol.5

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注目ポイントは、かんざし。俯いて震えるお嬢様の髪からコトリ……とかんざしが落ちると同時に、役者に宿る魂が女方から立役へ入れ替わるのが、観客の目にも分かるんです。

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江戸の大ヒット少年漫画を実写化!?

きものとをご覧の皆さん、こんにちは。tomekkoです。

今回は個人的に1、2を争うお気に入り演目、通称『白浪五人男しらなみごにんおとこ』で有名な『青砥稿花紅彩画あおとぞうしはなのにしきえ』について解説していきたいと思います。

こちら、一言で例えるなら「江戸の大ヒット少年漫画を実写化!」したような演目と言ったらイメージが湧きやすいでしょうか?

週刊少年誌で大人気連載になるストーリーって特徴がありますよね?

みんな大好き、元気いっぱいな美少年と、それを取り巻く頼もしいリーダー格に肉体派の無頼漢、陰のある美形、そして物静かな知恵者など……そんな仲間たちが力を合わせて敵に立ち向かい打ち勝っていく。一人一人もかっこいいけど、勢揃いして決めポーズをするところが圧巻!

みたいな。

これを戯作者、河竹黙阿弥かわたけもくあみが正義のヒーローではなく白浪しらなみ=盗賊を主役に、「悪の美学」の方で江戸っ子たちを熱狂させた作品なんです。

「十倍おもしろい!?歌舞伎ど定番演目大解剖」1

『青砥稿花紅彩画』のあらすじと背景を解説

この時代の盗賊って簡単に命を取るし結構リアルに人々の生活を脅かしていたと思うのですが、そこはお化けや妖怪もエンタメ化してしまう江戸っ子の余裕。恐怖さえも楽しんで消費してやろうという逞しさを感じます。

現代でも現実では関わりたくないけどちょっとその世界への憧れはある……?ヤンキー漫画って人気がありますもんね。

なので、立ち回りもあるのですがジャンルとしては現代劇なので世話物せわものと呼ばれます。その中の特に盗賊を主人公にした「白浪物しらなみもの」の最高傑作なんです。

盗賊という野蛮で荒々しいイメージのあるメンバーが、美しい七五調のリズムに乗せた台詞や、無言の立ち回りなど動きを重視した「様式美」で動く絵画のような作品に仕上がっているのがポイント。

物語は、日本駄右衛門にっぽんだえもんを首領とする5人の盗賊たちがいろいろな姿になりすまして呉服屋に強請ゆすりを仕掛け、素性がバレて追っ手に追われて河原に勢揃い。名乗りをあげてポーズを決めたら大掛かりな舞台演出で大迫力の立ち回りを見せクライマックスを迎える、というもの。

細かいストーリーや心情をじっくり伝えるというよりは、正式タイトル『青砥稿花紅彩画』の通り、絵本の挿絵をめくるように、実写版を大画面でご覧あれ!という感じなんですね。

実は登場人物たちもそれぞれ実在した盗賊になぞらえているので、当時の観客はリアルとファンタジーをいい塩梅でイメージ膨らませながら楽しめたことでしょう。

弁天小僧菊之助を演じる尾上菊五郎に注目

さて、この作品で特に注目すべき役者はというと……

弁天小僧菊之助を演じる、尾上菊五郎(音羽屋おとわや)。

もちろん他家の役者も演じることはありますが、弁天小僧菊之助は五代目尾上菊五郎のために河竹黙阿弥かわたけもくあみが当て書きした役なので、やはり最初に見るなら音羽屋の芸を見てほしいですね。

音羽屋の代名詞的な演目となっている『白浪五人男』ですが、立役と女方は芸風が異なるため家によって分かれている中、両方とも一流にこなす「音羽屋」の家風が、「女装から男へと正体を現す弁天小僧」という難役に完璧に合致しているんですね。

そのため尾上菊之助や菊五郎を襲名する際のお披露目で演じられています。

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女方から立役へ入れ替わりは圧巻!

「十倍おもしろい!?歌舞伎ど定番演目大解剖」2

特にその強みが活かされているシーンが浜松屋ゆすりの場です。

呉服店「浜松屋」に、美しい武家のお嬢様(弁天小僧)が婚礼道具を選びに供侍(南郷力丸)を連れて来店します。店の中でお嬢様がなんと緋鹿子の布を万引きした疑いをかけられてしまいます。

店員からそろばんで額を打たれ傷を付けられてしまうお嬢様……婚前の女性の顔に傷をつけるなんて……!

実はこれを言いがかり強請りをしようと企んでいたのでした。

しかし、店に居合わせた侍(実は日本駄右衛門)に正体を見破られ、お嬢様は豹変。片肌を脱いで刺青を見せ、「知らざあ言って聞かせやしょう」と七五調の有名な名乗りを上げ、居直ります。

この、たおやかで愛らしいお嬢様が悪党の正体を見せる瞬間が圧巻!音羽屋の芸の真髄を見せてくれるので瞬きなしでご覧ください!

注目ポイントは、かんざし。

俯いて震えるお嬢様の髪からコトリ……とかんざしが落ちると同時に、役者に宿る魂が女方から立役へ入れ替わるのが、観客の目にも分かるんです。

目つきが鋭くなり、片袖脱いで刺青をあらわに居直ると、なぜかさっきまでより体格も良くなったように見える。

女方の特徴といえば高い声ですが、声を地声に戻すだけではない、表情、姿勢、仕草とそのすべてが、同じ人物でありながら性別が見事にひっくり返る!この瞬間に立ち会う衝撃、ぜひ目の前で体験していただきたいところです。

「十倍おもしろい!?歌舞伎ど定番演目大解剖」3

弁天小僧菊之助は、その通り名からもわかるように江ノ島のお寺の稚児出身です。稚児とは僧侶の身の回りの世話をしながら学問を学ぶ子ども……というのは表向きの話。いわゆる戒律により女性と恋愛できない僧侶たちの性愛対象なんですね(現代のモラルではもちろんアウトです)。

強請り目的の変装が女性なのも、菊之助が美少年でかつ女性的な仕草が身についているために違和感なくできるという設定の裏づけになります。

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「悪党たちの引き際の美学」をそれぞれの形で見せる

もう一つの最大の見せ場となるのが「稲瀬川の勢揃い」。

盗賊であることが露見し、追っ手に囲まれた5人は、桜咲く稲瀬川の土手に勢揃いします。鮮やかな紫にそれぞれを表すモチーフが描かれた着物に、「志ら浪」の文字をあしらった揃いの番傘を差し並び立つ姿は統一感があり、まるで錦絵を眺めるよう。

捕り手に囲まれた状態で、堂々と自身の生い立ちを名乗る姿はまるで戦隊ヒーロー(の必殺技の紹介まで悪役が待ってくれるシーン)のよう。

クライマックス「極楽寺山門・滑川の場」では舞台装置が大きく後ろにひっくり返り一気に場面を変える「がんどう返し」という演出が大迫力!

捕り手との激しい立ち回りの末に弁天小僧は屋根の上で自害し、立ったまま舞台ごと倒れていく……と同時にせり上がってくる舞台は、首領の日本駄右衛門が立つ山門に切り替わります。

これは、同じ盗賊で楼閣に立ち「絶景かな絶景かな」と朗じた有名な石川五右衛門へのオマージュでもあるシーン。

美少年菊之助が最後は大立ち回りの末の自害、という男らしさ全開な最期を選ぶあたりも少年漫画っぽいのですが、年嵩の日本駄右衛門は逆に名奉行の説得に素直に応じ、自首を約束するという落ち着いたラスト。

全員が派手に戦い散るのではなく「悪党たちの引き際の美学」をそれぞれの形で見せるところが、江戸から令和まで続く人気の秘密なのではないでしょうか?

『白浪五人男』では弁天小僧と日本駄右衛門がメインになりますが、他の三人もそれぞれキャラが立っていて好みも分かれそう。現代の漫画だったらそれこそ、二次創作界隈が大盛り上がりしそうな設定が盛りだくさん!なのです。

『青砥稿花紅彩画』におすすめのコーディネートは?

「十倍おもしろい!?歌舞伎ど定番演目大解剖」4

さて『白浪五人男』何を着て観に行こう?お手本にしたいポイントもたくさんあって迷いますね。ちなみ柄を取り入れるなら断然菊五郎の菊柄。弁天小僧にちなんで琵琶や白蛇の柄も良さそうです。

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